つげ忠男つげ 忠男(つげ ただお、男性、1941年7月2日 - )は、日本の漫画家。本名:柘植 忠男。『ガロ』を中心に作品を発表。つげ義春は兄。 来歴幼少期東京都大島町生まれ、千葉県大原町(現在のいすみ市)育ち。幼少期の大半(6歳~15、16歳)を葛飾区立石町で過ごす。小学校4年生ころからは大人の知恵を身に着け、見様見真似ながら物事を自分で判断し行動するようになる。物不足は深刻で、常に空腹を抱えてはいたがよく遊ぶ少年で、学校から帰宅するなり一目散に屋外へ出た。 病弱で労働もできずに家にいた癇癪持ちの義父と、血の気の多い母、漁師上がりで荒くれ者の母の義父が一つ屋根の下で反目し合いながら暮らしており、忠男は訳も分からずにいきなり殴られる場所であったため、外出は逃亡であった。唯一かばってくれる2人の兄(次兄がつげ義春)はろくに中学校も出ないままに働きに出ていたため昼間はいなかった。周辺は京成電鉄の線路で南北に二分され、北側は赤線街で、南側はベニヤ張りのマーケットを中心とした商店街を形成し、その周囲には軒の低い長屋が密集し、路地が無数に走っていた。そこが子供たちの社交場になっていた。そこで暗くなるまで兄の帰りを待っていた。 中学3年のころには、同じ学校のやや不良がかったグループと付き合うようになり、毎晩のように彼らと町や路地裏をほっつき歩くようになる。しかし、喧嘩や鉄屑を盗むような悪事には参加させてもらったものの、少し厄介な企てなどの際は外された。理由は、忠男に漫画の才能があることを彼らが認めており、特別視されていたためである。あいつは将来漫画家になるぞと、だれもが信じていた[1]。 ![]() 就職中学校を卒業した後、自宅から徒歩で10分ほどの葛飾の製薬工場に就職。製薬会社は名ばかりで、実際は血液を売買する血液銀行であった。同工場で製造される血液製剤用の採血の補助係となった。 仕事の内容は使用済み採血器具の洗浄と再生で、水を張ったブリキのバット内で採血室から回収された採血セットをばらし、針、ゴム管にブラシや水を通し洗浄するため血まみれになった。排水は屋外のどぶへ垂れ流しのため、泥さらいをこまめにしないとヘドロとなりひどい悪臭を放つため、雑役係がこまめに泥さらいをしていた。しかし、廃棄血の処理は夜勤者が人目につかぬよう、夜中に水で薄めながらどぶに廃棄していた。血液銀行には平均1日600-800人、多い日は1000人ほどの売血者があり、仕事にあぶれた日雇い労働者、身障者、与太、無頼漢など様々な人種にあふれていた。この経験は、後の作品でもたびたび描かれている[1]。 なお、現役社員がOBの有名人として紹介しようとしたが、削除されたという話がある。(現・日本製薬株式会社) 漫画家として兄・つげ義春の影響で漫画を描き始め(以前から兄の手伝いはしていた)、1958年、セントラル出版社の貸本誌『街』第9回新人コンクールで『自殺しに来た男』が入選(同着の入選に荒木伸吾、佳作に石井いさみがいた)。1959年の『回転拳銃』で実質的な貸本漫画家デビューを果たし、三洋社などで多数の貸本漫画を発表したが、その後、約8年間の沈黙の時期を迎える。 1968年、三洋社の後進である青林堂『ガロ』12月号で『丘の上でヴィンセント・ファン・ゴッホは』を発表。劇画家として再起する。以後四年間、ほぼ毎月『ガロ』に作品を発表。1975年に発表した『無頼平野』は、1995年に石井輝男監督(後に兄・義春の作品も映画化している)の手で映画化された。 北冬書房『夜行』には1972年の創刊時から執筆。1977年からは千葉県流山市の江戸川台東口駅前商店街でジーンズショップ「ジョーカー」を経営し、1980年代に『COMICばく』に執筆した後は断続的にイラスト、エッセーなどを発表していた。評論も多く、『夜行』12号および『幻燈』2、3号では特集が組まれている。 長男に「ジョーカー」の経営を譲った近年はジーオーティーのwebコミック媒体「COMIC MeDu」で『昭和まぼろし 忘れがたきヤツたち』を不定期連載するなど、80歳を越え、再び精力的に作品を発表している。 人物
兄・つげ義春について2017年10月31日発行の「アックス」vol.119(特集つげ義春生誕80周年)誌上では、「兄についてはよく知らない」とコメントしている。 兄・義春は、早くに家を出ていたため、時々会う程度であった。記憶の中に兄は「点」としてあるのみで、「線」としての痕跡など語れるほどはない。電話で会話を交わすのは年に5-6回程度で、内容の多くは体調についてである。珍しく出版界の話題に触れることもあったが、さらに紙の本が売れなくなっている現状から、自分たちモノ書きもここまでかというような結論であり、どんな話題でも最後は日暮れ時のように薄暗い。その他の、例えば兄や甥の正助との日常生活に関しては、他人の口を介して聞く程度である、と発言している[3]。 主な作品漫画
作品集
対談集
映画化『無頼平野』1995年5月29日公開。 原作『無頼平野』、『狼の伝説』、『粗悪な夫婦』。 監督出演加勢大周、岡田奈々、佐野史郎、金山一彦、吉田輝雄、南原宏治、長谷川待子、麻生真宮子、水木薫、五島悦子、石川真希、田村翔子、砂塚秀夫、由利徹、横山あきお、大槻ケンヂほか[5]。 『なりゆきな魂、』概要とあらすじ2017年1月28日初公開。沼に釣りに出掛けた際に偶然男女間の争いに巻き込まれ衝動的殺人を犯してしまう老人の姿を描いた『成り行き』をはじめ、美しい夜桜の下の花見での偶然の出会いから殺し合いの修羅場にまで発展する男女の惨状を見つめる初老男性が主人公の『夜桜修羅』、つげの代表作である『懐かしのメロディ』では終戦後の混乱期に無頼に生きるサブの姿が描かれる。『つげ忠男のシュールレアリズム』(ワイズ出版刊)からは、行き場をなくした老人の彷徨をテーマにした『音』、さらにつげの長年のファンであった監督自らのオリジナルであるバス事故に運命を翻弄される被害者遺族らの顛末を描いた物語が加えられ、全体を一つの壮大な物語に仕立て上げた作品[6][7]。 原作『成り行き』(書き下ろし ワイズ出版刊)、『夜桜修羅』(書き下ろし ワイズ出版刊)、『懐かしのメロディ』、『音』[6]。 監督出演佐野史郎、足立正生、柄本明、山田真歩、三浦誠己、町田マリー、栁俊太郎、中田絢千、川瀬陽太、吉岡睦雄、後藤剛範、飯田芳、國元なつき、坂上嘉世、管勇毅、増田健一、蟹瀬令奈、葵來沙、安野恭太、小田哲也ほか[6][7]。 研究本
脚注関連人物注釈出典
外部リンク
|
Portal di Ensiklopedia Dunia