ゆっくり茶番劇商標登録問題
ゆっくり茶番劇商標登録問題(ゆっくりちゃばんげきしょうひょうとうろくもんだい)とは、動画共有サービスのYouTubeやニコニコ動画において動画のジャンルを表す単語として使用されていた「ゆっくり」を含む「ゆっくり茶番劇」について、2022年にYouTuberである柚葉/Yuzuha(以下、「柚葉」と表記)が商標権を取得し、この単語を使用する動画投稿者などから1年あたり10万円の使用料の徴収等を試み、Twitter、5ちゃんねるを中心としたプラットフォーム上で大きな反発を招いた騒動のことである。騒動の結果、同年5月28日付で、商標登録は放棄された。その後、ニコニコ動画を運営するドワンゴが本登録商標について無効審判を請求したことで、登録から放棄までの権利も無効となり、本登録商標に係る商標権が完全に消滅した[1]。 背景→「ゆっくりしていってね!!!」も参照
「ゆっくり」とは、通称「ゆっくりボイス」と呼ばれる音声合成エンジン「AquesTalk」を使用して映像に抑揚のない棒読みの音声を追加した、配信動画のジャンル・カテゴリーの一種である[2]。同人ゲーム『東方Project』のそれぞれ主人公である「博麗霊夢」と「霧雨魔理沙」やその他キャラクターをモチーフにした「ゆっくり」を映像中に配置することもある。このような動画の数々は2008年にはジャンルとして定着しており、騒動のあった時点でニコニコ動画では約80万本以上の動画が配信されていた[2][3]。 騒動の経緯・時系列
商標登録発表後の経過2022年5月15日、「インターネットを利用して行う映像の提供」等の役務[注釈 4]に使用する標章「ゆっくり茶番劇」について、柚葉は商標権(第6518338号)を取得したことを公表した。柚葉は、本商標の(営利目的での)使用[注釈 5]において年間10万円(税別)の使用料を請求すると発表した[14]。 東方Projectとは全くの無関係である第三者が「ゆっくり茶番劇」の商標権を取得し、当該商標権の行使を試みたことから、インターネット上では批判の声が多く上がった[3][2]。また、発表が異議申立て期間を過ぎてから行われた点や、使用料を請求すると発表した[14]点にも批判が寄せられた。署名サイトchange.orgでは、有志により商標権の放棄を求める署名活動が始められた[15]。 同日、ゆっくり茶番劇の動画に使用されるキャラクター、「ゆっくり」の由来「東方Project」の原作者でもあるZUNが騒動を認知していると発表した[16]。ニコニコ動画を運営するドワンゴの栗田穣崇が、同サイトを利用する動画投稿者への影響を調査し必要に応じて対応を取ると声明を出した[17][18]。なお、いわゆる「ゆっくりボイス」に使われているAquesTalkの権利を販売しているAquest社は、この日に声明を出していない。 Youtubeやニコニコの動画投稿者の一部は、商標権の回避のために「ゆっくり茶番劇」に文字を加える・削除するなどで一時的に対応した[注釈 6]。 本騒動について複数の動画投稿者がブログやTwitter上で反応した。2ちゃんねる(現5ちゃんねる)創設者の西村博之(ひろゆき)が本件について「ZUNさんも色々と大変だなぁ、、、」と言及した[19]。Twitterでは、関連ワードがトレンド1位となった[20]。 一方で、当該商標権について柚葉の所属事務所のCoyu.Liveは、「所属規約および所属契約への違反が認められた」として柚葉を警告処分としたことを発表した[21]。 2022年5月16日午前4時ごろ、商標登録出願を代理した特許事務所が所在する地域のポータルサイトに対し、柚葉と同特許事務所を名乗った爆破予告が行われた[22][23]。これを受け、山万ユーカリが丘線などの運行に影響が出た[23]。 2022年5月17日、Coyu.Liveは、柚葉に対し「使用料無償化」、「煽るようなツイートの削除」、「今後のツイート内容の見直し」、「謝罪」を要請したと公式Twitterにて発表した[24]。 2022年5月17日、柚葉は、批判を受けて使用料は不要とすると発表したが、権利は柚葉のものと主張した[25]。 同日、本騒動が日本テレビやTBSテレビなどの地上波放送局でも報道された[26][27]。 2022年5月18日、当該商標の出願の時点で柚葉はCoyu.Liveに所属していなかったとして、同事務所は商標登録には全くの無関係とコメントした。しかし、所属ライバーが問題を起こしたとして今後も対応を続けていくと発表した[28]。 2022年5月20日、株式会社ドワンゴは「文字商標『ゆっくり茶番劇』に関するドワンゴの見解と対応について」とした公式発表を公開した。見解では、「【ゆっくり茶番劇】+動画タイトル」や「【ゆっくり劇場】+動画タイトル」のような動画をニコニコ動画に投稿することは当該商標登録にかかる商標権を侵害することはなく[29]、問題はないと考えていると示した上で「そもそも『ゆっくり茶番劇』は動画のジャンルやカテゴリー、動画の内容を広く示す表示として広く一般に使用されている文字列であるという認識であり、特定の企業や個人が独占すべき文字列ではない」とした[30][31]。東方Projectの原作者ZUNは、法律事務所と相談したところ東方Projectの二次創作としてゆっくり茶番劇を使用するのであれば、商標権の効力は及ばないと公表し、今後の対応はドワンゴで行うと発表した[30]。 2022年5月24日、松野博一内閣官房長官(当時)は記者会見で、ゆっくり茶番劇商標登録問題について質問を受け「個別の事案についてはコメントを差し控える」とした上で、「二次創作はネットなどにおいて独自の文化として発展したもの」という認識を示し、「適切かつ正当に保護されることが重要」と回答した[32][33]。 2022年5月27日、ドワンゴはゆっくり茶番劇商標登録を理由に、投稿者が自ら削除した動画を窓口に問い合わせた場合は復旧すると発表した。なお対象期間は3ヶ月以内であり、それを超えると復旧が困難になるとしている[34]。 2022年6月1日、柚葉が自身のTwitterアカウントを削除したと見られるとITmediaが報じた[8]。 ドワンゴによる商標登録出願2022年5月23日、ドワンゴの栗田穣崇専務取締役は、「ゆっくり」のジャンル・カテゴリーを示す表示として広く使われている複数の文字列を対象に、商標登録出願をすると発表した[35]。出願の意図について、「ドワンゴが権利行使をするために出願するわけではない。もし、ネット動画のジャンル・カテゴリーを表す表示として一般的に使用されていることを理由に特許庁が商標登録〔ママ〕を拒絶すれば、誰も商標登録できないことが明らかになる」と説明した[35]。悪意ある第三者による商標登録出願を防ぐためとして、出願予定の文字列は公表されなかった[36]。また、仮に商標権を取得できた場合でも一切権利行使しないと宣言した[35]。 2022年5月24日、ドワンゴは「ゆっくり実況」「ゆっくり解説」「ゆっくり劇場」について商標登録出願を行った(商標出願2022-058346、商標出願2022-058347、商標出願2022-058348)[11][12][13]。 2023年2月13日、特許庁は、ドワンゴの「ゆっくり実況」「ゆっくり解説」「ゆっくり劇場」の出願について、自他識別機能を有さない(商標法3条1項3号、同条6号)を理由とする拒絶理由を通知した[11][12][13]。 審査官は「ゆっくり実況」(商標出願2022-058346)の拒絶理由通知において、以下の理由により出願に係る商標が商標法3条1項3号に該当するとした[37]。
また、審査官は上記拒絶理由通知で、以下の理由により出願に係る商標が商標法3条1項6号に該当するとした[37]。
2023年2月24日、ドワンゴは、上記拒絶理由通知が自身の見解と概ね一致しているため、反論を行わず、拒絶査定を受け入れることを発表した[38]。 2023年7月26日、特許庁は、上記の拒絶理由が解消されなかったことを理由にドワンゴの「ゆっくり実況」「ゆっくり解説」「ゆっくり劇場」の出願に拒絶査定をした[11][12][13]。これにより、第三者が「ゆっくり実況」「ゆっくり解説」「ゆっくり劇場」について商標権を取得できない見込みとなった[注釈 7]。 商標登録の無効審判2022年5月23日、ドワンゴは、商標権者が「ゆっくり茶番劇」に係る商標権の放棄交渉に応じなかった場合は、無効審判請求をすると発表した[39]。 2022年6月2日、ドワンゴの栗田穣崇専務取締役は「ゆっくり茶番劇」が登録されるべきでなかったことを確認するために、無効審判を請求することをTwitterにて公表した[8]。 2022年8月8日、ドワンゴは「ゆっくり茶番劇」(以下、本件商標)の元商標権者である柚葉に対して無効審判を請求した(無効2022-890065)[1]。 ドワンゴの主張ドワンゴは、審判請求書において、以下の理由により、本件商標は、一私人の独占に適さない商標又は自他役務識別力を欠く商標である(商標法3条1項3号、同項6号)ため、本件商標は無効にされるべきであると主張した[1]。
また、ドワンゴは、審判請求書において、公序良俗に反する(商標法4条1項7号)ため、本件商標は無効にされるべきであると主張した[1]。
柚葉の主張2022年10月3日、柚葉は上記識別性についての主張に対し答弁書で以下反論した[1]。
また、柚葉は上記の公序良俗違反(商標法4条1項7号)旨の主張に対し、以下反論した[1]。
審決2023年7月20日、特許庁は「ゆっくり茶番劇」の商標登録を無効とする審決を下した[1][40]。 特許庁の審判官の合議体は、以下判示したうえで、本商標が自他役務識別力を有さない(商標法3条1項3号、同項6号)と判断した[1]。
また、特許庁の審判官の合議体は、以下により本件商標が公序良俗違反(商標法4条1項7号)にも該当すると判断した[1]。
特許庁の審判官の合議体は、柚葉の主張について以下判示して、合議体の判断に採用することができないとした[1]。
2023年8月27日、本審決について訴訟を提起できる期間を経過したため、審決が確定したとみられる[注釈 9]。これにより、登録から放棄までの権利を含めて商標権が初めからなかったこととなり(商標法46条の2第1項)、「ゆっくり茶番劇」に係る商標権が完全に消滅した[1]。 脚注
出典
関連項目
外部リンク
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