この項目では、鉄道会社について説明しています。水陸両用車については「LVT 」をご覧ください。
シカゴ・ユニオン駅(2018年)
南カリフォルニア(2022年)
全米鉄道旅客公社 (ぜんべいてつどうりょかくこうしゃ、アメリカ英語 : National Railroad Passenger Corporation )、通称アムトラック (Amtrak )は、アメリカ合衆国 で1971年 に発足した、全米を結んでいる[ 注 1] 鉄道 旅客輸送 を運営する公共企業体 。連邦政府 出資 の株式会社 という形態をとっている。通称のアムトラックはAmerica と Track (線路 、軌道 などの意)の二つの語から合成されたものである。
概要
第二次世界大戦 後、航空 や自動車 輸送 の台頭により、アメリカの鉄道旅客輸送量は減少の一途をたどっていたが、その傾向は1960年代 に加速し、この時期、多くの鉄道会社が旅客営業の廃止に踏み切り、残存するわずかな旅客列車についてもその存続が危ぶまれた。アメリカには国有鉄道 が存在した時代がなかった[ 注 2] が、旅客鉄道を維持するために連邦政府が介入することになった。こうして、各地域の鉄道会社の旅客輸送部門を統合した全国一元的な組織としてアムトラックが設立された。
アムトラックが線路を所有している区間は北東回廊 など運行区間のごく一部のみであり、その他の地区では大手貨物鉄道会社(一級鉄道 )の線路を借りてアムトラックが旅客列車 を運行している。日本の第二種鉄道事業者 の形態に近く、JR 旅客会社とJR貨物(日本貨物鉄道 )の立場を逆転した形になっている。
また、ロサンゼルス 近郊地域の通勤輸送を担うメトロリンク など、都市 圏の旅客列車の一部の運行委託も請け負っている。
アムトラックの発足直後に起こったオイルショック は、石油類高騰に伴う自動車や航空機の燃料コストの増大から、コスト面で安価となる鉄道輸送にとって有利に働いた時期もあったが、1980年代 の航空規制緩和法 等による航空 産業の規制緩和を契機に、アメリカ南西部を中心にサウスウエスト航空 が勢力を伸ばしたほか、世界規模での格安航空会社 の成功とビジネスモデル の確立により、中・長距離都市間連絡路線を中心に鉄道の利用客を奪われる形となった。利用が低迷したため鉄道運行技術も世界的に見ても決して高いとはいえず、こうした事情もあり、経営状態は最近に至るまでも厳しいもので、連邦政府や運行地域の一部の州からの財政援助に頼ってきたのが現状である。
2001年 9月のアメリカ同時多発テロ事件 以降、アメリカでは多くの旅客が民間航空機による移動を避けてアムトラックなどの航空機以外の移動手段を選択したため、一時的な業績回復がみられたものの、2000年 頃からは重大な鉄道事故 を頻繁に起こしている。
さらに、北東回廊以外の地区では各貨物鉄道会社の貨物列車 、次いで高額な使用料を払う別会社の貨物列車が優先的に線路を使用しているため、アムトラックの旅客列車が数時間の遅延で運行されることも珍しくない。
列車
アムトラックはそれぞれの列車に名前を付けている。北東回廊線や一部の短距離都市間列車を除いて、1日1本から週3本程度の運行である。
一部の都市には、最寄駅から連絡バスアムトラック・スルーウェイ を運行している(例:駅のあるオークランドあるいはエメリービルから、駅の存在しない主要都市サンフランシスコ へ連絡バスが運行されている)。
現在運行中
廃止列車
Ann Rutledge / Kansas City Mule / St. Louis Mule(2009年、Missouri River Runnerに統合))
Black Hawk
ブロードウェイ特急
Clocker
Colonial
Desert Wind
The Federal(寝台車の連結を取りやめ、Regionalへ統合)
Floridian
George Washington
Hilltopper
International
James Whitcomb Riley
Kentucky Cardinal
Lake Cities
メトロライナー (ニューヨーク州ニューヨーク - ワシントンD.C.。Acela Expressに置き換え)
Montrealer
The National Limited
NortheastDirect(→Acela Regional→Regional →Northeast Regionalに改称)
ノースコースト・ハイアワサ
Patriot
Pere Marquette
Pioneer
San Diegans(→パシフィック・サーフライナーに改称)
Senator
Shawnee
Shenandoah
Silver Palm
Southwind
Spirit of California
Spirit of St. Louis
State House
Three Rivers
Twilight Limited
Twilight Shoreliner(The Federalへ改称の後、寝台車の連結を中止し、Regionalに統合)
保有路線
北東回廊と周辺路線。アムトラックの保有区間は赤線で示す。
アムトラックが自社保有する区間は以下の通りである。
北東回廊
ボストン - ニューヨーク - ワシントンD.C. 間のうちのマサチューセッツ州 [ 2] ロードアイランド州 [ 3] 州境以南 - ニューヘイブン [ 4] 間とニューロシェル - ワシントンD.C. [ 5] [ 6] [ 7] [ 8] [ 9] 間
キーストーン回廊
フィラデルフィア - ピッツバーグ 間のうちのフィラデルフィア - ハリスバーグ [ 7] 間
エンパイア回廊
ナイアガラフォールズ (ニューヨーク州) - ニューヨーク 間のうちのスケネクタディ の北、ホフマンズ - ポキプシー [ 5] 間
ニューヘイブン - スプリングフィールド線 (英語版 )
マサチューセッツ州 スプリングフィールド [ 2] - コネチカット ニューヘイブン [ 4] 間
ミシガン線 (英語版 )
インディアナ州 ポーター (英語版 ) [ 10] - ミシガン州 カラマズー [ 11] 間
ポストロード支線 (英語版 )
キャッストン・オン・ハドソン (英語版 ) - レンセリア (英語版 ) 間
車両
多くの列車は原則として機関車が客車を牽引する形で運転される。東海岸の高速列車「アセラ・エクスプレス 」、西海岸北部のタルゴ 列車「アムトラック・カスケーズ 」などごく一部の列車は固定編成を組んでいるが、多くの客車は1両単位での増減が可能で、利用状況に応じて増車・減車が行われることもある。
電化区間は東海岸の北東回廊 のボストン - ニューヨーク - ワシントンD.C. 間、キーストーン回廊 のフィラデルフィア - ハリスバーグ 間とごくわずかであり、ほとんどの路線はディーゼル機関車 牽引の客車列車として運転される。
一部の短距離・中距離列車では電車から制御車 に改造した車両や機関車からディーゼルエンジン を取り外し制御車 化改造したノン・パワード・コントロール・ユニット(Non-powered Control Unit, 略:NPCU )と呼ばれる車両、あるいは新造の制御車 によるプッシュプル運転 が行われている。
機関車
電気機関車
ACS-64
AEM-7(手前)とE60(奥)
HHP-8
ディーゼル機関車
ジェネシス
F59PHI
B32-8BWH
F40PH
Siemens Charger
電車
アセラ・エクスプレス
制御客車化改造後のメトロライナー
アヴェリア・リバティ
ガスタービン動車
いずれも全車引退済み。
客車
パシフィック・パーラーカー
アムフリート
ホライズン(ホライゾン)
ビューライナー
スーパーライナー
カリフォルニア・カー
Siemens Venture
列車設備・利用者層など
アムトラックの列車(フェーズIVと呼ばれる一世代前の塗装)
基本的には、指定席 で予約を入れる必要があるが、一部列車には自由席 もある。
なお、窓口で乗車券 を購入する際には、防犯対策のためパスポート などの身分証明書 の提示が必要である。公式ウェブサイト での予約も受け付けており、航空券 と同様に発着駅の3文字のコード と、QRコード のついた「eチケット」が電子メール で発行される。AAA 等の割引もあり、日本のJAF 会員も割引の恩恵が受けられる。
編成 は路線によりさまざまであるが、座席車 (コーチ)に加え、数両にカフェ 合造車 (コーチカフェ)や荷物 合造車(バゲージコーチ)などが連結されている列車も多い。列車によってはビジネスクラス 車も連結される。
全区間の所要時間が15時間を越える14の列車には、寝台車 (スリーパー)および食堂車 (ダイナー)が連結されている。この場合は食堂車の隣にラウンジ 車が連結されていることが多い。特殊な例としてはオートトレイン 用の車運車 (オートラック )がある。なお、いずれの列車も座席車が必ず連結されており、寝台車のみで構成された列車は存在しない。
路線により通勤列車、近隣の都市間の移動用、観光用の長距離列車と性格が異なるため、利用客も様々である。
寝台車の旅客と座席車の旅客では待遇にかなりの差がある。例えば、寝台車のシャワー を座席車の旅客が使うことはできず、寝台車の旅客がソフトドリンク 飲み放題であるのに対し、座席車の旅客はすべて有料である。また、座席車の旅客には枕 のみ無料で提供されてきたが、2013年8月より空気枕やブランケット 等をパックした「パッセンジャー・コンフォート・キット」を車内売店で8ドル、あるいは通信販売 によって送料含め15ドルで供給する形に改められた[ 20] 。
北東回廊線はアムトラックのドル箱 路線であるが、都市間バス (グレイハウンド 、トレイルウェイズ (英語版 ) 、中華系資本会社など複数あり)や国内航空(シャトル便 )との競合が激しく、ビジネス客の獲得に力を入れている。カリフォルニアの3路線(キャピトル・コリドー 、サン・ホアキン 、パシフィック・サーフライナー )も幅広い客層で一定の乗客数を確保している。2008年8月現在は無人駅 への自動列車案内システムの導入や、カリフォルニア州でBART 、カルトレイン といった地域 交通機関 との連携も積極的に進めている。
2013年2月17日時点で駅数は529[ 21] 。年間乗降客数1位の駅はニューヨーク のペンシルベニア駅 (881万4,975人/年、2万4,150人/日)で、2位以下は1万人/日以下である。
アムトラック警察
駅で立哨するアムトラック警察のK-9(警察犬)とハンドラー。
アムトラック警察(Amtrak Police Department)はアムトラックが設置・運営する警察組織であり、全米規模の鉄道警察である[ 22] 。警察官とその他職員を合わせた総職員数は450人以上で、アムトラックが運行される46州に30の拠点を置く。部門としては、駅での警戒や警乗 を行うパトロール、K-9(警察犬)、刑事、情報、監察、業務支援、広報、総務、通信指令がある。
関連項目
脚注
注釈
出典
^ Amtrak Service To Resume November 4 Between New Orleans And San Antonio . Amtrak. 2005年10月21日
^ a b “Amtrak Fact Sheet, FY2015, State of Massachusetts ” (PDF). Amtrak (2015年11月). 2016年8月23日閲覧。
^ “Amtrak Fact Sheet, FY2015, State of Rhode Island ” (PDF). Amtrak (2015年11月). 2016年8月23日閲覧。
^ a b “Amtrak Fact Sheet, FY2015, State of Connecticut ” (PDF). Amtrak (2015年11月). 2016年8月23日閲覧。
^ a b “Amtrak Fact Sheet, FY2015, State of New York ” (PDF). Amtrak (2016年11月). 2016年12月17日閲覧。
^ “Amtrak Fact Sheet, FY2015, State of New Jersey ” (PDF). Amtrak (2015年11月). 2016年8月23日閲覧。
^ a b “Amtrak Fact Sheet, FY2015, Commonwealth of Pennsylvania ” (PDF). Amtrak (2015年11月). 2016年8月23日閲覧。
^ “Amtrak Fact Sheet, FY2015, State of Delaware ” (PDF). Amtrak (2015年11月). 2016年8月23日閲覧。
^ “Amtrak Fact Sheet, FY2015, State of Maryland ” (PDF). Amtrak (2015年11月). 2016年8月23日閲覧。
^ “Amtrak Fact Sheet, FY2015, State of Indiana ” (PDF). Amtrak (2015年11月). 2016年8月23日閲覧。
^ “Amtrak Fact Sheet, FY2015, State of Michigan ” (PDF). Amtrak (2015年11月). 2016年8月23日閲覧。
^ “Farewell to the AEM-7 Excursion Train ”. Amtrak. 2016年5月4日時点のオリジナル よりアーカイブ。2016年5月1日閲覧。
^ “Alstom to provide Amtrak with its new generation of high-speed train ”. Alstom (2016年8月). 2016年8月27日閲覧。
^ Alstom : va fournir à Amtrak sa toute nouvelle génération de trains à grande vitesse
^ Amtrak awards Alstom $2.0 bn deal for high-speed trains
^ “Amtrak Advisory | Coast Starlight Parlour Car Removed ” (英語). www.amtrak.com . 2018年2月1日閲覧。
^ Amtrak. “Fall Travel Made Brilliant on the Great Dome Car ”. 2017年7月22日閲覧。
^ “2020 NGEC Annual Meeting Multi-state Single Level Rail Cars ProcurementUpdates ”. 2020年10月21日閲覧。
^ “Top 10 stories of 2022, No. 4: Amtrak cutbacks and service issues” . Trains Magazine. (2022年12月29日). https://www.trains.com/trn/news-reviews/news-wire/top-10-stories-of-2022-no-4-amtrak-cutbacks-and-service-issues/ 2023年5月1日閲覧。
^ [1] Amtrak、2013年9月14日
^ [2]
^ About Us Amtrak Police Department
外部リンク
ウィキメディア・コモンズには、
アムトラック に関連するメディアがあります。