エリア・スタディーズ
「エリア・スタディーズ」は、明石書店により刊行されている、世界の国家・地域に関する入門書シリーズである[1]。章ごとに複数の専門家が執筆し、書題は「~を知るための」「~を旅する」のいずれかを冠する[2]。 歴史「エリア・スタディーズ」が発刊されるきっかけになったのは、1992年出版の『韓国・朝鮮を知るための55章』である。同書の評判が良好であったことから、明石書店の創業者であり、当時の社長でもあった石井昭男が同様の入門書をシリーズ化することを提案した。社員の協議を通し、1998年には同シリーズの第1巻にあたる『現代アメリカ社会を知るための60章』が発刊された[3]。 2005年に『アルゼンチンを知るための54章』で通算50巻、2012年に『ロンドンを旅する60章』で100巻、2016年に『イギリスの歴史を知るための50章』で150巻、2023年9月には『ラダックを知るための60章』で200巻に達した[3]。明石書店はこれを記念し、全国の書店でフェアを開催したほか、非売品の冊子として『エリア・スタディーズを知るための1冊』を刊行した[4]。 内容章ごとに複数の専門家が執筆する。各章は4ページ程度と短く[2]、初学者が簡潔に読み切れるような体裁をとっている[3]。地域研究者を編著者に置きながらも、外交官や企業の駐在員らが執筆陣に加わることも多く[5]、1冊当たり20~30人の専門家、多い場合には50人以上の専門家が参与することもある[2]。シリーズの書題は「~を知るための」「~を旅する」のいずれかを冠する[2]。この書題について、明石書店の社長である大江道雅は「知らない文化、他者を『理解したい』と思うけれど、あまり無責任には言えない。そこで「知るため」という言葉を選びました」と述べている[3]。 扱う国家・地域については編集者により「出すべきもの、出したいと思うもの」が選ばれており、採算はあまり重視されない[2][3]。また、『カリブ海の旧イギリス領を知るための60章』のように、研究者が出版社に直接企画を持ち込むこともある。大江はこれについて「全部の本が赤字ではさすがに持ちませんので、確実に需要のある国で(帳尻を)合わせています」と述べている[3]。たとえば、2022年のロシアのウクライナ侵攻を受けて企画された『NATO(北大西洋条約機構)を知るための7章』は「異例のスピード」である2023年2月に刊行された[5]。一方で、アメリカ同時多発テロ事件を受けて2002年に企画された『アフガニスタンを知るための70章』は同地域のいちじるしい情勢変化により難航し[5]、カーブル陥落の直後にあたる2021年9月に刊行された。また、刊行から時間が経過した書籍については、内容をあらためて再刊している[3]。 評価須川忠輝は、自らが関わった『チェコを知るための60章』を紹介するなかで、同シリーズについて「『エリア・スタディーズ』シリーズの大きな特徴は、1つの分野に限定せずに、様々な分野・ テーマを扱う点である」と論じている[6]。また、臼杵陽は『イスラエルを知るための60章』を評するにあたって「本シリーズは基本的には国別の『百科事典』的な性格を帯びており、その国や場合によっては地域を総体的かつ多角的に見ていこうという総花的な方針で編集されている」と論じ、同書はそうしたなかでイスラエルにまつわる多様なトピックを手際よくまとめているとしながらも、各章の記述には若干の疑問点や、用語の不統一がみられるとした[7]。 読書猿は、同シリーズは「百科事典=最初の街として使える資料」のひとつであり、「空間」百科事典として突出していると論じる[8]。2024年11月には、石破茂内閣総理大臣がアジア太平洋経済協力首脳会議に応じてペルーを外遊する直前に『ペルーを知るための66章』を手にしていたことが報じられた[9]。 書誌情報
出典
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