グッピー
グッピー(学名:Poecilia reticulata)は、カダヤシ科ポエキリア属/グッピー属の1種に分類される魚類。 1858年頃にベネズエラのカラカス付近を流れる短い川であるグアイレ川で発見(科学的発見)された。生きた群が船便でおよそ半年かけてイギリスの大英博物館に届けられたが、体力的に丈夫な魚であるため、ほとんどの個体が生きたまま無事に到着したという。1859年に記載された[1]。 全長約5 cm (2.0 in)の小魚で、雄のほうが雌に比べて色も形も派手である。卵胎生。古くから熱帯魚として広く親しまれている。 外来種としては、世界の比較的温暖な各地である程度問題視されている(分布図参照)。日本も例外ではなく、沖縄県[4]のような適温地域ばかりでなく、冷涼な高緯度地域でも、温泉街の用水路[5]や温排水を出す施設の周辺水域[6][7][8]などでは、放逐(廃棄的放流)されたり誤出されたりした群の生存が確認される(cf. #外来種問題)。 名称学名属名の "Poecilia(ポエキリア)" は、古代ギリシア語 "ποικιλία(ラテン翻字:poikílos、日本語音写例:ポイキロス)" をラテン語形化したうえで名詞化した語形である。元の古代ギリシア語の意味は、英語の "variegated"、日本語の「多色の、多彩な、まだらの」に相当する。従って属名は「多色な者」「多彩な者」「まだら模様を有する者」などといった意味を持つ。 種小名の "reticulata(レーティクラーター、レティクラタ)" は、英語の "reticulated"、日本語の「網状の、網状になった」に相当する意味のラテン語 "rēticulātā(レーティクラーター)" に由来する。 英語名英語名 "guppy" は、[ˈɡʌpi]と発音し、日本語ではこれを音写して「グッピー」と読み書きする。guppy の名は、本種を発見したトリニダード島居住のイギリス人博物学者レッチミア・グッピー (Robert John Lechmere Guppy) に捧げられた名前である。 博物学者ヴィルヘルム・ペータースが1859年の時点で本種を Poecilia reticulata Peters, 1859 の学名で記載したのであるが、1866年になって、今度は博物学者アルベルト・ギュンターが、自分の研究していた標本をペータースのものと同種とは気付かずに[注 1] Girardinus guppii Günther, 1866 の名で記載した。ここで命名された種小名 "guppii" が「グッピー氏にゆかりの」を意味するレッチミア・グッピーへの献名であった。ところが、先述のとおり、ペータースの学名が先行名として記載されていたことが判明すると、ギュンターの学名は後行異名(遅れて記載された異名)ということになり、折角の献名も無効になってしまった。このような経緯を辿ったため、グッピーの発見者たるグッピー氏の名前は献名の栄誉に浴せなくなったが、通称という形で広まった英語名のほうはそのまま定着して国際共通語的名称になった。 また、ヨーロッパに伝えられた当時の通称には、guppy のほかに "rainbow fish" や "million fish" があった[9]。前者は虹のように色彩が美しいことから、後者は簡単に繁殖させられることから[10]、そのように呼び馴らされたものである。 名字としての "Guppy"英語圏での "Guppy" は第一に人名(名字:グッピー)で、元々はウィルトシャー[11]やドーセット[12][11]などイングランド南西部で17世紀頃から記録されている名字であった[11]。一説に、この姓は「キツネ」を意味する古フランス語 "goupil" に由来するフランス語の名字 "Goupy" と関連していると見られる[11]。そのようなことで、魚のグッピーに特定する意をもって呼ぶ場合に "guppy fish" を用いることがある。 和名和名は、現在の標準和名である「グッピー」のほかに、「ニジメダカ[13](虹目高、虹鱂)」がある。また、「百万魚」という漢字表記もある[13]が、読みに関しては情報が無い。「虹鱂 / 虹目高(ニジメダカ)」と「百万魚」は、それぞれに英語名の "rainbow fish" と "million fish" に対応した漢訳語であることが分かる。 中国語名中国語では、いずれも美麗な「孔雀魚(簡体字〈以下同様〉:孔雀鱼|拼音:kǒngquèhóng〈日本語音写例:コォンチュエホォン〉)」「孔雀花鱂(孔雀花鳉)」「鳳尾魚(凤尾鱼)」「彩虹花鱂(彩虹花鳉)」「虹鱂(虹鳉)」「古比魚(古比鱼)」などといった名称で呼ばれている。 生物的特徴形質グッピーは小型の胎生メダカ類である。雄と雌で性的二形が著しく、大きさは雌が大きいが、彩りは雄が美しい。雌雄異体種[14]であるが、ホルモン剤投与により人工的に性転換を起こすことが可能である[15]。 体長は、雄が1.5–4 cm (0.6–1.6 in)、雌は3–7 cm (1.2–2.8 in)。雌の形はメダカやカダヤシに似ている。野生種では薄い褐色の体に、透明な鰭(ひれ)を持つ。雄では雌よりやや細身ながら、ほぼ同じ形であるが、背鰭と尾鰭が大きく広がる。特に尾鰭は後端が不規則な形の旗のように広がり、また、胴体の側面と尾鰭に青や赤など様々な色の模様が出て、一部は金属光沢を帯びる。これらの斑点は個体変異が大きく、親子兄弟でも違ったものが見られる。また、臀鰭/尻鰭(しりびれ)は細長く尖る。この臀鰭はゴノポディウム (gonopodium) と呼ばれる管状の交接器になっており、これによって精子のかたまりを雌の総排出腔に注入する。 観賞用に改良された品種が多くある。飼育種は品種によって様々であるが、野生種より大柄で、鰭がより広がるものが多い。また、それらでは雌にも尾鰭などに若干の模様が出ることが多い。 分布
野生種は、南アメリカ北部のベネズエラ[16][17][18]、ギアナ地方[16][17][18]、ブラジル北部[16]、西インド諸島南部のトリニダード島[16][18]およびバルバドス島[16][18]に分布し、河川に棲む[16]。 外来種問題アメリカ、日本(沖縄県ほか)、タイ、パプアニューギニア、オーストラリア、スリランカなどで、在来種の魚類を駆逐して生態系を脅かしている[19]。日本では(少なくとも2010年〈平成22年〉には)環境省によって「要注意外来生物(現・生態系被害防止外来種)」に指定されており[20][21]、これ以上に野生個体が増殖するようなら「特定外来生物」に指定される可能性もある。 グッピーは熱帯魚だけに耐寒性が低く、日本本土の野外で越冬するのは難しい。しかし、カダヤシより止水や汚水に強く、都市の下水道ですら生育できる能力がある。そのために、温泉街などでは下水の流入する地域に外来種として生息している例がある[19]。北海道の温泉地(十勝川温泉など)でも定着が確認されている[21]。野生化した飼育個体は野生型に近い姿をしている。 沖縄県では自然の流水にメダカが生息するが、郊外の流水から止水域でカダヤシが、都市の下水や汚染の進んだ河川でグッピーが生息し、いずれもメダカの生息環境に対する脅威となっている。先述のとおり、グッピーが国内で定着可能な水域は限定的であり全国的に問題化する可能性は低いが、環境省は生態系被害防止外来種に選定し、飼育グッピーを野外へ遺棄しないよう啓発している[19]。 なお、沖縄の熱帯魚店では、捕獲された野生化グッピーが販売される例がある。主としてアロワナなど大型魚の餌とするためである。 天敵自然界における主な天敵(主な捕食者)としては以下のものがある[22]。 ![]() ![]()
シノニム![]()
論文原記載論文
関係者
飼育観賞用に飼育されているこの仲間のうちでは、ごく小型の部類にはいる。非常に丈夫で飼育が容易である。また、同類の他の魚との違いとして、個体ごとに色が異なることがあげられる。サザンプラティフィッシュなども様々な色彩のものがあるが、それらは品種として扱える程度の遺伝的な安定性があるが、グッピーでは変化が非常に激しい。しかもそれがひれの形にまで及ぶのが独特で、特に改良品種では大きな鰭を持ち、美しい。また、繁殖もごく簡単で、群泳させておけば勝手に交配し、子を産む。気をつけなければならないのは、生まれた子を親が共食いしないような配慮くらいであり、非常にやさしい。それらの特徴のため、熱帯魚における入門的な種としても人気がある。 長く系統を維持するのは案外難しい。安易な飼育では繁殖はしても次第に勢いを失い、奇形が出現することが多く、系統の維持は容易でない。さらに美しいものを繁殖させるのはもっと難しい。美しい個体を作るためには遺伝的背景を考慮する必要があり、その辺の工夫に凝るときりがない。それゆえ、「熱帯魚飼育は "グッピーに始まりグッピーに終わる"」といわれることもある[10][24]。 流通日本へは1920年(大正9年)頃に伝わったとされる。広く認知され始めたのは1930年(昭和5年)頃で、三越の日本橋本店や銀座千疋屋に陳列されるようになってからである。今では、主にシンガポールで養殖されたものを「外国産グッピー」、日本国内で繁殖・作出されたものを「国産グッピー」と呼んでいる。外国産グッピーのほうが安価であるが、国産グッピーのほうが日本の水で育っていること、輸送ストレスが低いこと、大切に扱われていることなどから大変丈夫である。特に1990年代から俗に「グッピーエイズ」と呼ばれた病気により、外国産グッピーの死亡率が非常に高い現象が知られているが、国産グッピーではそのようなことはない。 品種![]() Large strains A - Veil tail B - Delta tail, Triangle tail C - Fan tail D - Flag tail Sword strains E - Double sword F - Top sword, Upper sword G - Bottom sword, Lower sword H - Lyre tail Short strains I - Coffer tail J - Spear tail K - Round tail L - Pintail, Needle tail ![]() 1列目 Fan tail Delta tail, Triangle tail Veil tail 2列目 Flag tail Double sword Top sword 3列目 Bottom sword Lyra tail Pintail, Needle tail 4列目 Coffer tail Spear tail Round tail ![]() ![]() ![]() ここでは数多くの品種のうちの主要なものを記載する。 尾鰭の形状尾鰭の形状に豊富なバリエーションがあり、以下のように様々な名称で区別されている。ヨーロッパではラウンドテールやピンテールの品種に人気がある。
日本での流通品種日本国内では、グッピーの流通品種を「国産グッピー」と「外国産グッピー」の2種類に大別している[25]。 「国産」というのは日本国内で繁殖・作成された品種を指す[25]。日本の水質(中性および弱酸性)に適応しやすい[25]。生体の状態が良いのが普通で、丁寧に育成されているものが多い[25]。ただし、外国産に比して価格が高い[25]。 一方、日本で「外国産」というのは、事実上は東南アジア産であり、もっぱらシンガポール産と言って差し支えない。呼称としても「シンガポール産」が用いられることが多い。国産グッピーより価格の安い品種が多い[25]。外国産(東南アジア産)は国産と違って日本の水質に慣れていない状態で飼育を始めることになる[25]。水質は東南アジアに合わせて中性および弱アルカリ性から徐々に日本の水質に慣らしていく[25]。ただ、さほど神経質になる必要は無く、育てやすさに大きな差は無い[25]。外国産で注意すべき点は、「グッピーエイズ」などの病気の因子を持っている場合があるということ[25]で、国産はその点でリスクが低い。また、輸送時のストレスを受けている個体も多く[25]、輸入直後の生体を購入する場合や、国産グッピーとの混泳には注意が必要である[25]。 東南アジア産
日本産日本国内のブリーダー産。
体色
同属異種![]() →詳細は「エンドラーズ・ライブベアラ」を参照
エンドラーズ・ライブベアラ(英名:Endler's livebearer)は、カナダの生物学者(動物行動学者、進化生物学者)ジョン・エンドラーがベネズエラのクマナ市内にある湖で1975年に発見したグッピーであったが、ブリーダーによって早々に近縁他種と交雑(異種交配)されてしまい、本来の形質と違った状態で固定されてしまった[25]と考えられる。つまり、発見時のオリジナル種(学名なし)と交雑後の「エンドラーズ・ライブベアラ」(現在の学名:Poecilia wingei)は、少なくとも品種のレベルで異なることが知られていた。それでもグッピーの一種として長く流通してきた。しかし、2005年になってグッピー(学名:Poecilia reticulata)とは同属異種(ポエキリア属/グッピー属エンドラーズライブベアラ)という取り扱いに変わった[25]。21世紀初期には交配と品種改良が進められ、ハイブリッド種も数多く作出されている[25]。2020年代の日本では特に人気が高まっている[25]。かつては「国産グッピー」として売られていることが多かった[25]。 関連事象![]() ![]() 潜水艦推力増強計画 GUPPY潜水艦推力増強計画(英: Greater Underwater Propulsion Power Program)は、第二次世界大戦後にアメリカ海軍が実施した潜水艦の近代化改装計画。頭字語は発音しやすいように "Y" を付け足した "GUPPY" となり[26]、発音は本種と同じ「ガピィ/ゴピィ」[26]、つまり、日本語読みすれば「グッピー」である。 Pregnant Guppy航空機「プレグナントグッピー」 (Aero Spacelines Pregnant Guppy) は、アメリカ航空宇宙局 (NASA) が運用する、特大サイズの貨物を輸送するための広胴型巨大貨物輸送機。その名 "Pregnant Guppy" は「身篭ったグッピー」を意味し[27]、産卵を控えて腹が大きく膨らんだ雌のグッピーを連想しての命名である。 グッピーなら死んでる「グッピーなら死んでる」「グッピーなら死んでた」は、日本語のインターネットスラングである[28]。この語は、サブカルチャーの分野で、テンションの温度差が激しすぎる作品を指すとともに、その状況に対して発せられる慣用句にもなっている[28]。熱帯魚の中でも体力的に丈夫なグッピーは初心者でも飼育しやすいことで知られているが、そうは言っても熱帯魚だけに、温度差には弱い[28]。グッピーのこの特徴をテンションの温度差が激しい作品と紐付け、シリアスパートとギャグパートの落差が大きすぎる、テンションが不安定すぎるなど、その作品のファンですら付いていくことが難しい、そのような状況になった時、それは、温度差に弱い「グッピーなら死んでる」レベルということになる[28]。作品だけでなく人物などに対しても用いられる。 参考文献
関連文献
脚注注釈
出典
関連項目外部リンク
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