ケンタウルス座X-3 (ケンタウルスざX-3、Centaurus X-3、Cen X-3)或いはケンタウルス座V779星 は、ケンタウルス座 にあるX線パルサー である。ケンタウルス座で3番目に発見されたX線 源で、史上初めて発見されたX線パルサーでもある[ 9] [ 3] 。この星系は、中性子星 とO型超巨星 からなる連星 系で、超巨星から中性子星へと物質が降着し、X線を放射している[ 8] [ 10] 。
歴史
ケンタウルス座X-3周辺のX線 ・ガンマ線 源。
ケンタウルス座X-3は、1967年 5月18日 に行われた、ロケット に搭載したX線計測器による、宇宙 から飛来するX線の観測中に、発見された[ 11] 。1971年 、X線観測衛星ウフル によって詳しい観測が行われ、4.87秒 の周期でX線の信号が脈を打っていることが明らかとなり、X線パルサーであることが確認された[ 9] [ 注 3] 。この観測で、パルス の周期が0.02%から0.04%変化していることも明らかとなり、ウフルで更なる観測行った結果、パルス周期は4.84秒を中心に、周期2.09日の正弦曲線 に従って変動していることがわかった。このパルス周期の周期的な変化は、天体の公転 運動に伴うドップラー効果 によるものと考えられ、ケンタウルス座X-3は連星系であることが示された[ 3] 。
ウフルのデータを詳しく調べ、X線パルスの振動周期に加え、連星系の軌道要素 もある程度までわかり、可視光 でこの天体 に該当する光源が探されるようになったが、その光源はなかなかみつからなかった。その理由の一つは、ケンタウルス座X-3が銀河面 付近、りゅうこつ腕 の方向に位置し、X線源の近傍に大量の淡い恒星 が分布する中から同定しなければならなかったからである。1974年 、それらの中から、ケンタウルス座X-3のX線での観測結果と周期、位相ともに一致する0.1等級 程度の変光を起こす恒星がみつかり、漸くケンタウルス座X-3に対応する可視光源が同定された[ 1] 。この可視光で観測された星は、それを発見したポーランド人 天文学者 Wojtek Krzemińskiにちなんで、Krzemiński星とも呼ばれるようになった[ 12] 。
星系
ケンタウルス座X-3は、太陽 からおよそ1万9,000光年 離れた位置にあるとみられる。可視光での観測から、ケンタウルス座X-3は強い星間赤化 を受けていることがわかり、その減光量から距離は2万6,000光年とされていたが、基になった可視光成分のスペクトル型 が後に修正されており、X線の塵による散乱 から距離を求め、より近い距離になった[ 1] [ 5] 。ケンタウルス座X-3は、ウフルによって観測された時から、X線で食を起こす食連星 でもあることがわかっており、パルス周期の変調と同じ周期で食を起こしている[ 3] 。可視光でみえる恒星は早期型の超巨星、X線源となっているのは高速で自転 し強い磁場 を持つ中性子星である[ 8] 。
主星
X線は、伴星である青色超巨星 の大気から、主星の中性子星へ物質が降着する際に解放される重力エネルギー をエネルギー源として放射される。伴星から中性子星へ流れ込むガスは、中性子星の周囲に降着円盤 を形成しているとみられ、回転しながら徐々に中性子星へ落下し、エネルギーを解放する。中性子星の強い磁場は、落ち込むガスの通り道を磁極 方向に制限し、降着流と中性子星表面との衝突で局所的に高温領域が形成され、それがX線源になると考えられる[ 10] [ 13] 。
X線は、2.1日毎に伴星に掩蔽される食を起こし、食は公転周期の1/4(半日)程度の間続く[ 3] 。また、放射されるX線の強度が高い状態と低い状態とがあり、決まった周期を持たずに2つの状態の間を行き来することもわかっていて、X線強度が低い状態では食が緩やかになるので、中性子星よりも広がった構造からX線が放射されているとみられる[ 14] 。また、X線強度の高い状態の中でも、X線スペクトル の異なる状態が2通り存在し、中性子星への物質が降着するのにも2種類の状態があるものとみられる[ 15] 。
ケンタウルス座X-3のパルス周期は、長い周期で上下しながら全体としては短くなる、つまり中性子星の自転周期が加速する傾向にあり、1年当たり1.14ミリ秒の割合でパルス周期が短くなってきている。このような自転の加速現象を起こす原因としては、降着物質が回転しながら中性子星へと降着することで、降着物質が持つ角運動量が中性子星に与えられる、ということが考えられる[ 16] 。
伴星
伴星は、主系列段階 よりも進化した高温の恒星で、質量 が太陽 の20倍程度、半径 は太陽 の12倍程度、スペクトル型はO6-7 II-IIIとされる[ 7] 。
可視光でのケンタウルス座X-3の光度曲線 は、極小が一定しない二重波形の曲線となっており、潮汐力 によるひずみや重力減光 の影響を受けた楕円体状変光星 の特徴を示している。伴星は、ほぼロッシュ・ローブ を満たしており、ロッシュ・ローブからあふれだした物質が中性子星へと降着する[ 17] [ 13] 。また、高温であるために恒星風 も強力で、中性子星へ降着する物質の供給に一役買っている他、散乱や再放射などでX線輝線の一部を生成する原因となっている[ 6] 。
脚注
注釈
出典
^ a b c d e Krzemiński, W. (1974-09-15), “The identification and UBV photometry of the visible component of the Centaurus X-3 binary system”, Astrophysical Journal 192 : L135-L138, Bibcode : 1974ApJ...192L.135K , doi :10.1086/181609
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関連項目
外部リンク
座標 : 11h 21m 15.14s , −60° 37′ 27.6″