本研究所は、アメリカ国立がん研究所(National Cancer Institute [NCI])のがんセンタープログラムにより支援されている68の機関のひとつであり、1987年から NCI 指定がんセンターの認定を受けている[2]。CSHLは、分子遺伝学および分子生物学の発展において中心的な役割を果たしてきた研究機関の一つである[3]。
スタンレー認知ゲノミクス研究所(Stanley Institute for Cognitive Genomics)では、統合失調症、双極性障害、大うつ病性障害の遺伝的背景を調べるためにディープシーケンシング等の技術を活用。
スウォーツ認知神経メカニズムセンター(Swartz Center for the Neural Mechanisms of Cognition)では、精神・神経変性疾患における機能不全を理解するため、正常な脳の認知機能を基準として研究。その他の研究対象:自閉症の遺伝学、哺乳類脳のマッピング、意思決定の神経相関。
CSHL の前身は、1890年に始まった生物学研究所 (The Biological Laboratory) である。これは、大学や高校の教師が動物学、植物学、比較解剖学、自然科学を学ぶための夏季教育プログラムとして発足したものであり、ユージーン・ブラックフォード (Eugene Blackford) とフランクリン・フーパー (Franklin Hooper) の提案によって実現した。1904年には、隣接地にカーネギー研究所(Carnegie Institution of Washington)が実験進化学ステーション (The Station for Experimental Evolution) を設立、1921年には遺伝学部門 (Department of Genetics) として再編された。
1910年から1939年にかけて、この研究所は優生学記録局(Eugenics Record Office [ERO])の本拠地となった。この機関は、当時の著名なアメリカ人優生学者チャールズ・ダベンポート(Charles B. Davenport)と彼の助手ハリー・ラフリン (Harry H. Laughlin) によって運営された。ダベンポートはカーネギー研究所の部門長を1934年の退任まで務めた。ERO の研究成果は、1924年の「国家起源法(移民法)」の成立にも影響を与え、ハリー・ラフリンは、南欧や東欧からの移民が英国やドイツからの移民に比べて劣等であると証言した。ダベンポートはまた、1925年に国際優生学組織連盟 (International Federation of Eugenics Organizations) を設立し、その初代会長となった。1935年、カーネギー研究所は ERO の外部レビューを実施し、その結果、ERO はすべての活動を中止するよう命じられた。最終的に1939年には資金提供が打ち切られ、ERO は閉鎖された。ERO によって作成された報告書や図表、系図などは、当時、科学的事実として扱われたが、現在ではその多くが否定されている。今日、CSHL は ERO の文書、書簡、遺物をすべて保存・公開しており、教育や歴史研究のために利用できるようアーカイブに保管し、オンラインやマルチメディア形式でもアクセス可能としている。
分子生物学のパイオニアたちが集った Cold Spring Harbor Symposia(CSHシンポジウム)は、1951年、1953年、1956年、1961年、1963年、1966年などに開催され、分野横断的な知識交流の場となった。1953年夏のシンポジウムでは、ワトソンが DNA の二重らせん構造を初めて公に発表した。
1962年には、生物学研究所とカーネギー研究所遺伝学部門が正式に合併し、コールド・スプリング・ハーバー定量生物学研究所 (Cold Spring Harbor Laboratory of Quantitative Biology) となった。1970年には、コールド・スプリング・ハーバー研究所 (Cold Spring Harbor Laboratory) が正式名称となった。
リーダーシップ
ジョン・ケアンズ (John Cairns) は、統合された CSHL の初代所長となった。カーネギー研究所からの継続的な資金援助が打ち切られ、研究所は深刻な財政難に直面したが、ケアンズは研究所を安定化させ、施設の改修と整備を推進した。1968年に所長退任後、1973年までCSHL に在籍した。その後、イギリス・ロンドン郊外ミルヒルにある Imperial Cancer Research Fund へと移った。在任中には、大腸菌における DNA 複製の重要な実験を行った。
ジェームズ・ワトソン (James D. Watson) は、1968年以降、35年間の長きにわたり所長 (Director) および会長 (President) を務め、CSHLを現代分子生物学の中核機関として大きく発展させた。1968年の就任後、彼は研究の中心をがん研究に据え、腫瘍ウイルス研究グループを創設、連邦政府からの大型研究資金の獲得にも成功した。これにより CSHL は財政的に安定し、がん研究能力の大幅な拡充が図られた。さらに、ノーベル賞を共に受賞したフランシス・クリックに触発されて、1980年代後半からは脳と精神疾患の研究を本格的に開始した。1990年にはアーノルド&メイベル・ベックマン研究棟が完成し、1999年にはマークス神経科学研究棟も開設された。1994年に所長職を退き、会長職に就任。2004年には名誉総長 (Chancellor) に就任した。2007年、人種と知能に関する人種差別的発言により CSHL から職務停止処分を受け、管理職を解任された[10]。2019年、ワトソンが再び人種とIQに関連性があると発言したことにより、CSHL は彼の名誉職をすべて剥奪した[11]。2020年には、CSHL 内のワトソン生物科学大学院 (Watson School of Biological Sciences) の名称から彼の名前が削除された[12]。
^Horace Freedland Judson, The Eighth Day of Creation: The Makers of the Revolution in Biology (Simon & Schuster, 1979), esp. pp. 65-69; also: 44-46; 53; 57-58; 62; 70; 82; 185; 232; 239; 247; 273; 321; 368; 392; 454; 458-59; 572-73.
^See Thomson Reuters Essential Science Indicators, [1]. The ranking is based on average citation frequency of faculty research papers published between January 2002 and December 2012, including 96.94 citations for each CSHL paper on average.
^Examples include: Francis Collins, M.D., Ph.D., current director of the U.S. National Institutes of Health: [2]; Nobel laureate Sydney Brenner: [3]; Nobel laureate Eric Kandel, M.D., referring to the institutional setting of CSHL's graduate school: [4]; See also: R. Sanders Williams, "Sputnik, Slime Molds, and Botticelli in the Making of a Physician-Scientist," in David A. Schwartz, ed., Medicine, Science and Dreams: The Making of Physician-Scientists (Springer, 2010, p. 103.)
^Watson, J. D.; Crick, F. H. C. (April 25 1953). “Molecular structure of nucleic acids; a structure for deoxyribose nucleic acid”. Nature171 (4356): 737–738. doi:10.1038/171737a0. PMID13054692.
^Hershey, A. D.; Chase, M. (May 1952). “Independent functions of viral protein and nucleic acid in growth of bacteriophage”. Journal of General Physiology36 (1): 39–56. doi:10.1085/jgp.36.1.39. PMID12981234.
^Chow, L. T.; Gelinas, R. E.; Broker, T. R.; Roberts, R. J. (September 1977). “An amazing sequence arrangement at the 5' ends of adenovirus 2 messenger RNA”. Cell12 (1): 1–8. doi:10.1016/0092-8674(77)90180-5. PMID902310.
^Greider, C. W.; Blackburn, E. H. (1985). “Identification of a specific telomere terminal transferase activity in Tetrahymena extracts”. Cell43 (2 Pt 1): 405–413. doi:10.1016/0092-8674(85)90170-9. PMID3907856.