サウラーシュトラ文字 (サウラーシュトラもじ、英語 : Saurashtra )は、Unicode の133個目のブロック 。
解説
インド南部 に位置するタミル・ナードゥ州 のマドゥライ 、セーラム 、タンジャーヴール などで話される、インド・ヨーロッパ語族 インド語派 の、グジャラート語 などの近縁にあたるサウラーシュトラ語 を表記するためのサウラーシュトラ文字 を収録している。
サウラーシュトラ文字はデーヴァナーガリー などと同様にブラーフミー文字 から派生した所謂ブラーフミー系文字 (インド系文字)の一つであり、音素文字 のうち子音字単独では暗黙の随伴母音/-a/を伴って発音され、別の母音にする際に母音記号を付加することで発音を切り替えるアブギダ に分類される。書字方向 はラテン文字 などと同様に左から右へと横書き(左横書き )し、単語毎に分かち書き をする。
子音連続など子音のみで発音する場合は特殊な子音字同士の合字 を形成したり、あるいは単に殺母音記号であるヴィラーマ という記号を子音字の下に付加したりする。例えば、/kṣa/はꢒꢰ꣄(U+A892 U+A8C4 U+A8B0
)と表される[ 1] 。ただし、他のブラーフミー系文字と比較して合字の種類はあまり多くないためヴィラーマ記号が直接書かれることが多い。
加えて、アラビア文字 やタイ文字 などと同様に独自の数字体系(サウラーシュトラ数字)を有している。
符号位置の順序はおおむね伝統的なサウラーシュトラ文字の順序に従っている。
Unicodeのバージョン5.1において初めて追加された。
収録文字
「ラテン文字 転写」の列はブラーフミー系文字のラテン文字への翻字 方式の一つであるISO 15919 (及び一部はIAST )に従う。
コード
文字
文字名(英語)
用例・説明
ラテン文字転写
各種記号
U+A880
ꢀ
SAURASHTRA SIGN ANUSVARA
アヌスヴァーラ 。
直後に音節が後続する子音字に付き、直後の子音と同じ調音点 の鼻音 が挿入されることを表す。日本語 における「ん 」に相当する。
ṁ
U+A881
ꢁ
SAURASHTRA SIGN VISARGA
ヴィサルガ 。
音節末に[h ]を伴うことを表す。
ḥ
独立母音字
U+A882
ꢂ
SAURASHTRA LETTER A
短母音[ə ]を表す。
a
U+A883
ꢃ
SAURASHTRA LETTER AA
長母音[aː]を表す。
ā
U+A884
ꢄ
SAURASHTRA LETTER I
短母音[i ]を表す。
i
U+A885
ꢅ
SAURASHTRA LETTER II
長母音[iː]を表す。
ī
U+A886
ꢆ
SAURASHTRA LETTER U
短母音[u ]を表す。
u
U+A887
ꢇ
SAURASHTRA LETTER UU
長母音[uː]を表す。
ū
U+A888
ꢈ
SAURASHTRA LETTER VOCALIC R
音節主音 化した短母音としてのR(IPA :[ɹ̩])を表す。
r̥[ 2]
U+A889
ꢉ
SAURASHTRA LETTER VOCALIC RR
音節主音 化した長母音としてのR(IPA:[ɹ̩ː])を表す。
r̥̄[ 3]
U+A88A
ꢊ
SAURASHTRA LETTER VOCALIC L
音節主音 化した短母音としてのL(IPA:[l̩])を表す。
l̥[ 4]
U+A88B
ꢋ
SAURASHTRA LETTER VOCALIC LL
音節主音 化した長母音としてのL(IPA:[l̩ː])を表す。
l̥̄[ 5]
U+A88C
ꢌ
SAURASHTRA LETTER E
短母音[e ]を表す。
ĕ
U+A88D
ꢍ
SAURASHTRA LETTER EE
長母音[eː]を表す。
e
U+A88E
ꢎ
SAURASHTRA LETTER AI
二重母音[ai̯]を表す。
ai
U+A88F
ꢏ
SAURASHTRA LETTER O
短母音[o ]を表す。
ŏ
U+A890
ꢐ
SAURASHTRA LETTER OO
長母音[oː]を表す。
o
U+A891
ꢑ
SAURASHTRA LETTER AU
二重母音[au̯]を表す。
au
子音字
U+A892
ꢒ
SAURASHTRA LETTER KA
子音[k ]を表す。
k
U+A893
ꢓ
SAURASHTRA LETTER KHA
子音[kʰ]を表す。
kh
U+A894
ꢔ
SAURASHTRA LETTER GA
子音[ɡ ]を表す。
g
U+A895
ꢕ
SAURASHTRA LETTER GHA
子音[ɡʱ]を表す。
gh
U+A896
ꢖ
SAURASHTRA LETTER NGA
子音[ŋ ]を表す。
ṅ
U+A897
ꢗ
SAURASHTRA LETTER CA
子音[c ]を表す。
c
U+A898
ꢘ
SAURASHTRA LETTER CHA
子音[cʰ]を表す。
ch
U+A899
ꢙ
SAURASHTRA LETTER JA
子音[ɟ ]を表す。
j
U+A89A
ꢚ
SAURASHTRA LETTER JHA
子音[ɟʱ]を表す。
jh
U+A89B
ꢛ
SAURASHTRA LETTER NYA
子音[ɲ ]を表す。
ñ
U+A89C
ꢜ
SAURASHTRA LETTER TTA
子音[ʈ ]を表す。
ṭ
U+A89D
ꢝ
SAURASHTRA LETTER TTHA
子音[ʈʰ]を表す。
ṭh
U+A89E
ꢞ
SAURASHTRA LETTER DDA
子音[ɖ ]を表す。
ḍ
U+A89F
ꢟ
SAURASHTRA LETTER DDHA
子音[ɖʱ]を表す。
ḍh
U+A8A0
ꢠ
SAURASHTRA LETTER NNA
子音[ɳ ]を表す。
ṇ
U+A8A1
ꢡ
SAURASHTRA LETTER TA
子音[t ]を表す。
t
U+A8A2
ꢢ
SAURASHTRA LETTER THA
子音[tʰ]を表す。
th
U+A8A3
ꢣ
SAURASHTRA LETTER DA
子音[d ]を表す。
d
U+A8A4
ꢤ
SAURASHTRA LETTER DHA
子音[dʱ]を表す。
dh
U+A8A5
ꢥ
SAURASHTRA LETTER NA
子音[n ]を表す。
n
U+A8A6
ꢦ
SAURASHTRA LETTER PA
子音[p ]を表す。
p
U+A8A7
ꢧ
SAURASHTRA LETTER PHA
子音[pʰ]を表す。
ph
U+A8A8
ꢨ
SAURASHTRA LETTER BA
子音[b ]を表す。
b
U+A8A9
ꢩ
SAURASHTRA LETTER BHA
子音[bʱ]を表す。
bh
U+A8AA
ꢪ
SAURASHTRA LETTER MA
子音[m ]を表す。
m
U+A8AB
ꢫ
SAURASHTRA LETTER YA
子音[j ]を表す。
y
U+A8AC
ꢬ
SAURASHTRA LETTER RA
子音[r ]を表す。
r
U+A8AD
ꢭ
SAURASHTRA LETTER LA
子音[l ]を表す。
l
U+A8AE
ꢮ
SAURASHTRA LETTER VA
子音[ʋ ]を表す。
v
U+A8AF
ꢯ
SAURASHTRA LETTER SHA
子音[ɕ ]を表す。
ś
U+A8B0
ꢰ
SAURASHTRA LETTER SSA
子音[ʂ ]を表す。
ṣ
U+A8B1
ꢱ
SAURASHTRA LETTER SA
子音[s ]を表す。
s
U+A8B2
ꢲ
SAURASHTRA LETTER HA
子音[h ]を表す。
h
U+A8B3
ꢳ
SAURASHTRA LETTER LLA
子音[ɭ ]を表す。
ḷ
U+A8B4
ꢴ
SAURASHTRA CONSONANT SIGN HAARU
ハール(hāru)。鼻音 及び流音 の子音字に後続して有気音で発音することを表す記号。
-h
従属母音記号
U+A8B5
ꢵ
SAURASHTRA VOWEL SIGN AA
長母音[aː]を表す。
ā
U+A8B6
ꢶ
SAURASHTRA VOWEL SIGN I
短母音[i ]を表す。
i
U+A8B7
ꢷ
SAURASHTRA VOWEL SIGN II
長母音[iː]を表す。
ī
U+A8B8
ꢸ
SAURASHTRA VOWEL SIGN U
短母音[u ]を表す。
u
U+A8B9
ꢹ
SAURASHTRA VOWEL SIGN UU
長母音[uː]を表す。
ū
U+A8BA
ꢺ
SAURASHTRA VOWEL SIGN VOCALIC R
音節主音 化した短母音としてのR(IPA :[ɹ̩])を表す。
r̥[ 2]
U+A8BB
ꢻ
SAURASHTRA VOWEL SIGN VOCALIC RR
音節主音 化した長母音としてのR(IPA:[ɹ̩ː])を表す。
r̥̄[ 3]
U+A8BC
ꢼ
SAURASHTRA VOWEL SIGN VOCALIC L
音節主音 化した短母音としてのL(IPA:[l̩])を表す。
l̥[ 4]
U+A8BD
ꢽ
SAURASHTRA VOWEL SIGN VOCALIC LL
音節主音 化した長母音としてのL(IPA:[l̩ː])を表す。
l̥̄[ 5]
U+A8BE
ꢾ
SAURASHTRA VOWEL SIGN E
短母音[e ]を表す。
ĕ
U+A8BF
ꢿ
SAURASHTRA VOWEL SIGN EE
長母音[eː]を表す。
e
U+A8C0
ꣀ
SAURASHTRA VOWEL SIGN AI
二重母音[ai̯]を表す。
ai
U+A8C1
ꣁ
SAURASHTRA VOWEL SIGN O
短母音[o ]を表す。
ŏ
U+A8C2
ꣂ
SAURASHTRA VOWEL SIGN OO
長母音[oː]を表す。
o
U+A8C3
ꣃ
SAURASHTRA VOWEL SIGN AU
二重母音[au̯]を表す。
au
ヴィラーマ
U+A8C4
꣄
SAURASHTRA SIGN VIRAMA
ヴィラーマ 。殺母音記号。暗黙の随伴母音/-a/を発音せず子音のみが読まれることを表す。
記号
U+A8C5
ꣅ
SAURASHTRA SIGN CANDRABINDU
アヌナーシカ、或いはチャンドラビンドゥ。
母音字や母音記号に付き、母音を鼻母音 で発音することを表す。
現在のサウラーシュトラ語では用いられていないが、古い文献では用いられていた。多くのブラーフミー系文字とは異なり、文字の真上ではなくやや右に寄った位置に置かれる[ 6] 。
m̐
約物
U+A8CE
꣎
SAURASHTRA DANDA
ダンダ。サウラーシュトラ文字における句点。ラテン文字などにおけるピリオド(.)に相当する。韻文では半詩節の終わり(パダ)を表す。
.
U+A8CF
꣏
SAURASHTRA DOUBLE DANDA
サウラーシュトラ文字において段落の終わりを表す記号。韻文においてスタンザ (詩節)の終わりを表す。
数字
U+A8D0
꣐
SAURASHTRA DIGIT ZERO
サウラーシュトラ文字における数字の0 。
0
U+A8D1
꣑
SAURASHTRA DIGIT ONE
サウラーシュトラ文字における数字の1 。
1
U+A8D2
꣒
SAURASHTRA DIGIT TWO
サウラーシュトラ文字における数字の2 。
2
U+A8D3
꣓
SAURASHTRA DIGIT THREE
サウラーシュトラ文字における数字の3 。
3
U+A8D4
꣔
SAURASHTRA DIGIT FOUR
サウラーシュトラ文字における数字の4 。
4
U+A8D5
꣕
SAURASHTRA DIGIT FIVE
サウラーシュトラ文字における数字の5 。
5
U+A8D6
꣖
SAURASHTRA DIGIT SIX
サウラーシュトラ文字における数字の6 。
6
U+A8D7
꣗
SAURASHTRA DIGIT SEVEN
サウラーシュトラ文字における数字の7 。
7
U+A8D8
꣘
SAURASHTRA DIGIT EIGHT
サウラーシュトラ文字における数字の8 。
8
U+A8D9
꣙
SAURASHTRA DIGIT NINE
サウラーシュトラ文字における数字の9 。
9
小分類
このブロックの小分類は「各種記号」(Various signs )、「独立母音字」(Independent vowels )、「子音字」(Consonants )、「従属母音記号」(Dependent vowel signs )、「ヴィラーマ」(Virama )、「記号」(Sign )、「約物」(Punctuation )、「数字」(Digits )の8つとなっている[ 7] 。
各種記号(Various signs )
この小分類にはサウラーシュトラ文字のうち、母音字や子音字に結合する発音記号などの様々な記号が収録されている。
独立母音字(Independent vowels )
この小分類にはサウラーシュトラ文字のうち、頭子音のない母音の音節を表す際に用いられる独立した母音字が収録されている。
子音字(Consonants )
この小分類にはサウラーシュトラ文字のうち、基本的な子音字が収録されている。
従属母音記号(Dependent vowel signs )
この小分類にはサウラーシュトラ文字のうち、子音字に結合する母音記号が収録されている。
ヴィラーマ(Virama )
この小分類にはサウラーシュトラ文字のうち、ヴィラーマ (殺母音記号)と呼ばれる、子音字の持つ母音/-a/を読まずに子音のみを発音することを表す記号1つのみが収録されている。多くの場合ただ単にヴィラーマが子音字の下に付くが、文字によっては後続する別の子音字と合字 を形成するための制御文字 として働くことがある。
記号(Sign )
この小分類にはサウラーシュトラ文字のうち、母音字や母音記号に付き、母音を鼻母音 で発音することを表すための記号1文字のみが収録されている。
約物(Punctuation )
この小分類にはサウラーシュトラ文字のうち、句読点 などの約物 類が収録されている。
数字(Digits )
この小分類にはサウラーシュトラ文字で用いられる固有の数字 が収録されている。
文字コード
履歴
以下の表に挙げられているUnicode関連のドキュメントには、このブロックの特定の文字を定義する目的とプロセスが記録されている。
バージョン
コードポイント[ a]
文字数
L2 ID
ドキュメント
5.1
U+A880..A8C4,A8CE..A8D9
81
L2/05-222
Michael Everson; J. C. Krishnamoorty (8 August 2005), Final revised proposal to encode the Saurashtra script (WG2 N2969) (英語)
L2/05-232
Michael Everson (11 August 2005), Comments on Saurashtra (英語)
L2/06-091
Michael Everson (27 March 2006), Correction of a Saurashtra character name in PDAM3 (WG2 N3058) (英語)
L2/06-122
Deborah Anderson; Ka'onohi Kai (12 April 2006), Implementation of the Saurashtra script (英語)
L2/06-251
Naga Ganesan (28 July 2006), Saurashtran Haaru consonants in Named Sequences list (英語)
9.0
U+A8C5
1
L2/14-163
Vinodh Rajan (21 July 2014), Proposal to encode Saurashtra Sign Candrabindu (英語)
^ 提案されたコードポイントと文字の名前は、最終決定と異なる場合がある。
出典
^ Michael Everson, J. C. Krishnamoorty (2005年8月8日). “Final revised proposal to encode the Saurashtra script (WG2 N2969) ” (英語). Unicode. 2025年2月12日閲覧。
^ a b IAST ではṛと表記される。
^ a b IAST ではṝと表記される。
^ a b IAST ではḷと表記される。
^ a b IAST ではḹと表記される。
^ Vinodh Rajan (2014年7月21日). “Proposal to encode Saurashtra Sign Candrabindu ” (英語). Unicode. 2025年2月12日閲覧。 “'Unlike other Indic scripts it can be seen that the Candrabindu character is not
positioned directly at the top of a character. Rather, it is positioned slightly to the left. This placement is similar to that of Malayalam Virama. It is necessary for font designers to note this nuance while designing fonts for the Saurashtra script.' 文中では'left'と記述されているが、画像に準拠すると'right'の誤りと思われる。”
^ "The Unicode Standard, Version 15.1 - UA880.pdf" (PDF) . The Unicode Standard (英語). 2025年2月12日閲覧 。
関連項目