ダイアウルフ (異称:ダイアオオカミ 、学名 :Aenocyon dirus 、英語 名:Dire wolf)は、約30万- 約1万年前(新生代 第四紀 更新世 中期- 完新世 初期)のアメリカ大陸 に棲息していた、ネコ目(食肉目) イヌ科 に分類される絶滅 種であり、既知のイヌ亜科 では最大の種である。種小名の dirus はラテン語で「恐ろしい」の意。Aenocyon dirus dirus とAenocyon dirus guildayi の2亜種が知られている。
分類
従来、ダイアウルフは骨の形態の似たタイリクオオカミ と近縁と思われていて、イヌ属 に分類されCanis dirus (カニス・ディルス )とされていた。しかし、2021年1月に発表されたダイアウルフのゲノム を解析した論文では、ダイアウルフはタイリクオオカミとはそれほど近くなく、系統樹ではセグロジャッカル やヨコスジジャッカル よりも基部で分岐したと推定されている。約570万年前にタイリクオオカミの祖先から枝分かれした系統であるという[ 1] [ 2] [ 3] 。この論文では、ダイアウルフをイヌ属(Canis )でなく1918年に提案されたAenocyon 属に分類することが提案された。
特徴
分布
北アメリカ大陸 南部と南アメリカ大陸 北部の、草原 から山林に渡る広範囲に棲息していた。近年では中国北東部のハルビン市 付近からも産出例が報告されており、これは(北緯42度線 以北での化石の発見が存在しなかったため)従来の仮説であった寒冷気候と北米大陸の氷床 がダイアウルフの移動を制限していたという説を覆す発見となった[ 4] 。しかし、この標本が実際にダイアウルフに属するかについては疑問視する研究もある[ 5] 。
ダイアウルフは、マンモスステップ の主要な捕食者 でもあった。
形態
頭胴長約125センチメートル、尾長約60センチメートル、体高約80センチメートル。現生のタイリクオオカミの大型の亜種に近いサイズだが、よりどっしりとした体つきで、平均体重は現生の北米のタイリクオオカミの平均より重かったと推定されている。A. d. dirus はA. d. guildayi より四肢が長い。雄は現生のイヌ科の種に比べて際立って大きな陰茎骨 を持っていた。頭部は幅広く、側頭窓 と頬骨弓 の拡大によって咬筋 に大きな付着部を与えていた。また、顎 は頑丈であり、タイリクオオカミより大きな歯 を持っていた。
生態
本種は群れを形成する捕食者であったと推測されている。また、スミロドン の食べ残しも利用していたであろう事も考えられている。しかし、頭蓋骨や歯の形態から、骨を噛み砕くことはあまりなかったと考えられる[ 6] 。歯や骨格に性的二形 があまりないため、タイリクオオカミのように一夫一妻であったと考えられる[ 7] 。
カリフォルニア州 ロサンゼルス にあるラ・ブレア・タールピット においてスミロドンなどの他の動物とともに多数の化石が発見されている。タール に足をとられた草食動物 を集団で襲い、同様に足をとられたものと思われる。
絶滅
ダイアウルフは最終氷期 後に絶滅したとされる。ダイアウルフの最も年代が新しい化石は、ミズーリ州で発見された約9,440年前のものである。絶滅の要因として大型草食獣の絶滅、気候変動、ヒトを含む他種との競合などが考えられているが、はっきりしていない。
遺伝子工学による「復活」
2025年に、アメリカ・Colossal Biosciences 社が遺伝子操作 されたオオカミの仔3頭(en:Romulus, Remus, and Khaleesi )を誕生させ、「ダイアウルフの復活」として報道された。
タイリクオオカミ に対し14の遺伝子に変異を20箇所導入することで[ 8] 、ダイアウルフに似た形質が付与されている。白い毛皮、大きな体、強靭な肩、広い頭、大きな歯と顎、筋肉質な脚、特徴的な発声(特に遠吠えと鼻鳴き)が特徴とされる[ 9] 。
公開されているダイアウルフ由来の変異箇所は以下の通りである[ 10] 。
一方、ダイアウルフに存在する色素遺伝子(OCA2 (英語版 ) , SLC45A2 (英語版 ) , MITF )の変異は聴覚障害や失明につながるため見送られ、代わりに明るい毛色を可能にするMc1r とMFSD12 の欠失によりダイアウルフ様の外見を実現している(実際のダイアウルフは赤毛であったという仮説があるが、Colossal社のCEOはこれを否定し白であったと考えている[ 11] )。
MFSD12の第一エクソン へのミスセンス突然変異 は、アフガン・ハウンド など多くのイヌ品種で見つかっており、白色〜クリーム色の体毛をもたらすことが知られていた[ 12] ため選定されたと考えられる。
一方、Mc1rの機能低下バリアントはシベリアン・ハスキー 、アラスカン・マラミュート や複数の古代イヌDNAから見つかっているが、タイリクオオカミからは見つかっておらず[ 13] 、ダイアウルフに関する報告もない。
ヒトの機能喪失型MC1rバリアントであるR151Cは、赤毛と白い肌をもたらす一方で、黒色腫 とパーキンソン病 のリスク増加につながることが知られている[ 14] 。
更新世オオカミ
シベリアに生息していたタイリクオオカミ の系統のオオカミ。ダイアウルフとは系統が異なる。
日本列島で発見された大型のオオカミの化石(青森県 と静岡県 )は、この系統と考えられる[ 15] 。
ギャラリー
復元図(現生のタイリクオオカミとの比較)
人とのサイズ比較
ランチョ・ラ・ブレアのダイアウルフ(
1922年 、
チャールズ・ナイト ([
英語版 ])の手になる生態復元想像図)
ランチョ・ラ・ブレア・タールピッツから発見されたダイアウルフの
頭蓋骨 化石の展示
(米国カリフォルニア州、ジョージ・C・ペイジ博物館)
脚注
^ ANDREA ANDERSON (2021年1月16日). “絶滅オオカミ「ダイアウルフ」、実はオオカミと遠縁だった” . ナショナルジオグラフィック . https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/21/011500021/ 2021年1月16日閲覧。 {{cite news }}
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^ GrimmJan. 13, David (2021年1月13日). “The legendary dire wolf may not have been a wolf at all ” (英語). Science | AAAS . 2021年1月24日閲覧。
^ Perri, Angela R.; Mitchell, Kieren J.; Mouton, Alice; Álvarez-Carretero, Sandra; Hulme-Beaman, Ardern; Haile, James; Jamieson, Alexandra; Meachen, Julie et al. (2021-01-13). “Dire wolves were the last of an ancient New World canid lineage” (英語). Nature : 1–5. doi :10.1038/s41586-020-03082-x . ISSN 1476-4687 . https://www.nature.com/articles/s41586-020-03082-x .
^ A late Pleistocene fossil from Northeastern China is the first record of the dire wolf (Carnivora: Canis dirus) in Eurasia(DanLuab:2020)
^ Ruiz-Ramoni, Damián; Wang, Xiaoming; Rincón, Ascanio D. (2022-01-01). “Canids (Caninae) from the Past of Venezuela” . Ameghiniana 59 : 448. doi :10.5710/AMGH.16.09.2021.3448 . https://ui.adsabs.harvard.edu/abs/2022Amegh..59..448R .
^ Anyonge, W.; Baker, A. (2006). "Craniofacial morphology and feeding behavior in Canis dirus, the extinct Pleistocene dire wolf". Journal of Zoology . 269 (3): 309–316.
^ Van Valkenburgh, Blaire; Sacco, Tyson (2002). "Sexual dimorphism, social behavior, and intrasexual competition in large Pleistocene carnivorans". Journal of Vertebrate Paleontology . 22 : 164–169.
^ “Science ” (英語). Colossal (2025年4月7日). 2025年4月8日閲覧。
^ Kluger, Jeffrey (2025年4月7日). “The Return of the Dire Wolf ” (英語). TIME . 2025年4月7日閲覧。
^ “Press Release Service: Colossal Announces World’s First De-Extinction: Birth of Dire Wolves ” (英語). CRISPR Medicine . 2025年4月8日閲覧。
^ “Spotify ”. open.spotify.com . 2025年4月11日閲覧。
^ “[https://omia.org/OMIA002197/9615/ OMIA:002197-9615: Coat colour, phaeomelanin dilution, MFSD12-related in Canis lupus familiaris (dog) -
OMIA - Online Mendelian Inheritance in Animals]”. omia.org . 2025年4月11日閲覧。
^ Ollivier, Morgane; Tresset, Anne; Hitte, Christophe; Petit, Coraline; Hughes, Sandrine; Gillet, Benjamin; Duffraisse, Marilyne; Pionnier-Capitan, Maud et al. (2013). “Evidence of coat color variation sheds new light on ancient canids” . PloS One 8 (10): e75110. doi :10.1371/journal.pone.0075110 . ISSN 1932-6203 . PMC 3788791 . PMID 24098367 . https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3788791/ .
^ Ye, Qing; Wen, Ya; Al-Kuwari, Nasser; Chen, Xiqun (2020). “Association Between Parkinson's Disease and Melanoma: Putting the Pieces Together” . Frontiers in Aging Neuroscience 12 : 60. doi :10.3389/fnagi.2020.00060 . ISSN 1663-4365 . PMC 7076116 . PMID 32210791 . https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7076116/ .
^ 長谷川善和, 木村敏之, 甲能直樹, 2020年, 日本産後期更新世の巨大狼化石 (pdf), 群馬県立自然史博物館研究報告, 24, 1-13頁
関連項目
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