ダイハツ・EB型エンジン は、ダイハツ工業 が生産していた軽自動車 用エンジンの一つである。
英語版 では、EB型 をベースにボア とストローク を拡大したED型 やEF型 を含めたダイハツ・E系列エンジン として解説されているため、本項ではED型、EF型、EJ型 エンジンについても併せて解説する。
概要
EB型を始めとするダイハツ・E系列エンジン とは、トヨタグループ のダイハツ工業 [ 注釈 1] によって設計された、小排気量 の水冷 直列3気筒 ピストン 内燃機関 である。ガソリンエンジン シリーズは鋳鉄 製シリンダーブロック と、アルミニウム合金 製シリンダーヘッド を持ち、SOHC またはDOHC のバルブトレイン をタイミングベルト で駆動する設計である。
E系列エンジンは1985年 (昭和 60年)夏、EB型 がそれまでの直列2気筒 のAB型 を置き換える形で、ダイハツ製軽自動車に採用されて登場した[ 1] 。EB型は1977年 (昭和52年)のCB型 に続いてダイハツが世に送り出した2番目の直列3気筒エンジンであり、原設計では1シリンダー 辺り2バルブ であったが、その後4バルブ やターボチャージャー 仕様も登場した。
EB型は非常に軽量で、原初のEB10型は変速機 を含めても60–63 kg (132–139 lb)というものであった[ 2] 。
系譜
AB型 (1975年 -1985年、ここまで水冷直列2気筒)→EB型 (1985年-1990年、これより水冷直列3気筒)→EF型(1990年-現在、660cc)→KF型(2005年-現在)
EB型 (550cc)→ED型(1986年-現在、850ccにボアアップ)
EF型(660cc)→EJ型(1998年 -2004年 、1,000ccにボアアップ)→KR型 (2005年-現在)
EB型 (550 cc)
EB型 は排気量 547 cc (0.55 L)で、日本 の国内市場で流通する軽自動車のみに搭載される目的で、ダイハツ大阪工場で製造された。内径 は62 mmで、行程 は60.5 mm、点火順序 は1—2—3[ 2] 。最高出力は32 PS (24 kW)から64 PS (47 kW)、後者は自動車馬力規制 により許容される最大限度値である。ミラ/クオーレに搭載された最も初期のエンジンは出力測定法がネット値 ではなく、グロス値 であった。これによってその後数年の僅かな定格出力値の変化が説明される。通常、ダイハツの輸出モデルはこのエンジンより大排気量のED型 またはダイハツ・CB型エンジン に代表されるダイハツ・C系列エンジン が搭載される為、このエンジンの輸出は余り行われていない。
EB型はSOHCバルブトレインと1シリンダー辺り2バルブ仕様のみが設定され、ダイハツは軽自動車へのマルチバルブ 技術の投入が他社と比較して遅れていた。しかし、EB型にはIHI 製ターボチャージャーとインタークーラー が装着され、キャブレター 仕様の後に燃料噴射装置 も追加された。EB型は2バルブ仕様の軽自動車用エンジンで唯一64馬力に到達したエンジンでもあった。ハイゼットピックアップ向けに開発されたスーパーチャージャー 仕様は、カーエアコン の使用で低下したトルクや重負荷時の出力を補う目的で設定された[ 3] 。イタリア のイノチェンティ・ミニ も660 ccのEF型 に切り換えられるまではEB型の省燃費版が使用された。
搭載車種
主要諸元
最大出力 (JIS ネット値)
最大トルク
圧縮比
燃料供給装置
搭載車種
Notes
PS
kW
rpm
kgm
Nm
lbft
rpm
自然吸気 (NA)
EB10 EB40 EB45
32
24
6,000
4.4
43
32
3,500
10.0
キャブレター
ミラ(EB10) クオーレ(EB40/45) リーザ(EB40) リーザバン(EB10)
34 PS (グロス値)
EB60
30
22
5,500
4.5
44
33
3,500
ハイゼット / アトレー(86.05-90.03)
EB-??
31
23
6,400
4.3
42
31
3,000
イノチェンティ・ミニ 500 L/LS
触媒無し 、出力表記はECE 準拠。
ターボ
EB20 EB50
50
37
6,500
7.0
69
51
4,000
8.3
キャブ 、IC
ミラ TR(EB20、1985.08-90.02) クオーレ CR(EB50、1985.08-90.02) リーザ TR-ZZ(EB20、1989.01-90.07)
52 PS (グロス値) IHI製RHB51型タービン
EB21
50
37
6,000
7.0
69
51
3,500
リーザバン(1986.11-90.07)
EB70[ 3]
46
34
6,000
6.5
64
47
3,500
8.6
アトレー(1986.05-88.10)
IHI製RHB51型タービン
EB71
52
38
6,000
7.2
71
52
4,000
アトレー(1988.10-90.03)
EB25
58
43
6,500
7.4
73
54
4,000
EFI 、IC
ミラ TR-XX EFI(87.10-88.10)
IHI製RHB31AW型タービン
EB26
64
47
6,500
7.7
76
56
4,000
8.0
ミラ TR-XX EFI(88.10-90.02) リーザ TR-ZZ EFI(89.01-90.08)[ 4]
IHI製RHB31AW型タービン
スーパーチャージャー (SC)
EB80[ 3]
44
32
6,000
6.0
59
43
3,500
キャブレター
ハイゼットピックアップ (87.05-90.02)
ED型 (850 / 800 cc)
ED型 は排気量847 cc (0.85 L)で、輸出仕様のミラ/クオーレに搭載する目的で製造された。内径66.6 mm、行程81 mm。ED型は当初は日本で製造されていたが、その後マレーシア のプロドゥア に生産が引き継がれ、長い開発と改良を受ける事となる。現在でもDOHC・EFIが導入されたED-DE型 及びDVVT 可変バルブ機構 搭載の最新型エンジンであるED-VE型 が、産業用エンジンとしては要求仕様によりプロパンガス 仕様へ変更可能な26kW出力のエンジンが製造されている。またED型には短期間、スイス 市場向けの特別仕様が存在した。これはスイスの地方行政区画 であるカントンの幾つかに、800cc以下の車両を優遇する税制が存在した為である。このエンジンはED10A と呼ばれ、796 ccの排気量を得る為に2mm狭い内径(64.6 x 81 mm)を使用した[ 1] 。
搭載車種
主要諸元
最大出力
最大トルク
工業規格
圧縮比
燃料供給装置
触媒
搭載車種
備考
PS
kW
rpm
Nm
lbft
rpm
ED10
6V SOHC
44
32
5,500
67
49
3,200
DIN
9.5
キャブレター
–
クオーレ/ドミノ/ハンディ[ 1]
40
29
5,600
63
46
3,250
●
クオーレ/ドミノ/ハンディ[ 5]
37
27
5,500
62.7
46
3,800
●
プロドゥア・カンチル 850EX[ 6]
ED-??
35.5
26
4,800
65
48
2,800
–
–
キャブ又はガスミキサー
–
産業用エンジン[ 7]
傾斜配置
ED10A[ 1]
41
30
5,500
62
46
3,200
DIN
9.0
キャブレター
–
クオーレ(87.09-90.05)
796 cc、スイスのみ
ED-DE
12V DOHC
50
37
5,200
74.4
55
4,000
10.0
EFI
●
プロドゥア・カンチル 850EZi[ 6]
ED-VE
39
29
6,000
76
56
4,000
EFI、DVVT
●
プロドゥア・ビバ[ 6]
EF型 (660 cc)
EF型 は、1990年 に軽規格が改正された際にEB型 を更新する目的で開発された659 cc (0.66 L)のエンジンである。最初に搭載されたのは1990年3月にフェイスリフト を受けたミラである[ 8] 。
内径はEB型の62 mmから68 mmに拡大され、行程は60.5 mmに設定された。EF型は長期間の製造の中で無数のバリエーションが開発され、多くのダイハツ車に搭載された。ダイハツ車向けとしては2007年 11月に製造を終了し、その間にKF型エンジン に完全に取って代わられる事となった。EF型はそれまでのEB型と殆ど同じ位軽量で、2004年のEF-SE型で68 kg (150 lb)であり、近代的な排ガス対策機器 と燃料噴射装置を搭載していた[ 9] 。2016年 6月 現在では産業用のEF-SE/VE各型4機種の製造が継続されている。
EJ型 (1,000 cc)
1998年2月に登場。水冷直列3気筒DOHC12バルブ、内径72.0mm×行程81.0mm、総排気量989cc。2011年 にプロドゥア・マイヴィ がモデルチェンジした事で自動車用としての製造は終了しているが、産業用エンジンとしてEJ-VE型直立配置エンジンの生産が継続されている。
脚注
注釈
^ 1998年(平成10年)からトヨタ自動車の子会社 。
出典
^ a b c d Büschi, Hans-Ulrich, ed (March 5, 1987) (German/French). Automobil Revue 1987 . 82 . Berne, Switzerland: Hallwag AG. p. 240. ISBN 3-444-00458-3
^ a b Baobab Street (バオバブストリート) (1987) (Japanese). エンジョイ・ダイハツ ミラ, クオーレ/リーザ [Enjoy Daihatsu Mira, Cuore/Leeza] . マイカーエンジョイマニュアル [My Car Enjoy Manual]. Tokyo: Sankaido (山海堂). p. 185. ISBN 978-4-381-07561-1
^ a b c Kobori, Kazunori (2007) (Japanese). ダイハツ 日本最古の発動機メーカーの変遷 [Daihatsu: The History of Japan's Oldest Engine Company] . Tokyo: Miki Press. p. 75. ISBN 978-4-89522-505-2
^ (Japanese) Car Graphic: Car Archives Vol. 11, '80s Japanese Cars . Tokyo: Nigensha. (2007). p. 250. ISBN 978-4-544-91018-6
^ Mastrostefano, Raffaele, ed (1990) (Italian). Quattroruote: Tutte le Auto del Mondo 1990 . Milano: Editoriale Domus S.p.A. p. 168
^ a b c Perodua Spesikasi Teknikal
^ ED series specifications Archived 2011年2月15日, at the Wayback Machine .
^ Car Graphic: Car Archives '80s , p. 249
^ “EF Series Specifications ”. Daihatsu Motor Company (2004年). 2009年6月13日時点のオリジナル よりアーカイブ。2013年1月2日閲覧。
関連項目
外部リンク