トッド類 (トッドるい、英:Todd class)とは、数学の中で特性類 の代数的位相幾何学 における理論の一部と考えられる特定の構造体である。ベクトル束 のトッド類 はチャーン類 理論によって定義することができ、チャーン類が存在するところで出現する。中でも微分位相幾何学 における複素多様体 理論と代数幾何学 理論で最も顕著である。大雑把に言うと、トッド類 はチャーン類の逆数のように振る舞い、コノーマル束(conormal bundle)[ 注釈 1] がノーマル束(normal bundle)になる際にチャーン類との関連が起こる。
トッド類 は、古典的なリーマン・ロッホの定理 を、より高次元のヒルツェブルフ・リーマン・ロッホの定理 やグロタンディーク・ヒルツェブルフ・リーマン・ロッホの定理 (英語版 ) へと一般化する際に基本的な役割を務める。
歴史
チャーン類が定義される前の1937年に、代数幾何学における特殊なケースの概念を紹介した、J. A. トッド からこの名前が付けられた。トッド類に関わる幾何学的な概念は、たまにトッド・エーガー類 (Todd-Eger class)とも呼ばれる。 高次元における一般的な定義は、フリードリッヒ・ヒルツェブルフ によるものである。
定義
トッド類
td
(
E
)
{\displaystyle \operatorname {td} (E)}
を定義するためには、ここでEは位相空間 X上の複素ベクトル束 であるが、特性類理論の一般的な手法であるチャーン根 (別名を、分裂原理 (英語版 ) )を使うことによって、通常は直線束 のホイットニー和 (英語版 ) の場合にその定義を限定することができる。定義は以下、
Q
(
x
)
=
x
1
−
e
−
x
=
∑
i
=
0
∞
(
−
1
)
i
B
i
i
!
x
i
=
1
+
x
2
+
x
2
12
−
x
4
720
+
⋯
{\displaystyle Q(x)={\frac {x}{1-e^{-x}}}=\sum _{i=0}^{\infty }{\frac {(-1)^{i}B_{i}}{i!}}x^{i}=1+{\dfrac {x}{2}}+{\dfrac {x^{2}}{12}}-{\dfrac {x^{4}}{720}}+\cdots }
Q
(
x
)
n
+
1
{\displaystyle Q(x)^{n+1}}
内の
x
n
{\displaystyle x^{n}}
の係数が1という性質を持つ形式的冪級数 (formal power series)であり、ここで
B
i
{\displaystyle B_{i}}
はi 番目のベルヌーイ数 を表す。総乗 内の
x
j
{\displaystyle x^{j}}
の係数を考えると
∏
i
=
1
m
Q
(
β
i
x
)
{\displaystyle \prod _{i=1}^{m}Q(\beta _{i}x)\ }
任意の
m
>
j
{\displaystyle m>j}
に対して。これは
β
i
{\displaystyle \beta _{i}}
内で対称、かつ重み j [ 注釈 2] が均質である。そこで、
β
i
{\displaystyle \beta _{i}}
の基本対称式 'p'における多項式
td
j
(
p
1
,
…
,
p
j
)
{\displaystyle \operatorname {td} _{j}(p_{1},\ldots ,p_{j})}
として表すことができる。その後に、
td
j
{\displaystyle \operatorname {td} _{j}}
をトッド多項式 (Todd polynomials)と定義する。それらは、特性類の冪級数としてQ を持つ乗法列 (英語版 ) (Multiplicative sequence)を形成する。
仮にEがチャーン根としてαi を持つ場合、トッド類 は
t
d
(
E
)
=
∏
Q
(
α
i
)
{\displaystyle td(E)=\prod Q(\alpha _{i})}
これは"X"のコホモロジー環 (または、無限次元多様体を考慮したい場合はその完成時に[ 注釈 3] )で計算される。
トッド類 はチャーン類の形式的冪級数として、次のように明示的に与えられる。
td (E ) = 1 + c 1 /2 + (c 1 2 +c 2 )/12 + c 1 c 2 /24 + (−c 1 4 + 4c 1 2 c 2 + c 1 c 3 + 3c 2 2 − c 4 )/720 + ...
ここでのコホモロジー類c i はE のチャーン類であり、コホモロジー群H2i (X )内に存在する。もしもX が有限次元の場合は、ほとんどの項が消えて td (E ) がチャーン類の多項式となる。
性質
トッド類は乗法的性質(Multiplicative)を持つ。
T
d
∗
(
E
⊕
F
)
=
T
d
∗
(
E
)
⋅
T
d
∗
(
F
)
.
{\displaystyle Td^{*}(E\oplus F)=Td^{*}(E)\cdot Td^{*}(F).}
さて
ξ
∈
H
2
(
C
P
n
)
{\displaystyle \xi \in H^{2}({\mathbb {C} }P^{n})}
を超平面 区間の基本類 とする。
乗法的性質と
C
P
n
{\displaystyle {\mathbb {C} }P^{n}}
の接束 に対するオイラー系列 (英語版 ) (Euler exact sequence)から
0
→
O
→
O
(
1
)
n
+
1
→
T
C
P
n
→
0
,
{\displaystyle 0\to {\mathcal {O}}\to {\mathcal {O}}(1)^{n+1}\to T{\mathbb {C} }P^{n}\to 0,}
これが得られる[ 3] 。
T
d
∗
(
T
C
P
n
)
=
(
ξ
1
−
e
−
ξ
)
n
+
1
.
{\displaystyle Td^{*}(T{\mathbb {C} }P^{n})=\left({\dfrac {\xi }{1-e^{-\xi }}}\right)^{n+1}.}
ヒルツェブルフ・リーマン・ロッホの定理
詳細は、ヒルツェブルフ・リーマン・ロッホの定理 を参照。
ヒルツェブルフ・リーマン・ロッホの定理は、コンパクト]な複素多様体X上の任意の正則ベクトル束 Eに対して、層係数コホモロジー 内にあるEの正則オイラー標数 、すなわち複素ベクトル 空間としての次元の交代和 を計算するために適用する。
χ
(
F
)
:=
∑
i
=
0
dim
C
M
(
−
1
)
i
dim
C
H
i
(
F
)
,
{\displaystyle \chi (F):=\sum _{i=0}^{{\text{dim}}_{\mathbb {C} }M}(-1)^{i}{\text{dim}}_{\mathbb {C} }H^{i}(F),}
この定理は、E のチャーン類と X のトッド類(正しくはX の接ベクトル束 のトッド類)からオイラー数 χ(X, E) が導かれることを示している。E のチャーン指標 を ch(E) とおき、X のトッド類を td(X) とすると、定理は 以下のように書ける。
χ
(
X
,
E
)
=
∫
X
ch
(
E
)
td
(
X
)
{\displaystyle \chi (X,E)=\int _{X}\operatorname {ch} (E)\operatorname {td} (X)}
ここでのtd(X)が、Xの接ベクトル束のトッド類である。
上の公式は、トッド類がある意味で特性類の逆数であるという曖昧な概念を、正確に表したものとなっている。
注釈
脚注
^ 「可微分多様体 」信州大学 玉木研究室HP、2011年9月11日。2018年9月24日閲覧。
^ 「無限次元多様体の幾何学とトポロジー 」信州大学 玉木研究室HP、2011年1月6日。2018年9月24日閲覧。
^ Intersection Theory Class 18 , by Ravi Vakil
参考文献
Todd, J. A. (1937), “The Arithmetical Invariants of Algebraic Loci”, Proceedings of the London Mathematical Society 43 (1): 190-225, doi :10.1112/plms/s2-43.3.190 , Zbl 0017.18504
Friedrich Hirzebruch , Topological methods in algebraic geometry , Springer (1978)
M.I. Voitsekhovskii (2001) [1994], “Todd class” , Encyclopedia of Mathematics , EMS Press
関連項目