フレンチトースト。
フレンチトースト (英語 : French toast 、仏 : pain perdu)は、アメリカ州 、ヨーロッパ の一部、アジア の一部の国・地域などで朝食 や軽食 、デザート としてよく食べられているパン 料理の1種である。溶いた鶏卵 と牛乳 などの混合液をパンに染み込ませ、フライパン などにバター や植物油 を熱して焼いたもので、パンがしっとりした食感に変わる。
概要
フレンチトーストには様々な作り方があるが、基本的なものはパン(食パン やフランスパン をスライスしたもの)に、鶏卵と、牛乳かオレンジジュース 、それにナツメグ 、シナモン などのスパイス を混ぜた調味液(カスタード 液)をしみこませて、フライパンなどで軽く両面を焼いて作る。調味液にバニラエッセンス を加えることもある。
パンも食パンだけでなく、レーズン を含んだレーズンパン やナッツ を含んだパンを使うことがある。また、1枚ではなく、2枚を合わせて、間につぶしたバナナ などのフルーツ を挟んだり、ジャム やピーナッツバター を塗る場合もある。好みで、バター 、メープルシロップ 、生クリーム 、粉砂糖 、ガムシロップ 、蜂蜜 などをかけて食べる。
名称と歴史
フレンチトーストに類似する料理は、ヨーロッパの様々な国で作られていたことが記録に残っている。最古の記録は古代ローマ の料理書『アピキウス 』の中で「アリテル・ドゥルキア」(Aliter Dulcia) つまり「もう一つの甘い料理」とのみ呼ばれるものである。パンを牛乳にひたして作るが、鶏卵の使用については言及されていない[ 1] 。
中世ヨーロッパではスッペ・ドラーテ(suppe dorate、「黄金のスープ 」)、スーピス・イン・ドリェ(soupys yn dorye、同左)、トステ・ドレ(tostées dorées、「黄金のトースト」)、パン・ペルデュ(pain perdu、フランス語の「失われたパン」の転訛)などの名で広く知られていた。15世紀 イタリア の料理人マルティーノ・ダ・コモ (英語版 ) も調理法を書き残している。この料理がしばしば「スープ」と呼ばれたのは、パンを液体に浸す(ソップ (英語版 ) )からである[ 2] 。
フランスやベルギー 、コンゴ共和国 、カナダ のニューファンドランド・ラブラドール州 、アメリカのニューオーリンズ やアケイディアナ では、フレンチ・トーストはフランス語 でパン・ペルデュ、すなわち「失われたパン」(フランス語 : pain perdu )と呼ばれる。ミルクや卵に漬けることで硬くなったパン(「失われたパン」)を「生き返らせる」ものであることがその理由である[ 3] 。フランスでは朝食としてではなくデザートとして食べられている[ 4] 。日本でも、「パンペルデュ」の名で脚光を浴びるようになってきている[ 5] 。一方、ケベック州 やアカディア ではパン・ドレ(pain doré、「黄金のパン」)と呼ばれる[ 6] 。かつて「パン・ペルデュ」はフランス語で埋没費用 を指す隠喩 でもあった[ 7] 。15世紀に英語で書かれたパン・ペルデュの料理法も存在する[ 8] [ 9] [ 10] 。
14世紀のドイツ ではアルメ・リッター(Arme Ritter、「貧乏騎士」)と呼ばれており[ 8] [ 11] 、英語の別名プア・ナイト(Poor knight)[ 12] 、スウェーデン のファッティガ・リッダレ(Fattiga riddare)やフィンランド のクーハト・リタリット(Köyhät ritarit)なども同じ意味である(北欧にはクリーム などを使ったより贅沢な「金持ち騎士」というデザートもある)。同じく14世紀には、ギヨーム・ティレル が「トステ・ドレ」のレシピを著書「レ・ヴィアンディエ」に書いている[ 13] 。
オーストリア とバイエルン州 ではイタリア語 のズッパ・パヴェーゼ (イタリア語版 、英語版 ) (「パヴィーア のスープ」)に由来するパフェーゼ(Pafese)もしくはポフェーゼ(Pofese)と呼ばれる[ 14] 。
2003年頃にイラク 問題をめぐってアメリカとフランス の関係が悪化した際、反仏活動の一環として民間の食堂がフレンチポテト をフリーダムフライ に改称したことが話題になった。アメリカ合衆国下院 議会でもこれに追随し、ボブ・ナイ (英語版 ) 下院議員が主導して下院の食堂のメニューにあったフレンチポテトをフリーダムフライに改称したが、これにあわせてフレンチトーストもフリーダムトーストに改称されたことがある[ 15] 。
各国のフレンチトースト
日本
日本では、食パンを用い、鶏卵と牛乳に砂糖を加えた液を染み込ませて、フライパンで焼くのが一般的であるが、店によってバリエーションも広い。パン屋で焼いたものを売る場合や、パン工場で焼いたものをコンビニエンスストア などで販売する場合もあるが、これらの場合は日持ちを考えて、中まで液を染み込ませず、表面に薄く付けただけのものが多いため、飲食店で出すものとは食感などに違いがある。
香港
「西多士」(広東語 : サイトーシー、多士はトースト の音訳)と呼ばれ、茶餐廳 という喫茶軽食店の定番メニューである。溶き卵を付けて、少しの油で揚げ焼きする。バターを載せて供する。そのままでは甘くないのでシロップ か蜂蜜 をかけて食べる。薄切りの食パン2枚の間にピーナッツバター を塗り、外側だけ溶き卵を付けて焼いたものを出す店もある。
台湾
「法國土司」(中国語 : ファーグオトゥースー 拼音 : Fǎguó tǔsī 。土司はトーストの音訳)などの名で朝食に出す店が多い。台湾では鉄板で焼く料理も少なくない。その一つとして、食パンの表面に溶き卵だけを付けて、鉄板で焼いて供するなど、総じて甘くないものが多い。塩味のものでは、具として、2枚の間にツナ を挟んだ「鮪魚法國土司」(ウェイユーファーグオトゥースー)や、スイートコーン を挟んだ「玉米法國土司」(ユーミーファーグオトゥースー)などもある。
イタリア
薄切りにしたモッツァレラチーズ をパンの間に挟んでから、表面に溶き卵をつけて焼いたモッツァレッラ・イン・カロッツァ (英語版 ) (「馬車 に乗ったモッツァレッラ」)という塩味の料理がある。
スペイン
牛乳に砂糖を加えた液を染み込ませたパンに溶き卵をからめてオリーブオイル で揚げ、シナモンシュガーをまぶしたトリハス という菓子がある。イベロアメリカ の一部の国ではトレハスと呼ばれるが、若干違いがある。
ドイツ
ドイツのアルメ・リッター(「貧乏騎士」)の調理法は、卵黄と卵白を分け、卵黄、牛乳、砂糖を混ぜたカスタード液にパンを浸す。軽く泡立てた卵白をまぶし、パン粉をつけてバターで焼き、砂糖とシナモンをまぶす[ 16] 。
イギリス
イギリスでは17世紀後半以来プア・ナイツ、もしくはプア・ナイツ・オブ・ウインザーと呼ばれているが、通俗的にはエギー・ブレッド(eggy bread)、ブージー・トースト(boozy toast)、ジプシー・トースト(gypsy toast)とも呼ばれる[ 17] 。現代の一般的なレシピは、牛乳のほかワイン などのアルコール類に浸した後、卵黄にくぐらせて焼き、ジャムかシナモンシュガーを付けて食べるというもの。卵液を作らないため、一般的なフレンチトーストよりもクリスピーな食感となる[ 17] 。
アメリカ合衆国
ハッラー を使用したハッラーフレンチトーストの人気が高い。
インド
ベンガル地方 の「フレンチトースト」は刻みタマネギ と青唐辛子 を混ぜた卵液をパンにからめてマスタード 油で焼いた塩味の軽食である[ 18] 。
脚注
出典
^ Joseph Dommers Vehling, trans., Apicius: Cookery and Dining in Imperial Rome , Book VII, chapter 13, recipe 296 full text at Gutenberg
^ Odile Redon, et al. , The Medieval Kitchen: Recipes from France and Italy , 2000, p. 207f
^ Davidson, Alan; Jaine, Tom (September 2006). The Oxford Companion to Food . Oxford, New York: Oxford University Press. pp. 102. ISBN 0192806815
^ Thorne, John (November 1996). Simple Cooking . Canada: Farrar, Straus and Giroux. pp. 106. ISBN 978-0-86547-504-5
^ Livedoor News【試してみた】未知の料理「パンペルデュ」は、みんなが大好きなアノ料理だった! 2015年2月2日閲覧。
^ Trésor de la Langue Française Informatisé s.v. 'pain'
^ Gabriel Meurier, Christoffel Plantijn, Vocabulaire francois-flameng , 1562 p. 83
^ a b Koerner, Brendan. “Is French Toast Really French?” . http://www.slate.com/articles/news_and_politics/explainer/2003/09/is_french_toast_really_french.html 2015年4月6日閲覧。
^ Austin, T. Two 15th-century Cookery-books , 1888, quoting a 1450 recipe, quoted in the Oxford English Dictionary
^ Davidson, Alan; Jaine, Tom (2006). The Oxford Companion to Food . Oxford University Press. p. 102. ISBN 0-19-280681-5
^ Grimm, Jacob and Wilhelm . Deutsches Wörterbuch , quoting from the Buch von guter Spyse
^ Oxford English Dictionary , 3rd ed., 2006, s.v. 'poor' S3
^ Pichon, Jérôme; Vicaire, Georges (1892). Le Viandier de Guillaume Tirel dit Taillevent . p. 262. https://books.google.com/books?id=D_EYAAAAYAAJ&pg=PA262
^ Ulrich Ammon, Variantenwörterbuch des Deutschen: die Standardsprache in Österreich, der Schweiz und Deutschland sowie in Liechtenstein, Luxemburg, Ostbelgien und Südtirol , 2004, ISBN 3110165759 , p. 552
^ “米下院食堂メニューの「フレンチ」追放 「仏へ不快感」 ”. 2013年3月10日閲覧。
^ Sheraton, Mimi (October 12, 1965). The German Cookbook: A Complete Guide to Mastering Authentic German Cooking . New York : Random House . pp. 96-97. ISBN 978-0394401386
^ a b 羽根則子『増補改訂 イギリス菓子図鑑:お菓子の由来と作り方』 誠文堂新光社 2020年 第2刷 ISBN 978-4-416-61971-1 pp.188-189.
^ Banerji, Chitrita (September 1997). Bengali Cooking: Seasons and Festivals . London, Chicago: Serif. pp. 150. ISBN 1897959508
関連項目