現在主にコーヒーが生産されている地域を で示した。
この項目ではブラジル におけるコーヒー 生産 (ブラジルにおけるコーヒーせいさん)について述べる。
生産量
ブラジル での2007年のコーヒー豆 生産量は2,249,010トンで[ 1] 、このうちの80パーセントはアラビカ豆 であった[ 2] 。
この生産量は全世界の生産量の約3分の1を占め[ 3] 、現在までのおよそ150年間世界一の生産量を誇ってきた[ 4] 。
しかしブラジル国内におけるコーヒー生産は主にサラ・リー・ コーポレーション (英語版 ) やクラフトフーヅ といったアメリカ合衆国 の企業による主導で行われている[ 5] 。
歴史
元々アメリカ大陸 に自生するコーヒー種はなく、ブラジルで栽培されたコーヒーもまた外国から移入されたものであった。最初のコーヒー栽培は1727年にパラー州 で始まった。一説によると、ブラジル政府は領土紛争 解決のためという表向きでフランス領ギアナ にFrancisco de Melo Palheta縦隊長を派遣し、フランス領ギアナのファーストレディと懇意になったFrancisco de Melo Palhetaがブラジルにコーヒーの種を密輸 したとも言われる[ 6] [ 7] [ 8] 。
当初コーヒー生産の労働力は主に奴隷 たちによってまかなわれ、19世紀前半にはブラジル南東部でのコーヒー栽培のために約150万人の奴隷が輸入された。1888年にブラジルでの奴隷制度が廃止されると、コーヒー農園主たちは主にヨーロッパ からの移民 を雇用し労働力を充足するようになった[ 9] 。1850年にはジャワ島 を抜いて世界の半分のコーヒーを生産するようになった[ 10] 。ブラジルでコーヒーの栽培が本格化するのは19世紀のことであるが、19世紀半ば以降には今日まで世界最大のコーヒー生産国・世界最大のコーヒー輸出国の地位にある[ 10] 。1869年以降には病害(葉銹病)でアジアのコーヒー生産が壊滅的な状態となり、ブラジルでの生産に拍車がかかった[ 10] 。
1880年代
サントス港 (英語版 ) でコーヒーを積荷している様子。1880年撮影。
1880年代から1世紀以上も続いたコーヒー生産を経て、ブラジルにおける奴隷制度は衰退し労働力供給は賃金労働に切り替わった。また、ブラジルボク 、砂糖 、金 採掘などといったブラジルの他の輸出産業とは違い、コーヒー生産はブラジル全体の産業化に大きく寄与した。ブラジル南東部のサンパウロ にはコーヒー生産に従事する多くの移民が流入し[ 11] 、人口は1850年代に約30,000人、1890年には約70,000人、1900年には約240,000人にもなった。1930年代には人口1,000,000人を超え、サンパウロはリオデジャネイロ を抜きブラジル最大の都市となった[ 12] 。
1906年価格維持政策
コーヒーの供給 が過剰となり国際市場における価格 が下落、コーヒー生産者の利益が減少したため、1906年2月にコーヒーの価格維持政策が行われた。この価格維持政策はコーヒー産業の恩恵を受けた富裕層を守ることに主眼が置かれていたとも言われる[ 13] 。これは政府がコーヒー収穫の余剰分を買い取って政府が決定した国際価格を維持するというものであった[ 14] 。例えば、1ポンド あたりの価格が7セント を超えると政府がそれまでに買い取った余剰分 を売却することとされていた[ 15] 。この価格維持政策によってコーヒーの国際価格は一時的に上昇し、コーヒーの生産は拡大した[ 16] 。従って政府と富裕層から見ればこの政策は成功した[ 15] 。しかしこのことが後に国際的供給過剰による破綻を避けられないものとしたとも言える[ 16] 。
世界シェアの下落
ミナスジェライス州にあるコーヒー農園。
コーヒー産業からの歳入 は、1930年代の世界恐慌 の影響で1ポンド当たりの価格が22.5セント(1929年)から8セント(1931年)に急降下するまでブラジル経済 を牽引し続けた[ 17] [ 18] 。税収 によりブラジルの貿易収支 は黒字 を保ち、道路、港湾、通信システムの建設に充てられた[ 9] 。
ブラジル南東部のサンパウロとリオデジャネイロの間にあるパライーバ渓谷 (英語版 ) は、現在は荒廃しているが、かつてはコーヒー栽培で賑わった場所であった[ 19] 。この地域の赤い土壌の生産性は高く、通常の土地では最大でも25年間コーヒーを生産し続ければ土壌が枯れてしまうところを、この地域の土壌では30年間コーヒーを生産することができた。イタリア人がこの土のことをイタリア語 で「赤い土」を意味する"terra rossa "と呼んでいたことから、現地の人々はこの土壌のことを"terra roxa "と呼ぶが、これはポルトガル語 で「紫色の土」を意味する[ 20] 。
1920年代、世界のコーヒー市場はほとんどブラジル産コーヒーによる自然独占 の状態にあり[ 6] 、世界シェアのおよそ80パーセントを占めていた[ 21] 。しかし1950年代になると世界的にコーヒーの生産が盛んになり、ブラジル産コーヒーの占める世界シェアは徐々に減少していった[ 22] 。ブラジル政府によって工業化支援政策も行われたが、ブラジル経済はコーヒー産業に依存し続け、1960年になってもなおブラジルの輸出 の60パーセントをコーヒーが占めていた[ 23] 。19世紀のころと比較するとこれは90パーセント近くも高い数字であった[ 11] 。
規制緩和
1990年に行われた規制緩和でブラジルコーヒー産業界は品質管理の点に力を入れるようになった。ブラジル政府はそれまで規模の経済 を重視していたため、品質管理部門が軽視される傾向にあった[ 24] 。
現代のブラジルコーヒー産業
サンパウロで袋詰めされたコーヒー。"CAFÉ DO BRASIL "(「ブラジルのコーヒー」の意)と書かれている。
現在ブラジルにおいてはおよそ27,000平方キロメートルの面積のコーヒー農園に、60億本のコーヒーの木が栽培されている。これらの品種の内74パーセントがアラビカ豆で、26パーセントがロブスタ豆 である[ 25] 。気候や土壌、地形に恵まれたサンパウロ州 、ミナスジェライス州 、パラナ州 での生産が最も活発である[ 26] 。主に乾燥した6月から9月の間に収穫されることが多い[ 27] 。
現在約350万人が農村のコーヒー産業に従事しており、関連業種を含めるとおよそ700万人の雇用 を創出しているとも言われる[ 25] 。大きく分けるとコーヒー業界は挽いた豆で販売するか、インスタントコーヒー の形で販売するかによって分かれる[ 28] 。2001年の時点では、挽いた豆の市場には1000以上の企業が参加し、企業間競争が激しいのに対し、インスタントコーヒー市場は大企業による寡占 の状態で、4企業が市場全体の75パーセントのシェアを占めている[ 28] 。コーヒー生産は気候条件による影響を受けやすく、1994年の霜や2001年の水不足の影響で収穫が大打撃を受け国際価格が高騰したこともあった[ 26] [ 29] 。
出典
^ “Food and Agricultural commodities production ”. Food and Agriculture Organization. 2010年7月14日閲覧。
^ “Brazilian Coffee Beans: Brazilian Coffee History ”. Coffee Research. 2010年7月14日閲覧。
^ Morganelli 2008, p. ix
^ Neilson & Pritchard 2009, p. 102
^ Furquim de Azevedo, Ribas Chaddad & Farina 2004, p.31
^ a b Issamu Yamada, Jose. “Coffee and Brazil - How Coffee Molded the Culture of a Country ”. 2010年7月14日閲覧。
^ “Coffee legends” . National Geographic Society. http://www.nationalgeographic.com/coffee/legend6.html 2010年7月14日閲覧。
^ Morganelli 2006, p. 218
^ a b Eakin 1998, p. 33
^ a b c 日本コーヒー文化学会『コーヒーの事典』柴田書店、2001年、p. 228
^ a b Eakin 1998, p. 214
^ Eakin 1998, p. 218
^ Fridell 2007, p. 118
^ Fausto 1999, pp. 160–161
^ a b Fridell 2007, p. 119
^ a b Fridell 2007, p. 121
^ Eakin 1998, p. 32
^ Fridell 2007, p. 120
^ Levine 2003, p. 115
^ Fausto 1999, p. 115
^ “Brazil: The High Cost of Coffee” . Time. (1964年8月28日). http://www.time.com/time/magazine/article/0,9171,876132,00.html 2010年9月26日閲覧。
^ Mulder & Oliveira-Martins 2004, p. 180
^ Eakin 1998, p. 216
^ Furquim de Azevedo, Ribas Chaddad & Farina 2004, pp. 31–32
^ a b Souza 2008, p. 225
^ a b Dicks 2005, p. 32
^ Souza 2008, p. 13
^ a b Furquim de Azevedo, Ribas Chaddad & Farina 2004, p. 31
^ “Major coffee producers” . National Geographic Society. http://www.nationalgeographic.com/coffee/map.html 2010年7月14日閲覧。
参考文献
Almeida, Jorge T. (2008), Brazil in focus: economic, political and social issues , Nova Publishers, ISBN 9781604561654 , https://books.google.co.jp/books?id=0URLMk-U_soC&redir_esc=y&hl=ja .
Dicks, Brian (2005), Brazil , Evans Brothers, ISBN 9780237528041 , https://books.google.co.jp/books?id=YMvWtOFb5rYC&redir_esc=y&hl=ja .
Eakin, Marshall C. (1998), Brazil: The Once and Future Country , Palgrave Macmillan, ISBN 9780312214456 , https://books.google.co.jp/books?id=nFozTyIodkoC&redir_esc=y&hl=ja .
Fausto, Boris (1999), A concise history of Brazil , Cambridge University Press, ISBN 9780521565264 , https://books.google.co.jp/books?id=HJdaM325m8IC&redir_esc=y&hl=ja .
Fridell, Gavin (2007), Fair trade coffee: the prospects and pitfalls of market-driven social justice , University of Toronto Press, ISBN 9780802092380 , https://books.google.co.jp/books?id=TBrCVj_LTq0C&redir_esc=y&hl=ja .
Furquim de Azevedo, Paulo; Ribas Chaddad, Fabio M. M. Q.; Farina, Elizabeth (2004), The food industry in Brazil and the United States: the effects of the FTAA on trade and investment , BID-INTAL, ISBN 9789507381737 , https://books.google.co.jp/books?id=v7VsNCLhHSwC&redir_esc=y&hl=ja .
Levine, Robert M. (2003), The history of Brazil , Palgrave Macmillan, ISBN 9781403962553 , https://books.google.co.jp/books?id=Pi56Cw3yGfcC&redir_esc=y&hl=ja .
Morganelli, Morganelli (2006), The Biography of Coffee , Crabtree Publishing Company, ISBN 9780778724889 , https://books.google.co.jp/books?id=h7jPZ_jUE8YC&redir_esc=y&hl=ja .
Mulder, Nanno; Oliveira-Martins, Joaquim (2004), Trade and competitiveness in Argentina, Brazil and Chile: not as easy as A-B-C. , OECD Publishing, ISBN 9789264108714 , https://books.google.co.jp/books?id=gnJYhKXDU0QC&redir_esc=y&hl=ja .
Neilson, Jeff; Pritchard, Bill (2009), Value chain struggles: institutions and governance in the plantation districts of South India , Wiley-Blackwell, ISBN 9781405173926 , https://books.google.co.jp/books?id=-sCWby8NT24C&redir_esc=y&hl=ja .
Souza, Ricardo M (2008), Plant-Parasitic Nematodes of Coffee , シュプリンガー・ジャパン株式会社, ISBN 9781402087196 , https://books.google.co.jp/books?id=wsX5i56JXI0C&redir_esc=y&hl=ja
関連項目