ヘリウム の同位体 (ヘリウムのどういたい)は8種類が知られているが、3 He と4 Heの2種類のみが安定である。地球の大気中には、3 Heと4 Heは1対100万の割合で存在する[ 1] 。しかしヘリウムはその由来によって同位体組成が大きく異なるという特徴がある。星間物質 の中では、3 Heの割合は約100倍も高くなる[ 2] 。地球上の岩石でも同位体の存在比は10倍も異なる。この事実は地質学 で、岩石の起源やマントル の組成を調べるのに使われている[ 3] 。
解説
最も多い同位体である4 Heは、地球上で、より重い原子のアルファ崩壊 によって作られる。α崩壊により放出されるα粒子は、帯電した4 He原子核 である。4 Heの核子の数は魔法数 にあたり、4 Heの原子核は非常に安定である。これらはまた、ビッグバン原子核合成 によっても大量に生成された。ヘリウムの2つの安定同位体は異なった経路で生成されたため、その分布にも大きな違いが見られる。
0.8ケルビン以下の3 Heと4 Heの等量混合液体は、2つの層に別れ、混合しない。これは、3 Heはフェルミ粒子 、4 Heはボース粒子 であり、異なった量子統計 に従うからである[ 4] 。3He-4He希釈冷凍法 では、これらが混合しない性質を利用し、数ミリケルビンという極低温への冷却を行う。地球上には痕跡量の3 Heしか存在しないが、宇宙塵 の構成成分として地球に降ってきたり[ 3] 、三重水素 のベータ崩壊 で生じることがある[ 5] 。しかし、恒星 の中では3 Heは核融合 により多量に作られる。月 や小惑星 のレゴリス のような地球外物質では、太陽風 に晒されることによって生じた3 Heが痕跡量存在する。
ヘリウム3とヘリウム4の大気中の存在比率は、3 He/4 He=1.37×10−6 である[ 6] 。
ヘリウム2
ヘリウム2(ジプロトン)は、ヘリウムの仮想的な同位体で、計算上は強い相互作用 がもう2%大きかったら存在することができる。
ヘリウム3
ヘリウム3 の原子電子配置図。原子は2個の陽子、1個の中性子、2個の電子で構成される。
陽子2個と中性子1個からなり、通常のヘリウム原子 より軽い安定同位体である。地球大気中にはごく微量含まれるが、地球生成時に地球深部のマントルに取り込まれたため、地殻中よりもマントル中に多く存在する。
ヘリウム4
ヘリウム4 の原子電子配置図。原子は2個の陽子、2個の中性子、2個の電子で構成される。
陽子2個と中性子2個からなり、魔法数にあたり安定同位体である。ビッグバン原子核合成によっても大量に生成された。地殻岩石中の放射性元素の崩壊に伴うα粒子の蓄積によっても生成されるため、地殻中に多く存在する。日本では100%輸入に頼っている。
放射年代測定 の(U-Th)/He 法で鉱物中のヘリウム4を測定により地質環境の長期安定性を評価する上で重要となる断層の活動時期の推定や、削剥量に基づく内陸部での隆起速度の推定などに応用可能とされる[ 7] [ 8] [ 9] 。
その他の同位体
ヘリウムには、安定同位体よりも質量の重いいくつかの同位体が存在するが、それらの半減期 は全て1秒以下である。
ヘリウム5 の原子電子配置図。原子は2個の陽子、3個の中性子、2個の電子で構成される。
最も寿命の短い同位体は5 Heで、その半減期は7.6×10−22 秒である。6 Heは0.8秒の半減期でβ崩壊する。7 Heはβ崩壊、ガンマ崩壊 を起こす。8 Heは最も研究が進んでいて、8 Heと6 Heは、4 He原子核が中性子ハロー によって囲まれた構造をしていると考えられている。
反ヘリウム
反ヘリウム は、反陽子 と反中性子 からなる原子であり、ヘリウムの反物質 である。記号はHe と、通常のHeに反物質であることを示す線を上に引く。反ヘリウムの同素体の原子核として3 He と4 He がそれぞれ合成されている。今のところ陽電子 が周りを回る「反原子」と呼べる状態のものは合成されていない。
一覧
同位体 核種
Z(p )
N(n )
同位体質量 (u )
半減期
核スピン
天然存在比 (モル分率)
天然存在比の範囲 (モル分率)
備考
2 He
2
0
2
?
0+(#)
存在が確認されていない。
3 He
2
1
3.0160293191(26)
STABLE
1/2+
0.00000134(3)
4.6×10−10 –0.000041
4 He
2
2
4.00260325415(6)
STABLE
0+
0.99999866(3)
0.999959–1
5 He
2
3
5.01222(5)
700(30)E-24 s [0.60(2) MeV]
3/2−
非常に不安定で、4 Heに崩壊する。
6 He
2
4
6.0188891(8)
806.7(15) ms
0+
7 He、11 Liから生成される。6 Liにβ崩壊する。
7 He
2
5
7.028021(18)
2.9(5)E-21 s [159(28) keV]
(3/2)−
非常に不安定で、6 Heに崩壊する。
8 He
2
6
8.033922(7)
119.0(15) ms
0+
9 Heより生成される。β崩壊と中性子放出により7 Liに崩壊する。
9 He
2
7
9.04395(3)
7(4)E-21 s [100(60) keV]
1/2(−#)
非常に不安定で、8 Heに崩壊する。
10 He
2
8
10.05240(8)
2.7(18)E-21 s [0.17(11) MeV]
0+
非常に不安定で、9 Heに崩壊する。
注釈
天然存在比は大気中における値である。
同位体存在比と原子量は変動するので値の正確さには限界がある。与えられている範囲は全ての標準的な地球上の物質に適用できる。
地質学的に例外的なサンプルは同位体存在比が上記の範囲の外にあることが知られている。原子量の不確かさはそのような標本のために上記の値を超える可能性がある。
#をつけた値は純粋に実験値から得られたデータではなく、少なくとも一部は系統的傾向からの計算値を含んでいる。根拠の弱い核スピンについてはかっこで括っている。
数字の最後のかっこ書きはその数字の不確かさを表す。不確かさの値は同位体の存在比と標準原子量についてはIUPACの公表する拡張不確かさを、それ以外については標準偏差を記載している。
参考
Isotope masses from Ame2003 Atomic Mass Evaluation by G. Audi, A.H. Wapstra, C. Thibault, J. Blachot and O. Bersillon in Nuclear Physics A729 (2003).
Isotopic compositions and standard atomic masses from Atomic weights of the elements. Review 2000 (IUPAC Technical Report) . Pure Appl. Chem. Vol. 75, No. 6, pp. 683-800, (2003) and Atomic Weights Revised (2005) .
Half-life, spin, and isomer data selected from these sources. Editing notes on this article's talk page.
Audi, Bersillon, Blachot, Wapstra. The Nubase2003 evaluation of nuclear and decay properties , Nuc. Phys. A 729, pp. 3-128 (2003).
National Nuclear Data Center, Brookhaven National Laboratory. Information extracted from the NuDat 2.1 database (retrieved Sept. 2005).
David R. Lide (ed.), Norman E. Holden in CRC Handbook of Chemistry and Physics, 85th Edition , online version. CRC Press. Boca Raton, Florida (2005). Section 11, Table of the Isotopes.
脚注
外部リンク
TUNL (Triangle Universities Nuclear Laboratory)
東京大学大学院 福山研究室