「一年生の夢」を二次元で表したもの。正方形の各辺の長さはX + Y。このとき正方形の面積は、黄色の領域の面積(= X 2 )、緑色の領域の面積(= Y 2 )、および2つの白い領域の面積(= 2XY)の合計となる。
一年生の夢 (いちねんせいのゆめ、Freshman's dream)は、(x + y) n =x n + y n という誤りを含んだ式の呼称(ここでn は実数で、通常1より大きい整数)である。初学者がしばしば、実数の和の累乗を考えるときに指数をそれぞれの項に分配してしまうことからこう呼ばれる[ 1] [ 2] 。
例えばn = 2の場合を考えると、(x + y )2 は正しくはx 2 + 2xy + y 2 と展開される。一般のn についての正しい結果は二項定理 によって与えられる。
また「一年生の夢」は、素数 p について、x とy が標数 p の可換環 の元であるとき、(x + y )p = x p + y p であるという定理を指すことがある。この場合 、p が最初と最後以外の二項係数を打ち消し、それらの項が0になるため、一見誤った式が成立する。
この式はトロピカル幾何学 の文脈においても成立する。なぜなら、トロピカル幾何学においては乗算が加算、加算が最小化に置き換わるためである[ 3] 。
具体例
(
1
+
4
)
2
=
5
2
=
25
{\displaystyle (1+4)^{2}=5^{2}=25}
、
1
2
+
4
2
=
17
{\displaystyle 1^{2}+4^{2}=17}
であり、
(
1
+
4
)
2
≠
1
2
+
4
2
{\displaystyle (1+4)^{2}\neq 1^{2}+4^{2}}
が成り立つ。
n =
1
2
{\displaystyle {\tfrac {1}{2}}}
のとき、
x
2
+
y
2
{\displaystyle {\sqrt {x^{2}+y^{2}}}}
=
x
2
+
y
2
=
|
x
|
+
|
y
|
{\displaystyle {\sqrt {x^{2}}}+{\sqrt {y^{2}}}=|x|+|y|}
となるが、これは一般に成立しない。例えば、
9
+
16
=
25
=
5
{\displaystyle {\sqrt {9+16}}={\sqrt {25}}=5}
となるが、これは3 + 4 = 7と等しくない。
指数が素数の場合
この等式は、特定の条件下で成り立つこともある。
p が素数で、x とy が標数 p の可換環 の元である場合、等式
(x + y )p = x p + y p
は成立する。これは二項係数 の素因数の内の素数について調べることで証明される。n 番目の二項係数は
(
p
n
)
=
p
!
n
!
(
p
−
n
)
!
.
{\displaystyle {\binom {p}{n}}={\frac {p!}{n!(p-n)!}}.}
で表される。分子はp の階乗であるから、p で割り切れる。また、0 < n < p であること、p は素数であり、n のすべての素因数はp よりも小さいことから、n !と(p - n) !はともにp と互いに素であると言える。加えて二項係数は常に整数であるから、n 番目の係数はp で常に割り切れ、したがって環において0となる。したがって展開した最初と最後の項である1が残り、与式を得る。
したがって、標数p の環において「一年生の夢」は正しい。このことから、p 乗することによってフロベニウス自己準同型 として知られる形の自己準同型 が生成されることがわかる。
ここで標数p が素数であることがこの「一年生の夢」定理の成立に必要である。関連する定理として、p が素数ならば、多項式環
Z
p
[
x
]
{\displaystyle \mathbb {Z} _{p}[x]}
において (x + 1)p ≡ xp + 1 であるというものがある。この定理は、現代の素数判定 における重要な役割を果たしている[ 4] 。
歴史とその他の呼称
トーマス・ハンガーフォード
「一年生の夢」という用語に関する歴史はあまり定かではないが、1940年代にモジュラー曲線 の記事において、ソーンダース・マックレーン が「代数学を学ぶ一年生は、標数2の代数体において、(a + b )2 = a 2 + b 2 が成立するという事実に大いに苦しめられるだろう」というクリーネ の発言を引用している。これが一年生(freshman)と正標数の体における二項定理の拡張についての最初の言及であると思われる[ 5] 。以来、学部レベルのテキストの中に生徒がよく陥る誤りについて記述された。 実際に「一年生の夢(freshman's dream )」という言葉が最初に表れたのは、1984年のトーマス・ハンガーフォード (英語版 ) が書いた大学院生向けの代数学のテキストである。ここでハンガーフォードはMcBrienを引用している[ 6] 。また、"freshman exponentiation "という用語も、1998年Fraleighによって用いられている[ 7] 。数学以外の文脈では、"freshman's dream"という言葉自体は19世紀から用いられている[ 8] 。
また、(x + y )n の拡張が二項定理から得られることから、「一年生の夢」の等式は"child's binomial theorem [ 4] や、"schoolboy binomial theorem "としても知られる。
関連項目
参考文献
^ Julio R. Bastida, Field Extensions and Galois Theory , Addison-Wesley Publishing Company, 1984, p.8.
^ Fraleigh, John B., A First Course in Abstract Algebra , Addison-Wesley Publishing Company, 1993, p.453, ISBN 0-201-53467-3 .
^ Difusión DM (2018-02-23), Introduction to Tropical Algebraic Geometry (1 of 5) , https://www.youtube.com/watch?v=unjVp6HQVmc 2019年6月11日閲覧。
^ a b A. Granville, It Is Easy To Determine Whether A Given Integer Is Prime , Bull. of the AMS, Volume 42, Number 1 (Sep. 2004), Pages 3–38.
^ Colin R. Fletcher, Review of Selected papers on algebra, edited by Susan Montgomery , Elizabeth W. Ralston and others. Pp xv, 537. 1977. ISBN 0-88385-203-9 (Mathematical Association of America) , The Mathematical Gazette , Vol. 62, No. 421 (Oct., 1978), The Mathematical Association. p. 221.
^ Thomas W. Hungerford, Algebra, Springer, 1974, p. 121; also in Abstract Algebra: An Introduction , 2nd edition. Brooks Cole, July 12, 1996, p. 366.
^ John B. Fraleigh, A First Course In Abstract Algebra , 6th edition, Addison-Wesley, 1998. pp. 262 and 438.
^ Google books 1800–1900 search for "freshman's dream" : Bentley's miscellany, Volume 26, p. 176 , 1849