世界史の構造
『世界史の構造』(せかいしのこうぞう)は、柄谷行人の著作。2010年に岩波書店より刊行[1]。2015年1月に岩波現代文庫として改版[2]。 内容『世界共和国へ』は本書の先行ダイジェストであった[3]。ゆえに、本書と重複する内容も多い。 A.互酬、B.再分配、C.商品交換の結合態としての世界システムの変遷を語り、それらを越えたDという交換様式への道筋を示す。ミニ世界システム、世界=帝国、世界=経済(近代世界システム)そして現在と未来という順序で章立ててある。 ミニ世界システムミニ世界システムという章では、ほとんど考察されてこなかった、交換様式Aがドミナント(支配的)である世界システム(氏族社会)の発生を論じる。 交換様式AとCの差違を説明するために、互酬の呪術性が注目され、マルティン・ブーバーの「私と汝」「私とそれ」という考え方が参照される。また、氏族社会が首長の力を強化せず平等な社会である(すなわち直ちに国家に転化しない)理由の説明になるものとして、ジークムント・フロイトの『トーテムとタブー』が再評価される。 世界=帝国国家論国家とは、交換様式Bがドミナントな社会構成体で、ホッブスの『リヴァイアサン』が参照される。国家の本質は戦争にあり、ゆえに、国家とはまず他国に対して国家なのだ、とされる。 預言者交換様式Dは普遍宗教の預言者によって開示されたものであるとする。マックス・ウェーバーの分類する預言者には倫理的預言者と模範的預言者があることを考えると、キリスト教、回教、仏教の各教祖だけでなく、イオニアの自然哲学者やソクラテスや孔子や老子などの思想家も、普遍宗教の預言者と同じであると言う。 近代世界システム資本主義社会景気循環景気が上がったり下がったりするのは、労働力という特殊な商品のせいであり、景気循環の周期性は、各々の時代の世界経済の主力になる世界商品(軽工業製品、重化学工業製品、耐久消費財、情報など)の交代と相関がある、とされる。 恐慌恐慌の本質は信用恐慌にあるとされる。産業資本主義経済では、商品を作って売った差額が利潤になり、そこから拡大再生産のための設備投資をするのだが、商品が売れるということには困難が伴うので、とりあえず売れたことにして、決済を後にする。商品が売れていなかったことが判明して、恐慌が起こる。 資本の揚棄交換様式Dは「アソシエーション」とパラフレーズできる。協同組合はアソシエーションである。株式会社を協同組合化(ロッチデール原則に基づく、会社の意思決定における、労働者及び株主の“一人一票”化)すれば資本を揚棄できるが、一社だけでそれをやると他の企業との競争に敗退するため、国家規模での法制化をしなければならないとする。また、一国だけでその法制化をやると、他国の干渉を招くから、世界同時革命でやらなければいけないとも。 現在と未来国連について国連はまだ覇権国と国際資本に左右される場所であるが、WHOなどの医療・環境・文化の領域ではアソシエーション的な組織体制になっていることを指摘した。 アーツ・アンド・クラフツ運動との関連ロマン派は「失われた過去への憧憬」と「資本=国家への対抗」という二つのモチーフを持っているとし、英国ロマン派はパーシー・シェリーを筆頭にラスキンなども後者の傾向が強いとされる。ウィリアム・モリスのアーツ・アンド・クラフツ運動も、その伝統上のものとして注目される[4]。 逸話本書は『力と交換様式』にいたる「交換様式論」の代表的著作であるが、その骨格の着想は1998年秋に遡る。柄谷の母が入院する尼崎の病院からの帰路のバスに乗り込む瞬間に思いついたという[5]。 反響書誌翻訳以下の翻訳は岩波書店による単行本に加筆された版に基づく。
脚注
関連文献
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