住民投票条例
住民投票条例(じゅうみんとうひょうじょうれい)とは日本の地方自治体が定める住民投票に関する条例のこと。 歴史1978年の東京都中野区の「中野区教育委員候補者選定に関する区民投票条例」、1982年の高知県高岡郡窪川町(現・四万十町)の「窪川町原子力発電所設置についての町民投票に関する条例」など個別政策を指定した上での条例はあったが、1996年に新潟県西蒲原郡巻町が初めて常設型住民投票条例を制定して住民投票を行なって以来、地方自治体の重要な課題について、住民投票に関する条例を制定し、実施された住民投票の結果に基づいて政策決定がなされる事例が増えてきている。 当初は原子力発電所、産業廃棄物処理場、在日米軍基地といったいわゆるNIMBY施設設置の是非を問うものが多かったが、平成の大合併が進められた時期には、合併の是非や枠組みを問うために住民投票を活用する事例が急増し、2001年から2009年2月末までの間におよそ350以上の自治体で市町村合併関連を付議課題とする、条例による住民投票が実施された。 住民投票条例が制定され始めた当初は、特定の問題に対する特別措置として住民投票条例を制定する例が多かったが、近年では地方自治体の重大問題に対して恒常的に住民投票を行えるよう条例を制定する自治体が現れている。また近年制定が多くなっている自治基本条例の中に住民投票の規定を設ける自治体もある。 条例による住民投票では、公職選挙法の準用が規定されている地方自治法上の住民投票や、目的や手順が規定されている日本国憲法上の住民投票とは異なり、投票対象や投票資格者の範囲を自由に制定することが可能である。
住民投票に関する議論外国籍投票権付与・地方政治に対する外国人参政権先述のとおり、現行の公職選挙法は地方自治体が条例等で行う住民投票に対して、投票資格範囲を規定していない。そのため、投票資格の範囲について公職選挙法とは異なる投票資格対象者を自由に定めることができる。投票資格者について外国籍に投票権を与えたり(秋田県岩城町が永住外国人に実施したのが最初)、選挙権が与えられていない年齢の者などに投票権を与える(長野県平谷村では15歳以上に投票権を与えている)もあったり、投票対象に対して複数の選択肢を設けて実施する自治体もある。 そのため、外国人参政権反対派から該当市町へ外国人が多数移住することで議会や長に影響を持つようになることへの批判がある。更に年齢に関しても、18歳選挙権が無かった2016年6月以前に18-19歳の者に住民投票資格与える地方自治体だけでなく、16歳から住民投票資格を与えている地方自治体もある[1]。外国人に住民投票の投票権を認めている自治体では多くが永住者や3年以上の在住などの条件をつけているケースが多い。永住者でなくても住民基本台帳に3カ月以上登録されている 2021年の武蔵野市では議会否決・世論の反対が寄せられたものの、武蔵野市のように注目されずに「非永住外国人(三か月以上滞在している18歳以上の外国人)」に住民投票の投票権を認める条例を制定された地方自治体は神奈川県逗子市や大阪府豊中市の例がある。しかし、憲法は参政権を日本国民固有の権利と明記しており、地方自治体への外国人参政権は、日本国の安全保障やエネルギー政策など(日本国の)国益に関わる問題に影響を及ぼせることから導入すべきではないと指摘されている[2]。 →詳細は「日本における外国人参政権」を参照
外国籍の投票権を認める条例を制定している地方自治体選挙への影響武蔵野市は1975年時点で革新自治体であり[41]、2005年に邑上守正が民主党や日本共産党などの支援で市長選に当選してからと四回市長選挙で保守系候補一万票以上の差をつけるほど、18年間リベラル系投票者が多い地域であった。しかし、2021年の当選1ヶ月後に表明したの松下玲子市長による稚拙な外国人による投票を認める住民投票条例推進が、2023年12月24日武蔵野市長選挙での後継候補敗北に繋がった。投票率も前回の2021年武蔵野市長選挙とほぼ同じ中で、菅直人の国政引退を受けた松下市長の国政転身への批判と共に外国人参政権を含んだ住民投票条例への批判で前回選挙での投票層を大量喪失した。松下後継候補陣営幹部は前回比較での票の大量喪失原因について、「前市政が、外国人参加を認める住民投票条例案を拙速に進めようとするなどしてきたことへの批判が大きかった」と分析した[42]。 都道府県と市町村の関係2000年4月の改正地方自治法施行により都道府県と市町村は対等な立場となった。そのため、都道府県における条例による住民投票の実施は法定受託事務(都道府県の公職選挙事務に実施等では、都道府県の強い関与が認められている)ではなく自治事務であったため、都道府県は市町村に住民投票を強制する権限はない。そのため、市町村が拒否した場合は当該都道府県全域での住民投票実施ができない事態になりうる。都道府県や有権者が県民投票を実施しない市町村に対して訴訟等を提起することも可能だが、仮に勝訴しても直接執行させることはできなかった。 2019年の沖縄県民投票では沖縄県が条例を制定した当初は県民投票実施を拒否を表明する市が現れたことで、県民投票推進派から沖縄県全域での県民投票実施が危ぶまれた。その後、公明党が斡旋案を提出したことで県政野党である自民党や保守系首長が折れて、沖縄県全域での県民投票が実施された。 なお、2000年3月以前の地方自治法では都道府県と市町村は上下関係にあり、1996年の沖縄県民投票では沖縄県の投票事務は機関委任事務により行われていたことで沖縄県から市町村への一定の強制力があったため、市町村は都道府県の条例に基づく住民投票実施を拒否する事態は発生しなかった。 投票結果の実現の可否住民投票条例は、「首長、議会は住民投票の結果を最大限尊重する」などの文言しか記されていない場合が多く、拘束力をともわない条例が多い。これは、国や他の地方公共団体の意思に関わらず実施されるため、首長や議会が投票結果を必ずしも反映できない場合があるほか、法律に明記された首長と議会が持つ権限の優位性を確保するため、住民投票を諮問型(平たく言えばアンケート)に留める必要性があるからである。 また、政治情勢によっては、首長、議会が投票結果と異なる政策決定を下したことが、事態を悪化させるケースも考えられる。その場合は、地方自治法で定められた手順に従い、リコール(解職請求、解散請求)に進むケースもある。 最低投票率条項の有無投票率が低い場合、住民の意思が十分反映されているのか疑問視される場合もある。中には、投票率が一定基準(概ね50%)を超えないと、住民投票が成立しないといった最低投票率条項を設けている条例もある。 条例による主な住民投票→「巻町における原子力発電所の建設に関する住民投票」も参照
脚注
関連書籍
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