数学 において偶関数 (ぐうかんすう、英 : even function )および奇関数 (きかんすう、英 : odd function )は、変数の符号 を反転させる変換 に関してそれぞれ、特定の対称性 を満足する関数 である。これらは解析学 の多くの分野、殊に冪級数 やフーリエ級数 に関する理論において重要である。名称は、この性質を満足する冪関数 の冪指数の(整数としての)偶奇 に由来する(すなわち、関数 f (x ) = xn は n が偶数のとき偶関数であり、n が奇数のとき奇関数である)。
この、関数の偶奇性 (parity of function ) の概念は、始域および終域がともに加法逆元 (マイナス元)を持つような場合であれば常に意味を成す。加法逆元を持つような代数系には、例えば任意のアーベル群 、(必ずしも可換でない)環 や体 、あるいはベクトル空間 などが挙げられるから、従って例えば実変数実数値の関数 やベクトル変数複素数値の関数といったようなものに対して、その偶奇性を定めることができる。
以下では特に断りのない限り、それら函数のグラフ の対称性 を詳らかにするために、実変数実数値函数に関して述べる。
偶関数の例:余弦関数は y 軸対称
奇関数の例:正弦関数は原点対称
正弦関数と余弦関数
偶関数の例:絶対値関数
偶関数の例:双曲線余弦関数
奇関数の例:双曲線正弦関数
二次関数のグラフ。(x − 10)2 を除き偶関数の例である。(x − 10)2 = x 2 − 20x + 100 は 1 次の項を含むので偶関数ではない(奇関数でもない。ただし、X = x − 10 に関する偶関数である)。
三次関数のグラフ。原点を通る 2 つは奇関数の例になっている。x = 0 で値を持つ奇関数ならば少なくとも原点を通る(逆は必ずしも真ではない)。
定義
関数 f (x ) が偶関数 であるとは、
f
(
−
x
)
=
f
(
x
)
{\displaystyle f(-x)=f(x)}
が任意の x について成立することである[ 1] [ 2] [ 3] 。また、関数 f (x ) が奇関数 であるとは、
f
(
−
x
)
=
−
f
(
x
)
{\displaystyle f(-x)=-f(x)}
が任意の x について成立することである[ 4] [ 2] [ 3] 。
性質
基本
偶関数 f は、xy -平面上に y = f (x ) のグラフ を描いたとき y 軸に関して対称 (線対称 )になる。
奇関数 f は、xy -平面上に y = f (x ) のグラフを描いたとき原点に関して対称(点対称 )になる。特に、f (0) が定義されているならば f (0) = 0 である。
奇関数と偶関数の和は一般には奇関数でも偶関数でもない。(例:x + x 2 )
いくつかの偶関数があるときに、それらの定数倍を足し合わせたもの(線型結合 )も偶関数になる。
いくつかの奇関数があるときに、それらの定数倍を足し合わせたものも奇関数になる。
2 つの偶関数の積は偶関数[ 2]
2 つの奇関数の積は偶関数[ 2]
偶関数と奇関数の積は奇関数[ 2] [ 3]
偶関数が微分可能なとき、1 回微分すると奇関数になる。
奇関数が微分可能なとき、1 回微分すると偶関数になる。
級数
偶関数の0まわりのテイラー級数 は x の偶数次の項だけを持つべき級数 である。
奇関数の0まわりのテイラー級数は奇数次の項だけを持つべき級数である。
周期的な偶関数のフーリエ級数 は cos の項だけで構成される。
周期的な奇関数のフーリエ級数は sin の項だけで構成される。
函数の偶奇分解
偶関数全体の成す集合、奇関数全体の成す集合はともにベクトル空間 の構造を持つ(さらに偶関数の全体は可換 多元環 を成す。一方、奇関数の全体は積について閉じておらず多元環を成さない)。
また、任意の関数 f (x ) に対し、
f
even
(
x
)
=
f
(
x
)
+
f
(
−
x
)
2
,
f
odd
(
x
)
=
f
(
x
)
−
f
(
−
x
)
2
{\displaystyle f_{\text{even}}(x)={\frac {f(x)+f(-x)}{2}},\quad f_{\text{odd}}(x)={\frac {f(x)-f(-x)}{2}}}
で定義される函数 f even および f odd はそれぞれ偶関数および奇関数[ 2] であり、それぞれ f の偶成分 (even part) および奇成分 (odd part) という。
このとき、明らかに f = f even + f odd が成り立つが、関数 f (x ) が偶関数かつ奇関数となるのは f (x ) = 0 のとき、かつそのときに限る から、そのような表し方はただ一通りである。すなわち、関数全体の成すベクトル空間は、偶関数全体の成すベクトル空間と奇関数全体の成すベクトル空間の直和 に分解される。
例
偶関数
絶対値 関数 |x |
余弦関数 [ 5] cos x
双曲線余弦関数 cosh x
x 2 , x 4 , x 0 = 1 , x −2 = 1/x 2 等の偶数 次冪関数 x 2n (n は整数)。
定数関数
任意の関数 f (x ) に対して f (x ) + f (−x )
奇関数
正弦関数 [ 5] sin x
正接関数 tan x
双曲線正弦関数 sinh x
x , x 3 , x −1 等の奇数 次冪関数 x 2n − 1 (n は整数)
逆正弦関数 sin−1 x
逆正接関数 tan−1 x
逆双曲線正弦関数 sinh−1 x
単射 な奇関数 f (x ) の逆関数 f −1 (x )
任意の関数 f (x ) に対して f (x ) − f (−x )
関連項目
注
参考文献
外部リンク