声門破裂音

声門破裂音
ʔ
IPA 番号 113
IPA 表記 [ʔ]
IPA 画像
Unicode U+0294
文字参照 ʔ
JIS X 0213 1-11-1
X-SAMPA ?
Kirshenbaum ?
音声サンプル

声門破裂音(せいもんはれつおん、: glottal plosive)とは子音の類型の一つ。 閉じた声門が開放されて起こる破裂音(閉鎖音)。 声門を完全に閉じた後、呼気とともに急に声門を開いたときに出る音であるが、言い換えれば声門を閉じた状態からすかさず何らかの母音を発音すれば、子音部分がこの音となる[1]。 咳をするときには特に強い声門破裂音が聞こえる。 国際音声字母[ʔ]と記述される[2]

声門を閉じたまま声帯を振動させることはできないので、理論的に有声の声門破裂音は存在し得ない。

また、音節末において、「あっ!」と驚くときのように、「声門が閉じることによって単純な母音とは異なる聞こえになるが、声門の開放は伴わない」という場合があるが、こうした場合には一般に声門閉鎖音: glottal stop)と呼ばれる。

特徴

  • 気流の起こし手 - 肺臓からの呼気。
  • 発声 - なし。便宜上、無声音に入れられることがあるが、無声音が声帯が開いているのとは異なり、調音点が声帯なので閉じている。聴覚印象からすると無声音である。
  • 調音
    • 調音位置 - 声帯と声帯の間による声門音
    • 調音方法
      • 口腔内の気流 -
      • 調音器官の接近度 - 完全な閉鎖を一気に開放することによる破裂音
      • 口蓋帆の位置 - 口蓋帆を持ち上げて鼻腔への通路を塞いだ口音鼻音を調音することは生理的に不可能。

言語例

音素として声門破裂(閉鎖)音をもつ言語

以下は声門破裂(閉鎖)音 [ʔ]音素としてもつ言語と、それを含む語の例。

音節頭にのみ声門破裂音素が立つもの
  • ハワイ語 - オキナ(ʻ)で表される子音。ʻae 「はい」 / aʻeムクロジ」 / ʻaʻe 「踏む」 のように明確に弁別機能をもつ。ほかポリネシアの言語には同様の音素をもつものが多い。
  • 琉球語 首里方言 - [ʔn̩nʲi]「稲」に対して [n̩nʲi] 「胸」というように [ʔ] の有無によって単語が弁別される場合があり、[ʔ] は独立した音素であると認められる。
音節末にのみ声門閉鎖音素が立つもの

その他

  • アラビア語 - ハムザ(ء)で表される子音が多用される。أَبٌ [ʔab(ʊn)] 「父親」
  • デンマーク語では stødと呼ばれる弁別性のある現象があり、これが声門閉鎖のような形で現れる場合がある。ånden [ˈʌnn̩] "breathing" に対する ånden [ˈʌnˀn̩] "the spirit" など。
  • ベトナム語(標準語・ハノイ方言)では、6つある声調のうち「˜」で表される thanh ngã(タイン・ガッア)と呼ばれる声調において、母音が途中に声門閉鎖を挟む形で発音され、ピッチの変化とともに語の識別に用いられている。

音素としては声門破裂音をもたない言語

日本語(標準語)を含む多くの言語は声門破裂(閉鎖)音 [ʔ] を音素としてはもたないが、こうした言語においても発話の状況や話者によっては母音の前後などに [ʔ] が現れることは珍しくない。たとえば日本語で「青鬼」とはっきり丁寧に伝えたいとき、この音が挿入されて [aoʔonʲi] となることが多い。また驚いたときや怒ったときの発話にもこの音が現れることがある。これらの場合、この音は弁別の機能を担っているわけではなく、また通常話者によって意識されてもいない。

また、特定の音素の異音として声門破裂(閉鎖)音が用いられる場合もある。 たとえば英語では語末の /t/ がこの音に変化する場合がある(例: cat [kʰæʔ] )。また、イギリス英語では語中でも変化する場合がある(例: water [ˈwɔːʔə] )。

タイ語では「母音で始まる単語」は実際には語頭に [ʔ] をともなって発音されることが多い。しかし [ʔ] の有無が語によって決まっているものではなく、有無による対立というものが存在しないので、[ʔ] は「子音不在の異音」と考え、音素とはみなさないのが定説である。

朝鮮のハングルでは、訓民正音創製当時には存在したが現在では用いられていない古ハングルのうちのがこれに当たるとされるが、当時の中期朝鮮語では声門破裂音が独立した音素として存在していたわけではなく、人工的に作り出された東国正韻式漢字音の初声(実際には無音のと差異がなかったのではないかと考えられる)に用いられたり、用言の連体形でㅭの形で用いられたときに次に来る平音を濃音化させるマーカーとしての役割を持つという用法などがあった。

脚注

  1. ^ 湯川 (1999:23).
  2. ^ ラテン文字に当たるɁと混合されやすいが、Unicodeなどで別の符号が付けられている別の文字である。

参考文献

子音
肺臓気流
両唇 唇歯 歯茎 後部歯茎 そり舌 硬口蓋 軟口蓋 口蓋垂 咽頭 声門
破裂 p b () () () () t d ʈ ɖ c ɟ k ɡ q ɢ ( ʡˤ) ʔ
() m (ɱ̊) ɱ (n̪̊) () () n ɳ ɲ ŋ ɴ
ふるえ (ʙ̥) ʙ () r ʀ
はじき (ⱱ̟) ɾ ɽ (ɟ̆) (ɢ̆) (ʡ̆)
摩擦 ɸ β f v θ ð s z ʃ ʒ ʂ ʐ ç ʝ x ɣ χ ʁ ħ ʕ h ɦ
側面摩擦 ɬ ɮ
接近 (β̞) (ʋ̥) ʋ (ɹ̥) ɹ ɻ j ɰ
側面接近 () l ɭ ʎ ʟ
非肺臓気流
吸着 ʘ ǀ ǃ 𝼊 ǂ ǁ (ʞ)
入破 ɓ ɗ̪ ɗ () ʄ ɠ ʛ
放出 (t̪ʼ) ʈʼ c’ ()
その他
同時調音 ʍ w ɥ ɕ ʑ ɧ
(k͡p) (ɡ͡b) (ŋ͡m)
喉頭蓋音 ʜ ʢ ʡ
舌唇音 () () () (θ̼) (ð̼)
その他側面音 ɺ (ɭ̆) (ɫ)
破擦音 p͡ɸ b͡β p̪͡f b̪͡v t͡θ d͡ð t͡s d͡z t͡ʃ d͡ʒ ʈ͡ʂ ɖ͡ʐ t͡ɕ d͡ʑ c͡ç ɟ͡ʝ k͡x ɡ͡ɣ q͡χ ɢ͡ʁ t͡ɬ d͡ɮ ʔ͡h
記号が二つ並んでいるものは、左が無声音、右が有声音。網掛けは調音が不可能と考えられる部分。
丸括弧内はIPA子音表(2005年改訂版)に記載されていないもの。
国際音声記号 - 子音
Prefix: a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9

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