推理小説の賞推理小説の賞(すいりしょうせつのしょう)は、推理小説および推理小説に関する評論・研究等に与えられる賞。または、推理小説の分野に貢献のあった個人に贈られる賞。 日本年間最優秀作品の表彰発表された日本国内の推理小説から年間最優秀作品を選んで表彰する賞には、1948年に始まった日本推理作家協会賞(日本推理作家協会主催)がある。アメリカ合衆国のアメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞(1946年 - )、イギリスの英国推理作家協会(CWA)賞(1955年 - )と並んで、世界でも屈指の長い歴史を持つ賞である。部門には変遷があるが、2000年以降は「長編及び連作短編集部門」「短編部門」「評論その他の部門」の3つに分かれている。このうち短編部門の受賞作は、日本推理作家協会編のアンソロジー『ザ・ベストミステリーズ 推理小説年鑑』(講談社、毎年7月頃刊行)に収録される。 また2001年には、推理小説の中で特に「本格推理小説」に対象をしぼって優秀作品を表彰する本格ミステリ大賞(本格ミステリ作家クラブ主催)が始まっている。こちらは、「小説部門」「評論・研究部門」の2部門がある。本格ミステリ大賞には短編小説部門はないが、優秀な短編作品は本格ミステリ作家クラブ編のアンソロジー『本格ミステリ 本格短編ベスト・セレクション』(講談社ノベルス、毎年6月頃刊行)の収録作として選出される。 推理作家の名を冠した賞としては、ハードボイルド作家大藪春彦の業績を記念した大藪春彦賞(大藪春彦賞選考委員会主催、徳間書店後援、1999年 - )があり、当初よりハードボイルドに限らず広くエンターテインメント作品を対象に表彰を行っている。この賞は、「優れた物語世界の精神を継承する新進気鋭の作家および作品に贈られる」とされている[1]。2010年に第1回の選考結果が発表される山田風太郎賞(角川文化振興財団、角川書店主催)は、推理小説から時代小説、伝奇小説まで幅広いジャンルで活躍した作家山田風太郎の名を冠した賞で、新人・中堅作家の小説の中から、「ミステリー、時代、SFなどジャンルを問わず、その年に発表された最も面白いと思われる作品」に授与される[2]。 以上は基本的に、国内の作品を評価し表彰するものだったが、2009年には日本語に訳された翻訳ミステリーの年間ベスト1を選ぶ翻訳ミステリー大賞も創設されている。 また、賞ではないが、1年間に刊行された日本国内および翻訳の推理小説を作家や評論家、ファンが順位づけするランキングも、ランキング本の出版や雑誌へのランキング掲載という形で多く発表されている(推理小説#推理小説の番付を行っている本・雑誌参照)。
(年は、最初に結果発表・授賞が行われた年)
個人に対する表彰推理小説の発展に寄与した個人に与えられる賞としては、光文文化財団が主催する日本ミステリー文学大賞(1998年 - )があり、毎年1名を選んで賞を授与している。存命の作家・評論家に贈られるのが普通だが、作家の死去後に特別に賞が贈られたこともある。また、年間最優秀作品を表彰する上述の本格ミステリ大賞(本格ミステリ作家クラブ主催、2001年 - )でも、推理小説の発展に貢献した個人に対して特別賞が贈られることがあり、今までに推理作家の鮎川哲也、講談社の編集者宇山日出臣、東京創元社の編集者戸川安宣、日本・台湾で編集者・評論家として活動する島崎博の4名に贈られている。 また、現在は長編の公募新人賞になっている江戸川乱歩賞も、初めは、その年に推理小説に関して業績をあげた人に対して、過去の実績も考慮して贈呈する賞として始まった[3]。第1回(1955年)は当時雑誌『宝石』に連載中だった「探偵小説辞典」が評価され、推理小説評論・研究家の中島河太郎が受賞し、第2回(1956年)は個人ではなく「ハヤカワ・ポケット・ミステリ」(1953年 - )の出版という業績に対して、出版社である早川書房が受賞している。第3回以降、現在のような長編の公募新人賞となった。
公募の新人賞長編の公募新人賞公募の新人賞では、1955年に創設された江戸川乱歩賞(日本推理作家協会主催、講談社・フジテレビ後援)が最も歴史が長い。江戸川乱歩賞は第3回(1957年)より長編推理小説を公募する新人賞となっており、多くの作家を生みだしている。ほかに著名な推理作家の名を冠した長編の公募新人賞に横溝正史ミステリ&ホラー大賞(角川書店主催[注 1]、1981年 - )、鮎川哲也賞(東京創元社主催、1990年 - )、アガサ・クリスティー賞(早川書房、早川記念文学振興財団主催、2010年 - )がある。横溝正史ミステリ&ホラー大賞は、2019年度より横溝正史ミステリ大賞と日本ホラー小説大賞が合併し現在の名称となり、推理小説に加えてホラー小説も対象としている。鮎川哲也賞は特に本格推理小説を志す新人のための賞である[4]。なお、アガサ・クリスティー賞以外の3賞は初期には江戸川乱歩、横溝正史、鮎川哲也本人が最終選考に参加していた。 ほかに、長編推理小説を募集する新人賞に、日本ミステリー文学大賞新人賞(光文文化財団主催、刊行は光文社、1998年 - )、『このミステリーがすごい!』大賞(宝島社主催[注 2]、2002年 - )、ばらのまち福山ミステリー文学新人賞(広島県福山市主催、刊行は講談社・光文社・原書房、2008年 - )、新潮ミステリー大賞(新潮社主催、2014年 - )、警察小説新人賞(小学館主催、2022年 - )、論創ミステリ大賞(論創社主催、2022年 - )、黒猫ミステリー賞(産業編集センター出版部主催、2023年 - )がある。日本ミステリー文学大賞新人賞は、推理小説のアンソロジーの編集や推理小説に関するさまざまな企画を行う推理小説専門図書館「ミステリー文学資料館」を運営する光文文化財団が主催する賞である。『このミステリーがすごい!』大賞は、多くの賞と異なり小説家ではなく評論家が最終選考委員を務め、賞金は現行の推理小説の公募新人賞では最も高額の1200万円である。ばらのまち福山ミステリー文学新人賞は、推理作家島田荘司の出身地である広島県福山市が主催する賞で、最終選考は島田荘司が1人で行い、応募要項に本格推理小説を募集すると明記している点が特徴である。警察小説新人賞は、警察小説大賞(小学館主催、2019 - 2021年)をリニューアルしたもので、警察小説を対象とした賞である。 新人賞に類する公募新人発掘企画としてカッパ・ツー(光文社主催、2016年 - )が存在する。前身のKAPPA-ONEは推理小説以外の小説も対象としていたが、カッパ・ツーは本格推理小説を対象としている。 松本清張賞(日本文学振興会主催、刊行は文藝春秋、1994年 - )は、推理小説から歴史小説・時代小説まで幅広いジャンルで活躍した作家松本清張の業績を記念したもので、以前は推理小説または歴史・時代小説を公募する新人賞だったが、第11回(2004年)からはジャンルを問わずエンターテインメント作品を募集する賞になっている。また、第5回(1998年)までは短編の賞であった。 メフィスト賞(1996年 - )は講談社の文芸誌『メフィスト』で募集される賞で、募集要項では「広義のエンタメ作品」としているが、推理小説やミステリ要素が強い作品の受賞が多い。選考は下読みを介さずに編集者だけで行う。募集・選考は随時行われるため、1年間に複数の作品が刊行される。講談社では、講談社BOX新人賞、講談社Birthなど同じく編集者が直接選考する賞を創設しており、この2つでも推理小説が選ばれることがあるが、その割合はメフィストよりもさらに低い。 日本の推理作家の名を冠した公募の新人賞として島田荘司推理小説賞(2009年 - )があるが、これは日本ではなく台湾で実施されているもので、中国語で書かれた長編推理小説を対象とする公募新人賞である。
(年は、募集を開始した年ではなく、最初に結果発表・授賞が行われた年。選考委員や正賞・副賞は最新のもの。締切や枚数、結果発表の時期など詳細は各ページを参照のこと。)
短編の公募新人賞短編を公募する賞には、雑誌で募集される賞として、月刊の文芸誌『小説推理』で募集される小説推理新人賞(双葉社主催、1979年 - )、『読楽』で募集される大藪春彦新人賞(徳間書店主催、2017年 - )、隔月刊の文芸誌『紙魚の手帖』で募集される創元ミステリ短編賞(東京創元社主催、2023年 - )がある。大藪春彦新人賞は「冒険小説、ハードボイルド、サスペンス、ミステリーを根底とする、エンターテインメント小説」を対象としている[6]。 また、地方文学賞にも推理小説を募集するものがある。東京都北区が主催し実業之日本社が協賛する北区 内田康夫ミステリー文学賞(2003年 - )は、北区出身の推理作家内田康夫の協力のもとに創設された賞で、生前は内田康夫本人も最終選考に参加していた。大賞作品はWebサイト『Webジェイ・ノベル』(実業之日本社)に掲載される。
評論の公募新人賞推理小説の評論を対象とする新人賞は、創元推理評論賞(東京創元社主催、1994年 - 2003年)終了後は、同賞の選考委員や受賞者が中心となって結成された探偵小説研究会が募集する探偵小説評論賞(2007年 - 2009年)があった。探偵小説研究会は、現在は賞という枠組みをはずして論考の募集を行っている。 終了した公募新人賞長編
すでに募集を終了した長編の公募新人賞には以上のようなものがある。サントリーミステリー大賞は一時期日本語以外の作品の応募も受け付けており、受賞した際には日本語に翻訳されて刊行された。新潮ミステリー倶楽部賞からは伊坂幸太郎、ホラーサスペンス大賞からは道尾秀介がデビューしている。KAPPA-ONE(カッパワン)は、メフィスト賞と同じように編集者が直接選考し優秀作を刊行する新人賞で、『本格推理』(光文社文庫)から選抜された第1期の4人(石持浅海、東川篤哉、加賀美雅之、林泰広)以外では、詠坂雄二らがデビューしている。警察小説大賞は、現在は警察小説新人賞として実施されている。 短編
すでに募集を終了した短編の公募新人賞には以上のようなものがある。宝石賞は、それ以前から積極的に新人を発掘していた推理小説雑誌『宝石』が設けたもので、第4回と第5回は「宝石短編賞」という名称で実施された。また、1962年および1963年には「宝石中編賞」も実施された[7]。幻影城新人賞は小説部門と評論部門があったが、小説部門では泡坂妻夫、連城三紀彦、田中芳樹らがデビューした。創元推理短編賞・ミステリーズ!新人賞は、現在は創元ミステリ短編賞として実施されている。オール讀物推理小説新人賞からは西村京太郎、赤川次郎、宮部みゆき、石田衣良らがデビューした。この賞は、2008年より既存のオール讀物新人賞と一本化された。光文社文庫の『本格推理』および『新・本格推理』は、本格推理短編の公募アンソロジーである。賞ではないが、のちに作家としてデビューする人の作品が多く掲載された。選者は鮎川哲也、後に二階堂黎人が務めた。地方文学賞としては九州さが大衆文学賞と湯河原文学賞がある。九州さが大衆文学賞は笹沢左保の提唱により創設され、推理小説または歴史・時代小説を募集するもので、笹沢の死去後はその功績をたたえ、大賞を「笹沢左保賞」としていた。湯河原文学賞は「トラベルミステリー・サスペンス・ホラー・恋愛など現代を舞台にした小説」[8]を募集するもので、湯河原在住の推理作家西村京太郎が最終選考委員を務めていたが、2020年に小説部門は終了し以降は俳句部門のみが開催されている。 ライトノベル(長編)
ライトノベルでも、一時期ミステリーの賞が設けられた。角川学園小説大賞のヤングミステリー&ホラー部門からは、米澤穂信らがデビューしている。この賞は角川書店の編集部が選考する賞だったが、富士見ヤングミステリー大賞は推理作家が最終選考委員を務める賞で、受賞者には有栖川有栖の推薦を受けてデビューした彩坂美月らがいる。それぞれの刊行レーベル角川スニーカー文庫〈スニーカー・ミステリ倶楽部〉、富士見ミステリー文庫も、賞(部門)の終了に前後して刊行を終えている。 児童文学(短編)このシリーズは、全国から公募して選んだ短編ミステリーのアンソロジーである。2001年7月に1巻から5巻まで、2002年7月に6巻から10巻までが刊行された。2001年7月刊の第2巻には、ほぼ同時期に小説推理新人賞を受賞した山之内正文の作品が採用されている。 評論
短編推理小説を募集していた宝石賞では、第1回のみ宝石評論賞も実施された[7]。幻影城新人賞の評論部門からは栗本薫らがデビューしている。創元推理評論賞の選考委員と受賞者は、のちに探偵小説研究会を結成し、同賞の終了後は探偵小説評論賞を公募した。現在、探偵小説研究会は、賞という形をとらずに論考を募集している。 日本以外推理作家団体が主催する賞については「推理作家#推理作家の団体」も参照。 アジア台湾
韓国
タイ
欧米・オセアニア英語圏
非英語圏
脚注注釈
出典
参考文献
関連項目 |
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