日本における選挙運動
日本における選挙運動(にほんにおけるせんきょうんどう)とは、日本の公職選挙法上、特定の選挙につき特定の候補者または特定の立候補者予定者の当選を目的として、投票を得又は得させるために直接または間接に必要かつ有利な行為をすることと一般に解されている。 一般的な意味では選挙運動における活動は政治活動に含まれるが、日本の公職選挙法では選挙運動と政治活動を理論的に区別して異なる規定を置いているため、公職選挙法上の政治活動は「広義の政治活動の中から、選挙運動にわたる行為を除いた一切の行為」をいう[1]。公職選挙法では選挙運動と政治活動を区別しているため、政治活動に選挙運動の意味を含む条文には個別に明記されている(公職選挙法28条の2)。 日本の選挙では、選挙ごとに選挙運動期間が決められていて事前運動は禁止されており、選挙運動は選挙運動期間内(選挙の公示日又は告示日に候補者が立候補の届出をした時から投票日の前日までの間)にのみ行うことができる(公職選挙法129条)[1]。 公職選挙法上の選挙運動の概念選挙運動と政治活動の区別公職選挙法上の「選挙運動」の概念について、総務省は「特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為」であると解している[2]。これは、大審院の1928年(昭和3年)1月24日判決、1929年(昭和4年)9月20日判決、最高裁1963年(昭和38年)10月22日決定を根拠とするものである。 一般に『選挙運動』とは、「公職選挙法上、後援会活動等の『政治活動』も含まれる為に、一概に定義することは困難である。また選挙運動には、『選挙活動』との部分が含まれ、実際の選挙活動期間(投票日の1ヶ月前から)を呼称する」との観点から、「(一)次期、または、それ以後の選挙に立候補する為の間と、(ニ)実際に立候補者と成った時の活動」に区分される[3]。 日本の公職選挙法では選挙運動は選挙運動期間内にのみ行うことができるとされている[4]。 公職選挙法上の「選挙運動」は特定の選挙に向けた活動であることを要件とする[4]。政党等がその主義政策を宣伝することは、結果的に所属候補者の当選を図るものになるとしても、特定の選挙について特定の候補者の当選を目的とするものでない限り、「選挙運動」には該当しないとされている[4]。また、公職選挙法上の「選挙運動」は特定の候補者を当選させるためのものであることが要件とされ、特定の候補者への投票の働きかけに限らず、他の候補者に投票しないよう働きかけることも特定の候補者の当選を目的としていれば「選挙運動」に当たる[4]。 選挙運動期間選挙運動は、公示日(告示日)に立候補届が受理された時から選挙が行われる日の前日まですることができる。期間は最低限度の日数で、これより長い期日を設定することもできる[5]。街頭演説や車上の連呼行為については選挙運動期間の午前8時から午後8時までに限られる[4]。なお、投票日当日は選挙運動を行うことができない。
補欠選挙の選挙運動期間も上記の期間と同じ。 ポスター・看板の作成や選挙事務所の借り入れ交渉など選挙運動を行う準備行為は「選挙運動」には当たらない立候補の準備行為とされており立候補届出以前に行うことができる[4]。 選挙事務所の設置及び届出公職の候補者等が設置する選挙事務所の数には制限がある(公職選挙法130条1項)。
選挙事務所は1日に1回しか移転又は廃止に伴う設置をすることはできない(公職選挙法130条2項)。 衆議院・参議院・都道府県知事選挙では、選挙管理委員会(衆議院比例代表選出議員又は参議院比例代表選出議員の選挙については中央選挙管理会、参議院合同選挙区選挙については当該選挙に関する事務を管理する参議院合同選挙区選挙管理委員会)が交付した標札を掲示しなければならない(公職選挙法130条3項)[4]。 なお、休憩所や連絡所のような設備を設置することは禁止されている(公職選挙法133条)[4]。 選挙運動を行うことができない者選挙運動が禁止される者地位を利用した選挙運動が禁止される者
禁止されている選挙運動
選挙運動用自動車、船舶及び拡声器の使用衆議院比例代表選挙以外の選挙の候補者は、選挙管理委員会が交付する表示を付けた選挙運動用自動車又は船舶、拡声機を使用することができる(公職選挙法141条1項)[4]。候補者の使用する選挙運動用自動車の車種は普通自動車やライトバンなどに限られる(町村の長・議員の選挙では小型貨物自動車も使用できる)[4]。候補者の使用する選挙運動用自動車に乗車できる者は、候補者と運転手を除き4人以内で、選挙管理委員会が交付する腕章の着用義務がある[4]。なお、参議院比例代表選挙における特定枠の候補者は選挙運動用自動車又は船舶、拡声機を使用することができない(公職選挙法141条1項)[4]。 また、衆議院議員選挙では、候補者届出政党・衆議院名簿届出政党等も、都道府県選挙管理委員会や中央選挙管理会から表示の交付を受ければ自動車等を使用できる[4]。候補者の選挙運動用自動車とは異なり候補者届出政党・衆議院名簿届出政党等の使用する選挙運動用自動車には車種制限等はない[4]。 公職選挙法では選挙運動用自動車から降車して選挙活動を行うことを禁じていないため、候補者自らが街頭を歩きながら個々の有権者に支持を訴える「桃太郎」と呼ばれる手法がある[6]。 選挙運動用自動車に乗車して連呼行為を行う女性運動員は「ウグイス嬢」と呼ぶ。 公職の候補者が行う選挙運動
政党等が行う選挙運動
確認団体が行う政策の普及宣伝及び演説の告知のため自動車、拡声器の使用制限
文書図画の頒布・掲示選挙運動のために法律で定められた文書図画以外のものを頒布・掲示することは禁止されている。 ビラの頒布国政選挙と地方選挙で頒布することが可能である。なお、2007年3月22日施行の公職選挙法一部改正法では、地方の首長選挙でもビラ頒布が解禁され、2019年3月1日以降告示される都道府県議会議員選挙及び市議会議員選挙においてビラ頒布が解禁された。町村議会議員選挙は2020年12月12日より解禁された。
マニフェストの頒布国政選挙(総選挙及び通常選挙に限る。)において政党等の本部が直接発行するパンフレット又は書籍で国政に関する重要施策およびこれを実現するための基本的方策等を記載したものまたはその要旨等を記載したものでそれぞれ1種類を、選挙事務所・演説会・街頭演説の場において頒布できることとされている。 郵便葉書の頒布
ポスターの掲示
ウェブサイト等を利用する方法による文書図画の頒布ウェブサイトやソーシャル・ネットワーキング・サービス等によるインターネットの利用、赤外線通信、イントラネットなど放送を除く電気通信を利用した方法により受信する者が使用する通信端末装置(入出力装置を含む。)の映像面に表示させる方法(以下、「ウェブサイト等を利用する方法」という。)により文書図画の頒布については、自由に行うことができる。その際、頒布する者の電子メールアドレス等のインターネット等を利用する方法によりその者に連絡をする際に必要となる情報を表示しなければならない。ただし、電子メールを利用する方法による選挙運動については次項による制限がある。 なお、選挙運動の前日までウェブサイト等を利用する方法により頒布されたものは、選挙当日においてもその者の受信が使用する通信端末装置の映像面に表示させることができる。 政党や確認団体に限り、政治活動として有料で選挙運動期間中選挙運動用ウェブサイト等を表示させる機能を有した広告を掲出することができる。その際、当該広告に公職の候補者を類推させる事項については掲載できない。 →「インターネット選挙運動」も参照
電子メールを利用する方法による文書図画の頒布公職の候補者(衆議院比例代表選挙を除く。)、衆議院小選挙区選挙による候補者届出政党、比例代表選挙における名簿届出政党等、各種選挙における確認団体に限り電子メールを使用する方法を利用した選挙運動が可能である。ここでいう「電子メール」は特定電子メールの送信の適正化等に関する法律2条1号で定める電子メールをいい、インターネットで通常用いられるSMTP方式を用いた電子メールや携帯電話会社が提供する携帯電話番号を用いたショートメッセージサービスの利用を指す。 ただし、受信先についてはあらかじめ選挙運動用電子メールの送信に同意した者の電子メールアドレスや日常送信される政治活動用電子メールを受信しているもので選挙運動用電子メールの送信を受け受信を拒絶しなかった者の電子メールアドレスに限定される。 その他文書図画の掲示
確認団体の行うその他の文書図画の掲示次に掲げる場合の立札及び看板の掲示
その他の規制
街頭演説候補者個人の街頭演説候補者は午前8時から午後8時までの間に限り、その場所にとどまり、選挙管理委員会から交付された標旗を掲げて行うことができる[4](標旗は候補者1人当たり1旗交付。衆議院(比例区)においては各政党等に1政党につきそのブロックの定数と同数の数の旗を、参議院(比例区)においては候補者に対し候補者1人当たり6旗交付する)。運動員は、乗車できる運動員4人を含めて15人以内で、選挙管理委員会が交付する腕章を着用する必要がある[4]。 なお、参議院比例代表選挙の特定枠の候補者は候補者個人の選挙運動として街頭演説を行うことができない[4]。 政党等の行う街頭演説衆議院小選挙区選挙の候補者届出政党、衆議院比例代表選挙の衆議院名簿届出政党等は午前8時から午後8時までの間に限り、停止した選挙運動用自動車の車上またはその周囲で街頭演説をすることができる[4]。場所は候補者個人の街頭演説と同様の制限があるが、選挙運動員の人数制限はなく、標旗や腕章も不要とされている[4]。 確認団体の行う街頭政談演説確認団体の使用する自動車の車上およびその周囲で午前8時から午後8時までの間行うことができる。 電話による選挙運動選挙運動期間中、だれでも自由に電話(音声のみ)を利用して行うことができる。ただし、対価を支払って電話による選挙運動をさせた場合は買収罪の適用がある。また、ファクシミリを利用した選挙運動は法定外文書による選挙運動になるので禁止されている。 公営による選挙運動等一定の種類の選挙運動については公営とされており、選挙管理委員会が実施したり経費を負担したりするものがある[4]。ただし、選挙の種類によっては公営で行われないものもある[4]。 選挙公報→「選挙公報」も参照
選挙公報の発行は衆議院選挙(小選挙区選出議員の公職候補者、比例代表選出議員)、参議院選挙(選挙区選出議員、比例代表選出議員の名簿登載者)、都道府県知事選挙では公営(無料)で実施される[4]。ただし、一部選挙無効の再選挙においては発行しない。
演説会演説会の開催演説会は一定の選挙について公営施設を無償で使用できる(ただし衆議院選挙の比例代表選出議員など有料とされているものもある)[4]。
確認団体の行う政談演説会
幕間演説会社の朝礼など本来選挙運動を目的としていない集会や会合の場で、候補者等が選挙運動のために演説をして投票を呼び掛けることはできる。 新聞広告新聞広告は衆議院選挙(小選挙区選出議員の公職候補者・候補者届出政党)、参議院選挙(選挙区選出議員)、都道府県知事選挙では選挙管理委員会から一定の経費負担がある[4]。衆議院選挙の比例代表選出議員や参議院選挙の比例代表名簿届出政党等は法定得票数が一定以上の場合に選挙管理委員会から一定の経費負担がある[4]。
政見放送→「政見放送」も参照
政見放送は衆議院選挙(小選挙区選出議員の候補者届出政党、比例代表選出議員)、参議院選挙(選挙区選出議員、比例代表選出議員の名簿届出政党等)、都道府県知事選挙で公営で実施される[4]。 テレビ及びラジオによりNHK又は民放が実施
経歴放送経歴放送は衆議院選挙(小選挙区選出議員の公職候補者)、参議院選挙(選挙区選出議員)、都道府県知事選挙で公営で実施される[4]。 テレビ及びラジオによりNHKが実施
選挙運動の態様
選挙運動費用に対する規制候補者個人が行う選挙運動については、選挙運動費用の上限額が規定されている。なお、政党等が行う選挙運動に関する選挙運動費用に対する別段の規制は無い。 さらに、日常の政治活動の費用に対する費用の規制は無い。 これらのことが何を意味するのかというと、法律で規制されているのは、個人が行う選挙運動期間中の選挙運動費用だけなのであるが、実際に選挙に出るための費用といわれるものはこうした費用に限られない。実際には選挙期間以外の選挙に出るためあるいは議員活動を行う上での、日常の政治活動として事務所費及び人件費等が相当程度必要とされているが、こうした費用への支出に関して特段の規制は無い。また、政党等が国政選挙運動期間中に「政治活動」として行うテレビコマーシャルの費用や新聞広告についても上限無く行うことは可能である。 したがって、法定選挙運動費用に含まれる主な経費としては、選挙運動用のポスター・ビラ・葉書の作成・印刷費、選挙事務所費、新聞広告費、個人で行った電話による選挙運動の電話代、ウグイス嬢に対する報酬、選挙運動期間中の運動員に支給した弁当代などが含まれるが、実際には選挙運動期間中に限ってみても、所属政党や確認団体による選挙運動や政治活動の経費の占める割合は相当なものと思われるし、さらに選挙運動期間前の政治活動費(政治活動用ポスターの印刷費や政治活動用の事務諸費や私設秘書等の人件費等)も実際問題としてかかる訳でなかなか選挙に係る経費というものの実態はなかなか見えにくいものがある。 報酬の支払に対する規制次に掲げる者に限り一定の基準によって報酬及び実費弁償をすることができる
確認団体による政治活動→「確認団体」も参照
国政選挙、都道府県の選挙、市長選挙及び政令指定都市の市議の選挙においては、政党その他の政治団体は、その政治活動のうち、政談演説会及び街頭政談演説の開催、ポスターの掲示、立札及び看板の類の掲示並びにビラやそれに類する文書図画の頒布並びに宣伝告知のための自動車、船舶(衆議院選挙に限る)及び拡声機の使用については、選挙の期日の公示(告示)の日から選挙の当日までの間に限り、これをすることができない。 なお、立札及び看板の類については、政党その他の政治団体の本部又は支部の事務所において掲示するものを除く。禁止されている掲示又は頒布には、それぞれ、ポスター、立札若しくは看板の類又はビラで、政党その他の政治活動を行う団体のシンボル・マークを表示するものの掲示又は頒布を含む。宣伝告知には、政党その他の政治活動を行う団体の発行する新聞紙、雑誌、書籍及びパンフレットの普及宣伝を含む。 なお、新聞・雑誌への広告やテレビやラジオのコマーシャルの放映、インターネットのホームページや電子メールを利用した政治活動はいかなる政治団体においても選挙運動にわたらない限り行うことができる。 また、個人の政治活動については選挙運動期間中でも自由に行うことができる。 しかし、確認団体の行う政談演説会、街頭政談演説、ポスター及びビラにおいては選挙運動にわたる政治活動を行うことができる。ただし、ポスター及びビラにあっては氏名を類推させることを記載してはならない。
脚注
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