作者不詳
一、
明治三十八の年
頃しも五月(さつき)の末つ方
濛気(もうき)も深き暁に
済州(さいしゅう)島の沖遥か
二、
敵艦今や寄せ来ぬと
物見の艦の信号に
脾肉(ひにく)の嘆を漏しつつ
待ちに待ちたる我軍は
三、
天の与(あたえ)と雀躍(じゃくやく)し
舳艫(じくろ)銜(ふく)んで錨抜く
御国の安危此(この)一挙(いっきょ)
掛りて吾等大丈夫(ますらお)の
四、
肩に有りぬとふるい立つ
戦士三万意気高し
荒(すさ)ぶ風浪何の其の
醜虜(しゅうりょ)殲滅(せんめつ)する迄は
五、
再び生きて帰らじと
勇気りんりん進む間に
正午も過ぎて早や半時
霞める沖の島の辺(へ)に
六、
煤煙一つ又二つ
次第に見ゆる数十条
旗艦スワロフ始めとし
続く敵艦約四十
七、
二列縦陣厳(おごそ)かに
浪を蹴立てて進み来つ
やがて打出す砲声は
殷々(いんいん)轟々(ごうごう)凄(すさま)じく
八、
砲煙天に漲(みなぎ)りて
白日(はくじつ)為に光なく
奮戦茲(ここ)に数時間
我勇猛の砲撃に
九、
今や乱るる敵の陣
或は沈み又は焼け
残れるものは傷つきて
戦闘力も絶々(たえだえ)に
十、
逃れかねてぞためらえる
時しもあれや日は落ちて
夜色悽愴(せいそう)気は熟し
襲う水雷駆逐艦
十一、
敵陣近く肉薄し
力の限り追いうてば
闇にまぎれて乱れ散る
秋の木の葉の其れの如(ごと)
十二、
明くれば二十八日に
逃(のが)れ遅れし敵四隻
砲門砕け舵折れて
あわれや揚(あ)ぐる降参旗
十三、
勇気絶倫(ぜつりん)名も高き
敵帥ロゼスト提督も
鬱陵(うつりょう)島の島影に
俘虜(とりこ)となりし浅間しさ
十四、
辛苦(しんく)惨憺(さんたん)幾月(つき)か
万里の波濤を凌(しの)ぎつつ
極東遥か進み来し
かの強勇のバルチクも
十五、
大和(やまと)武夫(たけお)に敵し得で
目指す港を前に見て
沈みつ焼けつ奪われつ
消えて哀(あわ)れや水の泡
十六、
山は青々(せいせい)水清き
秋津島根に寇(あだ)をなす
醜虜は如何に猛(たけ)くとも
などて敵せん大和魂(やまとだま)
十七、
やがて東海波荒(すさ)ぶ
底の藻屑と消え果てん
帝国万歳万々歳
神州万歳万々歳