日本美術刀剣保存協会
公益財団法人日本美術刀剣保存協会(にっぽんびじゅつとうけんほぞんきょうかい、英語名:The Society for Preservation of Japanese Art Swords、略呼称:にっとうほ[1])は、「美術工芸品としての価値ある刀剣類の保存及び公開、さらに無形文化財としての日本刀の製作・研磨並びに刀装・刀装具の製作等の技術の保存向上に資するとともに、作刀に必要な材料の確保を図り、これに関する調査研究と鑑賞指導を行い、わが国文化の普及と文化財の保護に寄与する」ことを目的に設立された[2]、東京都墨田区に本部を置く日本の公益財団法人である。 概要日本刀には美術品、工芸品としての価値があるが、明治維新にともなう廃刀令以降、海外への散逸が懸念されるようになった。さらに、太平洋戦争終結後、連合国軍最高司令官総司令部は日本刀没収を実施したため、これを恐れる持ち主の中には日本刀を破棄するものが続出する事態となった。このような事態に危機感を持った有志により、1948年2月24日、日本刀を後世に伝える目的で財団が設立された。当初は東京都台東区の東京国立博物館に事務局を置いていたが、後に東京都渋谷区代々木に移転した。昭和40年代には、会員から募った資金を元に、保護した刀剣類を公開するための施設「刀剣博物館」を代々木に設置した。さらに、昭和50年代に入ると、年々手に入りにくくなる作刀材料確保のため、島根県奥出雲町に「日刀保たたら事業所」を操業し、日本刀の原料となる「和鋼・玉鋼」を生産している。 近年は後述の不祥事が相次いだことから、2008年に一部が分裂して日本刀文化振興協会を設立するに至ったが、その後も日本刀の売買においては日本美術刀剣保存協会が実施する個々の日本刀・刀装・刀装具に対する鑑定審査の結果が重要視され[3][4]、現代の刀工の大きな目標が、同協会が主催する現代刀職展(旧新作名刀展)に作品を出品して特賞などの高い評価を得ることであることに違いはない[5]。 2018年に東京都墨田区横網にある旧安田庭園内の両国公会堂跡地に刀剣博物館を移転して開館し、同館内に本部も移転した。 現代刀職展現代刀職展(旧新作名刀展)は、同協会が主催するその年度に新作された日本刀の展覧会であり、ここで認められることが現代の刀工と刀装具職人にとっての大きな目標である[5]。 現行の「現代刀職展」は2018年から開催されており、その前身は1955年から開催されてきた「新作名刀展」と1948年から開催されてきた「刀剣研磨・外装技術発表会」である。現代刀職展の中で旧新作名刀展に該当する部門は、作刀の部・刀身彫の部・彫金の部の3つである。作刀の部はさらに太刀・刀・脇差・長刀・槍の部と短刀・剣の部に分かれており、それぞれの部門に1人1点ずつ計2点を出展できる。刀身彫の部と彫金の部では部門ごとに1人1点を出展できる。旧刀剣研磨・外装技術発表会に該当する部門は研磨の部・白鞘の部・刀装の部・柄前の部・白銀の部である。研磨の部はさらに鎬造の部と平造の部に分かれており、それぞれの部門に1人1点ずつ計2点を出展できる。それ以外の部門では部門ごとに1人1点を出展できる。研磨の部では、国宝・重文・重美に指定・認定されたものを研磨して出展することはできない[6][7]。 入賞は以上の通りで新人賞を除く優秀賞以下は優れた者から1席、2席と順位が示される[8][9][10]。ただし無鑑査の称号を与えられた最高位の刀工は原則として賞の受賞対象とはならない。正宗賞のみは特殊で、無監査刀工が出品したうちで特筆される作刀があった場合のみ授与される。近年では2010年に宮入法廣が短刀で、2014年に太刀で河内國平が受賞した。無鑑査になるための選定基準の一つは「協会が主催する現代刀職展において、入賞15回のうち、特賞を8回以上(太刀・刀・脇差・薙刀・槍の部)受賞し、そのうちに高松宮記念賞(平成17年まで高松宮賞)を2回以上受賞した者、もしくは特賞を10回以上(太刀・刀・脇差・薙刀・槍の部の特賞を6回以上)受賞した者で、人格が高潔であり、刀匠として抜群の技量が認められる者」である。2019年時点で累計39名のみが無鑑査の刀工に認定されている[5][11]。 鑑定審査![]() 日本美術刀剣保存協会は、応募者から申請された個々の日本刀や刀装・刀装具に対して、その美術的・歴史的価値に基づいて鑑定審査を行い、優れたものについては等級を付けて格付けしてきた。なお、その出来や保存状態によっては不合格になり等級が付与されないこともある。日本刀の評価と売買において市場ではその格付けが重要視されており、等級ごとに販売・買取相場も異なる[3][4]。なお甲冑やその他の武具に関しては日本甲冑武具研究保存会が5つの等級で格付けをしている。 現行の制度1982年9月から開始された現行の鑑定制度では[12]、合格した優れた日本刀・刀装・刀装具については4等級に分類され、下位から「保存(~刀剣・~刀装・~刀装具)」「特別保存(~刀剣・~刀装・~刀装具)」「重要(~刀剣・~刀装・~刀装具)」「特別重要(~刀剣・~刀装・~刀装具)」の等級が付与される。協会は刀剣・刀装・刀装具に対する鑑定審査基準を公表しており、その一例として刀剣の基準は次の通りである[13]。
最高等級の「特別重要(~刀剣・~刀装・~刀装具)」は隔年に一度のみ鑑定審査され、2021年時点で、刀剣1143口、刀装59点、刀装具80点のみが「特別重要」を冠する最高等級に列せられている。2021年には特別重要刀剣指定制度が始まってから50年を迎えたことを記念して、刀剣博物館にて「特別重要刀剣等指定制度五十周年記念ー日本刀 珠玉の名品展ー」が開催された[14]。 過去の制度日本美術刀剣保存協会が鑑定審査を始めたのは設立年の1948年であり、当初は優れた日本刀に対する分類として「貴重刀剣」のみが設定された。1950年にその上位の「特別貴重刀剣」が、1958年にさらに上位の「重要刀剣」が、1971年に最高位の「特別重要刀剣」が設定され、1973年に特別貴重刀剣と重要刀剣の間の「甲種特別貴重刀剣」が設定された[15]。しかし1982年5月にこの5等級から成る鑑定審査制度は廃止されて同年9月に新しい分類の「保存刀剣」と「特別保存刀剣」を含めた4等級の現行制度に切り替わったため、現在では旧制度下で発行された貴重刀剣、特別貴重刀剣、甲種特別貴重刀剣の鑑定書に効力があるとは言えず、それらの鑑定書が付いた日本刀の評価を確立するためには、改めて現行制度の鑑定審査を受けなおす必要がある[12]。 指摘された問題点鑑定審査について日本刀の鑑定審査に関連し数々の問題点が指摘された。2007年には監督官庁の文化庁が行政指導しても財団が問題点を改善していなかったことが報道された。その主な要旨は協会関係者や一部の刀剣店などが所有する刀剣への審査で不当な便宜が図られているのではないかというものである[16]。
未登録刀剣について2009年に所有者不明の刀剣400本余りが発見され[20]、2011年に協会と当時の理事・常務理事がこれらのうち36本を銃砲刀剣類登録手続が行われていない状態で保管していたとして銃刀法違反で書類送検された[21][22]。 2012年、不起訴処分となった。 歴代会長
脚注
外部リンク
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