朝鮮語規範集朝鮮語規範集(ちょうせんごきはんしゅう、조선말규범집)は、現行の朝鮮語の正書法である。朝鮮民主主義人民共和国(以下「北」)及び中国でそれぞれ作られており、その内容もそれぞれ異なるものとなっている。朝鮮語と韓国語は文化的ルーツは同じだが、1950年代以降、韓国語の正書法と朝鮮語の規範が何度も変化をもたらし、異質性を帯びるようになった。 その中でも語彙での形態的差が最も明確に現れるが、頭音法則やサイシ以外にも多くの面で差を見せる。朝鮮語学会を引き継いだハングル学会は、この<ハングル正書法統一案>のハングル版(1948)を刊行したが、改訂本の全文を純ハングルに変えたもので、続いて1949年に文教部(現在の教育部)が文法用語を新たに制定したことにより1958年に用語修正版を刊行し、1980年には<ハングル正書法>として規定を理解しやすいように改刊した[1]。 以下、原則として北の「朝鮮語規範集」について説明する。 この正書法は1954年の朝鮮語綴字法(조선어 철자법)を改訂したものである。1966年6月に国語査定委員会で制定し1987年5月15日及び2010年10月頃に改訂したものが現行のものである。ここでは特に断りのない限り、文化語発音法を除く2010年改訂版について、大韓民国(以下「南」)の現行正書法であるハングル正書法(한글 맞춤법)と異なる部分を中心に記述する。 構成朝鮮語規範集は「正書法」(総則及び7章27項[2])、「分かち書き規定」(総則及び6項[3])、「文章符号法」(総則及び19項並びに補充項[4]、「文化語発音法」(総則及び10章30項[5])、「朝鮮文字の表記」の5つの部門[6]で構成されている。章の構成は以下の通りである。
表記法総則では「朝鮮語表記法は単語において意味を持つ各部分を常に同一につづる原則を基本としつつ、一部の場合に発音のままにつづったり、慣習に従うことを許容する。」と規定されている。これは形態主義の原則に従ってつづることを宣言したものであり、原則として南のハングル正書法と同じである[7]。 以下に南の正書法であるハングル正書法と異なる点をまとめる。 語尾の表記北では,語尾においてㄹの直後が濃音で発音されるものは平音でつづることになっている(第6項)。同様の規定は南にもあるが(第53項)、南では疑問を表す「-ㄹ까,-ㄹ꼬,-ㅂ니까/-습니까,-리까,-ㄹ쏘냐」は濃音でつづる(同項但書き)旨の例外規定がある。従って、南の「-ㄹ까,-ㄹ꼬,-ㄹ쏘냐」は北では「-ㄹ가,-ㄹ고,-ㄹ소냐」とつづられる。 また,用言の-아/-어形において、語幹末音がㅣ,ㅐ,ㅔ,ㅚ,ㅟ,ㅢである母音語幹は,北では-여を付けることとなっている(第11項・3))。同様にして、用言の-아/-어形から派生した副詞もこれに従う(同附記)。この規定は1930年に朝鮮総督府が定めた「諺文綴字法」の規定と同じである。これに対して,南では「-아/-어」の2形態の原則に従い「-어」とつづる。
縮約形の表記用言の縮約形において、一部に南北で規定の違いが見られる。 用言に接尾辞-이-が付いた「쏘이다(撃たれる)」などの縮約形は南北ともに「쐬다」などを例示しているが、その-아/-어形である「쏘이여(撃たれて)」(南では「쏘이어」)などについては、南では「쐬여,쏘여」などの2つを例示している(第38項)のに対し、北では「쐬여」などのみを例示し「쏘여」などは例示していない(第12項)[8]。 「하다(する)」の縮約形において、南では「넉넉지 않다 < 넉넉하지 않다(十分でない)」のように「하」全体の脱落形を容認している(第40項・附則2)のに対し、北では「넉넉치 않다」のように激音化する場合のみを認めている(第13項)。 合成語の表記사이소리끼우기(間音挿入)(南における「사이시옷(間のㅅ)」)は、北では一切表記しないのが原則である。
ただし、以下のような単語については混同を避けるためにパッチムにㅅが用いられる[9]。
また、「뒷-(後ろの),웃-(上の)」などは1つの接頭辞と見なしているため、「ㅅ」は사이시옷扱いにはされていない(第18項)。 南では「앞니(前歯)」のように「이(歯、しらみ)」の合成語は例外的に「니」とつづることになっている(第27項・附則3)が、北にはそのような規定がないので「앞이(前歯)」のように原則通りにつづる。 また、南では雌雄を表す「암, 수」に続く語が激音化する場合、激音化したとおりに表記し(第31項・2)、87年版以前でも同様の扱いとされていたが、2010年に改定された朝鮮語規範集においては、激音化した場合であっても、原形通り表記されることとなった(第14項後段)[10]。
但し、「암, 수」以外の語の後でおこる激音化については、南と同様に激音化した通りに表記される(第15項)。
漢字語漢字語は個々の漢字の本来の漢字音の通りにつづることになっている(第25項)ので、語頭にㄹやㄴが立ちうる。
ただし、いくつかの単語については慣用音に従って表記することになっている(第25項但書き)。
分かち書き分かち書きについては、1987年に一度この朝鮮語規範集の改正を経た後、2000年に「朝鮮語分かち書き規範(조선말 띄여쓰기규범)」、2003年に「分かち書き規定(띄여쓰기규정)」が制定された後、2010年の改正にあたり2003年の分かち書き規定をほぼそのまま取り入れる形で朝鮮語規範集の規定が改められ、これが現行の分かち書きの規範になっている。以下に南の現行正書法と異なる点を述べる。 1つの対象等を表す文節北では、ひとつの対象、行動や状態を表す文節においては、途中に助詞が含まれる場合であっても、続け書きを原則としている(第2項)。南でも一部の場合に続け書きが許容されるが、北では続け書きが原則となっている点が異なる。また、南でも1つの「単語」とみなされた結果続け書きがなされるものもある。例)
固有名詞など北では、固有名詞の類は、続け書きを原則としているが、いくつかの節に分かれるものは、節ごとに分かち書きをすることとしている(第3項)。南でも姓名は続け書きが原則となっているほか、姓名以外の固有名詞等についても分かち書きが許容されているが、北の場合はすべての場合に続け書きが原則となっている点で大きく異なる。例)
数詞北では、数詞は百、千、万、億、兆を単位として分かち書きをすることとされている(第4項)。南では、万単位(四桁ごと)で分かち書きをすることとされているため、千以下の単位において分かち書きに違いが生じる。
また、北では、算用数字によって表記する場合は3桁ごとに分かち書きすることとされている(同項付則。南では算用数字の場合の分かち書きについては規定されていない。)。
ただし、名詞等の一部となるときは分かち書きをしないこととされる(同項付則但書き)。
不完全名詞不完全名詞(依存名詞、形式名詞)は前の単語に付けて書く(第5項)。
位置名詞や時間名詞も同様にして前の単語に付けて書く[11]。
ただし、「등(など),대(対),겸(兼)」などは分かち書きすることになっている(同項米印)。 合成用言合成用言(補助用言を含む)は続け書きをする(第2項2))。
-아/-어形で結ばれた用言は南でも続け書きが許容されているが、-고形で結ばれたものは南では分かち書きする。 「体言+用言」の構成で1つの用言をなすものは続け書きする(第11項)。これらの一部は南でも続け書きされる。また、用言が副詞形を取るものもこれに準ずる。
特殊なもの北ではこのように、かなりの場合に続け書きをすることとしているのであるが、そうすると、一単位が読解が困難なほど長くなる場合が生ずる。したがって、そのような場合には、適当に分かち書きをすることが許容される。
また、原則どおりであれば続け書きをすべき場合であっても、続け書きの有無や位置によって意味が区別されるべき場合においては、分かち書きをすることが許容される。
文章符号文章符号について特徴的なものをいくつか挙げる。
なお,本編は,横書きについて規定した上で,補充項4)において,「縦書き文における符号使用法」として準用規定を設けている。 関連項目外部リンク
註釈
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