権利の所在が不明な著作物
権利の所在が不明な著作物(けんりのしょざいがふめいなちょさくぶつ)[1]とは、著作権所持者の特定ができない著作物をいう[1][2][3][4]。英語では孤児や親のない子になぞらえて、「orphan works」と呼び[2]、日本語でもこの語を音写した外来語「オーファンワークス」が通用している[2]。加えて日本語では同じ意味合いで「孤児著作物[2][3]」「孤児作品[2][4]」「権利者不明作品[2][5]」「オーファン作品[2]」という名称が用いられている。 著作者の死亡または法人・任意団体の解散から相当年数を経過したためにパブリックドメインに帰属しているかどうか判別が付かない、著作権の保護期間内ではあるものの著作者の遺族ないし権利譲渡を受けた団体の所在が分からないなど、このような状況にある著作物が該当する。なお保護期間が立法により人為的に延長された場合は、結果として権利の所在が不明な著作物は増加することになる。 現在(21世紀初期、2000年代および2010年代)、未来に残すべき作品群をデジタル化して保存するためのデジタル・アーカイブズ事業が全世界規模で進められようとしているにもかかわらず、権利者不明著作物がおびただしい数に上っており、それらは保存を要する貴重性が認められているにもかかわらず、複製の制作その他の著作権に抵触する恐れがあることから、保存作業を進められない事態を生じさせている。そうして手を出せずに放置された結果、作品の記録媒体の劣化が進み、永久に失われてしまう作品の数が増えてしまっており、大きな問題となっている。孤児作品の問題は、デジタルアーカイブが直面する最大の課題であるとの指摘もある[6]。 種類、分類大別して以下の3通りに分けられる。
世界各地の当問題への対処の状況アメリカ米国著作権法では、1989年のベルヌ条約加盟まではアメリカ合衆国著作権局 (略称: USCO) に対して登録申請を行わなければ著作権が発生しなかった(現在でも、訴訟提起に際しては著作権局への登録が必要である)が、USCOに登録された著作物でも著作者の没年や権利継承者に関して最新のデータが反映されているわけではなく、権利の所在が不明な著作物は大量に存在する。特に、1998年制定の著作権延長法(CTEA)成立はその傾向を一層顕著にし、ミッキーマウスに代表される現在も商業的価値を有する2%弱の著作物を「延命」する一方で長い年月により商業的価値の失われた98%の著作物を埋没させるものだと言う批判がローレンス・レッシグらにより為されている。これを受けて、USCOでは2004年より「孤立作品に関する調査」を不定期で実施している[7]。 この報告書では、以下のように孤立作品の問題を迅速に議論し、解決すべきであると指摘している。
報告書を受けて2006年5月には下院に一定の条件下において孤立作品の利用を認めるための法案がラマー・スミス(共和党)らにより提出されたが、ハリウッドを始めとするコンテンツ産業の強硬な反対に遭い審議未了で廃案となった。その後、2008年に上院・下院へそれぞれ異なる修正案が提出され、審議が進められている[8]。なお、これらの法案では孤立作品の利用を認める条件として「著作権者を特定するために相応の努力」をすることを求めているが「相応の努力」について裁定制度のような客観的方法に拠る評価が行われないことを問題視する意見も存在する[9]。 欧州また、著作権法に関するEU指令を通じて加盟国への著作権法の整備を促す欧州委員会でも、欧州連合 (EU) 域内で発生している同様の問題について調査を進めている。ヨーロピアナは孤立作品を減らす取り組みに前向きな姿勢をとっている[10]。 南米
アジア諸国
裁定制度なお裁定制度が存在するからと言って孤立作品の問題が発生しないわけではないことは、2006年9月25日の大英図書館による声明でも指摘されている。裁定制度は権利保有者に無断で著作物を使用させることを公権力が承認するのと同義であり、申請者から見れば本来はパブリックドメインになっている可能性があり金銭負担を必要としないはずの著作物の使用に補償金を負担させられると言う側面があるため、制度の存在が直ちに孤立作品問題の根本的な解決策となるものではない。 また制度の根拠が途上国を対象とする特例を定めたベルヌ条約附属書第4条の強制許諾手続であるため、G8加盟の先進国である日本やイギリス、カナダにおける裁定制度は条約違反であると主張する学説[要出典]もある。 日本と孤児著作物著作権法第67条では、権利の所在が不明な著作物の利用に際しては、文化庁長官の裁定を仰ぎ、補償金を国庫に供託することで利用が可能となる。 ただし、新聞・雑誌・インターネット上などで情報の募集を掲載するなど、権利の所在を探す為の「相当の努力」を行ったにもかかわらず、その所在が掴めなかった場合でなければ裁定は受けられない。裁定を求める場合は、文化庁に所定の書類を提出したうえで長官が使用の可否を判断するが、許可された際に支払う補償金の額は文化審議会著作権分科会により決定される。
関連する問題また、権利の所在は判明している件については当記事の主題とは厳密に言えば一致しないが、「採算が合わない」などの理由で公開されずに死蔵されている著作物も増加傾向にあり、そうした状態に置かれている著作物も権利の所在が不明な著作物と併せて近年、問題視する動きが強まっている。 脚注注釈
出典
関連項目
外部リンク
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