百日咳
百日咳(ひゃくにちぜき / ひゃくにちせき、英語: whooping cough、Pertussis)は、主にグラム陰性桿菌の百日咳菌(Bordetella pertussis)による呼吸器感染症の一種[1]。特有の痙攣性の咳発作を特徴とする急性気道感染症である[2]。 百日咳ワクチンで予防可能な小児疾患であるにも係わらず、発病率が上昇している唯一の疾患である[2]。1歳以下の乳児は重症化しやすく、6カ月以下では死亡の危険性が高い[3]。1990年代以降、先進国での感染者数は増加傾向で、発症者の30%は成人である[2]。 疫学感染力が強く、患者との濃厚接触者の80%ほどに感染する[2]。WHOの発表では、世界の患者数は年間1,600 万人で[3]。約70%は5歳未満の幼児で[2]、特に6カ月未満が 38%。1歳未満の小児の死亡率は約1 - 2%で、生後1カ月間が最も高い[2]。世界的に存在している感染症で予防接種を受けていない人々と免疫が減衰した人の間で[3]、地域的な流行が2 - 4年毎に起きる[2]。一年を通じて発生が見られるが、春が多い[4]。 予防はワクチンによるが、獲得した免疫は約4 - 12年間[5]で減衰し感染を防ぐことが出来ない状態まで低下する[3]。世界的に成人の感染者数が増加しているが、これは親のワクチン忌避により免疫を獲得せずに成長する子どもが増えていることも一因である[2]。さらに、免疫を持たない青年・成人層・不顕性感染者が病原巣(感染源)になっていると指摘されている[6]。このように、ワクチン不接種者およびワクチンによる免疫獲得者の成人層で免疫が減衰した集団が病原巣になる現象は、水痘・帯状疱疹ウイルスや風疹ウイルス[7]などの感染症でも報告されている[8][9]。痙咳期の3週目以降の患者は感染源とならない[2]。 ![]() No data Less than 50 50–100 100–150 150–200 200–250 250–300 300–350 350–400 400–450 450–500 500–550 More than 550 歴史
アメリカ合衆国
日本
百日咳発生データベース
原因![]() グラム陰性桿菌の
による飛沫感染[26]。1906年にジュール・ボルデがオクターヴ・ジャング (Octave Gengou) と共に発見し、後にボルデにちなんだ学名が付いた(1952年)。Bordet-Gengou bacillus; bacillus of Bordet and Gengouとも呼ばれる。 百日咳菌の特性菌の大きさは 0.2〜0.5 × 0.5〜1.0 μm のグラム陰性短桿菌で、偏性好気性で鞭毛はなく非運動性である。線維状血球凝集素(FHA)、パータクチン(69KD 外膜蛋白)、凝集素(アグルチノーゲン2.3)などの定着因子と百日咳毒素(PT)、気管上皮細胞毒素、アデニル酸シクラーゼ、易熱性皮膚壊死毒素などの物質が病原性に関与している。このうち、百日咳毒素はGタンパク質αサブユニットのうちGiをADPリボシル化することで、細胞毒性を発揮する。 症状小児は重症化しやすい。一方、成人では咳が長期間続くが、特徴的な咳(whoop)がほとんど症状が出ない感染者もいる[3][2]。パラ百日咳は臨床的に百日咳と区別できないが、比較的軽症で致死率は低い[2]。 小児の場合この病気は回復までに約3ヶ月を要し、通常7-10日間程度の潜伏期間を経て発症する[3]。
咳発作は夜間が起こりやすく、24時間で平均15回程度。発作時には嘔吐、チアノーゼ、無呼吸、顔面紅潮・眼瞼浮腫(百日咳顔貌)、咳による呼吸困難からの低酸素症により脳、眼、皮膚、粘膜への出血症状が見られ、尿失禁、肋骨骨折、臍ヘルニア、直腸脱、失神も見られる[3][2]。発作による体力消耗は激しく、不眠や脱水、栄養不良等が著しい場合は入院治療が必要。 成人の場合咳症状の回復までに約3ヶ月を要する。主要な経過は小児と同等であるが、ほとんどが軽症であるため見逃され易い。 診断パラ百日咳は培養または蛍光抗体法により鑑別する。 百日咳の病原体検査には菌培養、血清学的検査、遺伝子検査があり[6]、確定診断には「鼻咽頭ぬぐい液」「喀痰」からの原因菌の分離同定、あるいは LAMP法もしくは PCR法による遺伝子検索が必要である[27]。 カタル期および痙咳期早期症例の80-90%が百日咳菌陽性となる[2]が、実際には菌の分離同定は困難なことも多い[6]。4週間以内では培養と核酸増幅法を、4週間以降は確定血清診断で百日咳菌凝集素価の測定を行う。培養には、ボルデ・ジャング(Bordet-Gengou)培地やCSMなどの培地を用いる。菌はカタル期後半に検出されるが、痙咳期に入ると検出されにくくなる[6]。 特異度の高い検査法として百日咳菌LAMP法(loop-mediated isothermal amplification)[28]を用いる[23]。 百日咳診断(届出)基準2018年1月1日以降の百日咳診断(届出)基準[28]モダンメディア 2016年9月号より引用、
鑑別診断アデノウイルス、マイコプラズマ、クラミジアの感染症との鑑別が必要[3][6]。 治療予防→詳細は「三種混合ワクチン」を参照
小児期に三種混合ワクチン(DPTワクチン)による予防接種が行われている。日本での乳幼児期の三種混合ワクチン(DPT)の接種回数は4回。1994年10月からはDPTワクチンの接種開始年齢が、2歳から3カ月に引き下げられた。結果、接種率上昇とともに小児における患者数は著明に減少した[29]が、2017年現在急性灰白髄炎を加えた四種混合ワクチン(DPT-IPV)による予防接種が行われている。アメリカ疾病予防管理センターは、成人も10年おきにTdapワクチンの予防接種を受けることを、強く推奨している。ハーバード大学医学部も同様に、高齢者に百日咳の予防接種を推奨している[30]。 医療現場でのマスク着用は、感染伝播防止に有効と考えられる[31]。 予後菌の排出が多く周囲を感染させやすい時期は、カタル期の感染後7日から3週間の時点までであるが、カタル期に百日咳を診断することは難しく感染拡大しやすい。通常は感染から3週目以降は感染性がなくなる[2]。 感染者の6割程度は5歳未満で2歳未満の子供の場合は重症化しやすく、6ヶ月未満の小児の死亡率が高い。母親からの経胎盤移行抗体は起きないと考えられている[15]。感染や複数回のワクチン接種で免疫を得られるが、生涯有効な免疫にならない場合もある。 全数把握疾患への変更従来日本では、百日咳は小児科定点での報告とされていた。しかし、2006年以降の小児科定点(全国3,000カ所の指定医療機関)から報告される小児以外の症例は、ほんの一部と考えられていた。既に成人層の感染者が小児を上回っている中で、小児以外の症例を確実に把握するには、現行の発生動向調査体制では十分ではない[32]。集団感染の早期探知や感染拡大の防止に対し、有効な施策が必要であると指摘されている。 2018年1月1日、小児科定点報告から全数報告対象に変更された[23]。 関連法規出典・脚注
関連項目外部リンク
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