脳の10パーセント神話(のうの10パーセントしんわ、英: ten percent of the brain myth)とは、「ほとんど、あるいはすべての人間は脳の10%かそれ以下の割合しか使っていない」という長く語り継がれている都市伝説である。この伝説の誤った引用元として、アルベルト・アインシュタインを含む多数の異なる人物が示されることがある[1]。この伝説では、「人間はこの未使用の潜在能力を解放することで知能を高めることができる」という示唆が導かれる。
この都市伝説の起源である可能性があるものの1つは、1890年代にハーバード大学の2人の心理学者ウィリアム・ジェームズとボリス・サイディズが唱えた人間の余剰能力に関する仮説である。その仮説は天才児ウィリアム・ジェイムズ・サイディズへの英才教育においてテストされた。その後ジェームズは一般の聴衆に対して「人々は自らの知的潜在能力のごく一部しか経験していない」と語ったが、これは妥当な主張だった[5]。1936年、アメリカの作家ローウェル・トーマス(英語版)はデール・カーネギーの著書『人を動かす』に寄せた序文の中でこの考えを要約し、虚偽の正確な数字をつけ加え、「ハーバード大学のウィリアム・ジェームズ教授は平均的な人間はその知的潜在能力の10%しか発揮していないと言っていた」と書いた[6]。この本は10%という数字を利用した最初の例ではなく、それ以前からセルフヘルプ運動の中でこの数字は出回っていた。例として、Mind Myths: Exploring Popular Assumptions About the Mind and Brain と題する本のある章には「人間の脳の可能性に限界はない。科学者や心理学者によれば我々は脳の能力の10%しか使っていない」と書かれたセルフヘルプ運動の広告(1929年の『ワールド・アルマナック』に掲載されたもの)が紹介されている[7]。
この神話と深く関連するいくつかの書籍・映画・短編小説が発表されている。小説『ブレイン・ドラッグ』(英:The Dark Fields) とその映画化作品、ジム・ブッチャーよるシリーズドレスデン・ファイルの第9巻『ホワイト・ナイト』、映画『リミットレス』(一般的な10%の代わりに20%としている)、少年漫画の『PSYREN_-サイレン-』、映画『LUCY/ルーシー』、テレビドラマ『SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜』等の作品が含まれるが、いずれの作品でも薬物の使用によって未使用の脳の領域にアクセスできるという発想が前提にある[17]。特に『LUCY/ルーシー』では10%の限界を超えた途端に神のような能力を発揮し始める登場人物が描かれている。(一方で作中では10%という数字はある特定の時点でのもので、一生のうちに脳の潜在能力の10%のみが使用されているわけではないことが示唆されている)
^University of Oxford (2009年10月16日). “Juggling Enhances Connections In The Brain”. ScienceDaily. 2012年5月30日閲覧。 “"We've shown that it is possible for the brain to condition its own wiring system to operate more efficiently."”
^Beyerstein, Barry L. (1999), “Whence Cometh the Myth that We Only Use 10% of our Brains?”, in Della Salla, Sergio, Mind Myths: Exploring Popular Assumptions About the Mind and Brain, Wiley, p. 11, ISBN978-0471983033
^Larsen-Freeman, Diane (2000). Techniques and Principles in Language Teaching. Teaching Techniques in English as a Second Language (2nd ed.). Oxford. Oxford University Press. p. 73. ISBN978-0-19-435574-2.
^Kalat, J. W. (1998). Biological Psychology (6th ed.). Pacific Grove: Brooks/Cole Publishing Co.. pp. 43. ISBN978-0-534-34893-9
^ abcBeyerstein, Barry L. (1999). “Whence Cometh the Myth that We Only Use 10% of our Brains?”. In Sergio Della Sala. Mind Myths: Exploring Popular Assumptions About the Mind and Brain. Wiley. pp. 3–24. ISBN0-471-98303-9
^The skull had been enlarged by pressure from the hydrocephalus fluid. Her brain was thinly spread, but occupied her entire braincase, and its thickness was such that she had a brain volume of approximately 200 cm3. The woman had been told all her life that she had only 15% of normal brain mass, but those who told her this had not taken the form of her cranium into account. http://www.metafilter.com/26688/Well-what-about-pain