落とし穴
![]() 落とし穴(おとしあな)は、罠の一種である。陥穽(かんせい)とも言う。地面に穴を掘ってそれを隠蔽し、穴の上を通ろうとする動物を落とそうとするものである。その有り様から転じて、他者を陥れる策略なども「落とし穴」「陥穽」と呼ぶ。 概要適当な大きさの穴を掘った後に残った土を取り除き、ある一定以上の重量がかかると簡単に折れてしまうような木の枝を組合わせて穴の上に被せ、景色との違和感がないように草や葉をばら撒いて隠蔽するという構造が基本である。狩猟や戦争、遊び、いたずらなどに用いられる。 各種の落とし穴Tピット→詳細は「en:Trapping pit」を参照
考古学においてはTピット(T-pit)、すなわちTrap(罠)としてのピットと呼ばれる。 日本列島では、後期旧石器時代の遺跡から落とし穴(陥し穴[注釈 1])の遺構と見られる土坑が検出されている。静岡県三島市の初音ヶ原遺跡では、台地の尾根を横切るように並んで幾重かに巡らされた、深さ1.5~1.6メートルで、上部がラッパ状に開く60基の落とし穴が検出されている[1][2]。また、同県駿東郡長泉町の東野遺跡や、神奈川県横須賀市の打木原遺跡でも同様の落とし穴が見つかっている。初音ヶ原遺跡や打木原遺跡のものは、姶良丹沢火山灰(At層)堆積層より下で検出されたことから、約30000年前のものと推定されている[1]。 縄文時代早期から晩期頃において動物を捕まえる狩猟の方法として落とし穴がさかんに掘られていた。非常に深く溝状に掘られたり、逆茂木を穴の底に立てたりして、獲物が動けないように工夫したものが多い。 それぞれ、まとまって複数並んで列をなすことが多く、このことは集団で狩猟獣であるシカ(ニホンジカ・エゾシカ)やイノシシ、カモシカを追い込んで穴に落とし、捕獲したことをあらわすものと考えられる。概して遺物をともなわないケースが多い。このような大がかりな狩猟、しかも待ち伏せ狩猟が行われたことは、早期以降の縄文時代が本格的な定住生活の行われた時代であったことを傍証している。なお、北海道ではイノシシやカモシカが自然分布しないため、落とし穴は専らエゾシカを対象とした構造になっている。 ブービートラップ→「パンジ・スティック」も参照
戦場でのブービートラップとしても使用される。例えば、ベトナム戦争においては南ベトナム解放民族戦線がゲリラ戦法の一つとして行っていた。穴を掘った後に草葉などで覆うのは同様であるが、罠にかかったアメリカ兵を殺傷すべく穴底に木の枝や竹などの尖った部分を上にして備え付けてあった[注釈 2]。 押し・おとし落とすと同時に木や石によって、対象を圧死させる仕掛けを「押し」といい、『広辞苑 第六版』(岩波書店)にも記載されている。文献上、『古事記』『日本書紀』から確認でき、「押機」と表記されており、宇陀の豪族である兄宇迦斯(えうかし)が神武天皇を欺いて、落とそうとするも、弟の弟宇迦斯(おとうかし)が帰順してこの仕掛けを教え、逆に脅された兄宇迦斯自身が落ちて圧死している。 昆虫採集昆虫採集の方法として、虫を捕まえるためのトラップを仕掛ける場合があるが、その代表的な方法に、紙コップなどを地面に埋めた落とし穴式のものがあり、ピットフォールトラップと呼ばれる。 生物の用いる落とし穴食虫植物には、ウツボカズラやサラセニアなど、葉につぼや筒状の穴を作り、そこに落ち込んできた虫を消化するものがあり、そのような方法を落とし穴式と呼んでいる。虫を集めるように入り口に蜜がでたり、虫が落ちやすいように入り口に逆棘があったり滑りやすくなっていたりと人工のそれにも似た仕組みをもつ。 また、ラン科やウマノスズクサ科の花にはやはり落とし穴のような仕組みがある例がある。これはやって来た虫をとじ込め、脱出時に花粉媒介や受粉を行なわせるようになっているものである。 昆虫では、いわゆるアリジゴクの巣がこれに近い。 日本語における落とし穴物理的な存在ではない「落とし穴」もある。例えば、ある者が別の者を陥れる策略の比喩として使われる。また、「陥穽」と言う時は特に、何かが致命的な欠点を持っていることや、あるいはその欠点から重大な問題が発生することの指摘が行われる場合が多い[要出典]。 また、単に「盲点」という意味や、誤った判断をした場合に使われることもある。 (例)中国語と日本語では全く同じ漢字を使っても意味が全然違う単語がある。これが中国語を学習するうえでひとつの「落とし穴」になっている。 落とし穴による事故
大雨などで道路が冠水した際にマンホールや側溝の蓋が開いてしまい落とし穴と化す、濁った水で穴が見えない状態となり、落ちれば突然深い水中の流れに飲み込まれてしまう。
高山や氷河などでクレバスと呼ばれる天然の落とし穴が発生する事がある、雪原の下に割れ目が隠れており雪を踏み抜いてしまうと氷の割れ目に落ちてしまう。
最古?の落とし穴をめぐる話題静岡県三島市川原ヶ谷に所在する初音ヶ原遺跡(はつねがはらいせき)では、2万7千年以上前の土層に多数の丸い穴の跡があるのが見つかり、大型動物狩猟用(とくに一列に並んでいることからシカの群れ用)の落とし穴ではないかと見られている[6]。国立科学博物館 人類史研究グループ長の海部陽介は、これを3万年以上前の土層とし、旧石器時代の落とし穴は日本列島にしかなく、発見された世界最古の落とし穴とした[7]。さらに、神奈川県横須賀市の船久保遺跡では、3万年前の土層からシカ用の落とし穴ではないかと考えられる四角い穴が多数見つかっている[8]。 鹿児島県種子島の中種子町の立切遺跡では、35,000年以上前とされる土層から落とし穴とみられる土坑が見つかった[9][10]。現在、こちらが最古とされている[10]。 海外では、フランスのマルヌ県で中石器時代初頭の約1万1千年前のものが見つかっている[11]。 脚注注釈出典
関連文献
関連項目外部リンク
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