箏を弾く女性/1878年(明治11年)12月の作。アメリカ議会図書館収蔵 。
長谷川 雪堤(はせがわ せってい、文化10年1月〈1813年の2月頃[注 1]〉- 明治15年〈1882年〉3月15日)は、江戸時代後期後半[注 2]から明治時代初期にかけての日本の絵師。氏姓は後藤を名乗る[1]が、本姓は金沢である可能性が高い。画姓は父に倣って長谷川を名乗る。名は宗一。画号は、雪堤のほか、雪江(せっこう)・梅紅・松斎(しょうさい)・巌松斎・雪汀がある[1][4]。長谷川雪旦の長男[1]。弟子に長谷川雪塘などがいる。
略歴
江戸出身[1]。文政2年(1819年)生まれともいわれる[1]が、誤りと考えられる。早くから父・雪旦に学び、粉本類には父子で模写したものが多く見られる。父譲りの技量を発揮し、名所絵や人物画を多く残した。なかでも、天保10年(1839年)刊行の地誌『相中留恩記略』で挿図を担当したことは、父が『江戸名所図会』の挿図を担当して名を成したのと同様、名所絵師としての雪堤の名を高めた。
また、尾張藩の「藩士名寄」(※藩士の務め書)に名は無いものの、同藩の同朋格として遇されたという。
父・雪旦が天保14年(1843年)に死去してのちは、画業もやや精彩を欠いた。
1882年(明治15年)3月15日に死去。享年70、満年齢69歳であった。父と同じく当時は浅草新谷町(のちの浅草芝崎町。現在の東京都台東区西浅草3丁目)にあった妙祐山幸龍寺に葬られた。その後、寺は関東大震災で罹災・焼失し、昭和初期になってから墓地ともども世田谷区北烏山へ移転している。
弟子としては、師と同じく唐津藩御用絵師を務めて明治時代以降も唐津で活動した長谷川雪塘がいる。また、娘の長谷川雪真(本名・志奈子)も絵師であるが、画歴は詳しく分からない。「親族と一門」節も参照のこと。
主要作品
父・雪旦とともに名所図会の挿図を数多く手掛けたことで知られ、板本類(摺物)の遺作は多い[6]。一方で、肉筆画はあまり残されていない[6]。
摺物
『相中留恩記略(そうちゅう りゅうおん きりゃく)』 [2]
- 天保10年(1839年)刊行[3]。相模国(一部に武蔵国を含む)の名所・旧跡のうち、徳川家康にゆかりの事績を記録した図会形式の地誌[2]。「相中」は相模国の国中全体、「留恩」は徳川家康(東照神君)が留めた恩(事蹟)、「記略」は記録の意。著者は相模国鎌倉郡渡内村(現・神奈川県藤沢市渡内)の名主・福原高峯(福原左平太)[2]で、父・福原高行の遺志を継ぎ、林家や江戸幕府の地誌編集事業と密接な関係を持ちながら同書を編纂した[3]。雪堤は挿図を担当し、名所絵師として評価を高めている。
- 2000年(平成12年)7月7日付で藤沢市指定重要文化財となった[3]。藤沢市文書館 収蔵(寄託)[3]。
『調布玉川惣画図(ちょうふ たまがわ そうがず)』 [7][8][10][2]
- 弘化2年(1845年)刊行。全1巻。玉川(※多摩川の当時における名称)の水源域にある大菩薩嶺から河口(武蔵国荏原郡羽田村、現・東京都大田区羽田付近)までの風物を描いた全長13メートルに及ぶ巻子仕立ての地誌[8][10]。往時の玉川両岸の村落・名勝旧跡・渡船場・街道・宿場町などの沿岸風景を精緻に描いている。同書の製作は、武蔵国多摩郡関戸村(現・東京都多摩市関戸、旧・神奈川県多摩郡関戸村)の名主・相沢伴主(1766-1849年。華道流派・允中流の祖[10])[10]が、武蔵国多摩郡小河内郷原村(現・東京都西多摩郡奥多摩町原、旧・小河内村原)にある温泉で湯治中の天保10年(1839年)[8]、「玉川の源流はどこにあるのか」と疑問に思ったことをきっかけに始まった[8]。著者は相沢伴主。挿図は長谷川雪堤が担当。
- 多摩市 所有、多摩市教育委員会 管理、パルテノン多摩収蔵庫 収蔵[12]。1988年(昭和63年)11月1日付で[12]多摩市指定有形文化財となった[8][10]。
『成田名所図会(なりた めいしょずえ)』 [13][14][15]
- 『成田参詣記』ともいう[14]。嘉永7年(1854年)序[14]、安政5年(1858年)刊行[13]。図会形式の地誌。全5巻。板元は新勝精舎。原著者:中路定俊(1783-1838年)[13]、追補著者:中路定得(1821-1870年)[13]。挿図は長谷川雪堤を始めとする複数人が担当[13]。
肉筆画
親族と一門
- 長谷川雪嶺 - 雪旦の師。雪舟13代を名乗った絵師。
- 長谷川雪旦 - 安永7年-天保14年(1778年-1843年)。江戸生まれ。『江戸名所図会』の挿図で知られる、一門の第一人者。唐津藩御用絵師。
- 長谷川雪堤 - 文化10年-明治15年(1813年-1882年)。江戸生まれ。雪旦の長男で弟子。唐津藩御用絵師。
- 長谷川雪真 - 雪堤の娘で弟子。本名は志奈子。
- 長谷川雪塘 - 雪堤の弟子。唐津藩御用絵師。
- 朝岡且嶠(あさおか たんきょう) - 雪旦の弟子。
脚注
注釈
出典
参考文献
外部リンク