100のモノが語る世界の歴史 (100のものがかたるせかいのれきし、英語 : A History of the World in 100 Objects )は、BBC ラジオ4 と大英博物館 が共同企画し、大英博物館館長のニール・マグレガー が制作、出演した全100回のラジオ番組、およびそれが書籍化された図書と併催された展覧会の名称である。
平日に放送された15分間の番組内で、マクレガーは大英博物館に収蔵されている古代の遺物や産業機器、武器など、様々な所蔵美術品を用いて人類の歴史を辿った。番組は企画構想に4年をかけ、2010年1月18日にスタートし以降20週以上かけて放送された[ 1] 。番組終了後の2010年10月28日にはニール・マクレガーによる書籍『A History of the World in 100 Objects』がアレン・レーン社から刊行されており[ 2] 、番組と書籍の音声化版はダウンロード視聴も可能である。
大英博物館はこのプロジェクトで果たした役割が評価され、2011年のアート・ファンド賞 (英語版 ) を受賞した。
ラジオ番組から派生した『大英博物館展 -100のモノが語る世界の歴史』という巡回展が、2015年 から2016年 にかけて日本 でも3会場で行われ、2015年4月18日から6月28日に東京 の東京都美術館 で[ 3] 、7月14日から9月6日に福岡 (太宰府市 )の九州国立博物館 で[ 4] 、9月20日から翌2016年1月11日に神戸 の神戸市立博物館 で催された[ 5] 。また、2016年にはキャンベラ のオーストラリア国立博物館 で[ 6] [ 7] 、2017年には中国北京、上海などでも巡回展が開催されている[ 8] 。
内容
ラジオ番組情報と共に展示されているヒンドゥー教 の神「68.シヴァ とパールバティー 彫像」。
番組は「BBCラジオ4の記念碑的なプロジェクト(デイリー・テレグラフ 紙)」と評され[ 9] 、世界中から大英博物館に所蔵された100のモノを通して語られる「人間の歴史」であると紹介された。
「この番組で、私は時間を越え、地球中を回り、いかに私たち人間が2万年以上の年月をかけて世界を形作り、また私たち自身が形作られてきたのかを見ていきます。これを私は、これまで人間がつくってきたモノだけを通してお話いたします。注意深く考案され、崇められ守られ、やがて使用されて壊れ、打ち捨てられたモノたちです。土器から金色のガレオン船模型まで、石器からクレジットカードまで、様々な分野から100点だけを選びました[ 10] 。」
「モノを通して歴史を語るということは、それがエジプトのミイラであろうとクレジットカードであろうと、博物館が何のためにあるかを語ることでもあります。大英博物館は世界中から展示物を集めてきましたので、世界の歴史を語るのには悪くない場所です。もちろん、その歴史は世界の何か特定の事物についての歴史ではなく、「ある」歴史にしかならないでしょうが。
博物館にきた人々は、展示物の中から自分だけのモノを選び、時空を超えた自分だけの旅をします。ですが、私が思うに人々が本当に見つけるのは自分の歴史が他のあらゆる人の歴史と瞬間交わっていることであり、そのとき歴史は、もはや誰か特定の人物や国の歴史ではなく、終わりのないつながりの物語になるのです[ 11] 。」
番組スタートにあわせてウェブサイトも公開されたが、ガーディアン 紙によれば「(ラジオ番組そのものよりも)さらに野心的で、閲覧者が実際に持っているモノを世界の歴史に当てはめようという」双方向コンテンツの他に、番組でとりあげられた100のモノの詳細な情報と、英国内の他の博物館にある計350点の所蔵物にもリンクが貼られたサイトであった[ 12] 。ラジオ番組そのものは、今後も恒久的に同サイトからダウンロード視聴が可能となる予定である。
大英博物館では、番組でとりあげられた100のモノを簡単に見つけられるような表示がしてあり、案内図にも100のモノの位置と番号が記されている。
2010年1月18日、BBC Two のTV番組『ザ・カルチャー・ショー (英語版 ) 』では、ラジオ番組のスタートを記念した一時間の特集が放映された[ 13] 。
ラジオ番組は、第一部が2010年1月18日から2月26日までの6週間で放送され、やや期間をおいて2010年5月10から第二部第7週目が放送された[ 14] 。7月中旬に第二部が終了した後、2010年9月13日に第三部がスタート。2010年10月22日金曜日に、最後となる100番目のモノを紹介して番組は終了した。
評価
ガーディアン 紙のメイヴ・ケネディ (英語版 ) は番組を「ラジオで放送された社会現象」と評し、BBCラジオの音響部門責任者ティム・デービーは、「その成果は驚くべきものというほかない」とコメントして番組への反響がBBCの期待した以上のものであったとの見方を示した。ケネディがガーディアンに記事を書いたのは番組最終週がはじまる直前であったが、番組リスナー数は一回平均400万人以上であり、ポッドキャストのダウンロード数は累計10,441,884回にも達していた。このうち半分以上にあたる570万ダウンロードがイギリス国内からのものであった。さらに一般市民からサイトに3240件の事物のアップロードがあり、なかでも最も数が多かったのがグラスゴーの歴史家ロバート・プールからのもので、グラスゴー市にまつわる事物のみ120点がアップロードされた。また大英博物館以外の博物館から1610点のアップロードがあった他、イギリス中の博物館と遺跡のサイト計531サイトからイベントへのリンクが貼られた。「まさに前代未聞の協力関係でした」とマクレガーは語っている。番組公開後、毎日何千人もの来館者が「100のモノ」のパンプレットを手に大英博物館のギャラリーを観覧するようになり、世界各国の博物館でその手法を踏襲しようという動きがみられる。[ 15]
フィリップ・ヘンシャー (英語版 ) はインデペンデント 紙に寄稿して番組を「完璧なラジオ番組」と評価し、次のように述べている。「ラジオ4とBBCが製作した『100のモノが語る世界の歴史』ほど、人をわくわくさせる、掛け値なしに面白い番組がかつてあっただろうか? 今日まで生き延びてきた所蔵品を通して人間の文明化の歴史を辿る、シンプルで素晴らしいアイディアだ。わずか15分の番組で、我慢強く、寄り道せずに唯ひとつの物をとりあげ、紹介する。番組の終わりには視聴者は何かを学んだ気になれる。それも喜びと好奇心と共に。BBCは、今後何年もこの素晴らしい番組をその好例としてあげることができるだろう。BBCの初代会長ジョン・リース (英語版 ) 」の「知識と文化の伝播」という公共放送への考えをこれ以上ないほどに体現したものだ。」[ 16]
歴史家・コラムニストのドミニク・サンドブルック (英語版 ) は、デイリー・テレグラフ 紙で「インテリが大喜びする」番組だと述べ、「ケネス・クラーク の『西洋美術史探訪 (英語版 ) 』やジェイコブ・ブロノフスキー の『人間の進歩 (英語版 ) 』といった古典的名作TV番組にならぶ価値がある」と評価している[ 17] 。
100のモノ
何がわれわれを人間にしたのか(200万年前-紀元前9000年)
「何がわれわれを人間にしたのか?ニール・マクレガーが最初期のモノを通して解き明かします[ 18] 。」初回放送:2010年1月18日。
氷河期後食べ物(紀元前9000-前3000年)
「農耕はなぜ氷河期の後に始まったのか?手がかりは残された物の中にある[ 18] 。」初回放送:2010年1月25日。
最初の都市と国家(紀元前4000-2000年)
「人々が村から都市に移ったとき何が起こったか?5つのモノが語る物語[ 18] 。」初回放送:2010年2月1日
科学と文学の始まり(紀元前1500-前700年)
「4000年前、社会は神話と数学、記念碑を使って自己表現を始めた[ 18] 。」初回放送:2010年2月8日
旧世界、新興勢力(紀元前1100年-前300年)
「世界各地で、新興勢力が自らの優位性を誇示する物をつくりはじめた[ 18] 。」初回放送:2010年2月15日
孔子の時代の世界(紀元前500-前300年)
「古代の神殿彫刻やフラゴン(酒壺)は、偉大な人物が遺した書物 ほどにものを言うだろうか?[ 18] 」初回放送:2010年2月22日
帝国の建設者たち(紀元前300-後1年)
「ニール・マクレガーが送る、100のモノが語る世界の歴史。今週は今から2000年ほど前に世界各地にあらわれた偉大なる支配者たちを紹介します[ 19] 。」初回放送:2010年5月17日
古代の快楽、近代の香辛料(1-600年)
「2000年前の人々はどのように快楽を求めていたのか?ニール・マクレガーがその答えを探ります[ 18] 。」初回放送:2010年5月24日。
世界宗教の興隆(200-600年)
「数多くの偉大な宗教的イメージがいつどのようにして成立していったのか、ニール・マクレガーが迫ります[ 18] 。」初回放送:2010年5月31日。
シルクロードとその先へ(400-700年)
「大英博物館に収められた5つの物が、モノと思想の"移動"の歴史を語る[ 18] 。」初回放送:2010年6月7日。
宮殿の内部-宮廷内の秘密(700-950年)
「1200年前の支配者たちの生活はどのようなものだったのか?その内幕にニール・マクレガーが迫ります[ 18] 。」初回放送:2010年6月14日。
巡礼、侵略者、貿易商人たち(900-1300年)
「1000年前、貿易や戦争、宗教によって、物はどのようかに地球上を移動したのか[ 18] 。」初回放送:2010年6月21日。
ステータスシンボルの時代(1200-1400年)
「熟練の技術によって作られた、社会的地位を示す物たちをニール・マクレガーが解析します[ 18] 。」初回放送:2010年6月28日。
神々に出会う(1200-1400年)
「神々を信ずる者たちは、いかに神々に近づいていったのか?[ 18] 。」初回放送:2010年7月5日。
近代世界の黎明(1375-1550年)
「近代の黎明期における世界の大帝国をニール・マクレガーが探ります[ 18] 。」初回放送:2010年9月13日。
最初の世界経済(1450-1600年)
「1450年から1600年に行われた旅行、通商そして征服が与えた影響の跡をニール・マクレガーが辿ります[ 18] 。」初回放送:2010年9月20日。
寛容と不寛容(1500-1700年)
「16世紀と17世紀、大宗教がいかに共存しえたのか、ニール・マクレガーがお伝えします[ 18] 。」初回放送:2010年9月27日。
探検、開拓、啓蒙(1680–1820年)
「異なる世界同士が出会ったときに起きた衝突と誤解について、ニール・マクレガーが探ります[ 18] 。」初回放送:2010年10月4日。
大量生産と大衆運動(1780-1914年)
「産業化、大衆政治と列強の野望は、世界をどのように変えたのか[ 18] 。」初回放送:2010年10月11日。
現代がつくりだす物の世界(1914-2010年)
「ニール・マクレガーが、セックス、政治、経済の各側面から近現代の歴史を辿ります[ 18] 。」初回放送:2010年10月18日。
特別編
2011年5月18日にラジオ4で番組『00のモノが語る世界の歴史』の特別編が初めて放送された。これはBBCのサイトに投稿された何千もの物の中から「特別に重要」として選ばれた物をとりあげた番組である[ 20] 。番組特別編に選ばれた物は、ピーター・ルイスが応募した、若い女性を描いた油絵であった。これはルイスの叔父ブライアン・ロバーツ所有のもので、ロバーツの恋人(後の妻)ペギー・ギャロップを写した写真はがきをもとに描かれた油絵であるが、実はロバーツが捕虜 となってアウシュヴィッツ に収容されていたときに、名も知らぬユダヤ人画家がロバーツのために描いてくれた油絵であった[ 21] [ 22] 。
アート・ファンド賞
大英博物館は、『100のモノが語る世界の歴史』番組への貢献が認められ2011年アート・ファンド賞 (英語版 ) を受賞した。式典は2011年6月15日ロンドンで開かれ、同賞は賞金10万ポンドと共に英文化・オリンピック・メディア・スポーツ担当閣内相ジェレミー・ハント から大英博物館に授与された[ 23] 。
同賞審査会の議長マイケル・ポーティロ (英語版 ) は、審査員は「大英博物館のプロジェクトにおける、真にグローバルな視点に特に感銘を受けた。これは知的厳格さとオープンな心を結びつけたもので、博物館の壁をはるかに超えたものであった」と述べている[ 24] 。審査員はまた、同プロジェクトがデジタルメディアを使った画期的な新手法でリスナーと双方向に影響を与え合った点も高く評価した[ 24] 。
脚注
^ Ben Hoyle (2009年7月18日). “British Museum and BBC reveal history of world in 100 objects” (英語). Times Online. オリジナル の2011年6月24日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20110624094620/http://entertainment.timesonline.co.uk/tol/arts_and_entertainment/article6718556.ece
^ MacGregor, Neil (2010) (英語), A History of the World in 100 Objects , Penguin Books, Limited, ISBN 978-1-84614-413-4 , https://books.google.com/books?id=P9yDiLwxJQ4C&printsec=frontcover
^ 100のモノが語る世界の歴史 大英博物館展 公式ウェブサイト. “開催概要・アクセス 東京会場 ”. 2015年6月23日時点のオリジナル よりアーカイブ。2016年7月13日閲覧。
^ 100のモノが語る世界の歴史 大英博物館展 公式ウェブサイト. “開催概要・アクセス 福岡会場 ”. 2015年8月16日時点のオリジナル よりアーカイブ。2016年7月13日閲覧。
^ 100のモノが語る世界の歴史 大英博物館展 公式ウェブサイト. “開催概要・アクセス 神戸会場 ”. 2016年1月1日時点のオリジナル よりアーカイブ。2016年7月13日閲覧。
^ Pryor, Sally (2016年8月26日). “New exhibition opening at the National Museum of Australia in Canberra tells the history of two million years in 100 objects” (英語). The Canberra Times (Fairfax Media). オリジナル の2017年1月18日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20170118113902/http://www.canberratimes.com.au/act-news/canberra-life/new-exhibition-opening-at-the-national-museum-of-australia-in-canberra-tells-the-history-of-two-million-years-in-100-objects-20160823-gqz91p.html 2017年1月18日閲覧。
^ Lowrey, Tom (2016年9月8日). “A History of the World in 100 Objects explored in National Museum of Australia exhibition” (英語). Australian Broadcasting Corporation. オリジナル の2016年12月18日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20161218203354/http://www.abc.net.au/news/2016-09-08/two-million-years-of-human-history-national-museum-canberra/7826960 2017年1月18日閲覧。
^ “「大英博物館展」が上海で開幕 10月8日まで開催” . Record China . (2017年7月1日). https://www.recordchina.co.jp/b183040-s0-c70-d0000.html 2017年7月6日閲覧。
^ Gillian Reynolds (2010年1月18日). “A History of the World in 100 Objects, Radio 4, review” (英語). London: Daily Telegraph. http://www.telegraph.co.uk/culture/tvandradio/7020901/A-History-of-the-World-in-100-Objects-Radio-4-review.html
^ Neil MacGregor, Programme 1, broadcast 18 January 2010
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^ Bunz, Mercedes (2010年1月19日). “Beyond 100 objects: exploring the BBC's online history of the world” (英語). London: The Guardian. https://www.theguardian.com/media/pda/2010/jan/18/100-objects-bbc-online-history 2010年4月23日閲覧。
^ “History of the World: Culture Show Special ” (英語). BBC The Culture Show (2010年1月18日). 2017年6月23日閲覧。
^ Elisabeth Mahoney (2010年5月18日). “A History of the World in 100 Objects” (英語). London: The Guardian. https://www.theguardian.com/tv-and-radio/2010/may/18/history-of-the-world-100-objects 2010年6月10日閲覧。
^ Maev Kennedy (2010年10月14日). “Radio 4's A History of the World in 100 Objects draws to a close” (英語). The Guardian. https://www.theguardian.com/media/2010/oct/14/radio-4-history-world-objects
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^ Jessica Elgot (2011年5月19日). “He put colour in her cheeks: did her smile save his life?” (英語). Jewish Chronicle . http://www.thejc.com/news/uk-news/49167/he-put-colour-her-cheeks-did-her-smile-save-his-life
^ Mark Brown (2011年6月15日). “British Museum wins Arts Fund prize” (英語). The Guardian. https://www.theguardian.com/culture/2011/jun/15/british-museum-wins-arts-fund-prize
^ a b “British Museum scoops £100,000 Art Fund Prize and is crowned 'Museum of the Year' ” (英語). The Art Fund . 2011年6月19日時点のオリジナル よりアーカイブ。2017年6月26日閲覧。
参考文献
関連項目
外部リンク