インディペンデンス級沿海域戦闘艦
インディペンデンス級沿海域戦闘艦(インディペンデンスきゅうえんかいいきせんとうかん、英語: Independence-class littoral combat ship)は、アメリカ海軍の沿海域戦闘艦(LCS)の艦級。アメリカ海軍の関連団体であるアメリカ海軍協会(USNI)では哨戒艦[1]、ジェーン海軍年鑑ではフリゲートとして種別している[2]。 来歴沿海域戦闘艦のコンセプトは、1998年、当時海軍大学校(NAVWARCOL)の校長であったアーサー・セブロウスキー提督が提唱したストリート・ファイター・コンセプトに由来する。これは、同提督が提唱し、アメリカ海軍の新たな指導原理として採用されたネットワーク中心戦 (NCW)の概念に基づき、アメリカ海軍が採るべき方針について洞察するなかで見出されたもので、従来のハイ-ロー-ミックスの概念に起源を有しつつも、これを根本から覆している、きわめて大胆なコンセプトであった。スプルーアンス級駆逐艦とオリバー・ハザード・ペリー級ミサイルフリゲートに見られるような従来のハイ-ロー-ミックス・コンセプトにおいては、高戦闘力・高コストのユニットが前線に配置され、低戦闘力・低コストのユニットは後方など脅威レベルの低い区域に配置される。これに対し、ストリート・ファイター・コンセプトで建造される艦は、低コストではあるが、NCWを活用して強力な戦闘力の発揮を導き、かつ、その名のとおりに沿海域の前線で攻撃的に活用されるのである[7]。 当時、アメリカ海軍は既に、新世代の水上戦闘艦のあるべき姿としてSC-21コンセプトを採択し、これに基づいて巡洋艦級のCG-21、駆逐艦級の DD-21の整備計画を策定中であったが、SC-21計画は2001年に突如中止され、ストリート・ファイター・コンセプトを導入しての再計画が行なわれた。これは、下記の2点について、従来のSC-21計画には重大な問題が内包されていることが判明したことによるものである[7]。
また冷戦終結後より、アメリカ軍は戦争以外の軍事作戦(MOOTW)のニーズ増大に直面していた。麻薬戦争では、密輸阻止を目的とした海上治安活動が行われていたが、沿岸警備隊だけでは戦力が不足しており、アメリカ海軍も支援にあたっていた。海軍は、主としてオリバー・ハザード・ペリー級、スプルーアンス級、アーレイ・バーク級を充当していたが、スプルーアンス級およびアーレイ・バーク級では重厚長大に過ぎ、一方で小型のオリバー・ハザード・ペリー級では、密輸業者が使用する高速船を追蹤するには速力不足であった。また、スプルーアンス級は2000年頃、オリバー・ハザード・ペリー級も2010年頃の退役が見込まれていたことから、代替艦の建造が必要になっていた[8]。 このことから、SC-21計画中止後の再編成において、ミサイル巡洋艦『CG(X)』、ミサイル駆逐艦『DD(X)』との組み合わせのもと、MOOTW任務に適合する新型水上艦として、ストリート・ファイター・コンセプトをより具体化して計画されたのが、沿海域戦闘艦LCSである[7][8]。 設計![]() 本級は、LCS計画に対してジェネラル・ダイナミクス(GD)社が提出した設計にもとづいており、特徴的な三胴船(トリマラン)型を採用している。これは、GD社と米海軍研究所(ONR)の研究や、イギリスの国防評価研究庁(DERA)の実験船「トライトン」の運用実績を踏まえた決定であった。オースタル社がフレッド・オルソン社向けに建造した高速フェリーを参考に、防水区画数の増加や溶接技術の管理など軍艦構造として設計されている[9]。船質としてはアルミニウム合金を採用したが[2]、このためもあり、就役後には深刻な電解腐食の問題が発生した[1]。これを受けて、二番艦「コロナド」では新たな耐腐食表面処理が行われ、三番艦「ジャクソン」では試験済の腐食管理装置技術が導入された[10]。 主機関はCODAG方式を採用しており、巡航機としてV型20気筒のMTU 20V8000 M90ディーゼルエンジン、加速機としてゼネラル・エレクトリック LM2500ガスタービンエンジンをそれぞれ2基ずつ搭載する。それぞれのエンジンにバルチラ社製のウォータージェット推進器を1基ずつ備えることから、4軸推進艦となっている。なお、三胴船型の採用によって、排水量のわりに船幅を広げることができたため、甲板面積の拡大に益した一方で、旋回性能の低下が懸念されたことから、これを補うために船首には隠顕式のアジマススラスター1基を搭載している[1][2][9]。 2016年8月には、ハワイ出港後の「コロナド」で軸系に問題が生じ、帰港するというトラブルが報告された[11]。なお、対抗馬にあたるフリーダム級でも、アメリカ海軍で採用実績がないロールス・ロイス社製のガスタービンエンジンを採用したこともあって機関部のトラブルが散発しており、信頼性に疑義が呈されたことがあった[12]。 装備LCSのコンセプトに基づき、本級では自衛用の最低限の装備を基本として、これに加えて、任務に対応するための各種装備を柔軟に搭載することを計画している。これらの装備は、艦のC4ISRシステムを中核として連接され、システム艦として構築される。 固定装備![]() アメリカ軍の新しい戦闘指導原理であるネットワーク中心戦 (NCW)コンセプトに準拠して開発された本艦にとって、最重要の装備といえるのがC4ISRシステムである。戦術情報処理装置としては新開発のICMS(Integrated Combat Management System)が搭載された[2]。これはオランダのタレス・ネーデルラント社のTACTICOSを元にした派生型である[13]。 主センサーとしては、比較的簡素なシージラフAMB 3次元レーダーが搭載されている[1][2]。 艦砲としては、艦首甲板にユナイテッド・ディフェンス社のMk.110 57ミリ単装速射砲を装備する。砲射撃指揮装置(GFCS)としては、電子光学式のシースター社製サファイアIIIを用いている。また近接防空ミサイル・システムとして、後部上部構造物上にRIM-116 RAMの11連装発射機であるSeaRAMを搭載する[1][2][9]。 ミッション・パッケージ![]() →詳細は「沿海域戦闘艦 § ミッション・パッケージ」を参照
沿海域戦闘艦のコンセプトにもとづき、本級は装備のモジュール化を進めている。ミッション・パッケージはフリーダム級と共用化されており、これを収容するスペースとして、第2甲板の後半部がミッション・ベイとされており、面積は実に15,200 sq ft (1,410 m2)に及ぶ[1][2][9]。 ミッション・パッケージとしては、当初は対水上戦・対潜戦・対機雷戦の3種類が開発されていたが[14]、いずれも開発が難航した[15]。特に対潜戦パッケージは、開発当初は沿海域での通常動力型潜水艦の探知に用いることを想定していたのに対し、戦略環境の変化に伴って外洋域での原子力潜水艦の探知に用いるように方針が転換されたこともあって、最も深刻な問題に直面し、結局、2022年に開発中止となった[15]。 2024年にはミッション・パッケージを積み替えるというコンセプトそのものが断念され、本級は対機雷戦パッケージ[16]、フリーダム級は対水上戦パッケージを搭載することになった[17]。この方針決定の前には、本級にも艦対艦ミサイルを搭載する試験が行われたことがあり[16]、2014年7月後半には、2番艦「コロナド」の飛行甲板の片隅にNSMの発射筒を仮設して、搭載試験が行われた[18]。また2016年の環太平洋合同演習では、同艦の艦首甲板にハープーン2連装発射筒2基を仮設して、実射試験が行われた[19]。更にヘリコプター甲板へのMk.70 PDS(Payload Delivery System)の搭載も試みられ、2022年には8番艦「タルサ」、2023年には14番艦「サヴァンナ」で試験が行われた[16]。ただし対機雷戦に専従する方針が示されたことから、今後はSSMやPDSを搭載することはないものとみられている[16]。 なおミッション・ベイの広大なスペースは車両甲板としても活用でき、右舷側のサイドランプを用いてRO-RO機能を発揮することもできる。また艦尾側にも門扉があり、複合型高速艇を迅速に発進・回収可能な、オフボード・ランチ・アンド・リカバリー・システムが設置されているが、これは、対機雷戦用の無人艇にも対応している[1][2][9]。
艦載機ミッション・ベイ上部の艦尾甲板には7,300 sq ft (680 m2)のヘリコプター甲板が設定されており、上部構造物後端部は床面積3,500 sq ft (330 m2)の格納庫とされている[1]。搭載機はミッション・パッケージに応じて決定されるが、MH-60R/Sヘリコプターのみであれば2機、混載であればMH-60R/Sヘリコプター 1機とMQ-8無人航空機3機を搭載できる[1]。 同型艦一覧表全艦、ジェネラル・ダイナミクス社製。
運用史2021年度アメリカ合衆国軍事予算案において、アメリカ海軍は一番艦から四番艦を予定より10年早い2021年に退役させることを盛り込んだ[21]。これに関して、アメリカ海軍作戦部長マイク・ギルデイ提督は、2020年3月2日のWEST会議の席上で「我々はこれを数年前に決定していた。五番艦以降、特に2015年にブロック発注した艦に作戦能力を与えるために、船体のメンテナンスとエンジニアリングに関して我々を悩ませ続け、艦を海上に送り出すことを妨げていた問題が何であったかをよりよく理解できるように。最初の4隻でより多くの試験を行う必要があると決断した。… 我々は最初の4隻を試験に投入し、後続艦のようにアップグレード費用を投下することはしなかった。… 最初の4隻は戦力に致命的に影響するものでもない。… 単に投資へのリターンが得られなかっただけだ。」と発言している。また、最初の4隻を海上任務に就けるよう改修するには、20億ドルの追加コストが必要になるという意見もある[22]。 2020年6月20日には、アメリカ海軍が「インディペンデンス」を2021年3月をもって退役させ、同級の「コロナド」の他フリーダム級の一番艦「フリーダム」および二番艦「フォートワース」とともに予備役に編入することを発表した[23][24]。2024年には15隻を現役に残してアヴェンジャー級掃海艦の後継とすることが発表された[16]。 登場作品映画
アニメ
ゲーム
脚注注釈出典
参考文献
外部リンク
|
Portal di Ensiklopedia Dunia