カールグスタフ (無反動砲)
カールグスタフ 84mm無反動砲(スウェーデン語: Carl Gustaf Granatgevär[注 1]、英: Carl Gustaf 84 mm recoilless rifles)は、スウェーデンで開発された84mm口径の無反動砲である。 来歴カールグスタフ・システムの開発は、1940年代初期から中期にかけて行われた実験的研究にさかのぼる[2]。まずは20mm口径で無反動砲の原理を導入した対戦車ライフル(カールグスタフ pvg m/42)が開発され、良好な成績を収めたものの、折からの第二次世界大戦で登場したT-34やVI号戦車、V号戦車パンターといった新世代の戦車に対して20mm口径では威力不足と判断され、大口径化が志向されることになった[3]。37mm口径、47mm口径を経て、19世紀の大砲で用いられていた84mm口径が採択されることになり[3]、試作品は1946年に完成した[2]。 1948年、最初の量産型であるM1はスウェーデン軍でm/48として装備化された[1]。1963年には小改良型のM2が登場し、1964年より装備化されて、M1を速やかに代替した[1]。スウェーデン軍での制式名は変わらなかった[4]。また1991年には軽量型のM3、2014年には更に軽量化を進めたM4が登場した[1]。 なお開発はカールグスタフ造兵廠 (Carl Gustafs stads gevärsfaktori) により着手されたが、まもなくFFVオードナンス社に切り替わり、後にサーブ・ボフォース・ダイナミクス社の傘下に入った[2]。
設計砲本体本砲は信頼性が高く頑丈な設計で、悪条件下でも長く運用できるよう配慮されている[2]。基本構造としては、ライフリングを施した砲身と、円錐形のベンチュリ・ファンネルを取り付けた閉鎖機を中核として、前方に2つの握把、中央付近に肩当てを取り付けた構成となっている[1][5]。M1・2では全鋼製だったが、M3では砲身の内筒(ライナー)と閉鎖機のベンチュリのみ鋼製とし、砲身の外層部は炭素繊維とエポキシ樹脂の積層構造、その他の外装部品はすべてアルミニウムまたはプラスチック製とすることで軽量化を図った[2][4]。またM4では、砲身のライナーをチタン製とし、またベンチュリの設計も見直すなどして更に軽量化を図っているほか、オプション装着用のピカティニーレールも装備された[1]。砲身命数管理のため発射弾数のカウント機能も追加されたほか、照準器と砲弾の通信用のケーブルも設置された[6]。 本砲は無反動砲として、発射薬の燃焼によって生じるガスの一部を後方に噴出させることで、発砲時の反動を相殺している[2][1][5]。装填方式は後装式で、ベンチュリーの固定ストラップを外し、ベンチュリーを横に回転させて閉鎖機を開放[2]、弾薬を装填したのち、引金を引くと薬莢の片側についている雷管が撃発されて点火する[5]。発射薬が燃焼すると腔圧によって砲弾が前方に射出される一方、脆い薬莢底は後方に吹き飛ばされ、燃焼ガスがベンチュリから噴出する[2][5]。なおM2では閉鎖機を閉鎖した上でロックするという2つの手順を踏んでいたが、M3では閉鎖と同時にロックレバーが自動で動作するようになり、ワンアクションで済むようになった[7]。 本砲には照星照門式照準器が装備されているが、通常は17度(300ミル)の視野を持つ付属の3×光学照準器で照準を合わせる[1]。夜間の照準のためには、照星照門式照準器に発光性のアダプターを挿入するほか、暗視装置も使用できる[1]。またM4では火器管制装置を装備して、上記のケーブルを介して砲弾に情報を入力し、空中炸裂するよう設定することもできる[6][8]。なおM2では運搬中に照星照門式照準器が破損することが多かったことから、M3ではフラッシュサーフェス化されて引っかかりを減らしている[7]。 本砲は立射・膝射・座射・伏射での射撃が可能で、肩当ての先方に脚架を取り付けることも可能である[1][2]。通常2人の要員によって操砲され、1人が武器を担いで発射し、もう1人が弾薬を担いで装填する[1]。なおM3では運搬用のハンドルが追加された[7]。
使用弾薬![]()
採用国
アメリカ合衆国1980年代後半、特殊作戦部隊近代化行動計画(Special Operations Forces Modernization Action Plan)の一環として、第75レンジャー連隊が使用していたM67 90mm無反動砲の後継となる「レンジャー対装甲・対人兵器システム」(Ranger Anti-Armor/Anti-Personnel Weapon System, RAAWS)の検討が着手された[1]。市場調査によりカール・グスタフM3が候補として選定されたが、企業から提供された疲労試験データを検討した結果、陸軍の要件を満たしていない可能性が浮上した[1]。しかし1993年に実際の砲を用いた疲労試験を行ったところ、メーカーの推奨寿命である500発を遥かに超えて、2,360発まで、砲身内腔は侵食の兆候を示さなかった[1]。 海軍特殊部隊もこの計画に興味を持ったことから、計画は統合製品チーム(Joint Integrated Product Team)に移管され、計画名も「多用途対装甲・対人兵器システム」(Multi-Role Anti-Armor Anti-Personnel Weapon System, MAAWS)に変更された[1]。第75レンジャー連隊では既に1993年からM3 RAAWSの配備を開始しており、1997年からは特殊作戦軍全体で用いられるようになった[12]。 2011年11月には、RPG-7への対抗策として、アフガニスタン駐留の一般部隊にもM3 MAAWSを配備することになり、2012年末までに58門が配備された[1]。また2014年にはそれ以外の一般部隊にも配備されるようになり、2015年後半には、すべての旅団戦闘団において、小銃小隊あたり1門のM3 MAAWSを配備できるようになった[12]。また2017年からは、カール・グスタフM4がM3E1として仮制式化され、評価が開始された[1]。なおアメリカ兵の間では、単に「グース」(Goose)と呼ばれることも多い[1]。 イギリス連邦イギリス陸軍は本砲を1962年に採用し、L14A1と称した[3]。イギリス連邦各国でも採用されているが、イギリス軍では「チャーリーG」、カナダ軍では「カールG」、オーストラリア軍では「チャーリー・ガッツエイク」(腹痛を意味するスラング)または「チャーリー・スウェーデ」と俗称された[1]。 オーストラリア陸軍の装備砲はベトナム戦争において実戦投入された[13]。またイギリス海兵隊の装備砲は、フォークランド紛争の緒戦において、サウスジョージア侵攻を試みるアルゼンチン軍に対してM72 LAW対戦車ロケット弾や小火器とともに使用され、艦砲射撃中のコルベット「ゲリコ」の砲の旋回機構を破壊するという戦果を挙げた[14]。 日本陸上自衛隊では、普通科部隊向けに1978年(昭和53年)度よりカールグスタフM2を導入し、1990年(平成2年)度の調達終了までに約2,700門が配備された[7]。その後、01式軽対戦車誘導弾(軽MAT)によって代替されて運用を終了する計画だったが、調達価格はカールグスタフM2が約250万円だったのに対して軽MATはその10倍以上と高価で、また汎用性にも欠けていたことから、カールグスタフM2の運用も継続されることになった[7]。 2012年(平成24年)度からはM3の調達も開始され、当初は「多用途ガン」と称されていたが、翌年度からは「84mm無反動砲(B)」と変更された[7]。元来は水陸機動団の専用装備とされており、2016年(平成28年)度までに61門を導入した後、一度調達が中断したが、2023年(令和5年)度で325門と大量に調達された[8]。また2024年(令和6年)度以降の調達分はM4に移行するとされる[8]。
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脚注注釈出典
参考文献
関連文献
関連項目
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