グリーゼ900 (英語 : Gliese 900 )とは、地球 からうお座 の方向に68光年 離れた位置に存在する三重星系 である。3つの主系列星 で構成されており、1つはK型 の恒星 で、他の2つはM型 の恒星(赤色矮星)である。2つの赤色矮星は連星系 を形成しており、互いの重心を36年周期で公転 している。さらに、この連星系は主星の周囲を80年周期で公転 している。見かけの等級 は9.546で、グリーゼ900は肉眼での観測は不可能である。この系の周囲には、遠く離れた位置に太陽系外惑星 が検出されている[ 3] 。GJ 900 、BD+00 5017 などとも呼称される[ 1] 。
特徴
大きさの比較
太陽
グリーゼ900A
グリーゼ900は、3つの主系列星からなる階層的な星系である。主星(グリーゼ900A)はK5 - K7型の恒星で、質量 は太陽 の64 - 67%[ 5] 、半径 は太陽の72%[ 4] 、光度 は太陽の12%である[ 2] 。TESS によって観測された光度曲線 によると、自転周期 は12日である[ 3] 。グリーゼ900Aは彩層 とコロナ の活動が活発であるが、見かけの等級はほとんど変化しない[ 8] 。その他の2つの恒星は赤色矮星である。グリーゼ900Bのスペクトル分類 はM3 - M4型で、質量は太陽の24 - 34%である。グリーゼ900Cのスペクトル分類はM5 - M6型で、質量は太陽の16 - 24%である[ 5] 。
この系は若く、年齢は約2億年で、99.7%の確率で近くの運動星団 であるCarina-Nearに属している[ 9] 。X線 放射源であり、観測された放射量は 9.13× 102 mW M-2 で、紫外線 放射源でもある[ 3] 。X線の放射は若い恒星に典型的であるため、この星系の恒星を若い恒星として分類している[ 8] 。TESSによって観測された光度曲線により、フレア 活動があることが判明している[ 3] 。
軌道
グリーゼ900BとCは、約36年の公転周期 を持つペア(グリーゼ900BCと言われる)を形成している[ 7] 。グリーゼ900BCとグリーゼ900Aは、約80年の周期で系の共通重心の周囲を公転している[ 5] [ 3] 。2004年11月の時点で、BはAから751ミリ秒角、CはAから708ミリ秒角離れており、この距離は時間とともに変化している[ 5] 。2002年にEduardo L. Martínが8.2mすばる望遠鏡 で補償光学 補正された画像を使用して、多重星系として特定した。最初に観測されたとき、AとB、AとCの距離はそれぞれ0.51秒角と0.76秒角であった[ 8] 。2007年のMalogolovetsらによるさらなる研究では、この星系が階層的な三重星であることが判明した[ 5] 。
五重星系の可能性
2007年のMalogolovetsらによる研究では、2MASS による画像から、D及びEに該当する2つの他の天体(おそらく晩期 赤色矮星)を報告しており、グリーゼ900系に関連している可能性が非常に高いと報告した。これらの天体がグリーゼ900系の一部であった場合は五重星系となる[ 5] 。ただし、これらの暗い恒星はグリーゼ900系の一部として確認されておらず、関連がない可能性がある[ 3] 。
運動
ガイア探査機 が行った視差測定によると、グリーゼ900は地球から約68光年の距離にある[ 2] 。BP-RPスペクトルは、距離が67.7光年であることを示唆している[ 2] 。この星系の空間速度成分はU = −28.7 、V = −15 、W = 0.2 である[ 10] 。グリーゼ900は、銀河系 の薄い円盤の中に位置し[ 10] [ 5] 、かつてはIC 2602 という散開星団 の一部に分類されていた[ 8] 。ガイア探査機の運動学を使用した最近の分析によると、グリーゼ900はCarina-Near運動星団に属している可能性が99.7%で、どの星団 やアソシエーション にも属していない散在星である可能性が0.3%である[ 3] 。
惑星系
Austin Rothermichが主導した2024年の研究では、CWISE J233531.55+014219.6(略称はCW2335+0142)が99.5%の確率でグリーゼ900と共通する固有運動 を行っている伴天体であると判明した[ 3] 。グリーゼ900b またはグリーゼ900(ABC)b [ 11] [ 12] とも呼ばれるこの天体は、木星 の10.5倍の質量(太陽の0.01倍)を持ち、スペクトル分類がT9の惑星質量天体 である。グリーゼ900との角距離 は587秒角であり、12,000天文単位離れていることになる[ 3] 。
2024年現在、グリーゼ900bは、既知の惑星の中で最も大きな軌道長半径 を持っており、円軌道であった場合は最も長い公転周期を持っていることになる[ 13] [ 14] [ 注 5] 。公転周期は、予測される軌道長半径に基づいて127万年[ 15] または140万年[ 12] と推定されている。スペクトル分類、軌道長半径、年齢が類似しているため、グリーゼ900bは発見チームによってCOCONUTS-2b と比較されている[ 3] 。2024年8月、別の惑星質量の伴星がBD+29 5007 (英語版 ) の周囲を公転しているのが発見された。この天体は、グリーゼ900bよりも大きい約22,100天文単位の軌道長半径を持っている[ 16] [ 17] 。しかし、この天体は表面重力 が大きいため、自由浮遊惑星 である可能性がある。また、その場合は惑星質量天体としては大きすぎる[ 18] 。
脚注
注釈
^ このウェブサイト で赤経 23h 35m 00.27674s ・赤緯 +01° 36′ 19.4347″[ 1] から導出
^ a b パーセクは1 ÷ 年周視差(秒)より計算、光年は1÷年周視差(秒)×3.2615638より計算
^ 見かけの等級 と地球 からの距離を用いて、グリーゼ900の絶対等級を計算できる。 9.546+5−5*log(20.85) = 7.95
^ 角距離 と視差 (どちらもミリ秒角単位)を用いて、軌道長半径(au単位)を取得できる。 444/48.17 = 9.217 au
^ 惑星質量(<13 M J )を持つ天体のみの場合。太陽系外惑星データベースにはより大きな軌道長半径を持つ褐色矮星 がいくつか記載されている。
出典
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関連項目
座標 : 23h 35m 00.27674s , +01° 36′ 19.4347″