数学 の実解析 におけるコーシーの函数方程式 （コーシーのかんすうほうていしき、英 : Cauchy's functional equation オーギュスタン・ルイ・コーシー がその著書『解析教程 』において扱ったことに名を因む、
f
(
x
+
y
)
=
f
(
x
)
+
f
(
y
)
{\displaystyle f(x+y)=f(x)+f(y)}
函数方程式 である。一般に、この方程式を満足する函数・写像は加法的 であると言う（しかし、以下、本項では f として実函数 の場合のみを取り扱う）。
この方程式を ℚ 有理 変数有理数値の函数）で考える場合、初等代数学的な方法で解函数が f : x ↦ cx c は有理数) という形の函数族（ℚ 線型写像 ）のみであることが確かめられる。 ℝ 実函数 解を考えるとき、c を任意の実数に取り換えた族 f : x ↦ cx 病的 な解を排除することはできる（中には極めて弱い条件のものもある）。例えば、加法的函数 f : ℝ → ℝ ℝ
連続性: f が ℝ 連続 (Cauchy 1821 ). より弱く、f が少なくとも一点で連続 (Darboux in 1875).
単調性: f が任意の区間上で単調 .
有界性: f が任意の区間上で有界 (S.Pincherle and U.Amaldi 1901).
可測性: f がルベーグ可測 (M.R.Fréchet 1913).
ある正の開区間
(
0
,
δ
)
{\displaystyle (0,\delta )}
逆に f に何の制約条件も課さなければ、（選択公理 を仮定して）無限個の非線型函数がこの方程式を満足することが示せる。1905年にゲオルク・ハメル （英語版 ） ハメル基底 [ 1] ℝ ℚ ハメル函数 と呼ばれることもある。
ヒルベルト の第五問題 （英語版 ） 実数 c が存在して f (cx ) ≠ cf (x )ヒルベルトの第三問題 （英語版 ） [ 3]
初等的な四則演算しか含まない簡単な議論によって、有理数変数有理数値の加法的函数 f : ℚ → ℚ ℚ ℚ
定理
函数 f : ℚ → ℚ f は ℚ
証明の概略
加法性から明らかに f (0) = 0x は任意として、自然数 n に対して f (nx ) = n ⋅f (x )0 = f (x + (−x )) = f (x ) + f (−x ) から f ((−1)⋅x ) = (−1)⋅f (x )d に対して f (d ⋅x /d ) = d ⋅f (x /d )f ((1/d )⋅x ) = (1/d )⋅f (x )q = ±n /d n, d は自然数) に対して、f (qx ) = f ((±n /d )⋅x ) = f (n ⋅((±1/d )⋅x ))= n ⋅f ((±1/d )⋅x ) = n ⋅f ((1/d )⋅((±1)⋅x )) = (n /d )⋅f ((±1)⋅x ) = (±n /d )⋅f (x ) = q ⋅f (x )
ℚ α を用いてスケール変換した ℚ α ℚ αq | q ∈ ℚ }f : α ℚ ℝ f の定義域を制限すれば線型解に限られ、したがって一般に任意の q ∈ ℚ α ∈ ℝ f (qα ) = qf (α )ℝ ℚ ℚ 病的 な解 f : ℝ → ℝ ツォルンの補題 によって示される、任意のベクトル空間に基底 が存在することを用いた議論だからである。
さて、任意のベクトル空間は基底を持つのだから、実数体 ℝ ℚ ℬ ⊂ ℝ x ∈ ℝ ℬ の適当な有限部分集合 {xi }i ∈I (つまり |I | ≤ ℵ0 ) が存在して、何れも非零な定数 λi ∈ ℚ x = ∑i ∈I λi ⋅xi ℝ ℚ
既にみた通り、各 xi ∈ ℬ f を xi ℚ f (xi )ℚ f : xi ℚ ℝ ; λi xi ↦ f (xi )λi x ∈ ℝ xi の一意的な有限線型結合として表されるから、f : ℝ → ℝ
f
(
x
)
=
f
(
∑
i
∈
I
λ
i
x
i
)
=
∑
i
∈
I
f
(
λ
i
x
i
)
=
∑
i
∈
I
f
(
x
i
)
λ
i
{\displaystyle f(x)=f{\Big (}\sum _{i\in I}\lambda _{i}x_{i}{\Big )}=\sum _{i\in I}f(\lambda _{i}x_{i})=\sum _{i\in I}{f(x_{i})\lambda _{i}}}
x ∈ ℝ f (x )矛盾なく定まる 。基底に対する f の値 f : ℬ → ℝ f がコーシーの函数方程式を満足することを確かめるのは難しくない。さらに言えば、任意の解函数がこのようにして得られることも明らかである。特に、方程式の解函数が ℝ 必要十分条件 は、f (xi )/xi xi ∈ ℬ 濃度 の意味で）「ほとんど」[ 注釈 1]
コーシーの『解析教程』 第5章「ある条件を満たす一変量の連続関数を決定すること.」の §1 には "二つの同じ形の一変量の関数を互いに加えたり乗じたりするとき, その和または積として, それぞれの関数の変化量の和または積の同じ形の関数が与えられるという性質をもつ連続関数を探し出すこと." という節題が付けられていて、（上で見た方程式を含む）以下の方程式およびその実連続 函数解が考察されている:
実函数 Φ: ℝ ℝ は至る所連続で、変数 x , y
Φ(x + y ) = Φ(x ) + Φ(y ) : 解は線型函数 Φ(x ) = ax ,Φ(x + y ) = Φ(x ) × Φ(y ) : 解は指数函数 Φ(x ) = A x ,Φ(xy ) = Φ(x ) + Φ(y ) : 解は対数函数 Φ(x ) = a Log(x ) ,Φ(xy ) = Φ(x ) × Φ(y ) : 解は冪函数 Φ(x ) = x a .明らかに零函数 はこの何れの方程式も満たし、自明な解と呼ばれる。コーシーの著書に従えば、2–4 の非自明な連続解は、変域等に注意しつつ 1 に帰着することで得られる（2 は 1 の証明を乗法的になぞる方法でも示されている）:
例えば 2 は、Φ(x ) = Φ(x /2 + x /2) = Φ(x /2)2 > 0 に注意して、両辺の対数（底は何でもよい）を取れば LogΦ(x + y ) = LogΦ(x ) + LogΦ(y ) ゆえ 1 を LogΦ に適用して LogΦ(x ) = ax から Φ(x ) = Aax を得る（ここでの Aa を上では改めて A と書いている）。
3 は u ≔ Log(x ), v ≔ Log(y )x = Au , y = Av A は Log の底）と書けば、Φ(A u +v Au ) + Φ(Av ) となり Φ∘A に関して 1 の形であるから、Φ(Au ) = au , したがって Φ(x ) = a Log(x )
4 は 3 と同様の置き換えで 2 に帰着すれば Φ(Au ) = Aau , 変数を戻して Φ(x ) = A a Log(x )xa となる。
^ 明らかに card(ℬ ) = ℵ は連続の濃度 𝔠 𝔠𝔠 = 2𝔠 f : ℬ → ℝ c の選び方の分の 𝔠
^ O'Bryant, Kevin. "Hamel Basis" . mathworld.wolfram.com (英語). ^ Boltianskii, V.G. (1978) "Hilbert's third problem", Halsted Press, Washington
Kuczma, Marek (2009). An introduction to the theory of functional equations and inequalities. Cauchy's equation and Jensen's inequality . Basel: Birkhäuser. ISBN 9783764387495 Cauchy, Augustin Louis (1821), Cours d’Analyse de l’Ecole Royale Polytechnique , http://visualiseur.bnf.fr/Visualiseur?Destination=Gallica&O=NUMM-29058 邦訳: Cauchy, Augustin Louis, baron; 西村重人; 高瀬正仁『コーシー解析教程』みみずく舎 and 医学評論社 (発売)〈数学くらしくす〉、2011年。ISBN 9784863990821 。 風巻紀彦(2005), 凸関数論, 横浜図書, 4946552170
