関数解析学 におけるシフト作用素 (シフトさようそ、英 : Shift operator )あるいは平行移動作用素 (translation operator)とは、ある関数 f (x ) をその平行移動 f (x +a ) に写す作用素のことを言う[ 1] 。時系列解析 では、シフト作用素はラグ作用素 (英語版 ) と呼ばれる。
シフト作用素は線型作用素 の例であり、その簡明さおよび自然発生的な需要において重要なものである。シフト作用素のある実数関数上での作用は、調和解析 の分野で重要な役割を担い、例えば概周期関数 や正定値関数 (英語版 ) 、畳み込み の定義において用いられる[ 2] 。ある(整数を変数とする関数の)列のシフトは、ハーディ空間 やアーベル多様体 の理論、ベーカー写像 (英語版 ) が陽的な表現となる記号力学 (英語版 ) の理論のような広範な分野に現れる。
定義
実変数関数
シフト作用素 T t (t ∈ R ) は、R 上の関数 f を、次のような平行移動 f t に写す。
f
t
(
x
)
=
f
(
x
+
t
)
.
{\displaystyle f_{t}(x)=f(x+t)~.}
線型作用素 T t の簡単な微分 d ⁄dx に関する実践的な表現は、ラグランジュ によって次のように与えられた。
T
t
=
e
t
d
d
x
,
{\displaystyle T^{t}=e^{t{\frac {d}{dx}}}~,}
これは t についての形式的なテイラー展開として解釈出来、単項式 x n 上での作用は二項定理 によって明らかで、したがって x についてのすべての級数の上でも明らかである。
列
片側無限数列 上の左シフト 作用素は、次のように与えられる。
S
∗
:
(
a
1
,
a
2
,
a
3
,
…
)
↦
(
a
2
,
a
3
,
a
4
,
…
)
.
{\displaystyle S^{*}:(a_{1},a_{2},a_{3},\ldots )\mapsto (a_{2},a_{3},a_{4},\ldots ).}
また両側無限数列に対しては、次のように与えられる。
T
:
(
a
k
)
k
=
−
∞
∞
↦
(
a
k
+
1
)
k
=
−
∞
∞
.
{\displaystyle T:(a_{k})_{k=-\infty }^{\infty }\mapsto (a_{k+1})_{k=-\infty }^{\infty }.}
片側無限数列 上の右シフト 作用素は、次のように与えられる。
S
:
(
a
1
,
a
2
,
a
3
,
…
)
↦
(
0
,
a
1
,
a
2
,
…
)
.
{\displaystyle S:(a_{1},a_{2},a_{3},\ldots )\mapsto (0,a_{1},a_{2},\ldots ).}
また両側無限数列に対しては、次のように与えられる。
T
−
1
:
(
a
k
)
k
=
−
∞
∞
↦
(
a
k
−
1
)
k
=
−
∞
∞
.
{\displaystyle T^{-1}:(a_{k})_{k=-\infty }^{\infty }\mapsto (a_{k-1})_{k=-\infty }^{\infty }.}
アーベル群
一般に、f があるアーベル群 G 上の関数で、g を G の元とするとき、シフト作用素 T g は f を
f
g
(
h
)
=
f
(
g
+
h
)
{\displaystyle f_{g}(h)=f(g+h)}
へと写す。
シフト作用素の性質
実あるいは複素数値の関数あるいは列の上のシフト作用素は、関数解析学の分野に現れる標準的なノルム の大半を保つ線型作用素である。したがってシフト作用素は、通常ノルムが 1 の連続作用素 である。
ヒルベルト空間上での作用
両側列の上のシフト作用素は、l 2 (Z ) 上のユニタリ作用素 である。実数を変数とする関数上のシフト作用素は、L 2 (R ) 上のユニタリ作用素である。
いずれの場合でも、(左)シフト作用素は次のようなフーリエ変換 に関する交換関係 を満たす:
F
T
t
=
M
t
F
.
{\displaystyle {\mathcal {F}}T^{t}=M^{t}{\mathcal {F}}.}
ここで M t は exp(i t x ) との乗算作用素 である。したがって T t のスペクトルは単位円板である。
l 2 (N ) 上の片側シフト S は、第一座標 において消失するすべてのベクトル とその値域 が等しいようなある固有等長作用素 である。そのような作用素 S は、次のような意味で T−1 の圧縮 である:
T
−
1
y
=
S
x
for each
x
∈
ℓ
2
(
N
)
.
{\displaystyle T^{-1}y=Sx{\text{ for each }}x\in \ell ^{2}(\mathbb {N} ).\,}
ここで y は l 2 (Z ) 内のベクトルで、i ≥ 0 に対して y i = x i を満たし、i < 0 に対して y i = 0 を満たすようなものである。以上の事実は、等長写像の多くのユニタリ伸張 を構成する上での肝となる。
S のスペクトルは単位円板である。そのようなシフト S はフレドホルム作用素 の一例で、そのフレドホルム指数は −1 である。
一般化
ジャン・デルサルト は一般化シフト作用素 (generalised shift operator。一般化置換作用素 とも呼ばれる)の概念を導入した。またその概念は、ボリス・レヴィタン (英語版 ) によって発展された[ 2] 。
ある集合 X から C への関数の空間 C 上の作用素の族 {L x }x ∈ X は、次の性質を満たすとき一般化シフト作用素の族 (family of generalised shift operators)と呼ばれる。
結合性:(R y f )(x ) = (L x f )(y ) とする。このとき L x R y = R y L x が成立する。
L e が恒等作用素となるようなある e ∈ X が存在する。
この場合、集合 X はハイパー群 (英語版 ) と呼ばれる。
関連項目
注釈
^ Weisstein, Eric W. "Shift Operator" . mathworld.wolfram.com (英語).
^ a b Marchenko 2006 , pp. 145–162, The generalized shift, transformation operators, and inverse problems.
参考文献
Marchenko, V. A. (2006). Berlin: Springer. doi :10.1007/3-540-29462-7_8 . MR 2182783
Jordan, Charles (1965-01-01) [1939]. Calculus of Finite Differences (3 ed.). AMS Chelsea Publishing
Millionshchikov, V.M. (2001), “Shift operator” , in Hazewinkel, Michiel, Encyclopedia of Mathematics , Springer, ISBN 978-1-55608-010-4 , https://www.encyclopediaofmath.org/index.php?title=Shift_operator
Levitan, B.M. ; Litvinov, G.L. (2001), “Generalized displacement operators” , in Hazewinkel, Michiel, Encyclopedia of Mathematics , Springer, ISBN 978-1-55608-010-4 , https://www.encyclopediaofmath.org/index.php?title=Generalized_displacement_operator&oldid=43800
Bredikhina, E.A. (2001), “Almost-periodic function” , in Hazewinkel, Michiel, Encyclopedia of Mathematics , Springer, ISBN 978-1-55608-010-4 , https://www.encyclopediaofmath.org/index.php?title=Almost-periodic_function
Partington, Jonathan R. (2004). Linear Operators and Linear Systems, An Analytical Approach to Control Theory . London Mathematical Society Student Texts 60 . Cambridge University Press .
Rosenblum, Marvin; Rovnyak, James (1985). Hardy Classes and Operator Theory . Oxford University Press