「シーズ・ア・ウーマン」(She's a Woman)は、ビートルズの楽曲である。主にポール・マッカートニーによって書かれた楽曲で、作曲者名はレノン=マッカートニー名義となっている。1964年11月にシングル盤『アイ・フィール・ファイン』のB面曲として発売され、アメリカでは1964年12月に発売されたアルバム『Beatles '65』にも収録された。B面曲でありながら、Billboard Hot 100で最高位4位を記録し[5]、ニュージーランドのシングルチャートでは第1位を獲得した[6]。本作は、マッカートニーがリトル・リチャードの様式で曲を書こうとしたことがきっかけとなっている。歌詞には、ビートルズの楽曲では初となる麻薬への言及が含まれており、「Turn me on」というフレーズはマリファナを指している。
ポール・マッカートニーは、レコーディングを行なった1964年10月8日に「シーズ・ア・ウーマン」の作曲を開始し、手早く完成させた[7][8]。1964年11月17日に放送されたラジオ番組『Top Gear』に出演したマッカートニーは、セッションの朝に「およそ1節」分の準備ができていて、残りの分をスタジオで書き上げたと説明した[9]。伝記『Many Years from Now』の中で、マッカートニーは曲の最初のアイデアが浮かんだのが、セント・ジョンズ・ウッドの歩きまわっているときだと回想しているが、曲を完成させた場所が自宅なのか、スタジオに向かう途中なのか、スタジオに着いてからなのかはわからないとしている。本作は、リトル・リチャードの様式で曲を書こうとしたことがきっかけとなっており、マッカートニーは「ブルースっぽい曲を書こうとした。リトル・リチャードを演奏する代わりになればと思ってね。彼の曲が素晴らしくて、彼のスタイルを自分の曲に取り入れてみたんだ」と語っている[7]。ジョン・レノンは、1972年のインタビューで本作を書いたのがマッカートニーであるとする一方で、ミドルエイトで手助けをした可能性を示し、1980年の『プレイボーイ』誌のインタビューでは「ポールの曲。僕は歌詞を少し手伝った」と語っている[10][11]。
三人称で歌われる歌詞は[18]、彼女が彼に対してプレゼントを贈ったりしないものの、まだお互いを愛しているという状況を説明している[19]。歌詞中では「Turn me on when I get lonely」と「People tell me that she's only fooling」、「She will never make me jealous」と「Give me all her time as well as loving」といったかたちで、末尾から2番目の単語で韻を踏んでいる[20]。また歌詞には、ビートルズの楽曲では初となる麻薬への言及が含まれており、「Turn me on when I get lonely(さびしくなったら気分を晴らしてくれる)」というフレーズはマリファナを指している[21]。ビートルズは、1964年の北米ツアー中にニューヨークでボブ・ディランとマリファナを服用した[22]。1980年の『プレイボーイ』誌のインタビューで、レノンは「僕らは『turn me on』というフレーズを使ったけど、これはまさしく…マリファナを服用したときの感覚、みたいな感じ。エキサイティングだった」と語っている[10][11][注釈 2]。
『NME』誌のデレク・ジョンソンは、発売当時のレビューの中で「シーズ・ア・ウーマン」を「印象的で聞き心地のいい曲」と表現し、楽曲の「ドキドキするビート」とブルースに影響されたボーカルを強調した[44]。『ビルボード』誌は、A面曲の「アイ・フィール・ファイン」とともに本作がすぐにヒットすると予測し、シングル盤に対して「契約してから1年を迎えることを記念したバンドによるキャピトルへの贈り物」という認識を示した[45]。イギリスで発売されたシングル盤は、5日以内に80万枚を売り上げ、12月9日時点で100万枚の売り上げを記録した[46]。1964年の最初の7か月で5作のアルバムと16作のシングルが発売されたアメリカでは、以降のビートルズの発売周期の落ち着きにより、ファンは次のシングルの発売を大いに期待するようになっていた[47]。アメリカで発売されたシングル盤は、発売初週で100万枚以上の売り上げを記録した[46]。「シーズ・ア・ウーマン」は、Billboard Hot 100で9週にわたってチャートインし[48]、最高位4位を記録した[5]。
音楽学者のアラン・W・ポラック(英語版)は、本作を「ロング・トール・サリー」以来の「マッカートニーによる最もとっぴなボーカル・パフォーマンス」と表現し、1969年に発表された「ゲット・バック」や「オー!ダーリン」を予見させるとしている[12]。ハーツガードは、本作を「ハスキーなマッカートニーのロッカー」と称し、「ビートルズの作品で最もやっかいな韻の1つ」として「My love don't give me presents / I know that she's no peasant」というフレーズを挙げている[19]。マクドナルドは、歌詞について否定的な見解を示す一方で、マリファナへの言及だけは注目に値するとしている[17]。
その他のバージョン
BBCラジオやライブでの演奏
1960年代のイギリスの法律により、BBCラジオは特にメディア用に録音された素材を再生することを強制されていた[55]。この慣習に従い、ビートルズは2度にわたって演奏を録音し[56]、1964年11月17日に『Top Gear』、1965年5月26日に『The Beatles (Invite You to Take a Ticket to Ride)』用の録音を行なった[57]。後者は1965年6月7日に放送され、ビートルズがBBCラジオのために演奏した最後の楽曲の1つとなった[58]。1964年11月17日に録音された演奏は、1994年に発売された『ザ・ビートルズ・ライヴ!! アット・ザ・BBC』に収録されている[59][60][25]。
ジェフ・ベックは、ジョージ・マーティンがプロデュースを手がけた1975年に発売のアルバム『ブロウ・バイ・ブロウ』で、「シーズ・ア・ウーマン」をカバーした[76]。この数か月前にベックは、BBCで放送されたUPPのドキュメンタリー番組『Five Faces of Guitar』で本作を演奏している。キーボーディストのマックス・ミドルトン(英語版)は、カリプソのようなアレンジを思いついたことから、アルバムでカバーすることを提案した。後にミゲルトンは「ジョージが嫌がっていたけど、ジェフはそれをよく思ってくれたから、そのアレンジでやることにした」と回想している。ベックは原曲のボーカルのメロディーをギターで弾き、トーク・ボックスを取り入れ、レゲエ調のインストゥルメンタルにアレンジを変えた[77]。『オールミュージック』のマーク・キルシェンマンは、ベックによるカバー・バージョンについて「巧妙なアレンジ」と評し[76]、マーティン・パワーも同様に肯定的な評価をしている[77]。
^Hertsgaard 1995, p. 103, She's a Woman' hinted at... the Beatles' initiation (courtesy of Bob Dylan) into smoking marijuana.... Paul sings that his lover 'turn(s) me on when I feel lonely.' It was the Beatles' first explicit reference to drugs; Hertsgaard 1995, p. 195, The Beatles' first musical reference to marijuana came a mere six weeks after their hotel room encounter with Dylan, when John and Paul inserted the line 'turns me on' into the song 'She's a Woman'; Everett 2001, p. 266, For all the celebrated conjecture as to references to recreational drugs in the Beatles' lyrics, the earliest example, recorded two months after the group's first exposure to marijuana, has escaped most attention, as ['She's a Woman'] is hardly a drug-based song;
Everett, Walter (2001). The Beatles as Musicians: The Quarry Men through Rubber Soul. Oxford: Oxford University Press. ISBN978-0-1951-4105-4
Everett, Walter (2006). “Painting Their Room in a Colorful Way: The Beatles' Exploration of Timbre”. In Womack, Kenneth; Davis, Todd F.. Reading the Beatles: Cultural Studies, Literary Criticism, and the Fab Four. Albany: State University of New York Press. ISBN0-7914-6716-3
Womack, Kenneth (2009). “Beatles Discography, 1962-1970”. In Womack, Kenneth. The Cambridge Companion to the Beatles. Cambridge: Cambridge University Press. pp. 286-293. ISBN978-0-5216-8976-2
Womack, Kenneth (2019). Solid State: The Story of Abbey Road and the End of the Beatles. Cornell University Press. ISBN978-1-5017-4685-7