パップスの六角形定理:六角形AbCaBc に対して、点X,Y,Z が共線 である(パップス線)。
アフィン形式のパップスの定理
A
b
∥
a
B
,
B
c
∥
b
C
⇒
A
c
∥
a
C
{\displaystyle Ab\parallel aB,Bc\parallel bC\Rightarrow Ac\parallel aC}
パップスの定理 またはパップスの六角形定理 (パップスのろっかくけいていり、英 : Pappus's hexagon theorem )とはアレキサンドリアのパップス の名を冠する定理 の一つである[ 1] 。
点A, B, C とa, b, c がそれぞれ共線 であるとき、Ab とaB の交点をX 、Ac とaC の交点をY 、Bc とbC の交点Z として、X, Y, Z は共線 である。またこの線をパップス線(Pappus line )という。またX, Y, Z は六角形 AbCaBc の3本の主対角線 [ 2] の交点である。
この定理は任意の射影平面 上で成立するが、非可換体 上では成立しない[ 3] 。パップスの定理の成り立つ射影平面はパップス平面 (pappian planes )と呼ばれる。
先述の六角形AbCaBc について、Ab ∥ aB , Bc ∥ bC ならば(パップス線u は無限遠直線 となって)2番目の図の様に、アフィン幾何学 におけるパップスの定理を得る。
パップス線u と直線g, h が共点 ならば、little version of Pappus's theorem を得る[ 3] [ 4] 。
交点定理 (英語版 ) によれば、共点 な直線 A, B, C と、A, B, C とは異なる点で共点な直線a, b, c において、直線の交点A ∩ b とa ∩ B を結ぶ直線をX 、A ∩ c とa ∩ C を結ぶ直線をy 、B ∩ c とb ∩ C を結ぶ直線をz とすれば、x, y, z は共点である(∩ で2直線の交点を示す)。
パップスの定理はパスカルの定理 の特別な場合 である。パスカルの定理に出現する円錐曲線 を2直線に退化させれば、パップスの定理を得る。パスカルの定理はまた、ケイリー=バッハラッハの定理 の特別な場合である。
パップス配置 (英語版 ) はパップスの定理に出現する9つの点と直線の配置 (英語版 ) である。一般には、パップス線は直線ABC とabc の交点を通らない[ 注釈 1] 。 この配置は自己双対性 を持つ。したがって直線Bc, bC, XY はx, y, z のような双対の性質を持ち、X, Y, Z の共線 はBc, bC, XY の共点 と対応する。パップス配置のレヴィグラフ (英語版 ) はパップスグラフ (英語版 ) と呼ばれる。パップスグラフは18個の頂点と27個の辺を持つ2部 の距離正則 (英語版 ) なグラフである。
証明
パップスの定理の証明
アフィン形式で、ある座標設定でのパップスの定理が証明されれば、それを適当に射影 することで、一般のパップスの定理を証明できる。
アフィン平面 (英語版 ) ではg ∦ h とg ∥ h を区別する必要がある。また、単純な証明のためには、座標設定を巧く行わなければならない。
場合1 : g, h が点S = g ∩ h で交わる場合。図の様に座標を設定する。
S
=
(
0
,
0
)
,
A
=
(
0
,
1
)
,
c
=
(
1
,
0
)
{\displaystyle \;S=(0,0),\;A=(0,1),\;c=(1,0)\;}
B
=
(
0
,
γ
)
,
C
=
(
0
,
δ
)
,
γ
,
δ
∉
{
0
,
1
}
{\displaystyle \;B=(0,\gamma ),\;C=(0,\delta ),\;\gamma ,\delta \notin \{0,1\}}
Bc ∥ Cb よりb = (δ / γ , 0) を、Ab ∥ Ba よりa = (δ , 0) 得る。故に、Ca の傾き は−1 であるから、Ac と平行である。
場合2 :g ∥ h である場合(小定理)。次の様に座標を設定する。
c
=
(
0
,
0
)
,
b
=
(
1
,
0
)
,
A
=
(
0
,
1
)
,
B
=
(
γ
,
1
)
,
γ
≠
0
{\displaystyle \;c=(0,0),\;b=(1,0),\;A=(0,1),\;B=(\gamma ,1),\;\gamma \neq 0}
Ab ∥ Ba , cB ∥ bC から、C = (γ + 1, 1) とa = (γ + 1, 0) を得て、Ac ∥ Ca が証明される。
同次座標を用いる証明
同次座標 (英語版 ) 系で、点の座標を次のように設定する。
C
=
(
1
,
0
,
0
)
,
c
=
(
0
,
1
,
0
)
,
X
=
(
0
,
0
,
1
)
,
A
=
(
1
,
1
,
1
)
{\displaystyle C=(1,0,0),\;c=(0,1,0),\;X=(0,0,1),\;A=(1,1,1)}
直線 AC, Ac, AX の方程式 をそれぞれx 2 = x 3 , x 1 = x 3 , x 2 = x 1 とすれば、点B, Y, b はある数p, q, r を用いて
B
=
(
p
,
1
,
1
)
,
Y
=
(
1
,
q
,
1
)
,
b
=
(
1
,
1
,
r
)
{\displaystyle B=(p,1,1),\;Y=(1,q,1),\;b=(1,1,r)}
と書ける。直線XB, CY, cb の方程式はそれぞれx 1 = x 2 p , x 2 = x 3 q , x 3 = x 1 r となる。したがってこの3直線が一点a で交わることはrqp = 1 と同値 である。
直線Cb, cB,XY の方程式はそれぞれx 2 = x 1 q , x 1 = x 3 p , x 3 = x 2 r となり、一点Z で交わる条件はrqp = 1 である。可換 であるからpq = qp 。ゆえにCb, cB,XY の共点の条件は他の8本の線が共点であることとなる。これは、X, Y, Z の共線 と同値である。
この証明によって、パップスの定理の成立には可換性 が必要であることが分かる[ 5] 。ドイツ の数学者 、ゲルハルト・ヘッセンベルク はデザルグの定理 を含んでいることを示した[ 6] [ 注釈 2] [ 5] 。一般に、射影平面 において、パップスの定理の成立と可換体 であることは同値である。パップスの定理を含まない射影平面は非可換なデザルグ射影平面で、非デザルグ平面 (英語版 ) である。
同次座標による証明はC, c, X の共線は起こらないことを条件としている。C, c, X が共線である場合は別の証明を用いる必要がある。
双対
射影幾何学の双対性 (英語版 ) よりパップスの定理の双対 も成り立つ。
6本の直線A, b, C, a, B, c がG, H を中心とする束 を成すように選ぶ。
X
:=
(
A
∩
b
)
(
a
∩
B
)
,
{\displaystyle X:=(A\cap b)(a\cap B),}
Y
:=
(
c
∩
A
)
(
C
∩
a
)
,
{\displaystyle Y:=(c\cap A)(C\cap a),}
Z
:=
(
b
∩
C
)
(
B
∩
c
)
{\displaystyle Z:=(b\cap C)(B\cap c)}
は点U で共点 である。左の図は射影幾何学 、右の図はアフィン幾何学 による表現である。アフィン幾何学の方ではG, H は無限遠点 である。U がGH 上にあれば、パップスの定理の"dual little theorem"を得る。
アフィン形式の小定理で得る点U がGH 上にある、つまり無限遠点である場合、トムセンの定理 を得る。トムセンの図形は射影平面の公理の決定に大きな役割を果たす[ 7] 。トムセンの図形の閉形の証明は"little theorem"の証明により行われる。しかし、次のように、より簡単で直接的な証明も存在する。トムセンの定理の主張には接続、交差、平行 のみが用いられるためにアフィン写像 によって不変である。三角形 の頂点の座標をP = (0, 0), Q = (1, 0), R = (0, 1) と置く。また最初の点を(0, λ ) とする。6回の操作を経て最後の点が(0, λ ) に戻ることを証明すればよい。
トムセンの図形(
三角形 PQR と点
1, 2, 3, 4, 5, 6 ) 。
証明に用いる図
パップスの定理の他の主張
△XcC , △BbY はA, a, Z で配景
パップスの定理とその双対の他の特徴づけに次の主張がある。
六角形 の6つの頂点が3点ずつ2本の直線上にあるとき、六角形の主対角線 の交点は共線 である[ 8] 。
9つの点を行列 に書き直して、パーマネント として評価する。1,2行目と、その6つの"対角"が共線ならば3行目も共線である。
|
A
B
C
a
b
c
X
Y
Z
|
{\displaystyle \left|{\begin{matrix}A&B&C\\a&b&c\\X&Y&Z\end{matrix}}\right|}
つまり直線ABC, abc, AbZ, BcX, CaY, XbC, YcA, ZaB があったとき、パップスの定理は直線X, Y, Z の存在を主張している。行列に双対の形式を当てはめると、(A, B, C ) などは共点な直線となる[ 9] 。
2つの直線上にそれぞれ3つの異なる点があるとする。一方の直線上の点ともう一方の直線上の点を1対1に対応させる。このとき、対応していない点を結ぶ直線はある直線上で交わる[ 10] 。
2つの三角形が2通りの対応で配景 であるとき、3つ目の対応でも配景 である[ 6] 。AB, CD, EF が共点 で且つDE ,FA, BC が共点ならば、AD, BE, CF も共点である[ 9] 。
起源
これらの性質の最も早い形はパップス の著書のVIIの性質138,139,141,143で知られていた[ 注釈 3] 。また、これらの性質はエウクレイデス の Porisms の巻VIIの一部にある補題 XII,XIII,XV,XVIIである。
エウクレイデスの書にある補題は今日では複比 として知られる概念を用いて証明されている。また、先の3つの補題も利用されている。一つ目は補題IIIである。 (パップスの記述とは、G とΓ 、D とΔ 、J とΘ 、L とΛ が対応している)。
3つの共点線AB, AG, AD があって、JB, JE がJ で交わっている。またKL はAZ と平行 である。このとき
KJ : JL :: (KJ : AG & AG : JL) :: (JD : GD & BG : JB)
である。これらは今日、等式として次の様に表される[ 注釈 4] 。
KJ / JL = (KJ / AG )(AG / JL ) = (JD / GD )(BG / JB )
最右辺 (JD : GD と BG : JB の積) は、共線点J, G, D, B に対して複比として知られるもので、(J, G ; D, B ) とも書かれる。つまりA で交わる3線のうち、JD の取り方は複比と無関係であることが示された。
(J, G ; D, B ) = (J, Z ; H, E )
直線JE がA を通るどの辺(直線)にあたるかは重要ではない。特に図を変えれば、以下の様になることもある(補題X) 。
先述のように(J, G ; D, B ) = (J, Z ; H, E ) である。パップスはこれを証明しなかったが、 補題Xはこの構図の逆「2つの複比が等しく図の様にBE, DH がA で交わるとすれば、点G, A, Z は共線である」を表している。
JK, AG が交わらない場合は複比を (J , ∞ ; K, L ) = (J, G ; D, B ) の様に書くことができる。パップスはこれを補題XIで示している。
当時の記法では DE.ZH : EZ.HD :: GB : BEとなるが、これは
(D, Z ; E, H ) = (∞, B ; E, G )
という表現に等しい。
次の図は補題XIIである。
この図は補題XIIIと意味する所は同じだがBA, DG が辺の延長にある点N で交わっている。どのような場合でも、G を通る直線がA を通る直線と交わっているとすれば (そして複比 の不変性を利用すれば)、補題IIIとXIを次のように得る。
(G, J ; E, H ) = (G, D ; ∞, Z )
D を通る直線がB を通る直線と交わっているとすれば、
(L, D ; E, K ) = (G, D ; ∞, Z )
を得る。したがって(E, H ; J, G ) = (E, K ; D, L ) である。また補題Xより、H, M, K は共線 である。これは、六角形 ADEGBZ の主対角線の交点の共線を表している。
補題XVとXVIIは、直線HK, BG の交点をM として、A, M, G の共線を示している。これは六角形BEKHZG の主対角線の交点の共線を示している。
脚注
注釈
^ ただし、ABC とabc で配景 が起こる、つまりAa, Bb, Cc が共点ならば、パップス線とABC とabc も共点である。
^ (Dembowski 1968 , pg. 159, footnote 1)によれば, ヘッセンベルクHessenberg (1905) の元の証明は完全ではなかった。彼は デザルグ配置で起こるいくつかの問題を見逃した。完全な証明はCronheim 1953 によって行われた。
^ Heath (Vol. II, p. 421)はこれらの性質を引用している。後の2つは前の二つの逆として知られる。 Kline (p. 128)は性質139のみを引用している。性質の番号付けはHultschによる。
^ 古代ギリシャでこのように記述された理由に、当時は比というものは、数論や幾何学の対象として見られていなかったことが挙げられる。また、現在の私たちの「等しい」と言う概念は幾何学的に比にも応用できるが、古代ギリシャ人は今日でいう合同として「等しい」という概念を扱っていた。このような意味で線分は等価ではなく、比は等しいとは考えなかった。
出典
^ 細川藤右衛門 『射影幾何学』岩波書店 、1943年、89頁。NDLJP :1063403 。
^ 『近世幾何学 (帝国百科全書 ; 第179編)』藤田外次郎 、1908年、150頁。NDLJP :828609 。
^ a b Coxeter 1969 , pp. 236–7
^ Rolf Lingenberg: Grundlagen der Geometrie , BI-Taschenbuch, 1969, p. 93
^ a b 窪田忠彦 『幾何学の基礎 第3版 (岩波全書 ; 第104)』岩波書店 、1946年、52-60,101-102,127頁。NDLJP :1211294 。
^ a b Coxeter 1969 , p. 238
^ W. Blaschke : Projektive Geometrie , Springer-Verlag, 2013, ISBN 3034869320 , S. 190
^ Coxeter 1969 , p. 231
^ a b Coxeter 1969 , p. 233
^ Whicher 1971 , chapter 14
参考文献
Coxeter, Harold Scott MacDonald (1969), Introduction to Geometry (2nd ed.), New York: John Wiley & Sons , ISBN 978-0-471-50458-0 , MR 123930
Cronheim, A. (1953), “A proof of Hessenberg's theorem” , Proceedings of the American Mathematical Society 4 (2): 219–221, doi :10.2307/2031794 , JSTOR 2031794 , https://jstor.org/stable/2031794
Dembowski, Peter (1968), Finite Geometries , Berlin: Springer-Verlag
Heath, Thomas (1981) [1921], A History of Greek Mathematics , New York: Dover Publications
Hessenberg, Gerhard (1905), “Beweis des Desarguesschen Satzes aus dem Pascalschen”, Mathematische Annalen (Berlin / Heidelberg: Springer) 61 (2): 161–172, doi :10.1007/BF01457558 , ISSN 1432-1807
Hultsch, Fridericus (1877), Pappi Alexandrini Collectionis Quae Supersunt , Berlin
Kline, Morris (1972), Mathematical Thought From Ancient to Modern Times , New York: Oxford University Press
Pambuccian, Victor; Schacht, Celia (2019), “The axiomatic destiny of the theorems of Pappus and Desargues”, in Dani, S. G.; Papadopoulos, A., Geometry in history , Springer, pp. 355–399, ISBN 978-3-030-13611-6
WhicherOlive『Projective Geometry』Rudolph Steiner Press、1971年。ISBN 0-85440-245-4 。
関連項目
外部リンク