ビルマ文字拡張A(ビルマもじかくちょうA、英語: Myanmar Extended-A)は、Unicodeの141個目のブロック。
解説
ビルマ文字のうち、ビルマ文字ブロックに含まれていない、ミャンマーやインド東部に居住する少数民族が話す諸言語のための文字が収録されている。
Unicodeのバージョン5.2において初めて追加された。
収録文字
コード
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文字
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文字名(英語)
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用例・説明
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ラテン文字転写
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カムティ語用シャン文字の子音字
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U+AA60
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ꩠ
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MYANMAR LETTER KHAMTI GA
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子音[ɡ]を表す。
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g
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U+AA61
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ꩡ
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MYANMAR LETTER KHAMTI CA
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子音[c]を表す。
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c
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U+AA62
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ꩢ
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MYANMAR LETTER KHAMTI CHA
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子音[cʰ]を表す。
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ch
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U+AA63
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ꩣ
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MYANMAR LETTER KHAMTI JA
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子音[ɟ]を表す。
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j
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U+AA64
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ꩤ
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MYANMAR LETTER KHAMTI JHA
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子音[ɟʱ]を表す。
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jh
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U+AA65
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ꩥ
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MYANMAR LETTER KHAMTI NYA
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子音[ɲ]を表す。
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ny
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U+AA66
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ꩦ
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MYANMAR LETTER KHAMTI TTA
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子音[ʈ]を表す。
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ṭ
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U+AA67
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ꩧ
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MYANMAR LETTER KHAMTI TTHA
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子音[ʈʰ]を表す。
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ṭh
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U+AA68
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ꩨ
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MYANMAR LETTER KHAMTI DDA
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子音[ɖ]を表す。
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ḍ
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U+AA69
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ꩩ
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MYANMAR LETTER KHAMTI DDHA
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子音[ɖʱ]を表す。
|
ḍh
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U+AA6A
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ꩪ
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MYANMAR LETTER KHAMTI DHA
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子音[dʱ]を表す。
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dh
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U+AA6B
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ꩫ
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MYANMAR LETTER KHAMTI NA
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子音[n]を表す。
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n
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U+AA6C
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ꩬ
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MYANMAR LETTER KHAMTI SA
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子音[s]を表す。
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s
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U+AA6D
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ꩭ
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MYANMAR LETTER KHAMTI HA
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子音[h]を表す。
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h
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U+AA6E
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ꩮ
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MYANMAR LETTER KHAMTI HHA
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子音[ɭ]を表す。
Unicode公式の文字名は誤りである。
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ḷ
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U+AA6F
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ꩯ
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MYANMAR LETTER KHAMTI FA
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子音[f]を表す。
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f
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U+AA70
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ꩰ
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MYANMAR MODIFIER LETTER KHAMTI REDUPLICATION
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直前の音節を2回繰り返して読むことを表す記号。
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U+AA71
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ꩱ
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MYANMAR LETTER KHAMTI XA
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子音[x]を表す。
現在は字母/g/(U+AA60 ꩠ)に置き換えられている[1]。
以下に続く3つの文字は現在は使われておらず、廃字となっている[1]。
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x
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U+AA72
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ꩲ
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MYANMAR LETTER KHAMTI ZA
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子音[z]を表す。
現在は字母/gh/(U+1003 ဃ)に置き換えられている[1]。
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z
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U+AA73
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ꩳ
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MYANMAR LETTER KHAMTI RA
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子音[r]を表す。
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r
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カムティ語用シャン文字の表語文字
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U+AA74
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ꩴ
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MYANMAR LOGOGRAM KHAMTI OAY
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音素列[oaʲ]を表す。
以下に続く文字は会話の書き取りにおいて成長記号と共に用いられ、声調によって意味の変わる間投詞などを表す[1]。
ꩴႊは愛する人を、ꩴးは遠くにいる人を呼ぶ際に用いる間投詞である[1]。
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oay
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U+AA75
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ꩵ
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MYANMAR LOGOGRAM KHAMTI QN
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音素列[ˀn]を表す。
ꩵႈは"いいえ"、ꩵႉは"与える"、ꩵးは"はい"を表す[1]。
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qn
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U+AA76
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ꩶ
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MYANMAR LOGOGRAM KHAMTI HM
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音素列[mʰ]を表す。
ꩶႚは否定を表す接頭辞を、ꩶႊは質問への応答であることを表す標識を、ꩶးは"そこ"を表す[1]。
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hm
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アイトン語の記号及び字母
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U+AA77
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꩷
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MYANMAR SYMBOL AITON EXCLAMATION
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アイトン語における感嘆符(!)。
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!
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U+AA78
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꩸
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MYANMAR SYMBOL AITON ONE
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アイトン語における数字の1
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1
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U+AA79
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꩹
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MYANMAR SYMBOL AITON TWO
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アイトン語における数字の2
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2
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U+AA7A
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ꩺ
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MYANMAR LETTER AITON RA
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子音[r]を表す。
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r
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パオ・カレン語の声調記号
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U+AA7B
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ꩻ
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MYANMAR SIGN PAO KAREN TONE
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タイ・ライン語の声調記号
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U+AA7C
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ꩼ
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MYANMAR SIGN TAI LAING TONE-2
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U+AA7D
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ꩽ
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MYANMAR SIGN TAI LAING TONE-5
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シュエ・パラウン語の字母
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U+AA7E
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ꩾ
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MYANMAR LETTER SHWE PALAUNG CHA
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子音[t͡ɕʰ]を表す。
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U+AA7F
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ꩿ
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MYANMAR LETTER SHWE PALAUNG SHA
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子音[ɕ]を表す。
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小分類
このブロックの小分類は「カムティ語用シャン文字の子音字」(Khamti Shan consonants)、「カムティ語用シャン文字の表語文字」(Khamti Shan logograms)、「アイトン語の記号及び字母」(Aiton symbols and letters)、「パオ・カレン語の声調記号」(Pa'o Karen tone mark)、「タイ・ライン語の声調記号」(Tai Laing tone marks)、「シュエ・パラウン語の字母」(Shwe Palaung letters)の6つとなっている[2]。
カムティ語用シャン文字の子音字(Khamti Shan consonants)
この小分類にはビルマ文字のうち、インド東部で話されるタイ・カダイ語族のカムティ語(英語版)で用いられる子音字が収録されている。
カムティ語用シャン文字の表語文字(Khamti Shan logograms)
この小分類にはビルマ文字のうち、カムティ語で用いられる、1文字で発音と意味を持つ単語の両方の機能を担う表語文字が収録されている。
これらの文字は書き言葉では用いられず、会話を書き取る際に用いられ、声調によって意味が変化する間投詞などをこの文字に声調記号を付けることで表す[1]。
アイトン語の記号及び字母(Aiton symbols and letters)
この小分類にはビルマ文字のうち、インド東部で話されるタイ・カダイ語族のアイトン語(英語版)及びパーケ語(英語版)[1]で用いられる記号及び文字が収録されている。
パオ・カレン語の声調記号(Pa'o Karen tone mark)
この小分類にはビルマ文字のうち、ミャンマーのシャン州などに居住するパオ族(英語版)によって話される、シナ・チベット語族チベット・ビルマ語派に属するカレン諸語の一つであるパオ語で用いられる声調記号が収録されている。
タイ・ライン語の声調記号(Tai Laing tone marks)
この小分類にはビルマ文字のうち、ミャンマーのカチン州及びザガイン地方域などで話されている、タイ・カダイ語族のタイ・ライン語(英語版)で用いられる声調記号が収録されている。
シュエ・パラウン語の字母(Shwe Palaung letters)
この小分類にはビルマ文字のうち、ミャンマーのシャン州及び中華人民共和国の雲南省などに居住するトーアン族(中国語: 徳昂族)によって話されている、オーストロアジア語族モン・クメール語派に属するパラウン語の方言で用いられる字母が収録されている。
カムティ体
ビルマ文字で表記される言語のうち、主にインド東部で話されているタイ・カダイ語族のカムティ語(英語版)、アイトン語(英語版)、パーケ語(英語版)ではカムティ体(Khamti style)と呼ばれる、書き始めに点の付いた字形が用いられている。この書式は多くの文字で通常のミャンマー式の字形と比べて点の有無程度の字形差しか存在せず、文字の機能自体に変化もないため符号上は統一されていたが、ミャンマー式の書体ばかりが増え、カムティ体を表記に用いる言語コミュニティの文化喪失が懸念されていた。この問題に対処するため、現在はカムティ体を異体字セレクタのVS1(U+FE00)を用いて表現することができるようになっている[3]。
異体字選択に係る制御綴り
U+
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AA60
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AA61
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AA62
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AA63
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AA64
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AA65
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AA66
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AA6B
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AA6C
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AA6F
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AA7A
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既定の符号位置
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ꩠ
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ꩡ
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ꩢ
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ꩣ
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ꩤ
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ꩥ
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ꩦ
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ꩫ
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ꩬ
|
ꩯ
|
ꩺ
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VS1添加 (カムティ体)
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ꩠ︀
|
ꩡ︀
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ꩢ︀
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ꩣ︀
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ꩤ︀
|
ꩥ︀
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ꩦ︀
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ꩫ︀
|
ꩬ︀
|
ꩯ︀
|
ꩺ︀
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文字コード
履歴
以下の表に挙げられているUnicode関連のドキュメントには、このブロックの特定の文字を定義する目的とプロセスが記録されている。
バージョン
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コードポイント[a]
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文字数
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L2 ID
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ドキュメント
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5.2
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U+AA61..AA7B
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27
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L2/08-145
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Michael Everson (14 April 2008), Ordering and character properties for Myanmar Khamti Shan characters (WG2 N3436) (英語)
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L2/08-181
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Martin Hosken (28 April 2008), Proposal to add Khamti Shan Characters to the Myanmar Blocks (WG2 N3423) (英語)
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U+AA60
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1
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L2/08-276
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Martin Hosken (4 August 2008), Extended proposal to add Khamti Shan Characters to the Myanmar Blocks (WG2 N3492) (英語)
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7.0
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U+AA7C..AA7F
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4
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L2/11-130
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Martin Hosken (28 April 2011), Proposal to add minority characters to Myanmar script (英語)
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L2/12-012
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Martin Hosken (6 February 2012), Proposal to add minority characters to Myanmar script (WG2 N3976) (replaces L2/11-130) (英語)
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- ^ 提案されたコードポイントと文字の名前は、最終決定と異なる場合がある。
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出典
- ^ a b c d e f g h i Martin Hosken (2008年8月4日). “Extended proposal to add Khamti Shan Characters to the Myanmar Blocks (WG2 N3492)” (英語). Unicode. 2025年2月24日閲覧。
- ^ "The Unicode Standard, Version 15.1 - UAA60.pdf" (PDF). The Unicode Standard (英語). 2025年2月23日閲覧。
- ^ Martin Hosken, Stephen Morey (2014年8月5日). “Proposal to Disunify Khamti Style Letters from Myanmar (revised)” (英語). Unicode. 2025年2月17日閲覧。
関連項目