プライマリ・ヘルス・ケアプライマリ・ヘルス・ケア(Primary Health Care、略称:PHC)は、1978年、カザフスタンアルマ・アタ(現:アルマトイ)で開かれた世界保健機関と国際連合児童基金による合同会議における宣言文、アルマ・アタ宣言で初めて定義づけられた[1]。
プライマリ・ヘルス・ケア(以下、PHC)は、すべての人にとって健康を基本的な人権として認め、その達成の過程において住民の主体的な参加や自己決定権を 保障する理念であり、そのために地域住民を主体とし、人々の最も重要なニーズに応え、問題を住民自らの力で総合的にかつ平等に解決していく方法論・アプローチでもある。 PHCは、「すべての人々に健康を(Health For All by the Year 2000 and beyond)」イニシアティブの目標達成の鍵としてWHO加盟国によって承認された。PHCの歴史的展開については、記事「グローバル・ヘルス」を参照。 PHCの5原則PHCは、以下の実施上の5原則(あるいは4原則)、そして8つの具体的活動項目から成る。 実施上の5原則は以下の通りである。 PHCの具体的な活動項目PHCの具体的な活動項目としては以下の8項目が挙げられている。
アルマ・アタ宣言以降、各国がPHCに取り組む過程で、これら8項目以外に、HIV/エイズ、女性の健康(リプロダクティブ・ヘルス)、メンタルヘルス、障害者の健康などがPHCの重点項目として追加される場合もある。 包括的PHCと選択的PHCヘルスケアサービスは、人間の生存にとって必要不可欠なものであるが、国の経済、政治、社会によって国民のニーズもサービスシステムも異なる。このような中で、PHCが事情の異なる国々にどのように受け入れられるのか、アルマ・アタ宣言議決当初から多くの懸念や批判が出された。 またPHCを主導する人々の間でも、様々な方法論が展開されるようになった。中でも、その後の保健開発戦略の主流を成すようになったのは、WalshとWallenによる「選択的PHC(Selective Primay Health Care)」である[4]。 彼らは、アルマ・アタ宣言で唱えられたPHCを包括的PHCと呼んで区別し、包括的PHCの達成には長い年月がかかるため、それを実現するための中間的な方法論として特定のターゲットを設定する必要があるとして、選択的PHCを提唱した。例えば、予防接種プログラムなどがその範疇に入る。 選択的PHCの考え方は、援助実施機関にとっては、効率性とコスト、評価の容易さ、効果の目に見えやすさなどの観点から魅力的であり、多くのドナーで取り入れられ、複数の選択的PHCをパッケージ化して提供する手法が一般化していった。 一方で、選択的PHCは、逆に包括的PHCの支持者からも批判を受けている。批判の要点は次のような点に集約できる。
先進国におけるPHC欧米先進国において一般的に用いられるPHCは、アルマ・アタ宣言による定義とは大きく異なっている。先進国におけるPHCの定義は米国医学研究所(IOM)によるものが有名である。
先進国におけるPHCは、「0次医療」と訳されることがある通り、医療の枠組の中で医療者が提供するサービスの一つという捉え方が主体である。アルマ・アタ宣言に結実したPHCは、医療人類学、社会学、国際開発学的なコンテキストから生成された概念であり、途上国の保健医療開発の過程で失敗した「医療中心モデル」に対するアンチテーゼとして登場した。そのため、PHCの構成要素の多くは医療以前の「保健」の領域からなっている。一方先進国においては、健康保険制度、医療者の数・質はある程度整っており、医療へのかかりやすさは高い。そのため、「医療者」と「患者、家族、地域」という関係性を軸とすることが可能である。そこでは家庭医療・かかりつけ医などをベースとした医療中心モデル、すなわち医療サービスとしてのプライマリ・ケアが有効に機能しうる。 家庭医療の原理として、オレゴン健康科学大学家庭医療学教授JohnW.Saultzは、以下の5項目を挙げている[5]。 家庭医療のACCCC
この5項目は、アルマ・アタ宣言とは異なる文脈から作られた原理であるが、視点としては本質的にアルマ・アタ宣言のPHC実施上の5原則に近いものになっている。先進国におけるPHCは、サービスの主体が医療者であるなど途上国におけるPHCとは異なる面も多いが、根本的な思想としては似通っているのである。 出典参考文献
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