列車運行管理システム (れっしゃうんこうかんりシステム、通称PTC :P rogrammed T raffic C ontrol)とは、鉄道 の列車運行管理において、計画ダイヤ を基に列車集中制御装置 (CTC)・自動進路制御装置 (PRC)・運転整理 システム・旅客案内システムなどを一括管理・制御するコンピュータシステム である。主に大都市圏の高密度運転線区や新幹線 などの高速鉄道 において、列車運行管理の効率化・旅客サービス向上のために導入されている。
列車運行管理システム(PTC)を導入しているのは日本の新幹線 や在来線 、台湾新幹線 などである[ 1] 。
概要
鉄道運行において、かつては信号機 や分岐器 などを操作する運転要員が各停車場 に必要であったが、CTCの導入により1ヶ所に集約して行うことが可能になったほか、正常なダイヤ での運行がなされている限りは、それまで人間が行っていた信号機や分岐器などの操作をPRCに自動で行わせることが可能となり、運転要員の業務負荷が大きく低減されたほか、大幅な人員コスト削減も可能となった。一方、ダイヤが乱れた際の運転整理 や旅客案内などは引続きほぼ全てを人間による情報収集・計画立案・実施判断に依存する体制は変わっておらず、大都市圏を中心とした列車運転本数の増加や、高速性・正確性・顧客サービス等の向上ニーズの高まりに対して、適切な対応を迅速かつ効率的に行うことが困難となってきた。
そこで、信号機や分岐器の単純な自動制御 だけではなく、運転整理や旅客案内、車両運用管理等の運行関連機能全般をコンピュータシステムとして統合し、運転指令所 と駅 や車両基地 などの現業機関をオンラインで接続することで、効率的な列車運行が実現できる。このようなシステムには高性能の処理能力を持ったコンピュータが必要であるため、本格的な導入に至ったのは高性能コンピュータが普及した1990年代 以降となってからが多い。また、線路 や日本の鉄道車両検査 の計画管理、電気施設や信号機などの設備管理などの機能も独自に付加して、より大規模な総合管理を行うシステムを採用している事業者もある。
主なシステムの内容を以下に述べる。
運転整理機能
運転整理機能による抑止表示機(JR西日本)
東京メトロ15000系電車 の運転台。写真右上のディスプレイがJR東日本線内で使用される運転通告用車上モニタ装置
ダイヤが乱れた際、列車種別 など運行優先順位も考慮した運転整理 計画をコンピュータが立案し、安全で迅速な平常ダイヤへの復旧計画案を指令員に提供する支援機能。指令員はその提供計画案を参考に、最終的な運転整理の判断を行う。従前は遅延が大きくなるとPRC による信号や分岐器の自動操作が出来なくなるため、本来は最終的な判断作業に専念すべき指令員が自らこれらの操作を行っていた。また、現業機関に運行情報表示装置 (TID)を設置することで、各現場の社員が最新の運行状況をリアルタイムで把握することが可能となる。
さらに東日本旅客鉄道 (JR東日本)の東京圏輸送管理システム (ATOS)や西日本旅客鉄道 (JR西日本)の運行管理システム (JR西日本) 、つくばエクスプレス 、東京地下鉄 (東京メトロ)[ 2] では、駅ホームにLED 式の「抑止表示機」を設置し、ダイヤが乱れた際の運行間隔調整・発車時刻変更などの指示を乗務員・駅員へタイムリーに伝達できる機能を有している。JR東日本のATOSでは更に機能を発展させ、着発番線変更など乗務員への各種指示伝達に関して、従来は駅員から受領する運転通告券や列車無線 を介した指令員との音声通話に依っていたものを、デジタル列車無線 を介して各列車の車上モニタ装置 へ伝送しディスプレイに文字情報で表示させるシステムを構築し、指示の迅速化・効率化および伝達ミス等の防止のほか、列車無線の回線輻輳緩和を図っている。
旅客案内機能
通称:PIC、Passenger Information Control
発車標 への遅延時間表示(JR東日本のATOS)
駅に設置される旅客案内表示器 や自動放送装置 は、従前は各駅単位でのスタンドアローン 機器[ 3] に過ぎず、駅員自らが鉄道電話 などで入手した運行状況を手入力するという極めてアナログな手法であったため、列車に大幅な遅延や運休が発生した時など駅員がタイムリーに運行状況を把握しきれない場合や機器への手入力が追いつかない場合、案内表示は「調整中」と表示させざるを得ず、十分な旅客案内を行うことができなかった。列車運行管理システムに旅客案内機能を持たせることで、システム自らが最新の運行状況を自動で案内できるほか、運転整理計画を元に「約○○分遅れて到着予定」など正確な遅延時間の表示や発車順序等の変更案内、正常ダイヤへの復旧見込みなど、より細かい情報の提供が可能となる。また、JR東日本のATOSでは上述のデジタル列車無線網を介し、最新の運行状況情報を各列車の車上モニタ装置へ伝送し、他線区も含めた自列車以外の運行状況を乗務員がリアルタイムで把握することができる。
運用管理システム
車両や乗務員などの運用管理を一括して行い、異常時には代用の車両や乗務員の手配を迅速に行うことができる。
導入例
日本では一部の鉄道事業者 が都市部を中心に導入している。事業者により呼び名や機能が一部異なる場合があるが、導入例を以下に述べる。
JRグループ
北海道旅客鉄道 (JR北海道)
北海道新幹線総合システム (通称CYGNUS(シグナス):C omputer sy stem for sign al control and u seful maintenance of Hokkaido S hinkansen)。北海道新幹線 に導入[ 4] 。
在来線についても函館本線 ・宗谷本線 の小樽 ~永山 間、室蘭本線 ・千歳線 の室蘭 ~白石 間に導入されており自動進路制御装置(PRC)とPRCからの運行管理データを元にした自動案内を行う「旅客案内システム」(通称PGC:P assanger G uidance C ontrol system)が導入されている[ 5] 。
石勝線運行管理システム:石勝線 (駒里信号場~串内信号場間)に導入[ 6] 。
東日本旅客鉄道 (JR東日本)COSMOS連動の発車標(東京駅 )
新幹線総合システム (通称COSMOS(コスモス):Co mputerized S afety, M aintenance and O peration S ystems of Shinkansen)。東北 ・上越 ・北陸新幹線 に導入されている。JR西日本と共同で運用。ジェイアール東日本情報システム と日立製作所 の共同開発。
東京圏輸送管理システム (通称ATOS(アトス):A utonomous decentralized T ransport O peration control S ystem)。現在日本に導入されている列車運行管理システムの中では最も規模が大きい。日立製作所製。
東海旅客鉄道 (JR東海)COMTRAC連動の発車標(品川駅 )
新幹線運行管理システム (通称COMTRAC(コムトラック):Com puter aided Tra ffic C ontrol System)。東海道 ・山陽新幹線 に導入されている。JR西日本と共同で運用。日立製作所製。2010年11月よりJR九州の九州新幹線指令システム (SIRIUS)とオンライン接続[ 7] 。
名古屋圏運行管理システム (通称NOA(ノア):N ew O perational A utomation System)。名古屋地区用と静岡地区用があり、主要路線を中心に導入されている。
西日本旅客鉄道 (JR西日本)運行管理システム連動の発車標(大阪駅 )
九州旅客鉄道 (JR九州)
九州新幹線指令システム (通称SIRIUS(シリウス):S uper I ntelligent R esource and I nnovated U tility for S hinkansen Management)。九州新幹線 に導入されている。JR九州管内主要在来線の総合指令システム(JACROS)とオンライン接続されている。2010年11月よりJR東海・JR西日本の新幹線運行管理システム(COMTRAC)とも接続[ 7] 。
総合指令システム (JACROS(ジャクロス):J R Kyushu A dvanced and C oncentrated R ailway O perating S ystems)。JR九州管内の主要在来線に導入されている。また九州新幹線指令システム(SIRIUS)とオンライン接続されている。日立製作所製。
大手私鉄・準大手私鉄
東京地下鉄 (東京メトロ)東京メトロ運行管理システム連動の発車標(小竹向原駅 )
PTC(自動列車運行制御装置)。所有する全路線・全区間に導入。日立製作所製。
東急電鉄 ・横浜高速鉄道
東武鉄道
西武鉄道
小田急電鉄 小田急OTC連動の発車標(新宿駅 )
OTC(小田急型列車運行管理システム)。全路線・全区間に導入。京三製作所製。
京浜急行電鉄
京王電鉄 京王TTC連動の発車標(新宿駅 )
TTC(列車運行管理システム:T otal T raffic C ontrol system)。全路線・全区間に導入。京三製作所製。
京成電鉄
TTC。北総鉄道との共用区間を含む全路線に導入している。京三製作所製。
新京成電鉄
北総鉄道
TTC。京成との共用区間を含む全路線に導入している。京三製作所製。
近畿日本鉄道
京阪電気鉄道 京阪ADEC連動の発車標(樟葉駅 )
ADEC(アデック:A utonomous De centralized Traffic C ontrol System)[ 13] 。自律分散型列車運行管理システム。1985年 導入。京阪線区 (大津線 と鋼索線 を除く)に導入。2007年 度に更新。日立製作所製。
阪急電鉄 阪急TTC連動の発車標(大阪梅田駅 )
阪神電気鉄道
PTC。阪神なんば線の大阪難波 - 桜川間を除く全路線・全区間に導入。三菱電機とアイテック阪急阪神 との共同開発。現在のものは3代目。1971年導入。
南海電気鉄道
PTC。1980年 9月に南海本線 とその他各支線に導入。2019年 2月から3月にかけて高野線 にも導入。PTC化以前は各連動駅にて信号担当者が進路制御を行い、高野線橋本 - 極楽橋間はCTCによる制御が行われていた。南海線PTCは空港線 の開業を控えた1994年 3月に更新され、現在のものは2012年 11月に更新された3代目。日立製作所製。
泉北高速鉄道
泉北高速鉄道総合管理システム(SENTRACS(セントラックス):Sen boku T otal Ra ilway C ontrol S ystem)。唯一所有する泉北高速鉄道線 の全区間に導入。南海本線の運行管理システムの機能をベースとして、駅施設管理の機能も統合された総合管理システム[ 14] 。現在のものは2008年 に更新されたものである[ 15] 。日立製作所製。
山陽電気鉄道
SANTICS(サンティクス:San yo T raffic and I nformation C ontrol S ystem)。所有する全路線・全区間に導入。三菱電機製。
西日本鉄道
その他(中小私鉄・公営・第三セクター鉄道)
運行管理システムの問題事案
機器の不具合・操作ミスによるもの
2013年 7月18日 に、JR九州の運行管理システムに大規模なトラブルが発生し、同社管内の在来線で長時間・広範囲に亘り、計179本に及ぶ列車の運休や遅れが生じた[ 17] 。同社で原因を調査した結果、3年前の2010年 に自動進路制御装置 の機器を交換した際、メーカーの日立製作所が仕様と異なる種類の機器を誤って取り付けたことが原因であると判明。JR九州は日立製作所に対し、運行面での信用を失墜させたなどとして、損害賠償 を請求する方針であるとしている[ 18] 。
脚注
関連項目