利用者:エリック・キィ/マヨケビ語「マヨケビ語」なる言語の存在を意識し始めたのは『世界の国旗大百科』という本によってであった。この本の主題はあくまでも国旗ではあるが各国の基礎データもおさえられており、世界を知る手掛かりとして重宝できるものであった。チャドの言語欄にも公用語のフランス語、アラビア語、非公用語のサラ語と共にこの言語名が挙げられていた。マヨケビの名は他の場所でも見出すことができる。外務省のチャドについての基本情報の「民族」欄にも「マヨ・ケビ族」なるものが記載されているし、英語による各国についての概説書にも民族名を指してMayo-Kebbiとの記載が見られる[1]。2012年のブリタニカの言語に関する統計でも話者人口106万3千人を数える言語としてやはり同一の記載が確認できる[2]。 しかし普段聞きなれない様な言語でも、Ethnologueであれば載っているだろう。私はそう見積もっていた。ところが、Ethnologueを調べてもその様な言語名は見当たらない。代わりにマヨケビとは東西に分かれた二つの州の総称であるらしいという事が分かった。そこで、両州の土着言語についての情報を整理し、マヨケビ語とは何か特定できないか試みる事とした。 両マヨ・ケビ州の土着言語一覧表
この中で最も広域のコミュニケーション言語機能を果たしているのはバギルミ語やンガンバイ語である事が分かる。それでは、この二つのうちのいずれかが「マヨケビ語」と目された言語であるのだろうか。残念ながらその答えは否であろう。というのも、いずれも別枠に分類される言語であると見るのが妥当である為である。バギルミ語は先述のブリタニカの統計にはっきり別言語として記載されているし、ンガンバイ語については上表の備考欄にある通り無視できない別名「サラ語」がある。これも『世界の国旗大百科』やブリタニカの統計に記載されていて、恐らく中央スーダン語派に属する複数の言語を取りまとめた総称であると考えることができる。 さて、バギルミ語もンガンバイ語もマヨケビ語では無いとなると、両マヨ・ケッビ州にはそれ以外に飛び抜けて優勢な土着言語というものはもはや存在しない。他に二種類の資料の人口データ同士を突き合わせることにより言語を割り出す方法も考えられたが、それを実際に試す気にはなれなかった。というのもEthnologueの人口データの年代は言語毎にばらばらであり、しかも2012年より前のものが多い。アダマワ・フルフルデ語だけ見ても6年の間に8万人以上の差が発生している。これではまともな比較など到底できそうに無い。取り敢えず、現状では先述の二言語の他は消滅状態にあるMuskum語やKanem-Bornu枠に含まれそうな中央カヌリ語、既に「フラ語」に「フラニ語」といった一般的な名前を持つアダマワ・フルフルデ語の三つがマヨケビ語である可能性がおよそ考え難い事を除けば全く特定を行う事ができない。漠然と、アフロ・アジア語族チャド語派かニジェール・コンゴ語族大西洋・コンゴ諸語アダマワ・ウバンギ諸語かのいずれかの言語であろうと推察する他ない。あるいは、そもそもマヨケビ語という括り自体何の学術的な系統分析にも基づかないものであるのかもしれない。ブリタニカの統計での百万人超えという数値は、実はマヨケビ語の正体であるンガンバイ語の話者数が2006年時点よりも増加したと仮定するか、あるいは先ほど差し引いたものを除いた表中の全言語の話者数を寄せ集めでもしない限り実現する事はできない様に思われる。 それにしても、これをまとめた時点では両マヨ・ケッビ州のチャド語派言語を主題とした記事は一つも作成されていない。この様な事をしているよりは、さっさと(但しハコだけではない)個別記事を拵える方が遥かに有意義であろう。しかし現状ではケラ語やムスグム語、Mbara語を除き、大方の言語資料にアクセスできる見通しが立っていない。『言語学大辞典』に個別項目が無いものも目立つ。この先の旅には随分難儀する事であろう。 脚注
参考文献
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