反転幾何学 において反転距離 (はんてんきょり、英 : inversive distance )は、2つの円 の「距離」を測る方法の一つ。円が交差しているか否かにかかわらず定義することができる[ 1] 。
性質
2円の反転距離は、反転 あるいはメビウス変換 において不変である[ 1] [ 2] [ 3] 。2円の組2つが、メビウス変換によって互いに変換できることと、反転距離が等しいことは同値である[ 1] 。
ユークリッド距離 におけるベックマン-クァールズの定理 (英語版 ) は、反転距離においても成立する。すなわち、反転平面 上の円の集合の全単射 において、任意の2円の反転距離 δ が保存されるならば、その全単射はメビウス変換でなければならない[ 3] 。
公式
ユークリッド平面 上において半径 をそれぞれ r, R 、中心間の距離を d とする2つの円を取る。反転距離は次の式で定義される[ 1] 。
I
=
d
2
−
r
2
−
R
2
2
r
R
{\displaystyle I={\frac {d^{2}-r^{2}-R^{2}}{2rR}}}
次の性質を導くことができる。
交差していない2円の反転距離は1より大きい。
反転距離が1となる必要十分条件は、2円が外接 (英語版 ) することである。
2円が交わるときその反転距離の絶対値 は1より小さい。
反転距離が0であることと、2円が直交 することは同値。
反転距離が−1となる必要十分条件は、2円が内接することである。
一方の円がもう一方の円を内包しているとき、反転距離は−1より小さい。
この値の絶対値を反転距離とする場合もある[ 2] 。
また、代わりにこのように定義された反転距離 I の逆双曲余弦 を使用する者もいる[ 2] [ 4] [ 5] 。
δ
=
arcosh
(
I
)
{\displaystyle \delta =\operatorname {arcosh} (I)}
あるいは、
δ
=
arcosh
|
I
|
{\displaystyle \delta =\operatorname {arcosh} |I|}
逆双曲余弦によって反転距離を定義する方法はより複雑であり、また交差する円に対して適用できなくなるが、直線 上の点ように、円束 において加法性 を追加できるという利点がある。3円が同じ束に属しているならば、1つの円に対する他の2円の δ の和は、2円の δ に等しい[ 2] 。
中心を共有する 2円の反転距離
δ
=
arcosh
|
I
|
{\displaystyle \delta =\operatorname {arcosh} |I|}
は、それぞれの半径を R, r (R > r ) として、
ln
R
r
{\displaystyle \ln {\frac {R}{r}}}
に等しい[ 2] 。
別の幾何学
球面 や双曲平面 上の反転距離を定義することができる[ 1] 。
応用
シュタイナーの円鎖
シュタイナーの円鎖 は、交わらないある2円に接する、かつ隣の2円に相接する有限の円の集合である。複数回巻きの円鎖を定義することも可能で、分子が円の個数を表し、分母が巻き数を表す有理数 p によって特徴付けることができる。同じ2円に対するシュタイナーの円鎖の p は一定である。2円の(逆双曲余弦関数を通じた)反転距離を δ とすると、次の式が成立する[ 注釈 1] 。
p
=
π
sin
−
1
tanh
(
δ
/
2
)
=
π
gd
(
δ
/
2
)
{\displaystyle p={\frac {\pi }{\sin ^{-1}\tanh(\delta /2)}}={\frac {\pi }{\operatorname {gd} (\delta /2)}}}
逆に、p が有理数となる交差しない任意の2円について、適切にシュタイナーの円鎖を構成できる。より一般に、任意の交差しない円の組 x について、有理近似 した p を持つシュタイナー円鎖の存在を保証する円の組によって、x を近似することができる[ 2] 。
サークルパッキング
反転距離はサークルパッキング の拡張に使用される。集合内の円がそれぞれ一定の反転距離を持つようにサークルパッキングを定めることができる。これは互いに外接する場合、つまり反転距離 I = 1 の場合であるサークルパッキング定理 の一般化となっている[ 1] [ 6] 。メビウス変換における違いを除き、maximal な平面的グラフ に対して、反転距離が一定であるサークルパッキングが存在するならば、それを一意に決定することができる。この剛性 (英語版 ) は、頂点に不足角 を持つ三角化された多様体 上のユークリッド計量あるいは双曲計量に広く一般化できる[ 7] 。しかし球面幾何学 の多様体においてパッキングは一意とはならない[ 8] 。このパッキングは等角写像 の近似の構築に利用されている[ 1] 。
脚注
注釈
^
gd
x
{\displaystyle \operatorname {gd} x}
はグーデルマン関数 。
出典
^ a b c d e f g Bowers, Philip L.; Hurdal, Monica K. (2003), “Planar conformal mappings of piecewise flat surfaces”, in Hege, Hans-Christian; Polthier, Konrad, Visualization and Mathematics III , Mathematics and Visualization, Springer, pp. 3–34, doi :10.1007/978-3-662-05105-4_1 , MR 2046999 .
^ a b c d e f Coxeter, H. S. M. (1966), “Inversive distance”, Annali di Matematica Pura ed Applicata 71 : 73–83, doi :10.1007/BF02413734 , MR 0203568 .
^ a b Lester, J. A. (1991), “A Beckman-Quarles type theorem for Coxeter's inversive distance”, Canadian Mathematical Bulletin 34 (4): 492–498, doi :10.4153/CMB-1991-079-6 , MR 1136651 .
^ Coxeter, H.S.M. ; Greitzer, S.L. (1967), Geometry Revisited , New Mathematical Library , 19 , Washington, D.C. : Mathematical Association of America , pp. 123–124, ISBN 978-0-88385-619-2 , Zbl 0166.16402
^ Deza, Michel Marie; Deza, Elena (2014), “Inversive distance”, Encyclopedia of Distances (3rd ed.), Springer, p. 369, doi :10.1007/978-3-662-44342-2_19
^ .
^ Luo, Feng (2011), “Rigidity of polyhedral surfaces, III”, Geometry & Topology 15 (4): 2299–2319, arXiv :1010.3284 , doi :10.2140/gt.2011.15.2299 , MR 2862158 .
^ Ma, Jiming; Schlenker, Jean-Marc (2012), “Non-rigidity of spherical inversive distance circle packings”, Discrete & Computational Geometry 47 (3): 610–617, arXiv :1105.1469 , doi :10.1007/s00454-012-9399-3 , MR 2891251 .
外部リンク