屋根裏部屋の花たち
『屋根裏部屋の花たち』(やねうらべやのはなたち、原題:Flowers in the Attic)は、1979年に発表されたV・C・アンドリュースによるアメリカ合衆国の小説[2]。『炎に舞う花びら』など続編も刊行されシリーズ化している。2019年時点でシリーズ売上は4000万部を突破している[3]。1987年に原作の一作目を映画化[4]。2014年から全編(1-4作目)がドラマ化。2022年に外伝(5作目)『ドールハウスの庭』がドラマ化。2014年と2022年の映像化は日本語ローカライズが成されていない。 概要シリーズでは、1950年代から2000年代のアメリカを舞台に、大人たちの思惑により屋根裏部屋での監禁生活を強いられる四人の子供たちの物語から始まり、そのうちの上二人の兄妹が近親相姦の関係になり、逃げ延びた先で長じてから血縁を隠して夫妻として暮らすようになる姿が描かれていく。兄妹らの姓を取り『The Dollanganger Family Series』、『The Dollanganger Saga』、『Dollanganger Children』と称されることや、一作目に由来し『屋根裏部屋の花たちシリーズ』と称されることもある。 兄妹の関係は媒体によって表現が大きく変わる。原作小説においては、兄による強姦から始まり、妹が許し愛し合うようになった。1987年の映画版においては、被虐待児童らが監禁から脱出するという点にテーマが絞られ、兄妹には妖しさこそ漂うが明確な性関係はない。当初は原作そのままに映像化する予定であり撮影まで行われたが、試写会での評価が芳しくなく改められた。2014年のドラマ版においては、強姦ではなく最初から兄妹で同意しあって肉体関係を持つ。一方、『炎に舞う花びら』における、「17歳と42歳が恋をして性交」という展開については、小児性愛だとして2014年ドラマ版ではカットされた。 著者は本作を「ほとんど耐え難い状況下で生き延びるために奮闘する実際の子供たち」に向けたものと語る[3]。俗悪な大衆向けペーパーバックとして発売され、近親相姦、毒殺、虐待を描く作品内容から、ワシントン・ポスト紙では「狂った駄作」「今まで読んだ中で最悪の本」と批判を受け[3]、子供が読むにはスキャンダラスでショッキングな内容だと、多くの議論を呼んだが[3]、10代からの強い支持を受け1作目は発売した年に300万部売れた[5]。ガーディアンでは「ストーリーは狂気の沙汰としか言いようがないが、40年経った今でも完全に引き込まれる」「抗えない魅力を放つ」と評された[3]。1作目は1993年、子供の投票によって選出されるオーストラリアの文学賞BILBY Awardで、13歳以上の子供から評価され「Older Readers Award」を受賞した[6]。また、2003年にザ・ビッグ・リードで、イギリス国民が選ぶ書籍ベスト200に選ばれた。 本編4作発表後に著者アンドリュースは亡くなり、発見された遺稿をもとにAndrew Neidermanがゴーストライターとなって『ドールハウスの夢』を執筆し、アンドリュース名義で発表された[3]。執筆者が異なるためか、『ドールハウスの夢』と本編4部作にはいくらかの矛盾点が生じている。その後もAndrewによる二次創作として、アンドリュース名義でシリーズの続編や過去編『Christopher's Diary: Secrets of Foxworth』、『Christopher's Diary: Echoes of Dollanganger』、『Secret Brother』、『Beneath the Attic』、『Out of the Attic』、『Shadows of Foxworth』が発表されたが、それらは日本語訳されていない。 兄妹は人形のような容姿の美しさから「ドレスデン・ドールズ」と作中で呼ばれることがあり、バンドグループドレスデン・ドールズの由来になっている[3]。また、兄妹の姓ドーランギャンガー(Dollanganger)はNicole Dollangangerの名前の由来ともなっている。 年譜1979年、1作目『屋根裏部屋の花たち』(Flowers in the Attic)発表。 1980年、2作目『炎に舞う花びら』(Petals on the Wind)発表。 1981年、3作目『棘があるなら』(If There Be Thorns)発表。 1984年、4作目『屋根裏部屋へ還る』(Seeds of Yesterday)発表。 1986年12月19日、著者のV・C・アンドリュース逝去。 1987年、1作目『屋根裏部屋の花たち』が実写映画化。 1989年、遺稿をもとに5作目にして番外編『ドールハウスの夢』(Garden of Shadows)発表。 2014年、1-4作目がドラマ(テレビ映画)化。 2022年、5作目がドラマ(テレビ映画)化。 あらすじ屋根裏部屋の花たち1957年、アメリカ合衆国ペンシルバニア州グラッドストン。12歳の少女、キャシー・ドーランギャンガーは、両親、14歳の兄クリス、5歳の双子の弟妹コーリイ&キャリーと共に幸せな日々を送っていた。全員が金髪碧眼の、目立って美しい容姿の一家だった。ところが、父が事故で急逝した。麗しいが生活能力のない母コリーンは暮らしていけなくなり、四人の子供たちを連れてバージニア州シャーロッツビルにある大富豪の実家フォックスワース家へと帰った。父母は駆け落ちして結婚したため母方の祖父母にその関係を今でも許されておらず、子供たちが祖父母宅へ行くのは初めてだった。特に父母の関係を強く反対していた祖父マルコムは、病気で伏せっており今にも死にそうだという。祖父との衝突を避ける母は、祖父にだけは子供たちの存在を知らせず、豪華な屋敷の一角である屋根裏部屋に子供たちを隠し、祖父に真実を話し説き伏せた後には出してあげると約束した。屋根裏部屋は最低限の生活こそできるが殺風景で、子供たちは色紙で花を作って壁中に飾った。キャシーは毎日兄弟らの前でバレエを踊った。子供たちは母の言いつけを守り屋根裏部屋に潜み続けていたが、祖父との交渉は進んでいないらしく、「一晩だけ」だったはずの屋根裏部屋生活は延びていき、数年が経とうとしていた。 屋根裏部屋での生活が長期化し、バレリーナを志すキャシーも、医者を志す兄クリスも、何年も学校に行けず学べない生活の中で焦燥に駆られた。やがてキャシーは、父母が実は、叔父と姪という結婚を許されざる関係だと知る。父は、祖父の年の離れた異母弟だった。祖父は父母の関係や、ましてやその間に生まれた子供を許せるはずがなく、祖父の死を待たなければ子供たちは屋根裏部屋から出られそうになかった。真実を知る祖母オリヴィアは、子供たちを忌まわしいものとして扱い、聖書を引用しながらキャシーらを「罪の子」だと言った。父の死後に一時期はやせ細り哀れだった母は、豪邸でのお嬢様としての暮らしの中で会うたびに華美になっていき、キャシーは「母に見捨てられたのではないか、一生出してもらえないのではないか」と感じ始め、母を信じて待つべきだというクリスと衝突することもあった。異常な生活を長期間続けたためか子供たちは体調不良に陥ることがあり、まだ幼い双子の弟妹が不憫でならず、キャシーとクリスはやがて母に見切りをつけて屋根裏部屋からの脱出を決意した。子供たちだけで生きていくのには金がかかるので、二人は監禁されている部屋の鍵を開ける方法を見つけ、部屋から抜け出しては豪邸内の金目の物を盗み取り、十分に集まったら脱出することにした。 15歳になったキャシーは、二次性徴を迎えた美しい肉体で恋する相手がいないことを悲しみ、17歳のクリスの前でそしらぬふりで肌を露わにし、クリスが動揺する姿を見て女性としての自信を得ていた。ある時、いつもはすぐに目を逸らしていたクリスが凍りついたようにキャシーを凝視した。キャシーがそのことに恐怖していると、祖母オリヴィアが現れ、二人の間に流れる空気から罪深いものを察し、キャシーの長い金髪が男を誘惑するものだと、タールをかけた。固まった髪の毛は切らなければどうしようもなさそうだったが、クリスが長い時間をかけて解きほぐし清めたことで切らずにすんだ。オリヴィアは更に、懲罰として二週間も子供たちに食事を与えなかった。 母は父のことを忘れ、男をつくり新しい恋に夢中になっていた。キャシーは、母の恋人であるバートが眠りこけている姿を見た。彼はハンサムで、金髪碧眼ばかりを見ていたキャシーが久しぶりに見る見事な黒髪をしていた。キャシーは衝動的に眠る彼に口づけをした。そのことを知ったクリスは、嫉妬に駆られキャシーを強姦した。キャシーは誘惑的に振る舞っていた自分の招いたことだとクリスを許し、二人は「この世で最も罪ぶかい恋人どうし」となった。 弟コーリイは何度も体調不良になった末に、とうとう目覚めなくなり、キャシーは母に懇願して医者に連れて行くようコーリイを預けたが、やがてコーリイが肺炎で亡くなったと知らされた。もっと早くに脱出していれば死なせずに済んだとキャシーとクリスは後悔した。全ては祖父のせいだと、クリスは病床の祖父の元へ飛び込むも、そこはもぬけの殻だった。祖父はもう1年ほども前に亡くなっていた。祖父は母と再会した際に「許されない間柄で罪の子を産んでいなくて良かった」と喜び、莫大な遺産の多くを母に渡すとの遺言を書き、そしてもし罪の子の存在が発覚するようであれば破棄するとも残していた。母は、子供たちよりも金を選んだのだ。そして母はネズミ退治として砒素を取り寄せていた。コーリイの好物であるためキャシーらが優先的に渡していたドーナツには砂糖のように白い砒素がまぶされており、コーリイはそれによって殺された。 監禁生活が始まってから3年4ヶ月16日目、金目の物を荷物に詰め、キャシー、クリス、キャリーの三人は屋根裏部屋から脱出した。手元には、犯罪の証拠であるドーナツのかけらと、実験的にドーナツを食べさせられ死んだネズミの死骸があった。それらを警察に持っていけば母の罪を告発し保護を受けられたかもしれないが、キャシーはそうしなかった。法の裁きではなく、もっと凄絶な復讐を欲した。景色はまだ冬の中だったが、三人兄妹は本物の花を見に行こうと話し合った。 炎に舞う花びら1960年の11月、キャシーは15歳だった。屋根裏部屋から脱走し遠くの地へと当て所なく向かっていた三人の子供たちは、容態の悪い末妹キャリーを診てもらおうと、サウスカロライナ州クレアモントで心優しい医者ポールに出会った。ポールは子供たちに親身になり、正式な手続きを経て養父となり、三人を我が子のように愛した。ポールの起こした親権獲得の訴訟に、母コリーンは姿を現さなかった。やがてクリスは遠地の医大、キャシーは高校とバレエスクール、キャリーは小学校寄宿舎に入りそれぞれに学生生活を送れるようになった。兄と妹がそれぞれ寮に入りポールと二人で暮らすうち、キャシーは25歳年上のポールの抱える過去の悲しみに気づき、恋愛感情を持つようになった。17歳と42歳の時に二人は男女の関係になり、翌年に婚約した。キャシーが積極的にポールを誘惑し口説き落としたのは、屋根裏部屋での異常な生活によって育まれた兄クリスとの恋愛関係を断つためでもあった。 高校卒業後、キャシーはバレリーナになった。ポールはかつて妻を亡くしており、その妻にまつわる嘘を吹き込まれたことでキャシーは彼を信頼できなくなり、あてつけのように同じバレエ団のダンサージュリアンと衝動的に結婚した。すぐにポールへの誤解は解けるも、年の近い同業者であるジュリアンと結ばれるべきだとポールは身を引いた。苛烈なジュリアンは時にキャシーに暴力を振るうが、親との確執を持つ彼にキャシーはシンパシーを抱き、相手など誰でもいい当てつけの結婚であったが、次第に彼を愛するようになった。しかし彼の子を身ごもった矢先に、ジュリアンは自殺まがいの事故で逝去した。キャシーは寡婦の身で、男児ジョーリイを産んだ。 27歳になったキャシーは母親への復讐の念を捨てきれず、ジョーリイとキャリーを連れて、かつて監禁されていた屋敷のそばへ転居した。20歳のキャリーは幼児期の長い監禁生活の影響で、顔だけは大人の美女なのに背は伸びず幼児のような体の奇異な容姿に育ち、自信のない塞ぎ込んだ性格になっていた。そんなキャリーであったが、新居で知り合った青年と恋に落ち明るくなっていった。しかし、突然の自殺を遂げてしまう。年齢以上に幼く無垢そうに見えるキャリーに、敬虔な恋人は当然に純潔を期待していたが、キャリーは誰でもいいから愛されたいと小児性愛趣味の男に体を委ねてしまった過去があり、穢れた自分に生きる価値はないと思い詰めた。双子の片割れコーリイの死を模倣し、害獣駆除用の砒素をドーナツにまぶして食べ、中毒症状に4日間苦しみ抜いた末の死だった。 キャシーは復讐劇を始め、まずは母コリーンの新しい夫であるバートを寝取り、彼の子供を妊娠した。バートはかつてキャシーが初めてのキスを捧げた、いわば初恋の相手でもあり、復讐心だけではない思いも彼に対してはあった。次には屋敷に侵入し、今では寝たきりになっている祖母オリヴィアに鞭打ち、かつて自身の髪をタールで固められたように、溶けたろうそくで祖母の髪を固めた。屋敷で恒例のクリスマスパーティが開かれた夜、キャシーは招かれざる客として現れ、大勢の客人たちの前で母の娘であることを明かし、3年以上にわたる実子への監禁と、それにより死んだ二人の子供について告発した。母と瓜二つに育ったキャシーの容姿はなによりの証拠となった。母は夫を奪われ、罪の子の存在を明かされたことで遺産の継承権も失った。錯乱した母は屋敷に火を放ち、ほとんどの客は逃げおおせたものの、寝たきりの祖母を救おうとしたバートは祖母もろとも煙に飲まれ死した。精神崩壊した母は罪に問われることもなく精神病院へと入った。母は一度は遺産の継承権を失ったものの、祖父の遺産は祖母のものとなり、その祖母が死したのでまた母へと戻ることになり、しかし正気を失った彼女にはもう意味がなかった。 オーバーワークを重ねていたポールは心臓を悪くし、余命幾ばくもない状態となった。改めて求婚を受け入れ、キャシーはポールの妻となった上で、バートの子供を産み、父と同じバートという名を与えた。結婚後3年でポールを看取ったキャシーは、最後に残された男である実兄クリスの愛を受け入れ、二人の血縁を知る者のいない地に移り住み、そこで夫婦となり二児と共に平穏な家族生活を送るようになった。1975年、30歳になったキャシーは幸せに暮らしながらも、母に似た容姿と男たらしな性質を持つ自分が、いつか母のように我が子を屋根裏部屋に閉じ込めないかと、一抹の恐怖を抱いた。 棘があるなら1982年、キャシーは37歳になり、実兄かつ夫である39歳のクリスと、14歳の息子ジョーリイ、9歳の息子バートと共に暮らしていた。息子たちは父母が実の兄妹であることを知らず、クリスを優しき養父とだけ思っていた。キャシーが時折憑かれたように屋根裏部屋でバレエを踊る理由も、クリスが激しく動揺しながらそれを止める理由も息子たちは知らない。 人当たり良く学校生活とバレエを楽しむジョーリイに対し、バートは不器用で何事も上手く行かず、無力さからくる癇癪持ちで孤立していた。キャシーは亡くなった知人の娘シンディを養子に迎え溺愛するようになり、バートはますます親の愛を奪われたと孤独を感じる。一家の隣には空き家があったが、大掛かりな改装を経て、黒いベールを纏った寡婦姿の老婦人が越してきた。その老婦人は、キャシーをかつて見捨てた母コリーンであった。長く精神病院に入っていたコリーンは正気を取り戻し、我が子から許しを得るために接近した。コリーンは直接キャシーとクリスに会いに行く勇気はなかったが、隣人に興味を持って近づいてきたバートに優しく接し、バートは懐いて彼女の家へ入り浸るようになった。 コリーンの執事であるジョン・エイモスは、キャシーとクリスが忌まわしき近親相姦関係の兄妹であること、金髪の女がいかに男を堕落させるかをバートに説き、バートは狂っていく。自分が愛の末にできた子ではなく、復讐のために作られた子であると知らされ、バートは苦しんだ。またジョンは、キャシーの祖父マルコムに心酔しており、マルコムの日記をバートに託した。バートはマルコムに憧れ、彼を模倣した偏屈な老人のような言動を繰り返して家庭内に不和をもたらした。 バートの変化の原因が隣人にあると知ったキャシーは、隣人がコリーンであることに気づく。コリーンは許しを乞う。コリーンは子供たちを殺害しようなどと思っていなかった、砒素で弱らせて入院させ、祖母らには死んだことにして外へ逃がしてやりたかったと謝罪するも、キャシーは信じられず拒む。そんなキャシーをジョンは殴りつけ、昏倒したキャシーとコリーンを地下室に閉じ込めた。コリーンの遠縁であるジョンは、かつてコリーンと婚約しマルコムの資産を受け継ごうとしていたが、コリーンの駆け落ちにより計画が狂い、コリーン、そして彼女のような金髪の女への憎悪を募らせていた。地下室で高熱を出したキャシーは幼児帰りを起こし、自分のいる暗闇が地下室ではなく屋根裏部屋と錯覚しコリーンに盛んに助けを求め、コリーンは世話をしながら贖罪を続けた。 ジョンはやがて家屋に火を放ちキャシーとコリーンを殺害しようとしたが、クリスらが救った。その中でジョンは死亡し、またコリーンも心臓発作を起こして死した。キャシーはコリーンを看取り、彼女の罪を許した。コリーンは莫大な財産を、孫であるジョーリイ、バート、シンディに託すとの遺書を残していた。バートは死に瀕したキャシーを見たことで母への愛を取り戻し大人しくなるも、マルコムへの崇敬は改められず、一抹の不安を残した。 屋根裏部屋へ還る1997年、キャシーは52歳、兄にして夫のクリスは54歳となった。長男ジョーリイは幼馴染である妻メロディと共に世界的なバレエダンサーとして活躍している。次男バートは、幼少期には荒れていたが、嫉妬の対象であるジョーリイがバレエのため家を出てからは伸び伸びとできるようになり素晴らしい学業成績を修め社交面も改善され、もうすぐ25歳の優秀なビジネスマンとなっている。キャシーとクリスのいまだ衰えぬ近親愛を、ジョーリイは許し受け入れたが、バートは人生の汚点として憎み続け、母であるキャシーへの愛はありつつも、クリスの存在を受け入れられなかった。養女で末娘のシンディは華やかな高校生活を送りながら、歌手になることを夢見ていた。 コリーンは孫たちがそれぞれ25歳になったら順次遺産を渡すとの遺言を残しており、バートは豪勢な25歳の誕生日パーティーを主催した。パーティーの場所は、再建されたフォックスワース邸である。マルコムに心酔するバートは、名義も改めフォックスワース姓となった。キャシーは、新しいフォックスワース邸がかつて監禁されていた屋敷そのままの姿であることに恐怖すら抱く。迎えられた屋敷には、見知らぬ高齢男性がいた。彼、ジョエル・フォックスワースはコリーンの死んだはずの兄であり、山岳遭難により死亡認定されていたが、実際には支配的な父マルコムから逃れるために修道院に身を寄せ生きていた。ジョエルがアドバイスしたからこそ屋敷は精巧に旧邸を再現できていた。キャシーとクリスの関係を知らされているジョエルは、敬虔さから二人を忌まわしく扱った。 バートの誕生パーティの日、ジョーリイとメロディは招待客の前でバレエ劇を披露した。セットの柱を揺すり崩しシーンで、本来は粉々に崩れるはずの柱が何故か濡らされて固められていたために柱は巨大な塊となって落下し、ジョーリイは押しつぶされ負傷した。ジョーリイは下半身不随の大怪我を負い、到底バレエを続けられる体ではなくなった。メロディはジョーリイの子供を妊娠しているが、不具者となり絶望するジョーリイを見ていられず面会も避け泣いてばかりいた。以前から、ジョーリイへの憧憬の延長でメロディに気のあったバートは、沈んでいるメロディを慰めるという形で抱き、ジョーリイとメロディの夫婦関係は破綻した。 メロディは双子の男女を産み、子供たちの存在はジョーリイの心を慰めるも、メロディはもう踊れない夫を介護しながら育児をする勇気を持てず、離婚して一人でバレエの道へと帰った。キャシーは金髪碧眼の双子の孫に、キャリー&コーリイの面影を見てその名で呼びさえしたが、ジョーリイはそれを良しとせず、Cから始まる名前の夭折した双子の次をいけるよう、Dから始まる綴りのダーレン&ディアドルと名付けた。ジョーリイはバートを許し和解するためにボトルシップを組み立てるも、渡す前に何者かに破壊されたり、雨の日に部屋の窓を開放され窓の開閉もままならない不自由な体でびしょ濡れになり重篤な風邪を引くなど、フォックスワース邸でたびたび悪意に晒された。キャシーはバレエ劇の事故のことも含めバートを疑うも、バートは嫉妬しながらも兄を愛しており、流石に彼の仕業ではないようだった。悪意の矛先はジョーリイだけではなく、様々な人為を感じさせる不幸が一家を襲った。 敷地の中に、バートとジョエルの意向によって教会が建てられた。ジョエルの行う説法にキャシーは関心を示さなかったが、彼らがダーレンとディアドルをたびたび連れ込むのが気にかかった。盗み見ると、バートは美声で讃美歌を歌っていた。勉学はできるが歌舞音曲の才はないと諦めジョーリイに引け目を抱いているようだった彼の意外な才能にキャシーは驚く。ジョエルは、「私達は近親相姦に陥るような邪悪な遺伝を受け継いでいます」と、まだなにもわからない幼い双子に暗唱させ、説教をしていた。日頃から繰り返し言わされているようだった。バートはそれには賛同できず、キャリー&コーリイと違ってダーレン&ディアドルは神聖な結婚によって生まれた子供だと反論するも、ジョエルに強く言い返されると口をつぐんだ。キャシーはジョエルの前に現れ、クリスとの愛になんら恥じ入るところはなく、子も孫も誰一人として汚れた存在ではないと反論した。動揺するバートに対しては、歌声を誉め、老人の影に依存せず独り立ちするよう命じた。 ある晩、クリスがなかなか帰ってこなかった。不吉を感じながらもキャシーは帰りを待つが、やがて警察官が現れ、クリスの死亡を告げた。轢き逃げされ倒れている者に駆け寄ったクリスは、自分もまた轢かれてしまい亡くなった。父のように事故死しないよう、夫妻は車には気をつけるよう忠告し合うのが出かける前の恒例だったが、クリスは医師として倒れている者を見捨てられなかった。バートはあれだけ嫌っていたはずのクリスの死に涙し、弔辞の中でようやく彼を父と認めた。時同じくして、ジョエルも癌により逝去した。彼は死期を悟ったことで修道院を出て故郷に戻ってきたのだった。バートは憑き物が落ちたようになり、攻撃性を失いただ善なる信仰心だけを強め、美しい賛美歌の声音で知られる伝道者となった。犬猿の仲であった妹シンディとともに歌うことすらあった。 ジョーリイは介護のために雇われた看護師トーニと恋仲になっており、再婚した。ジョーリイの男性機能は絶望視されていたが、トーニはやがて彼の子供を授かった。クリスの死は世間に惜しまれ、彼の名を関する医療センターが建設途中であった。また、バートは私財を投じた奨学金制度を作った。2001年、キャシーは56歳になっていた。誰もが忙しく屋敷の中に一人きりでいることの多かったキャシーは、自らの生涯を綴った自伝『The Dollanganger Saga』を書き上げると、「私のクリストファーが見つかる場所」を求め、屋根裏部屋へと上がった。子供時代のように紙で作った花でその場を飾り付けると、キャシーは窓辺で息絶えた。その死に顔は幸福そうで、12歳の少女のようにあどけなかった。 ドールハウスの夢1918年、キャシーの祖母であるオリヴィアがまだ24歳の若い女性であった頃から始まる、前日譚。オリヴィアは6フィート(182cm)を超す高すぎる身長と灰色の冷たい瞳を持つ不器量な女で、幼い日に親に買い与えられたドールハウスの中の美男美女の恋物語に憧れるも、彼女に恋してくれる男性は一人も現れなかった。しかし、父が仕事を通して知り合った富豪にして金髪碧眼の美男子、マルコム・フォックスワースはオリヴィアの知性を評価しプロポーズをしてくれた。オリヴィアは浮かれ喜ぶも、マルコムはビジネスパートナーとしてのオリヴィアを評価したにすぎず愛情は向けてくれず、豪奢なフォックスワース邸でオリヴィアは孤独な日々を送った。 マルコムにはコリーンという名の母がいたが、母は愛人を作りマルコムが5歳の時に家を出ていった。美しい金髪の母をマルコムは憎みながらも恋い焦がれ、母の寝室を家を出た当時の環境のまま維持していた。事情を知らないオリヴィアが戯れに豪奢な寝台に寝転がったところ、それまで妻と肉体関係を一向に持とうとしなかったマルコムは、「コリーン」と母の名を呼びながら初めて強引にオリヴィアを抱いた。夫妻の間に男女の愛が芽生えないまま、マルコムは時々母の名を呼びながらオリヴィアを犯し、男児を二人産ませた。マルコムは息子たちをも愛さず、しかし強く優秀な男になるよう時折子供を恫喝し、彼らは父に怯えながら育った。 マルコムの父ガーランドは、年齢以上に若々しく見える陽気な男で、あろうことかまだ10代の金髪の少女アリシアと再婚した。アリシアはけしてガーランドの金や名誉を目当てにしたのではなく、夫妻は真に愛し合っていた。そしてマルコムは、年下の義母アリシアに心惹かれた。ただ目で追うだけではなく、老人よりも自分の方がいいだろうと口説きさえした。オリヴィアは嫉妬しながらも、一方的に言い寄られ毅然として拒絶しているアリシアに同情もしていたし、アリシアの産んだ息子・クリストファーを年の近い自分の息子たちと一緒に遊ばせ我が子のように愛した。 ガーランドは病を得て急速に弱り、若々しさは失せた。ある日にアリシアの悲鳴が聞こえてオリヴィアが近づくと、そこには絶命しているガーランドと、半裸で泣くアリシアの姿があった。アリシアは思い詰めたマルコムに犯されそうになり、気づいて助けようとしたガーランドは掴み合って興奮したために発作を起こして亡くなった。自分のせいだとアリシアはいつまでも泣き伏す生活をすごし、オリヴィアは暗い彼女に近寄れず、代わりにクリストファーの育児に励んだ。やがて、アリシアが第二子を妊娠していることがわかった。時期からガーランドの子ではありえず、ガーランドの死後に密かにアリシアのもとに通い「コリーン」と呼びながら彼女を犯していたマルコムの子だった。 マルコムとアリシアの不名誉を隠すため、アリシアの妊娠を秘すべきだとオリヴィアは提案した。「アリシアは夫亡き後に新天地でやり直すために新居を探す旅に出た」と嘘をつき、オリヴィアはアリシアを屋敷の屋根裏部屋に隠して生活させた。そして同時に、オリヴィアは妊娠しているふりをして、日々腹部の詰め物を大きくしていった。やがて内密に雇った医者がアリシアの出産を手伝い、生まれた女児は表向きはオリヴィアとマルコムの娘ということになった。見事な金髪碧眼のその娘に、マルコムは彼の母と同じ「コリーン」という名を与えた。 アリシアはやがて、クリストファーを連れて本当に新天地へと旅立った。コリーンは表向きはオリヴィアの娘なので連れて行くわけにはいかなかった。オリヴィアは、日を追うごとに美しい少女になっていくコリーンを実の娘のように愛し、不器量な自分では身に付けられないような華やかな服飾を惜しみなく与え、溺愛した。マルコムもまた、息子たちには愛情を示さなかったのにコリーンのことは盛んに可愛がった。息子二人はなにも知らないままコリーンを妹と思い両親と同じく可愛がっていたが、相次いで不慮の事故により亡くなった。息子を失い悲しみにくれていた時、アリシアから手紙が届いた。家を出たアリシアはその後再婚したが、新しい夫にも先立たれ、またアリシア自身も病により余命幾ばくもないという。残される息子クリストファーに経済的援助を与えてほしいとアリシアは懇願していた。オリヴィアもマルコムもそれを受け入れ、やがて立派な青年に育ったクリストファーが屋敷へ現れた。亡くした息子の分も、オリヴィアはクリストファーを慈しんだ。息子への愛情がないように見えたマルコムですらも亡くしてみれば悲しみは深く、クリストファーには愛情を示した。 クリストファーとコリーンは、表向きは3歳違いの甥と姪だが、実際には種違いの同母の兄妹である。二人は仲睦まじく、オリヴィアはそのことを喜んでいたが、次第に二人の関係に家族愛以外のものを感じるようになった。やがてコリーンが18歳になった時、オリヴィアはコリーンとクリストファーが性交している現場を目撃してしまった。3年前、クリストファーが屋敷に来たその日から二人は惹かれ合っており、コリーンが18歳の大人になったら結ばれようと前から誓いあっていたという。関係を許してほしい、結婚したいと二人は言うが、実の兄妹であると知っているオリヴィアは認めることができない。マルコムも激怒し、「おまえたちふたりの罪深い恐ろしい人生が終わるまで、一生おまえたちを呪って責め続けてやる」と糾弾した。クリストファーとコリーンは手を取り合い、身一つで屋敷から出ていった。マルコムは激情のあまりに心臓発作と脳卒中を起こし、右半身麻痺により車椅子生活を余儀なくされた。かつて傲岸な男だったマルコムは弱りきった障害者となり、それでもコリーンとクリストファーに執着し、現況を知りたいので探偵を雇い定期的に報告させてほしいとオリヴィアにすがりついて泣いた。 探偵を雇ったオリヴィアは、コリーンが近親相姦の末に子供を1人産んだと知った。実の兄妹の間では白痴の奇形児しか生まれないとばかり思っていたが、美しく賢そうな子供だという。2人目こそは奇形児が生まれるだろう、そう思っていたが結局コリーンの産んだ子は4人とも美貌の健常児だった。オリヴィアは孫たちの存在をマルコムには隠し、罪の子など生まれていないと嘘を言って彼を安心させた。1957年になって、監視されていることなど知らないコリーンはオリヴィアへ手紙を寄越した。夫クリストファーが亡くなり、女手だけでは4人の子供を育てられないので実家へ帰ることを許してほしいとコリーンは手紙に涙を滲ませながら懇願していた。オリヴィアは、帰ってもいいがマルコムには罪の子の存在を隠すよう返信した。本当は、コリーンを溺愛するマルコムは罪の子をも実際に会えば許すだろうとオリヴィアはわかっていた。美しい金髪の女に目がないマルコムは、近親相姦の子でも金髪の孫娘たちを愛してしまうと察していたが、だからこそオリヴィアは孫たちをマルコムに会わせまいとした。オリヴィアは、自分と血縁のない4人の孫たちの幼く愛くるしい姿に心が揺らぎそうになるのを押さえつけながら、彼らを屋根裏部屋に閉じ込めた。 登場人物ドーランギャンガー家(Dollanganger)
フォックスワース家
血族・姻族
周辺人物
1987年の映画あらすじクリス、キャシー、双子のキャリーとコーリーの4きょうだいは、父親が事故死したため、母親コリーンの実家で母親、祖父母と共に暮らすことになった。しかし、祖母は4きょうだいを母親から隔離して屋根裏部屋へ幽閉し、執拗な苛めを加える。4きょうだいは何度も脱出を試みるが、厳重な監視により失敗を繰り返す。やがて食事も止められ、彼らは日に日に衰弱していき、特にコーリーに至っては動くことも出来なくなる。 コーリーの容体はいよいよ悪くなり、祖母と母親が病院に連れて行くことにするが、その後母親はコーリーが死んだことを3人に告げる。その後、コーリーが捕まえてペットとして飼っていたネズミが死んだ。不審に思ったクリスは、餌として与えていた食事に出されたクッキーを調べ、さらにコーリーの病状から、クッキーにヒ素が混ぜられていたことを突き止める。そのクッキーは毎回彼らに食事として出されていたものだった。ここへ来て3人は、母親が自分たちを裏切って殺そうとしていることを知り、復讐を決意する。母親はセレブと再婚しようとしており、彼らが邪魔になったのだ。 そして結婚式当日、3人は食事を祖母が運んできたときに祖母を殴り倒してついに脱走、式場に乗り込み、母親にヒ素入りクッキーを食べるようバルコニーまで追いつめる。母親はバルコニーから落下、ベールが首に引っかかって死んだ。復讐を果たした3人は屋敷を出て、それぞれの夢へと進んで行くのだった。 キャスト※括弧内は日本語吹替。
※テレビ放映:テレビ東京「木曜洋画劇場」1992年8月27日 2014年のドラマ2014年にライフタイムで『屋根裏部屋の花たち』がドラマ(テレビ映画)化した。2014年1月21日の初回放送での視聴者数は約610万人で、当時のケーブルテレビオリジナル作品として最高の成績を収めた[7]。1987年の映画よりも原作に忠実な部分が多く、原作における重大な要素である兄妹の近親相姦が取り上げられる。 2014年5月26日、2作目『炎に舞う花びら』が放映された。原作では『屋根裏~』の直後の話であったが、ドラマでは10年後から始まっており、子供たちのキャストはティーンエイジャーから成人の俳優へと変更。養父ポールの死後から話が始まっており、キャシーとはあくまでも義理の親子でしかなく、原作にあった恋愛関係はカットされ、全体的にストーリーが再構成されオリジナル要素が多い。脚本のKayla Alpertは、ポールとキャシーの関係について「近親相姦を扱った後、私たちはその上に小児性愛は必要ないと判断した」と述べている[8]。 2015年4月5日、3作目『棘があるなら』が放映された。中年となったキャシーらは俳優が変更された。 2015年4月21日、4作目『屋根裏部屋へ還る』が放映された。原作において重要キャラクターであるジョエルは登場せず、またバートとシンディが恋仲になるというオリジナル展開がある。 スタッフ・キャスト
Flowers in the Attic: The Origin『ドールハウスの庭』のドラマ(テレビ映画)化で、ライフタイムにて全4話のシリーズとして2022年7月9日から放映された。 キャスト
脚注
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