棋士採用試験
棋士採用試験(きしさいようしけん)は、日本棋院などで採用されている囲碁のプロ棋士を採用する試験。 棋士採用試験に合格し、プロ棋士となることを指して日本囲碁界では「入段」と言う。そのため、棋士採用試験は入段試験とも呼ばれる。 日本棋院の制度2019年現在、日本棋院の棋士採用の種別には「正棋士」「女流特別採用棋士」「女流特別採用推薦棋士」「外国籍特別採用棋士」「英才特別採用推薦棋士」がある[1]。採用年齢には制限があり、原則として23歳未満でなければならない[1]。また、日本棋院以外のプロ団体で棋士としての段位を取得したことがあると判断された者は試験を受けることができない[1]。 棋士採用試験の合格者は4月1日付での採用(入段)となるが、後述する東京本院夏季採用棋士のみ、試験合格後より仮採用が認められ、各棋戦にも出場できる[1]。 正棋士日本棋院が行う正棋士採用試験で合格することで採用となる。2019年現在、正棋士の採用枠は東京本院夏季採用が1名、東京本院冬季採用試験が2名、関西総本部採用試験が1名、中部総本部採用試験が1名の各年度5名である[1]。 東京本院夏季採用試験日本棋院の院生研修で、所定の期間(3月 - 6月)の成績が1位となった者が採用される。 東京本院冬季採用試験8月から11月ごろにかけて行われる試験で上位2名となった者が採用される。試験には日本棋院の院生と、そうでない者(外来受験者)の両方が参加する。 まず外来受験者による予選(外来予選)が行われ、外来予選の通過者と成績上位の院生による合同予選が行われる。ただし、院生の成績上位者の一部は合同予選を免除される。そして、合同予選の通過者と、合同予選を免除された成績上位の院生による本戦が行われ、上位2名が採用となる。その他の試験においても同様であるが、予選や本戦はいずれも総当たりのリーグ戦で行われる。 中部総本部採用試験・関西総本部採用試験試験のシステムは東京本院冬季採用試験とおおむね同じで、8月から12月ごろにかけて開催される。外来予選は行われない場合もあり、合同予選・本戦を経て1位になった者が採用される。なお、平成29年度(2017年度)以降は外来受験者を含む合同予選や本戦は関西総本部と中部総本部が隔年で行うようになり、行わない側は院生研修リーグの成績で採用棋士を決定するように変更されている[2]。 女流特別採用棋士女性のみが参加できる、女流棋士特別採用試験(女流試験)を突破することで入段することができる。女流試験は12月から2月ごろにかけて行われる。外来予選は行われない場合もあり、合同予選・本戦を経て上位になった者が採用される。原則として採用されるのは各年度1名。 かつては15歳未満は試験に参加できず、女性であっても正棋士採用試験に参加しなければならなかったが、のちにこの規定は廃止されている。なお、女流試験ではなく正棋士採用試験で入段した女流棋士は、過去に宮崎志摩子・桑原陽子・加藤啓子・謝依旻の4名がいる。 外国籍特別採用棋士囲碁の国際的な普及を目的として、所定の成績を収めた優秀な外国籍の日本棋院院生または院生経験者が、5-6年に1名程度の見通しで採用される[1]。ここでいう「外国籍」は、「囲碁先進国・地域」である日本・中国・韓国・台湾・北朝鮮を除外した諸国[1]。 外国籍特別採用棋士として採用された棋士には、ハンス・ピーチ以来19年ぶりに欧米出身の日本棋院棋士となったアンティ・トルマネン(フィンランド出身、平成28年度採用)[3]、世界初の東南アジア出身の棋士となった曽富康(マレーシア出身、令和2年度採用)及びフィトラ・ラフィフ・シドキ(インドネシア出身、同)らがいる[4]。外国籍特別採用棋士は年齢制限の例外が認められており[1]、トルマネンは26歳で入段を果たしている。 女流特別採用推薦棋士女性がプロ棋士になる条件を緩和する目的で、2019年度(平成31年度)より導入された[5]。導入の経緯について、日本棋院副理事長(当時)の小林覚は「才能ある女性が増えたのに、棋士になれず去っていくのが惜しまれる現状がある」「実力がある人は早くプロにして鍛え、世界を目指したい」と語っている[5]。 採用の対象となるのは、日本棋院院生及び院生経験者で、所定の成績を収めて院生師範の推薦を受けた者[1]。 2019年度(平成31年度)は、女流特別採用推薦棋士で6名の女流棋士が誕生し、女流特別採用棋士・ 英才特別採用推薦棋士(後述)とあわせて8名の女流棋士が日本棋院で誕生した[6]。 英才特別採用推薦棋士日本の囲碁界が国際棋戦で中国や韓国に後れを取るなか、国際棋戦での活躍を期待できる棋士を養成するため2019年度(平成31年度)より導入された[7][8]。日本棋院棋士採用規定では、その目的を「我が国の伝統文化である棋道の継承発展、内外への普及振興」であるとし、採用の対象となる者については「囲碁世界戦で優勝するなど、目標達成のために棋戦に参加し、最高レベルの教育・訓練を受けることが出来る者」としている[1]。 採用の年齢は小学生を原則とし[9]、日本棋院の棋士2名以上の推薦がある者が採用の候補となる[1][8]。候補者の実績や将来性を評価し、日本棋院の現役7大タイトル保持者及びナショナルチームの監督・コーチのうち3分の2以上の賛成を得たうえで、審査会及び常務理事会を経て採用を決定する[1][8]。試験対局も行われるが、年齢を考慮して逆コミや持碁など通常とは異なるルールで行われる[10]。 英才特別採用推薦棋士制度により、2019年には仲邑菫が日本棋院史上最年少(10歳0か月)での入段を果たしている[7]。 正棋士と特別採用棋士の違い女流特別採用棋士・外国籍特別採用棋士・女流特別採用推薦棋士・英才特別採用推薦棋士は、「特別採用棋士」として正棋士とは異なる扱いを受ける。棋戦には正棋士と同じように参加することができるが、給与や対局料が正棋士に比べると劣るものとなる。また、特別採用棋士の席次は、同段位の正棋士の下位とされる[1]。 ただし、公式棋戦において優勝ないし特に優秀な成績を収めた場合、または所定の段位[注 1]に昇段した場合は資格が正棋士に変更される[1]。 過去の制度
過去には正棋士になれなかった者の救済制度として囲碁の普及や指導を専門とする棋士が存在した。現在では初段以上のアマチュアが認定される普及指導員[11][12]や学校囲碁指導員[13]が担当している。 入段者一覧→「日本の囲碁棋士一覧」も参照
2019年度(平成31年度) -
2002年度(平成14年度) - 2018年度(平成30年度)
1989年度(平成元年度)- 2001年度(平成13年度)
関西棋院の制度
院生制度は手合での成績によって棋士を採用している[16]。所定の成績以上を収めた者が入段となるため、年間の入段者は一定ではない。 外来棋士採用はアマチュアとして顕著な成績[注 2]を収めたものを対象としており、関西棋院棋士との試験対局の結果により合否が決定される[17]。 英才特別採用は2022年4月に施行された制度で、将来性のある12歳未満を対象としている[18]。候補者の将来性を最重視し、提出された棋譜2局と関西棋院棋士との試験碁1局で審査を行い、上位棋士10名による審査と、審査役による審査でともに2/3以上の賛成が得られた場合に入段が認められる[18][19][注 3]。入段後は「準棋士」として対局料等が正棋士より劣るものとなるが、各棋戦には正棋士と同じように出場でき、二段に昇段すると正棋士に昇格となる[19]。本規定により、2022年9月、藤田怜央が9歳4か月の世界最年少での入段を果たしている[20]。 2025年には20歳以下の女性を対象とした「女流棋士採用試験」を創設した[21]。「女流棋士の増員による棋界の活性化と発展」を目的としている[21]。 過去の制度かつては「研修棋士制度」という制度(2009年4月施行[22])があり、アマチュアとしての実績を考慮したうえで、試験碁に合格すれば「研修棋士」としての採用が行われていた。研修棋士は各棋戦への出場に制限が加えられるが、一定の条件を満たせば正棋士に昇格できた。外来棋士採用試験が導入により廃止された[17]。 過去には特例で入段が認められた棋士もおり、陳嘉鋭や坂井秀至(ともにアマチュア国際棋戦での優勝経験あり)は試験の結果飛び付き五段で入段している。 記録棋士採用の形態に差異はあるが、中国囲棋協会の最年少記録は常昊の9歳7か月、韓国棋院の最年少記録は曺薫鉉の9歳7か月。 日本棋院最年少入段:仲邑菫(10歳0か月、英才特別採用推薦棋士での入段) 女流棋士特別採用試験での最年少入段:藤沢里菜(11歳6か月) 正棋士の最年少入段:趙治勲(11歳9か月) 関西棋院最年少入段:藤田怜央(9歳4か月、英才特別採用での入段。世界最年少)[20] 正棋士の最年少入段:村川大介(11歳10か月) 脚注注釈
出典
外部リンク |
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