森口尚史
森口 尚史(もりぐち ひさし、1964年(昭和39年)[1] 6月11日 - )は、日本の医科学研究者(知的財産法・医療統計[3])。学位は博士(学術)(東京大学・2007年)。 財団法人医療経済研究機構調査部長、ハーバード大学メディカルスクール・マサチューセッツ総合病院客員研究員、東京大学先端科学技術研究センター特任教授、東京大学医学部附属病院特任研究員等を歴任した[4][5] が、研究不正などにより、2012年10月に東京大学医学部附属病院より懲戒解雇処分を受けた。森口が関わった論文68本のうち14本で不正があった、と東京大学から2013年9月20日に発表があった[6]。 経歴奈良県出身[1]。奈良県立西の京高等学校卒業。駿河台大学法学部を経て、1989年に東京医科歯科大学医学部保健衛生学科看護学専攻に入学し、学士(保健学)を取得後、同大大学院博士前期課程に進学し、修士(保健学)[3] を取得した。 東京大学で博士(学術)を取得し、東京大学特任教授などを経て、東京大学医学部附属病院特任研究員を務めた[4][5]。専門は知的財産法、医療技術評価[3]。 2012年(平成24年)10月、読売新聞により「ハーバード大学客員講師」の肩書きで「iPS細胞を使った世界初の心筋移植手術を実施した」と大々的に報じられたが、多方面から数々の疑義が提起され、その2日後に同新聞は「同氏の説明は虚偽」とし、それに基づいた一連の記事は誤報であったことを認めた。東京大学は森口のiPS心筋細胞移植に関する研究報告、14編の論文等及び公的研究費の実施状況報告書等について再三の要求にもかかわらず、森口から生データや実験ノートなど実験の事実を証明する書類等が提示されなかったため、不正行為(捏造、改ざん、又は盗用)の存在を全て確認することはできなかったとしながらも、森口が説明責任を果たさないことは「証拠隠滅又は立証妨害」であると認定し、虚偽の発表を行い、大学法人の名誉又は信用を著しく傷つけたとして、2012年10月19日付けで懲戒解雇処分とした[7]。 一方、森口は世界初のiPS心筋移植となる1例は事実であると主張した。自宅周辺の店員によると、「日本では発表できない研究をニューヨークで発表する」と豪語したり、自らをノーベル賞の候補と称したり、「東大の教授になった」、「ハーバード大学で研究している」、「研究仲間が気に入らない」などと話していた[8]。ただし、これらの記事は一部のマスコミによって作り出された根も葉もない誹謗中傷記事であると森口自身は電子書籍の自著「iPS細胞騒動」で述べた[9]。 同年11月末に、芸能プロダクションと契約を結び芸能活動に乗り出したとあるが森口は否定[10]。トークショーやイベントに出演し、2013年1月26日放送予定の「現状打破TV」(テレビ東京系)にも出演していたが、直前になって放送中止となった[11]。その後ウェブサイト「探偵ファイル」に、「元・東京大学特任教授」という肩書で、小保方晴子騒動についての記事を寄せたりしていた[12]。 年表
本人の主張やそれに関する報道がん抑制遺伝子2009年10月25日に、テレビ朝日系列の「大正製薬Human Scienceスペシャル人体再生 〜iPS細胞 山中博士の挑戦!〜」に「ハーバード大学研究員」の肩書で出演[29][30]。iPS細胞から肝臓の細胞を作る際、細胞の中にはがん抑制遺伝子があり、その働きを抑えるとがんになることを発見したと紹介された。しかし森口は、1999年11月から2000年までハーバード大学傘下のマサチューセッツ総合病院の客員研究員だったことはあるが、2009年にハーバード大学研究員だったかは不明なため、この主張も疑問視されている。森口自身は電子書籍の自著「iPS細胞騒動」でハーバード大学との密接な関わりを主張している[31]。 国による研究者への予算配分について述べた記事2009年11月8日の読売新聞の記事[32] で、「米ハーバード大研究員も務める東京大の森口尚史特任教授」の肩書で登場し、国による研究者への予算配分についての意見を述べた。しかし、前述にもある通り、森口は2009年にハーバード大学研究員だったという事実は未確認だった。一方、森口自身は電子書籍の自著「iPS細胞騒動」でハーバード大学との密接な関わりを公的な証拠を示して主張している[31]。 iPS細胞を活用した創薬2010年5月1日、読売新聞朝刊(大阪版)が「iPS活用 初の創薬」と報じた。記事では、森口と東京医科歯科大学がC型肝炎の治療法を発見したとしていた[33]。また、日経産業新聞も同年4月に独自に森口を直接取材し、6月2日にiPS細胞を活用したC型肝炎創薬について報じていた[34]。 しかし、2012年10月12日に、同大は記者会見の中で「このような実験及び研究が同大内で行われた事実はない」ということを明らかにした(東京医科歯科大学 2012年12月28日調査報告書も参照)[33][34]。 iPS細胞手術発表2012年平成24年10月11日、読売新聞は、森口がiPS細胞を使った世界初の臨床応用として心筋移植手術を実施したことが10日分かった、と朝刊一面で大きく報じた[35]。それによればハーバード大学客員講師の森口が同年2月に虚血性心筋症の男性患者(34歳)に対し、男性の肝臓から取り出した細胞から独自の手法でiPS細胞を作成、心筋細胞に変化、増殖させた。この心筋細胞を心臓バイパス手術を受けた患者の心臓に注入した。約10日後から心筋機能は平常になり、報道時点では平常の生活を送っているというもの。この手術を行う際にハーバード大学倫理委員会から「暫定承認」を受けたという[36]。治癒対象の患者は6人で、前述の患者のほかに43歳の男性と35歳の女性にも手術を行ない、残りの3名についても年内中に移植手術を終える予定だとした[13]。読売新聞は夕刊一面でも、森口のインタビュー記事など続報を掲載した[37]。 森口は、現地時間で10月10日、11日にニューヨークで開かれる国際会議や、科学誌で手法を公表するとしていた[35]。 反応この報道内容に対して、国内外の研究者から疑問の声が上がった[4]。日本時間10月11日深夜、マサチューセッツ総合病院は「森口氏は1999年(平成11年)〜2000年(平成12年)まで病院に客員フェローとして在籍したが、その後は病院や(関連する)ハーバード大とは関係がない。大学や病院の内部審査委員会が治験を承認したとの事実はない」とする声明を発表した[38]。これを受けて国際学会を主催するニューヨーク幹細胞財団も「森口氏のポスターについて疑義が示された」とする声明を発表し、会場から発表内容を示したポスターを撤去した。森口は現地時間11日、ポスターの前で自らの研究成果を研究者たちに説明する機会が与えられていたが、時間を過ぎても姿を見せなかった[38]。 10月12日、科学雑誌ネイチャーも森口の研究について疑義を述べた[39]。この中で中内啓光東大医科学研究所教授(幹細胞研究で著名[40])は、発表された内容に疑問があるとした上で、森口の手法での成功例は聞いたことが無いとしている[39]。 森口はインタビューで「きちんとした手続きにのっとって移植を実施した。私に医師の資格はないが、移植は医師の指示の下で行われたので問題はない。ハーバード大学が私が所属していないと否定するのはよく分からない」と語った[41]。 10月13日、この件を最初に報道した読売新聞は「同氏の説明は虚偽で、それに基づいた一連の記事は誤報」である旨のおわび記事を掲載した[42](なお、このおわびの検証記事に読売新聞が専門家として登場させた京都府立医科大学の教授も数か月後に別件の研究不正事件のため大学を辞職している[30])。読売新聞の報道を後追いした形の共同通信社や日本テレビ放送網、産経新聞も誤報を認め、謝罪した[43][44][45][46]。一方朝日新聞や毎日新聞、日本経済新聞は、森口に取材を行ったが信頼性が低いと判断し、記事化を見送った[47][48]。 この日、森口は滞在先のニューヨーク市内のホテルで記者会見を開き「移植が実施されたのは1例のみで、残りの5例は間違いだった。つい勢いでウソをついてしまった」と述べ、従来の主張は大半が虚偽であったことを認めた。「1人の患者には、別の病院で、去年6月に本当に細胞移植を実施した」と強調し、世界で初めてiPS細胞のヒトへの応用を行ったという主張は変えなかったが、どこの病院で誰が手術を行ったのかについては「共同研究者から『言うな』と言われている」とだけ答え、具体的な証拠は一切示さなかった[26]。 研究費助成の受給等に関する調査結果森口は、2010年度以降、iPS細胞関連の研究を行うとして、下記のとおり、内閣府の助成金や、経済産業省の委託事業の費用の一部を研究員費として得ていた。また、1998年度以降、厚生労働省や文部科学省が助成した研究にも関わっていた。しかしながら、iPS細胞手術の少なくとも一部が虚偽であったことから、各省庁などでは研究の実態の有無について調査を行っており、内閣府では実態がない場合には返還要請を検討するとしている[49]。また、専門家は詐欺罪や補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律が適用される可能性を指摘した[50]。
一連の騒動以降の活動論文投稿2013年4月から5月にかけて、査読付き医療雑誌"BMJ Case Reports"に、森口および「Joren Madson」なる人物が共同で3件の論文を投稿し、一時的に掲載された[54][55][56]。その後、ネイチャーの指摘[57] や外部からの問い合わせなどにより、これら3件の論文は調査のため一時的に撤回または二重投稿のため撤回とされている。 ネイチャーの調査[57] によると、共著者のJoren Madsonおよび所属先としているReprogramming, Inc.いずれもその存在を確認できなかった。また、森口の用いたe-mailアドレスは、大学病院医療情報ネットワーク研究センター(UMIN)から提供されたものであったが、UMINでは森口の在籍を確認できなかった。また、ネイチャーが森口に直接e-mailで本件内容について問い合わせたが、具体的な回答は得られなかった。 2014年11月のアメリカ心臓協会(AHA)のシンポジウムに発表[58]、2015年にはClinics and Research in Hepatology and Gastroenterology誌に発表[59] と継続的に研究活動を行っており、所属は大阪市のオーククリニックとなっている。 著作論文
脚注
関連項目 |
Portal di Ensiklopedia Dunia