知床遊覧船沈没事故
知床遊覧船沈没事故(しれとこゆうらんせんちんぼつじこ)は、2022年(令和4年)4月23日に北海道斜里郡斜里町の知床半島西海岸沖で、有限会社知床遊覧船(しれとこゆうらんせん)が保有・運行する観光船「KAZU I(カズ ワン)」[8]が船内浸水により沈没した海難事故[9]。乗員・乗客合わせて26名全員が死亡・行方不明となり、旅客船事業に対して国の監督強化のほか[10]、海上保安庁が救助体制を強化するきっかけとなった[11]。 「北海道知床遊覧船事故」「KAZU I 沈没事故」などとも呼称される。また「知床観光船沈没事故」という呼称もあるが、「知床観光船」を登録商標としている道東観光開発及び同社が運航する「知床観光船おーろら」と本件事故は一切関係がない。 事故の経過観光船「KAZU I」は、有限会社知床遊覧船が保有・運航する小型観光船で、斜里町ウトロのウトロ漁港から知床岬へ向かい、折り返してウトロへ帰港する予定だった[12]。このコースは「知床岬コース」と呼ばれており、所要時間は3時間程度だった[13]。 事故当日は有限会社知床遊覧船が当季の運航を始めた初日だった。ウトロ漁港を発着する観光船は同社を含め5社が運航していたが、同業他社はゴールデンウィーク初日の4月29日ごろから運航を開始する予定だったため、当日は同社の観光船だけが運航していた[14]。 当日の気象状況事故当日、斜里町には3時9分に強風注意報(海上で6時から24時まで風速15.0 m/s以上)、9時42分に波浪注意報(海上で9時から12時まで波高2.0 m、12時から15時まで波高2.5 m)が発表されていた。発航以前の時点で運航基準[15]に基づく発航を中止すべき条件(風速8m/s以上、波高1m以上)に達するおそれがあった[16]。 ウトロ漁港沖合の波高は10時には32 cmと穏やかだったが、11時40分頃から上昇を始め、12時20分に1 mを超え、13時18分には2 mとなり、14時には3.07 mに達した[17]。 事故当日の朝、「KAZU I」の船長は別の観光船運航会社の従業員から「今日は海に出るのをやめておいた方がいい」と忠告されていたという[18]。ウトロ漁業協同組合によると、昼頃からは現場海域の視界が悪くなって波も高まり、漁船は午前中に引き返していた[19]。 「KAZU I」の出航
事故発生
事故後の初期対応
行方不明者の発見
「KAZU I」船体引き揚げ
捜索活動
運輸安全委員会による事故調査国土交通省への情報提供
船舶事故調査の経過報告
事故発生までの経緯事故船![]() 事故を起こした「KAZU I」は、1985年に山口県山口市の造船所で造られたものであり、ほうらい汽船の旅客船「ひかり8号」として広島県三原市の三原港と同県生口島にある豊田郡瀬戸田町(現在の尾道市)の瀬戸田港を結ぶ片道30分ほどの定期高速船で使われていた[207]。その後数年で置き換えられ、1995年頃には岡山県の日生港と牛窓港を結ぶ航路を運営する会社に売却[208]。岡山では「シーエンジェル1号」として運航されていたが、車で30分ほどの距離だったこともあり利用者は伸び悩み、わずか数年で航路が廃止された[208]。2004年に大阪府の個人に所有権が移転した後、2005年に有限会社知床遊覧船が購入したと見られる[209]。 2005年秋、約500万円[210]で購入、岡山県から3カ月かけてウトロ漁港まで回航された。その後、エンジンを2基から1基に減らす改造を受けている[211]。同船は2015年にバルバス・バウを取り付ける改造を受け、長さは11.86mから12.14m、深さは1.52mから1.62mにそれぞれ変更されている[212][213]。2021年7月に老朽化を理由にエンジンの載せ替えを行った[214]。 「KAZU I」の甲板下には隔壁が3つあり、前方から船倉、船倉、機関室、舵機室に分かれていた。これらの隔壁には人が通るための縦横80cm程の開口部があり、水密構造にはなっていなかった。船舶安全法上は、航行区域が限定されている小型船舶には水密構造、完全密閉は要求されていない[215]。2021年4月の定期検査の際に、機関室の消火設備の能力確保のため、機関室前後の隔壁の開口部を塞ぐよう指示されていた。2021年6月の特別監査および2022年4月の中間検査において、機関室前後の開口部が木の板で塞がれていることが確認されている。引き揚げ後の現場検証において、これらの隔壁はいずれも木の板が破損して開口していたことが確認された[216]。 整備不良の可能性事故前年の冬季間の運航休止に伴う陸揚げの際、船体に15cmほどの亀裂損傷が生じていたことが確認されていたが船体の修理を実施することなく越冬したことが判明しており、船体の亀裂損傷と事故との関連が疑われた[217][218]。 斉藤鉄夫国土交通大臣は4月26日の参議院国土交通委員会での答弁で、当該船舶は4月20日に船舶安全法に基づく日本小型船舶検査機構の中間検査を受検し、中間検査で問題は確認されなかったと述べた[219][220]。また、事故2日前の4月21日に網走海上保安署が任意で行った安全点検では、船体に損傷がないかや、救命胴衣が適切に備え付けられているかどうかなどを確認し、特に問題はなかったとしている[221]。 ただ一方で、位置情報を取得する機器であるGPSプロッターが当時船体に取り付けられていなかった[221]。非搭載であっても法令違反にはならないものの、海上保安署はGPSプロッターを取り付けてもらった上で、27日に再度点検を行う予定だった[221]。 斉藤鉄夫国土交通大臣は特別監査により、事故前の段階での船体の損傷の発生の有無や、船長や甲板員が必要な安全教育を受けていたかどうか調査する考えを述べた[219][220]。 アマチュア無線の業務使用法人としての有限会社知床遊覧船は近海で海上通信を行うための国際VHFなど船舶無線の免許を受けておらず、出力の小さい簡易無線と船舶レーダーのみの免許であった[222]。事故発生時に海上保安庁へ通報を行った同業者と行った通信にはアマチュア無線が用いられている[26]。アマチュア無線は非常通信に限り目的外通信として運用できるが、アマチュア業務[223]以外の業務無線としての運用は認められていない(電波法第五十二条目的外使用の禁止等)[224][225]。 5月12日、総務省北海道総合通信局は知床遊覧船に対して聞き取り調査を行った[226]。定点連絡などで日常的に使っていたとの証言があり、また僚船の「KAZU III」にてアマチュア無線機の設置が確認された[227][228]。約20年前からアマチュア無線を使用し続けていたとの証言もあり、長年アマチュア無線機の業務使用が常態化していたとみられる[229]。 調査の結果、総務省北海道総合通信局は知床遊覧船に対して免許取得の手続きをせずに無線局を開設していたとして、電波法違反容疑で同社と社長を網走海上保安署に告発し、同社に免許されていた簡易無線局8局についても運用を停止する行政処分をすると発表した[230]。 運航会社の状況「KAZU I」の運航会社である有限会社知床遊覧船は2001年(平成13年)3月に設立され[4]、2016年(平成28年)5月に斜里町でホテルなどを運営する「しれとこ村」グループに買収された[231][232]。 買収直後は安定した経営がなされていたが、帝国データバンクによると、2016年10月期の売上高は6,200万円だったのに対して、コロナ禍の2020年、2021年は4,000万円に減少。「しれとこ村」自体の売上高も2019年9月期の3億2,000万円から2020、2021年には2億2,000円前後に落ち込み、グループ全体の立て直しを迫られていた[231]。 2021年(令和3年)3月までにベテランのスタッフ5人が全員退職した。会社側の人員整理方針と意見が合わなかったためとされる。代わりに3人の船長が新しく雇用された。しかしそれ以降、同社の船が岸に近づきすぎたり、定置網の近くを通ったりする様子が目撃され、操船技術が未熟であることを指摘されていた[233][234]。 2021年の事故2021年(令和3年)4月21日、「KAZU I」は日本小型船舶検査機構による定期検査で、甲板に設置された椅子の固定が不十分なため撤去を指示され、検査不合格となった[235]。同年5月15日、「KAZU I」は乗客19名を乗せてウトロ漁港を出航したが、検査合格前のため、船舶安全法施行規則で運航時の携帯が義務づけられている船舶検査証書を再交付されておらず、証書不携帯の違法運航だった。カムイワッカの滝の北東で海上に浮遊していたロープに接触。衝撃で甲板の椅子がずれ、座っていた乗客3名が打撲などの軽傷を負った。事故後も予定通り知床岬までの運航を続けており、帰港後も海上保安庁への報告を怠っていた[236]。事故の発生は社外の人物からの通報で発覚した[237]。 同年6月11日10時ごろ、ウトロ漁港を出港した直後の「KAZU I」が漁港近くの浅瀬に乗り上げた。船は自力で離礁してウトロ漁港に戻り、乗員2名、乗客20名にけがはなかった。網走海上保安署所属の巡視船「ゆうばり」が出動して事故の状況を確認した[238]。 北海道運輸局が作成した報告書では、事故の発生時に適切な見張りを確保しておらず、船員法に違反したと指摘していた[214]。 北海道運輸局が同年6月に実施した特別監査では、事故原因について「GPS(全地球測位システム)への航路の入力ミス」などと指摘していた[239]。 第一管区海上保安本部はこの事故を巡り、「KAZU I」の船長を翌2022年(令和4年)1月に業務上過失往来危険容疑で書類送検した[240]。なお、船長の責任の下で実際に操船していたのは別のスタッフだった[234]。その後、船長は容疑者死亡で不起訴処分となった。船員1人も海上運送法違反と業務上過失往来危険の罪で略式起訴されているが、網走簡易裁判所は略式命令の有無を明らかにしていない[241]。 2022年(令和4年)8月10日、運輸安全委員会が公開した資料の中で、2021年(令和3年)の2件の事故も調査の対象となっていることが示された[202]。2023年(令和5年)12月21日、運輸安全委員会は2件の事故についての、事故調査報告書を公表。いずれの船長も知床遊覧船に入社したのは2021年4月で、現場での経験が浅かったとし、海域の状況の詳細を把握していなかったことなどを要因の一つと位置付けた[242]。 2024年(令和6年)2月15日、2021年(令和3年)6月の座礁事故の際に航路を逸脱したとして、海上運送法違反の疑いで知床遊覧船を書類送検していたことが海上保安庁などへの取材で分かった。海保が併せて、船員に雇用契約書を交付しなかったとして船員法違反の疑いで社長を書類送検したことも判明した[243]。網走簡易裁判所は2024年(令和6年)2月20日付で同社に罰金40万円、社長に罰金10万円の略式命令を出した[241]。 2021年の特別監査2021年(令和3年)6月24 - 25日、北海道運輸局は知床遊覧船に対し、5月と6月の2件の事故に関して特別監査を実施した[5]。翌2022年(令和4年)5月13日、国土交通省は2021年6月に実施した特別監査に関する資料を開示した[214]。 開示された資料は
有限会社知床遊覧船に関する主な経緯
事故の影響事故後の有限会社知床遊覧船
2022年の特別監査2022年(令和4年)5月23日、国土交通省は、有限会社知床遊覧船に対し同年4月24日~5月23日に実施した特別監査の結果を公表した[16]。
行政の動き
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知床遊覧船事故検討委員会
旅客船の総合的な安全・安心対策安全対策を「重層的」に強化し安全・安心な小型旅客船を実現[381][382] (1)事業者の安全管理体制の強化[382]
(2)船員の資質の向上[382]
(3)船舶の安全基準の強化[382]
(4)監査・処分の強化[382]
(5)船舶検査の実効性の向上[382]
(6)安全情報の提供の拡充[382]
(7)利用者保護の強化[382]
北方領土付近の捜索時におけるロシアとの調整4月25日、海上保安庁は行方不明者の捜索範囲が、ロシアが実効支配している北方領土付近まで広がる可能性があることをロシア国境警備局に通知した[383]。これは日露間で結んでいるSAR協定に基づいたものであり、ロシア当局はこれを了承した[383]。事故発生当初の海上捜索、その後北方領土やロシア沿岸部での遺体・遺留品の捜索などを行い、乗客の所持品だったリュックサック等を発見し、日本側に知らせてきた。そして5月に乗客・乗員2名の遺体が国後島西岸で発見されると返還交渉が行われたものの、国後島は日露共に国内と認める北方領土問題や、当年に始まったウクライナ侵攻による日露の微妙な関係により返還が難航していた。そうした中、6月新たにサハリンで乗客の遺体が発見されると事情が変わった。サハリンはロシア領なので領土問題を棚上げできることによって、サハリンでの返還が決まった。こうして国後島で発見された2遺体をサハリンに移し、9月9日海上保安庁の巡視船つがるに3体の遺体が引き渡された[384]。 海保の配備見直し捜索の初動において、遭難区域担当の海保航空機が整備と別任務のために到着に時間を要した(詳細は捜索活動の項参照)ことから、機動救難士の配置と航空機配備数の見直しが図られた。当時、事故現場を含んだオホーツク海周辺などの道東、道北地方は、事故発生時にいち早く救助に向かう機動救難士が対応できない状態であった。そのため、海保は釧路航空基地にて、新たに機動救難士を配置、事故発生後いち早く救助が行える範囲が拡大されることになった。また、海保の航空基地13か所のうち10か所については配備機数が2機しかなく、今回のような状況が起こりえるため、釧路航空基地を含む全基地に対する3機配備を進めていく方針が示された[385][88]。 釧路航空基地には9名の機動救難士が配置され、2023年4月10日から本格的な運用が始まった[386]。2024年3月8日には函館航空基地からヘリ1機が配置換えされ3機体制となった[387]。 また、事故をふまえオホーツク海域を担当する紋別海上保安部に大型巡視船のだいせつが配備された[388]。 観光船の運航自粛と再開
日本小型船舶検査機構の業務改善2023年1月20日、事故直前に日本小型船舶検査機構(JCI)が実施した検査が不十分だったとして、国土交通省は検査実態を総点検し、業務を改善するよう指示した[397]。運輸安全委員会は2022年12月の経過報告で「KAZU I」の船首付近の甲板にあるハッチの蓋が密閉されず、海水が入って沈没したと推定したが、JCIは事故3日前に「KAZU I」を検査した際に蓋の留め具の作動状況を確認していなかった[398]。2月20日、JCIは旅客船の検査を手掛ける専門部署や検査現場を監査する部署を新設し、チェック体制を強化する内容の業務改善計画を国土交通省に提出した[398]。 法改正等事故を受け政府は、2023年(令和5年)3月3日、運航管理者の試験制度の創設や事業者(法人)への罰金を最大1億円に引き上げるなどの罰則の強化を盛り込んだ海上運送法などの改正案を閣議決定した[399]。この改正法案は4月28日に参議院本会議で可決、成立した[400]。 同年4月4日、国土交通省は、2025年度(令和7年度)以降に新造される小型旅客船を対象に、甲板下に浸水拡大を防ぐ「水密隔壁」の設置を義務化すると発表した。既存の船で対応が難しい場合は、浸水警報装置と排水装置を設置するか、船体に浮力を持たせるか、いずれかの代替措置を義務づける。関係省令を改正し、2025年度をめどに実施する[401][402]。 2024年(令和6年)10月3日、国土交通省は水温の低い海域を航行する旅客船を対象に、救命いかだの搭載を義務化することを明らかにした。旅客定員13人以上の船舶は2025年4月から、12人以下の船舶は2026年4月から義務化する[403]。 携帯電話基地局の設置知床地域では携帯電話で通信可能なエリアは限られており、漁業者などの安全確保の観点から、斜里町や羅臼町は事故発生以前から国などに対して、通信エリアの拡大を要望しており[404]、国は前記2町から「今後も小規模な漁船などで携帯電話の利用が想定され、通信環境の改善が必要だ」などの要望が寄せられたことを受けて、知床沿岸地域に携帯電話の基地局を整備することを決定した[404]。 テレビ・ラジオ放送への影響
風評被害事故の影響で、直後の大型連休(ゴールデンウィーク)中にもかかわらず、全国各地の遊覧船への予約が入らなくなったり、修学旅行などの団体旅行でのキャンセルが相次いだりする風評被害が発生した[406][407][408]。 日本国外の反応
民事裁判「KAZU Ⅰ」甲板員の両親による知床遊覧船に対する訴訟「KAZU Ⅰ」に乗り組んでいた死亡した甲板員の両親が、知床遊覧船と社長の安全配慮義務違反が死亡の原因だとして、計約1億1900万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。提訴は2023年3月1日付。原告側は訴状で、社長は実務経験がないのに安全統括管理者に就任し、事故2日前には船首付近のハッチの蓋が閉まらない状態が発覚したが、把握していなかったと主張。経験の浅い船長を乗船させ、悪天候を理由に「行かないほうがいい」とする周囲の助言を無視して出航させるなど、「重過失どころか故意が認められる」と訴えた。これに対し、同社側は請求棄却を求める答弁書を地裁に提出している[410][411]。 同年11月16日、同社側が甲板員の両親側に対し、月5万円ずつ、総額計8千万円を支払うとの和解案を提示したことが分かった。計算上、支払いには約130年かかる[412]。 「KAZU Ⅰ」甲板員の両親による国に対する訴訟「KAZU Ⅰ」甲板員の両親は、事故は国側の船体検査が不十分だったことが原因だとして、国に計約1億800万円の賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。提訴は2023年9月4日付。事故を調査している運輸安全委員会によると、国に代わって検査を担う日本小型船舶検査機構(JCI)が、事故前にKAZU Ⅰの検査を実施した際、検査対象項目だった船首甲板部のハッチの開閉試験を省略して合格とした。同委は、ハッチのふたが密閉できずに海水が船底に入り込んだことが沈没原因とみている。両親は訴状で、検査でハッチの不具合を発見して不合格としていれば、船は出航できず事故は起きなかったと主張。国には安全に航行できる能力のない船を検査に合格させた責任があると訴えた[413][414]。JCIについても同年12月15日付で提訴した[415]。 「KAZU Ⅰ」乗客の家族による知床遊覧船に対する訴訟乗客14人の家族ら計29人が運航会社と社長に計約15億円の損害賠償を求め、2024年7月3日に札幌地裁へ提訴した[416]。 海上保安庁による捜査・刑事裁判2022年5月2日、第一管区海上保安本部は業務上過失致死の疑いで運航会社「知床遊覧船」の事務所や社長の自宅を家宅捜索した[417]。 2024年9月18日、第一管区海上保安本部は業務上過失致死と業務上過失往来危険の疑いで知床遊覧船の社長を逮捕した[418]。逮捕容疑では2022年4月23日、運航管理者として安全を確保すべき義務を怠り、KAZU Iを沈没させて乗客乗員26人を死亡させたとしている[419][420]。会見で同本部の刑事課長は約2年5カ月に及んだ捜査について「沈没メカニズム特定のため、さまざまな鑑定や気象データ解析など、証拠を丹念に積み重ねる必要があった」と述べた[421]。同月26日、第一管区海上保安本部はKAZU Iの船長を業務上過失致死と業務上過失往来危険の疑いで容疑者死亡のまま書類送検した[422]。10月9日、釧路地検は社長を業務上過失致死罪で起訴した[423]。10日、釧路簡易裁判所は社長の保釈を認める決定をした。検察側は不服として準抗告したが、棄却された[424]。11日に勾留先の釧路刑務支所から保釈された。保釈保証金は1000万円[425]。 被害者家族・支援者による活動乗客の家族は「知床観光船事件被害者家族会」を設立して運航会社やその社長の責任追及などを行っており、知床観光船事件被害者弁護団が支援している[426]。 被害者家族のうち、有志が初の合同記者会見をオンライン形式で2022年(令和4年)10月20日に開き、運航会社社長による個別の謝罪が未だないことを挙げて「稚拙で誠意がない」「原因が自分自身にあることを真摯に受け止めて生涯をかけて償う覚悟を持ってほしい」などと語ったほか、国やJCIも検査の甘さなどを批判した。捜索にあたった関係者への感謝を述べるとともに、「そんなに探したいなら自分で探しに行け」といった誹謗中傷がインターネットに書き込まれていることも明かした[427]。 2025年(令和7年)7月13日には、事故海域近くで家族会による洋上慰霊が初めて行われた。行方不明者や遺品の捜索に協力してきた地元漁師らのボランティアグループが企画し、全国からの寄付で費用約1400万円を賄った[428]。 近隣海域の旅客船事故
事故を題材にした作品脚注注釈出典
関連項目
外部リンク
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