美女と野獣“魔法のものがたり”美女と野獣“魔法のものがたり”(びじょとやじゅう“まほうのものがたり”、英: Enchanted Tale of Beauty and the Beast)は東京ディズニーランドのファンタジーランドにあるライド型アトラクションである[1]。 ディズニー映画『美女と野獣』をテーマとしており、映画の名曲に合わせて踊るように動く魔法のカップ型ライドに乗り、物語の名シーンを巡る内容となっている。2020年9月28日に開業し(当初予定の同年4月15日から延期)、東京ディズニーランド史上最大規模の開発エリア「ニューファンタジーランド」の目玉施設として誕生した[2]。高さ約30メートルの「野獣の城」の内部に設置されており、東京ディズニーランドのシンボルであるシンデレラ城に次ぐ規模の建造物である。世界で唯一の『美女と野獣』を題材にしたライド・アトラクションであり、スポンサー企業は付いていない[3]。 このアトラクションが存在するパーク概要
ディズニー映画『美女と野獣』の世界を再現した屋内型のライド・アトラクションである。ゲストは深皿状の魔法のカップ(定員10名)に乗り込み、映画の音楽に合わせて揺れ動くライドを通して物語を追体験する。ライドの所要時間は約8分で、車両はレールの無いトラックレス方式を採用しており、まるで自律走行する生きたティーカップのようになめらかに回転・移動する。一度に6台のライドが同時発進し、最大60名のゲストが一斉に体験できるため、高い回転率を実現している。映画さながらの演出を支えるため、大音響や暗転、車体の旋回・前後移動といったギミックが多用されている点も特徴である[4]。 当アトラクションは東京ディズニーランドの新ファンタジーランド拡張計画(総開発面積約4.7ヘクタール、総投資額約750億円)の一環として導入された。設計・開発はパーク運営会社のオリエンタルランドとウォルト・ディズニー・イマジニアリング(WDI)が共同で行い、WDI史上最大級かつ技術的にも極めて複雑なアトラクションの一つに数えられる。ファストパスには当初対応していなかったが、2022年5月より有料の「ディズニー・プレミアアクセス」の対象となっている[5][6]。 ストーリーゲストは森の奥に佇む荒れ果てた野獣の城に足を踏み入れ、まず城内の玄関の広間(ホール)でプレショーを体験する。ステンドグラスに映し出された映像で若き王子が魔女の呪いによって野獣の姿に変えられたプロローグが語られ、その後、城に迷い込んだヒロインのベルが初めて野獣と対面する場面が再現される。ベルと野獣の寸劇の後、野獣の咆哮とともに扉が開き、ゲストはライドの乗り場である厨房エリアへと誘導される。 ライドに乗車すると、カップはゆっくりと動き出し、まず城のダイニングルーム(食堂)へ進む。そこでは燭台の執事ルミエールが歌う「ひとりぼっちの晩餐会」(“Be Our Guest”)に乗せて豪華な晩餐のシーンが展開する。食器棚から踊り出た皿やカトラリー、宙を飛ぶシャンパンのボトルなど、数々の食器たちがベルをもてなす華やかな宴をゲストはテーブルを囲むように巡りながら鑑賞する。 続いてカップは中庭(庭園)へと進み、冬景色の庭でベルと野獣が心を通わせるシーンに入る。曲は「愛の芽生え」(“Something There”)に変わり、ベルと野獣が城の馬フィリップを可愛がる微笑ましい光景が広がる。ゲストの乗るカップは氷の上を滑るようになめらかにダンスし、雪に覆われた庭を舞うベルと野獣の心情に寄り添う。野獣が小鳥に心を開く様子やベルの微笑みに、ゲストも物語のロマンスを感じ取る演出となっている。 しかし幸せなひとときも束の間、城には村人たちの怒号が響き渡る。次の廊下の場面では、意地悪なガストンに扇動された村人たちが松明や武器を手に城へ乱入しようとしており(楽曲は「夜襲の歌」)、城の住人たちが必死に扉を押さえて応戦する。やがてベルは傷ついた野獣を抱きかかえ、彼への愛を告白する。魔法のバラの花びらが散り落ちる最後の一枚が地面に落ちる瞬間、呪いを受けていた野獣の体が宙に浮かび上がり、キラキラと舞う光に包まれて優しい人間の王子の姿へと変わってゆく。同時に荒廃していた城も魔法が解け、美しい姿へと修復されていく。 クライマックスのボールルーム(大広間)では、「美女と野獣」(“Beauty and the Beast”)の調べが流れる中、正装に身を包んだベルと王子が中央で優雅にワルツを踊っている。呪いから解放された城の使用人たち(ルミエール、コグスワース、ポット夫人、チップ、フィフィ、サルタン)は人間の姿に戻り、喜びながら二人を見守る。ゲストのカップもキャラクターたちと一体となって広間を回り、映画の名シーンさながらのフィナーレを迎える。曲が終わると次の部屋であるアンロードエリア(降車場)に到着し、ゲストはライドを降りて出口へと進む[7][8]。 登場人物
これら主要キャラクターのほかにも、ワードローブ(洋服ダンス)やフィフィ(はたき)など、映画に登場する様々なキャラクターがアトラクション内に姿を見せる[9]。 製作開発の背景「美女と野獣“魔法のものがたり”」は、東京ディズニーランドの運営会社オリエンタルランドが2016年に発表した大規模開発計画の一つとして企画された[2]。老朽化した「グランドサーキット・レースウェイ」など既存施設の閉鎖を経て2017年4月に着工し、約3年の工期をかけて2020年春の完成を目指した。映画『美女と野獣』をテーマに選んだのは、日本のゲストからの人気が高く(映画自体が1992年の日本公開当時に社会現象となった経緯もある)、ファンタジーランドの拡張コンセプトにも合致するためである。『美女と野獣』を題材としたアトラクションは世界でも前例がなく、東京での導入が“世界初”となったことも話題を呼んだ[10][11][12]。 ウォルト・ディズニー・イマジニアリング(WDI)は本アトラクションの開発にあたり、映画の制作スタッフとも協力してキャラクター表現の質を高めることに注力した。特に、1991年公開のアニメ映画版『美女と野獣』の製作に携わったアニメーター数名がチームに参加しており、キャラクターの動きや仕草が「まるで映画から飛び出してきたかのよう」と評されるほど精巧に再現されている[10][13][14]。ベルや野獣をはじめ登場人物は可能な限り投影映像ではなく精密なオーディオ・アニマトロニクスの立体造形で表現されており(表情の一部にプロジェクション・マッピング技術を使用)、狭いプレショー空間に至るまで細やかな動きを見せるアニマトロニクスを配置する徹底ぶりである。最新型の音響・照明・映像システムも導入され、城内の壁面や天井への投影によって魔法の演出を強調している。例えば野獣が人間に戻る変身シーンでは、ライド空間全体にプロジェクション効果を駆使して城が一瞬で姿を変える様子を表現し、ゲストに大きな驚きと感動を与えている。 ライドシステムには東京ディズニーランドの「プーさんのハニーハント」などで実績のある無軌道走行車両技術が用いられ、東京ディズニーリゾートとしては2例目のトラックレス・ライドとなった。10人乗りのライドが無線誘導によって自在に隊列を組み換え、回転や前後移動を繰り返すことで、まるで登場人物たちと一緒に踊ったりスケートをしているかのような動きを実現している[10][14]。ライドの動きはキャラクターのアニマトロニクスや舞台セットの仕掛けと完全に同期しており、音楽・視覚効果・乗り心地が一体化することで物語への没入感が高められている[10][15]。 音楽と演出アトラクション内で使用される音楽は、全て映画『美女と野獣』の楽曲(作曲:アラン・メンケン、作詞:ハワード・アッシュマン)に基づいている。序盤のダイニングルームでは陽気な「ひとりぼっちの晩餐会」(Be Our Guest)、中盤の庭園ではロマンチックな「愛の芽生え」(Something There)、クライマックスではタイトル曲「美女と野獣」(Beauty and the Beast)のリプライズが流れ、物語の流れに沿ってシーンごとに楽曲が展開される[15]。映画から馴染み深い劇中歌のほか、緊迫した夜襲の場面では「夜襲の歌」(The Mob Song)も使用されている。これら複数の楽曲はアトラクション用にひと続きのスコアとして新規アレンジされており、ライドがスタートしてから終了するまで音楽が途切れないよう構成されている。ゲストが乗ったカップの発進に合わせて序曲が流れ始め、降車の瞬間にフィナーレの音楽が終わるまで、車両の動き・キャラクターのアニメーション・照明効果のすべてが音楽とシンクロする演出となっている。このように音と動きを高精度で連動させることで、ゲストはまるで映画の中に入り込み登場人物と一緒にダンスしているような感覚を味わうことができる[15]。 アトラクション建物および周辺エリアのテーマ造形も映画の世界観を忠実に再現するよう設計されている。野獣の城の外観や内装はルネサンス様式を基調とした華麗な意匠でまとめられ、内部には映画に登場した部屋の数々(暖炉のある応接室、ベルと野獣が食事をした朝食室、甲冑が並ぶ廊下、大階段のあるエントランスホール、城の厨房など)が待ち列動線に沿って再現されている[15]。ゲストは乗車前から城内を巡るように進み、家具に擬態した召使いたちが密かに息づく様子を観察しながら、物語の舞台に入り込んでいくことができる。また、新エリアの村部分にはベルが暮らしていた町並みも広がっており、村の広場にはガストン像のある噴水、街角には「ラ・ベル・リブレリー」(本屋)や「ボンジュール・ギフト」(帽子屋)など映画に登場したお店をモデルにしたショップが並ぶ。レストラン「ラ・タベルヌ・ド・ガストン」ではガストンの酒場を再現し、内装に鹿の角の装飾やガストンの肖像画が飾られるなど、ファンには嬉しい演出が随所に施されている。これら徹底した環境演出により、アトラクションとエリア全体で映画『美女と野獣』の物語世界に浸れる仕掛けとなっている[16]。 評価「美女と野獣“魔法のものがたり”」は、新エリア開業時が新型コロナウイルス感染拡大の時期と重なったため、大々的な宣伝を控えてのスタートとなった[2]。2020年9月のオープン当初は混雑緩和のため東京ディズニーリゾート公式アプリによる入場整理券(エントリー受付)制度が採られ、抽選に当選したゲストのみが利用できる運用となった。制限付きの運営ながら体験者からの評価は極めて高く、メディアにも「映画の名場面を完璧に再現した没入型アトラクション」「アニマトロニクスの完成度が非常に高い」といった好意的なレビューが多く掲載された。映画を忠実に再現した華麗な演出や、“映像に頼らず本物を見ているような感覚”を生み出す凝った造形技術については特に称賛の声が大きい[10][14]。一方でアトラクション全体の動的な盛り上がりが序盤に集中している構成上、中盤以降のシーン展開を冗長に感じる意見も一部のファンから指摘されている[17][18]。 開業後は東京ディズニーランドの新たな人気看板アトラクションとなり、スタンバイ列の待ち時間が常に長時間化する傾向がみられた。2022年5月19日から導入された有料の優先入場サービス「ディズニー・プレミアアクセス」では、本アトラクションが東京ディズニーランドで最初に対象となった施設の一つに選ばれている。現在ではエントリー受付は行われておらず、通常のスタンバイ方式で終日運営されているが、混雑時には待ち時間が数時間に及ぶこともある。東京ディズニーリゾートのオフィシャルスポンサー(協賛企業)が付かない大型アトラクションは珍しく、オリエンタルランドが総工費を負担して完成させた“渾身の自信作”とも称される[14][19]。 脚注
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