007 スペクター
『007 スペクター』(原題: Spectre)は、2015年のスパイアクション映画。イーオン・プロダクションズが製作する「ジェームズ・ボンド」シリーズの第24作である。ダニエル・クレイグが架空のMI6諜報員、ジェームズ・ボンドを演じる4作目の作品で、サム・メンデスが『007 スカイフォール』からシリーズ2作目の監督を務め、脚本は、ジョン・ローガン、ニール・パーヴィス、ロバート・ウェイド、ジェズ・バターワースが務めた。 製作費は約2億4500万ドルと推定されているが、一部の情報では3億ドルとも言われており、これまでに製作された映画の中でも最も高い作品の一つである。 10月26日にロンドンでプレミア上映され、その後、IMAX上映を含む全世界での公開が始まった。11月6日に北米で、日本では12月4日に公開された[3]。批評家からは、本作のアクションシーン、撮影技術、演技、映画音楽を賞賛する一方で、テンポを批判されるも、かなり好意的な評価を得た。サム・スミスが演奏・共作した主題歌「ライティングズ・オン・ザ・ウォール」は、アカデミー賞とゴールデングローブ賞の歌曲賞を受賞した。全世界で8億8,000万ドル以上の興行収入を記録し、2015年の興行収入ランキングでは6位、インフレーション調整前の累計では『007 スカイフォール』に次ぐシリーズ2位となった。 あらすじメキシコシティで催されている「死者の日」において、ジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)は建物の屋上から窓越しにスキアラ(アレクサンドロ・クレモナ)という男に銃口を向け発砲、スキアラがスタジアム爆破テロのため用意していた爆薬入りのスーツケースが被弾して爆発し、スキアラの居た建物は倒壊。辛くも逃げおおせたスキアラを追うボンドは、爆発による混乱の中でヘリコプターで逃亡しようとしていたスキアラを追い詰め、彼の手からある紋章の刻まれた指輪を奪うと、最終的にヘリから地上へ突き落とす。 MI6本部に戻ったボンドは、任務外で起こしたメキシコシティでの一件をM(レイフ・ファインズ)から叱責され、しばらくの間謹慎命令を下される。また所在地や体調を追跡するためのスマートブラッドを体内に注入されるが、Q(ベン・ウィショー)に頼んで追跡開始までに48時間の猶予を得る。その後、前作での"スカイフォール"での出来事で燃え残った残骸を自宅へ届けにきたマネーペニー(ナオミ・ハリス)に、メキシコシティでの出来事が、前作で落命した前任のMからの遺言によるものであることを明かす。そして彼は残骸の中から見つけ出された古い写真を、感慨深そうに見るのだった。その写真には少年時代のボンド、養父、そしてもう一人の少年が写っていた。 その後、ボンドはQ課から自動車を無断で持ち出し、前任のMの遺言に従ってローマに向かい、そこでスキアラの未亡人であるルチア(モニカ・ベルッチ)に近づく。始めは夫を殺した張本人ということもあり不信を抱かれるも、彼女を秘密組織の処刑人から守り誘惑したボンドは命を助けることと引き換えに、その組織の秘密会議が開かれることを聞きだし、会議に潜入する。秘密会議で暗闇から登場し、圧倒的な威厳と恐怖でその場を支配する組織の首領はかつてボンドが幼少期を共に過ごした義兄、フランツ・オーベルハウザー(クリストフ・ヴァルツ)だった。フランツはボンドがその場に潜入している事も知っており、ボンドは逃走するも組織の一員であるMr. ヒンクス(デイヴ・バウディスタ)に追跡される。ヒンクスとのカーチェイスの末、ボンドは車をテヴェレ川に沈めてしまうが脱出に成功。その後マネーペニーと連絡を取り合い、前々作で対峙したMr. ホワイト(イェスパー・クリステンセン)がカギを握っていることを掴む。 ボンドはオーストリアの渓谷にあるホワイトの潜伏先に向かい、そこでオーベルハウザーと対立したことで携帯電話にタリウムを仕掛けられ、タリウム中毒となり死に瀕したホワイトの姿を見出す。ホワイトは、組織が世界規模で暗躍する巨大犯罪シンジケートであること、組織から命を狙われている娘のマドレーヌ・スワン(レア・セドゥ)を助けるのと引き換えに、彼女が手掛かりとなる「アメリカン」の居場所を教えると告げ、ボンドが渡した拳銃で自決したのだった。 一方、ロンドンではMI5の新責任者であるCことマックス・デンビー(アンドリュー・スコット)がボンドの行動を問題視し、彼が「時代遅れ」と評している00部門の機能を停止させてMI6をMI5に吸収させることを画策しており、Mは対応に追われていた。さらに、東京で開かれた世界会議で9か国の情報網を統合するという提案の賛否投票が開始された。当初南アフリカが反対票を投じていたが、後に南アフリカ国内で爆破テロが発生して賛成票に転じた事により、全会一致で案が通過してしまう事態となった。そしてCからローマにおけるボンドとマネーペニーの会話を監視していることを告げられたMは、マネーペニーとQにボンドの追跡を断念すべきである旨を伝えたのだった。 マドレーヌが勤めるオーストリア山岳地帯の医療施設を訪れたボンドは、患者を装って彼女に接近し、正体を明かしてホワイトの遺言を伝えるが追い出されてしまう。また、ボンドは密かに追ってきたQから本国での状況を知らされるが、マドレーヌがヒンクスらにさらわれる。彼女を追って救出したボンドは、最初こそ拒絶されるも、行動を共にするしか生き延びる術はないと説き、行動を共にすることになる。一方、医療施設でボンドから指輪の解析を頼まれたQは、山を下りるロープウェイの中で組織の構成員に追われるも何とか回避する。その後、ボンドとマドレーヌはホテルでQと合流し、彼からこれまでボンドを襲った悲劇が同じ秘密組織の仕組んだものであることを告げられると同時に、マドレーヌから組織の名称が「スペクター」であることを知る。 当初、「アメリカン」が特定の人物を示す言葉だと思っていたボンドだが、マドレーヌからそれがモロッコのタンジールにあるホテルの名前だと知らされる。ホテル・アメリカンはMr.ホワイトが新婚旅行で訪れて以来、毎年家族と訪れていた思い出の場所だった。早速ホワイトがいつも泊まっていた部屋で手掛かりを探すボンドだったが、見つかったのは1本の酒だけだった。半ば諦めかけたボンドだが、1匹のネズミが逃げ込んだ壁に貼り付けられていた絵がずれている事に気づき、壁を破ると隠し部屋を発見する。そこでボンドとマドレーヌは、ホワイトがオーベルハウザーを追跡し続けていたことを知り、拠点となっている場所の座標も発見する。座標の数字を地図と照らし合わせると、そこは北アフリカの砂漠の真ん中だった。 マドレーヌと共に特急列車に乗り込んでスペクターの秘密基地に向かうボンドは、途中車内でヒンクスに襲われるも、なんとか撃退しマドレーヌと関係を深める。砂漠の駅で列車を降りた二人の前に出迎えが現れ、クレーターの中に隠されたスペクターの基地に到着した二人は、そこで再度オーベルハウザーと対面。オーベルハウザーは二人に世界各国の監視カメラ映像を傍受する大規模な監視施設を見せ、Cの提唱する情報網統合案「ナイン・アイズ」を使い、各国の機密情報を掌握し、支配する事が目的であることを明かす。そのことを聞かされたボンドはCもスペクターの側についていることを悟る。さらにボンドとホワイトが最後に対峙した際の映像も見せられ、ボンドはホワイトの死の瞬間からマドレーヌの目をそらさせることには成功するも、直後にオーベルハウザーの部下に昏倒させられてしまう。 意識を取り戻したボンドは拷問台に拘束されていた。オーベルハウザーは脳の機能を破壊するドリルを準備しながら、20年前の雪崩事故においてボンドの養父でもあるフランツの父を殺し、自らの死をでっち上げたことと、それ以来「エルンスト・スタヴロ・ブロフェルド」を名乗っていることを明かす。事実を聞かされたボンドは、頭部に極細のドリルを突き刺される拷問にかけられるが、腕時計に仕掛けてあった小型爆弾を起動させてマドレーヌに渡し、爆発の混乱に乗じて窮地を脱して、基地を破壊した。 マドレーヌとロンドンに戻ったボンドはM、Q、マネーペニー、タナーと落ち合い、協力してCの身柄を確保し、ナイン・アイズがその日の深夜24時に正式稼働するのを阻止することとなる。しかしマドレーヌはスパイとして生きるボンドと行動を共にすることはできないと告げ、その場を去る。彼女を除いた5人が行動に動きだすも、Cの配下がボンドとMの乗った車を急襲し、ボンドを廃墟と化した旧MI6本部[注釈 1]に拉致するが、ボンドは配下を倒してひとり本部建物内に足を踏み入れる。建物にはアフリカで右目を含めた顔の右側を負傷したブロフェルドが待ち受けており、ボンドにマドレーヌを拉致したことと、3分後に建物が爆破されると告げ、起爆装置のタイマーを作動させる。 一方、間一髪で車輌から逃げおおせたMはQ、マネーペニー、タナーと合流し、旧MI6本部の対岸に建設された新国家保安センター庁舎に向かう。そこでQはナイン・アイズのプログラムへのハッキングに成功し、Mは庁舎内でCと格闘の末、Cは転落死する。そしてM達の目の前で旧MI6本部が爆発音とともに崩壊するが、マドレーヌを見つけ出し救出していたボンドは高速ボートでテムズ川に脱出。そしてボンドは、ヘリで逃走するブロフェルドを追跡、エンジン部分を狙い撃ち、ブロフェルドが搭乗するヘリはウェストミンスター橋に不時着する。 負傷したブロフェルドが這い出したところにボンドが立ちふさがり、彼に銃口を突き付ける。ブロフェルドはボンドに自身を殺して決着をつけるよう挑発するが、彼は銃弾を抜き銃を捨てて、その場を去ってマドレーヌのもとに向かうのだった。その後、Mによりブロフェルドは身柄が確保される。 後日、引退したはずのボンドが早朝のQ課に姿を現す。彼は前作で大破し修復が完了した自身の車をQから受け取り、マドレーヌを助手席に乗せると、ロンドンの街へ走り去っていった。 キャスト![]()
スタッフ
制作制作費は2億4500万ドル[9][10]から3億ドル[11][12]で、『007』シリーズでの史上最高額である。また148分という上映時間は、007 カジノ・ロワイヤル(2006年)の144分を上回る、シリーズ史上最長の上映時間となった。また、ダニエル・グレイグには出演料として2,400万ドル(約28億円)が支払われた[13]。 舞台とロケ地批評ネット上のアグリゲータ・レビュー「ロットン・トマトズ」では、この映画は「6.4 / 10」の平均格付けと347件の口コミをもとにして、63%の支持率を獲得した。同ウェブサイトは映画『スペクター』でダニエル・クレイグによって再登場したボンドは、確立された007のパターンに確かに依存しているが、以前のボンド映画の輝かしい、アクション主導のスペクタクルに近づいてきている」と評している。Metacriticは、この映画は、混合または平均レビューで、48人の批評家により「100のうち60」の平均スコアを得た。「CinemaScore」は、観客の投票で『スペクター』にA+からFのスケールで、平均「A−」の等級を与えた。 英国での公開前は、スペクターは主に好意的なレビューを受けていた。イギリスの「ガーディアン」紙で執筆しているマーク・カーモードは、5つ星のうち4つ星をつけ、前作『スカイフォール』の水準には達していなかったが、観客の期待には応えることができたと述べた。ピーター・ブラッドショーは、映画に5つ星を与え、「独創的でインテリジェントで複雑」と評し、クレイグのパフォーマンスを映画のハイライトとして賞賛した。他の5つ星評としては、デイリー・テレグラフ紙のロビー・コリンは本作を「堂々の会心作」であると述べ、「純粋な映画の魔術による偉業」と賞賛した。肯定的でありつつも批判的な評価としてはキム・ニューマンが、「脇にそれがちな筋書(ほとんど筋の通らないボンドの子供時代の話を盛り込むという無駄を含む)ではあるが、映画にはなっている」としつつも、「観客の忍耐力は、シリーズ中でも薄っぺらな部類に入る筋書を2時間半のアクションシーンで誤魔化した代物で試された」と感じたと述べている。IGN の Chris Tilly は10点満点中7.2点を与え、評論家クリス・ティリーは「地味ではあるが安定感がある」と評した。 アメリカでは批評的評価がまちまちだった。「フォーブス」のスコット・メンデルソンはこの映画を厳しく批判し、『スペクター』を「この30年で最悪の007映画」と難じた。「RogerEbert.com」のレビューで、マット・ゾラー・セイツは本作に、4点満点で2.5点を与えた。映画には一貫性がなく、その可能性を活用できていないとしている。ロサンゼルス・タイムズの映画をレビューしているケネス・トゥランは、「(観ていて)疲れるし」と結論付けた。ニューヨーク・タイムズのマノーラ・ダージスは、映画に「驚くべきことは何もない」と批判し、興行収入のためにその独創性を犠牲にしたと断じた。 エンターテインメント・ウィークリーのダレン・フラニッチは、『スペクター』を「いまどきの大作志向への過剰反応」と見なし、シリーズ続行への野心を燃やし、「サーガ」であることを示そうとしているとした。「『スペクター』劇中で起きることはどれも、ちょっとした論理的な批評にすら耐えられそうにない」と指摘しつつも、「スペクターを葬りたい訳ではなく、変則的に称賛したい。というのも、映画の終盤はとても奇妙で、意図的に鈍く、余計な注意を引くためである」としている。クリストファー・オーアはアトランティック誌で、ほとんどすべての点で(従来のボンド映画に)逆行してしまったと評した。シャーロット・オブザーバー紙のローレンス・トップマンは、クレイグの演技を「退屈、ジェームズ・ボアード(退屈:bored)」と評した。アリッサ・ローゼンバーグはワシントン・ポストに寄稿した文で、本作は残念ながら従来のボンド映画になってしまったと述べた。 ローリングストーンで公開された肯定的なレビューで、ピーター・トラバーズは映画に4つ星のうち、3.5の星を与えた。スペクターを「ボンド・ファンのパーティー・タイム、映画で最も長く続いているフランチャイズで、激しく、面白く、豪華に生み出されたバレンタインの贈り物」と記した。 使用車両
秘密兵器など
主題歌イングランドの男性シンガー、サム・スミスが起用され、「Writing's On The Wall」を歌った。 主題歌の曲名(「Writing's On The Wall」)が映画のタイトルと異なっているのは「私を愛したスパイ(The Spy Who Loved Me)」『Nobody Does It Better』、「オクトパシー(Octopussy)」の『All Time High』、「カジノ・ロワイヤル(Casino Royale)」の『You Know My Name』、「慰めの報酬(Quantum Of Solace)」の『Another Way to Die』に続き5例目となる(「女王陛下の007(On Her Majesty's Secret Service)」の『We have all the time in the world』を主題歌とするなら、6例目)。ちなみに、主題歌候補のひとつとしてレディオヘッドが「スペクター(Spectre)」を歌っているが、選考で敗れている[14]。後にフリー・ダウンロードで公開[15]され、翌年にリリースされた、「ア・ムーン・シェイプト・プール」のボーナス・トラックに収録された。 問題ハッキング事件2014年11月23日に、ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントへのハッキング事件が発生し、本作の製作に関わる書類の一部が流出した。その中には、本作の脚本の草稿も含まれていた[16]。 著作権上の問題1961年の『サンダーボール作戦』製作に当たって、「スペクター」という組織の名称とそれに関係する登場人物の権利をめぐり、原作者のイアン・フレミングとプロデューサーのケヴィン・マクローリーの間で訴訟が起きた。それ以来、スペクターの使用権は007における紛争の種となっていた(『サンダーボール作戦』と『ネバーセイ・ネバーアゲイン』の項目を参照)。この訴訟が原因で1971年の『ダイヤモンドは永遠に』以降、スペクターは映画に登場しなくなった。 2013年11月、メトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)はマクローリーの遺産を管理するイーオン・プロダクションズの親会社であるダンジャックからスペクターとそれに関連する登場人物を映画に出す権利を購入した[17]。 受賞歴
テレビ放送
Blu-ray/DVD20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパンよりBlu-ray DiscとDVDが発売。
ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメントよりBlu-ray DiscとDVDが発売。NBCユニバーサルが販売。 その他
過去作品へのオマージュ
脚注注釈
出典
関連項目
外部リンク |
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