IRAS 18059-3211 或いはゴメスのハンバーガー [ 3] (Gomez's Hamburger、GoHam)は、原始惑星系円盤 に取り囲まれた若い恒星 である。星周円盤 をほぼ真横から眺めることで、円盤の中央に光が遮られる暗黒帯が形成され、その両側は星周物質による反射星雲 が広がることで、「ハンバーガー」に例えられる特徴的な外観を生み出している[ 5] 。
発見
IRAS 18059-3211は、1985年5月、チリ にあるセロ・トロロ汎米天文台 の1.5m望遠鏡 で、銀河バルジ 方向のこと座RR型変光星 を捜索するための撮像 観測を行っていた際に、撮影した写真乾板 に写っていたことで発見された。撮影を行った同天文台のアルトゥーロ・ゴメス(Arturo Gómez)の名前と、暗黒帯によって2つの平べったい星雲 状天体に二分されている姿が、さながらハンバーガーのバンズ であったことから、「ゴメスのハンバーガー」とあだ名された[ 4] 。
分類
発見された当初IRAS 18059-3211は、M 1-92 や赤い長方形星雲 との類似から、漸近巨星枝星 から惑星状星雲 へ進化する途中の天体 (原始惑星状星雲 )と考えられ、スペクトル から中心にある恒星はA型巨星 と予測され、天体までの距離もおよそ9,500光年 と見積もられた[ 4] 。
しかしその後、サブミリ波干渉計 を用いてミリ波 の一酸化炭素 輝線により星雲の運動を調べた結果、ケプラー回転 であることが明らかとなった。そして、回転速度から推定される中心天体の質量 は、太陽 の数倍で、原始惑星状星雲の中心星の典型的な値とはかけ離れている上、太陽 に数倍する質量を持つA型巨星 としては、ありえない低光度 であったことから、IRAS 18059-3211は原始惑星状星雲ではなく、原始惑星系円盤に囲まれた若い恒星であると結論付けられた[ 5] 。
特徴
近赤外線 のデータを追加し「パテ 」を可視化した「ゴメスのハンバーガー」
IRAS 18059-3211の中心にある恒星は、質量が太陽の2倍程度のA型星と推定される。IRAS 18059-3211までの距離は、大体700から1,000光年と見積もられている[ 8] [ 7] 。その周囲に、ほぼ真横からみた(エッジオン)原始惑星系円盤が広がっている。光学的に厚い 円盤により光が遮られることで、中央の暗黒帯が生じ、「ハンバーガー」のような外観を作り出す。暗黒帯の両側には、星周塵 によって中心星の光が散乱 された星雲が伸びている[ 5] [ 4] 。
IRAS 18059-3211の原始惑星系円盤は、そこに含まれるガス と塵の質量比をどう仮定するかで見積もりが変わってくるが、概ね太陽の1%程度から3割程度の質量をもつ、塵の豊富な円盤である[ 7] [ 10] 。円盤は、半径 1,500au 程度まで広がっているとみられ、塵の温度 は中心星に近い辺りでおよそ65K 、最も低温の領域ではおよそ20Kと予想される[ 11] [ 5] 。
中心からみて南側の星雲には、系の中心から1.3秒 程離れた位置に、一酸化炭素と芳香族炭化水素 による中間赤外線 の局所的な放射過剰がみつかっている[ 7] 。この領域(GoHam b )は、密度 が過大なガスの塊と考えられ、半径はおよそ150au、質量は木星 の8割程度から11倍程度の範囲にあるものと見積もられており、若い原始惑星 候補の一つとされている[ 7] [ 6] [ 11] 。
脚注
注釈
出典
^ “Hubble Astronomers Feast on an Interstellar Hamburger ”. HubbleSite . STScI (2002年8月1日). 2021年5月3日閲覧。
^ a b c “IRAS 18059-3211 -- Possible Planetary Nebula ”. SIMBAD . CDS . 2021年5月2日閲覧。
^ a b c “宇宙に浮かぶ「ゴメスのハンバーガー」 ”. AstroArts (2002年8月2日). 2021年5月2日閲覧。
^ a b c d e f g h Ruiz, María Teresa; et al. (1987-05-01), “IRAS 18059-3211: Optically Known as “Gomez's Hamburger””, Astrophysical Journal Letters 316 : L21-L24, Bibcode : 1987ApJ...316L..21R , doi :10.1086/184884
^ a b c d e f g h Bujarrabal, V.; Young, K.; Fong, D. (2008-06), “Gomez's Hamburger (IRAS 18059-3211): a pre main-sequence A-type star”, Astronomy & Astrophysics 483 (3): 839-845, Bibcode : 2008A&A...483..839B , doi :10.1051/0004-6361:20079273
^ a b Berné, O.; et al. (2015-06), “Very Large Telescope observations of Gomez's Hamburger: Insights into a young protoplanet candidate”, Astronomy & Astrophysics 578 : L8, Bibcode : 2015A&A...578L...8B , doi :10.1051/0004-6361/201526041
^ a b c d e Bujarrabal, V.; Young, K.; Castro-Carrizo, A. (2009-06), “The physical conditions in Gomez's Hamburger (IRAS 18059-3211), a pre-MS rotating disk”, Astronomy & Astrophysics 500 (3): 1077-1087, Bibcode : 2009A&A...500.1077B , doi :10.1051/0004-6361/200811233
^ a b c d e Berné, O.; et al. (2009-03), “What can we learn about protoplanetary disks from analysis of mid-infrared carbonaceous dust emission?”, Astronomy & Astrophysics 495 (3): 827-835, Bibcode : 2009A&A...495..827B , doi :10.1051/0004-6361:200810559
^ “宇宙最大のハンバーガー!? ”. 大阪市立科学館 (2002年8月21日). 2021年5月3日閲覧。
^ Wood, Kenneth; et al. (2008-12), “Emission from Very Small Grains and PAH Molecules in Monte Carlo Radiation Transfer Codes: Application to the Edge-On Disk of Gomez's Hamburger”, Astrophysical Journal 688 (2): 1118-1123, Bibcode : 2008ApJ...688.1118W , doi :10.1086/592185
^ a b c Teague, Richard; et al. (2020-06), “A three-dimensional view of Gomez's hamburger”, Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 495 : 451-459, arXiv :2003.02061 , Bibcode : 2020MNRAS.495..451T , doi :10.1093/mnras/staa1167
関連項目
外部リンク
座標 : 18h 09m 13.37s , -3210° 49.5′ 820″