レプチャ文字 (レプチャもじ、英語 : Lepcha )は、Unicode の62個目のブロック 。
解説
インド のシッキム州 に居住するレプチャ人 によって話されるシナ・チベット語族 のレプチャ語 を表記するためのレプチャ文字 (或いはロン(Rong )文字)を収録している。
レプチャ文字はチベット文字 から派生した文字で、更にチベット文字はブラーフミー文字 から派生した所謂ブラーフミー系文字 (インド系文字)の一つであり、音素文字 のうち子音字単独では短母音/-a/を伴って発音され、別の母音にする際に母音記号を付加することで発音を切り替えるアブギダ に分類される。書字方向 はラテン文字 やキリル文字 などと同様に左から右へと横書き(左横書き )し、下に行を送る。単語毎に分かち書き をする。
他のブラーフミー系文字とは異なり、子音クラスタ を表す際にヴィラーマ のような殺母音記号を用いず、末子音を表す固有の子音記号を用いる。また、子音字に-l-を介音として持つ子音クラスタを一つの子音として扱う文字が含まれているのが特徴である。
母音記号はものによっては文字の左側に付けられるものもあるが、Unicodeにおいては子音字→母音記号の順に入力することとなっており、符号上の文字の置かれる順序と実際のレンダーにおける表示順とが入れ替わる場合がある。
加えて、アラビア文字 やタイ文字 などと同様に独自の数字体系(レプチャ数字)を有している。
符号位置の順序はおおむね伝統的なレプチャ文字の順序に従っている。
Unicodeのバージョン5.1において初めて追加された。
収録文字
コード
文字
文字名(英語)
用例・説明
ラテン文字転写
子音字
U+1C00
ᰀ
LEPCHA LETTER KA
子音[k ]を表す。
k
U+1C01
ᰁ
LEPCHA LETTER KLA
子音列[kl]を表す。
kl
U+1C02
ᰂ
LEPCHA LETTER KHA
子音[kʰ]を表す。
kh
U+1C03
ᰃ
LEPCHA LETTER GA
子音[ɡ ]を表す。
g
U+1C04
ᰄ
LEPCHA LETTER GLA
子音列[ɡl]を表す。
gl
U+1C05
ᰅ
LEPCHA LETTER NGA
子音[ŋ ]を表す。
ng
U+1C06
ᰆ
LEPCHA LETTER CA
子音[t͡ɕ ]を表す。
c
U+1C07
ᰇ
LEPCHA LETTER CHA
子音[t͡ɕʰ]を表す。
ch
U+1C08
ᰈ
LEPCHA LETTER JA
子音[d͡ʑ ]を表す。
j
U+1C09
ᰉ
LEPCHA LETTER NYA
子音[ɲ ]を表す。
ny
U+1C0A
ᰊ
LEPCHA LETTER TA
子音[t ]を表す。
t
U+1C0B
ᰋ
LEPCHA LETTER THA
子音[tʰ]を表す。
th
U+1C0C
ᰌ
LEPCHA LETTER DA
子音[d ]を表す。
d
U+1C0D
ᰍ
LEPCHA LETTER NA
子音[n ]を表す。
n
U+1C0E
ᰎ
LEPCHA LETTER PA
子音[p ]を表す。
p
U+1C0F
ᰏ
LEPCHA LETTER PLA
子音列[pl]を表す。
pl
U+1C10
ᰐ
LEPCHA LETTER PHA
子音[pʰ]を表す。
ph
U+1C11
ᰑ
LEPCHA LETTER FA
子音[f ]を表す。
f
U+1C12
ᰒ
LEPCHA LETTER FLA
子音列[fl]を表す。
fl
U+1C13
ᰓ
LEPCHA LETTER BA
子音[b ]を表す。
b
U+1C14
ᰔ
LEPCHA LETTER BLA
子音列[bl]を表す。
bl
U+1C15
ᰕ
LEPCHA LETTER MA
子音[m ]を表す。
m
U+1C16
ᰖ
LEPCHA LETTER MLA
子音列[ml]を表す。
ml
U+1C17
ᰗ
LEPCHA LETTER TSA
子音[t͡s ]を表す。
ts
U+1C18
ᰘ
LEPCHA LETTER TSHA
子音[t͡sʰ]を表す。
tsh
U+1C19
ᰙ
LEPCHA LETTER DZA
子音[d͡z ]を表す。
dz
U+1C1A
ᰚ
LEPCHA LETTER YA
子音[j ]を表す。
y
U+1C1B
ᰛ
LEPCHA LETTER RA
子音[r ]を表す。
r
U+1C1C
ᰜ
LEPCHA LETTER LA
子音[l ]を表す。
l
U+1C1D
ᰝ
LEPCHA LETTER HA
子音[h ]を表す。
h
U+1C1E
ᰞ
LEPCHA LETTER HLA
子音列[hl]を表す。
hl
U+1C1F
ᰟ
LEPCHA LETTER VA
子音[v ]を表す。
v
U+1C20
ᰠ
LEPCHA LETTER SA
子音[s ]を表す。
s
U+1C21
ᰡ
LEPCHA LETTER SHA
子音[ɕ ]を表す。
sh
U+1C22
ᰢ
LEPCHA LETTER WA
子音[w ]を表す。
w
U+1C23
ᰣ
LEPCHA LETTER A
子音[ʔ ]を表す。
下接子音字
U+1C24
ᰤ
LEPCHA SUBJOINED LETTER YA
子音クラスタ における介音としての[-j-]を表す。
y
U+1C25
ᰥ
LEPCHA SUBJOINED LETTER RA
子音クラスタにおける介音としての[-r-]を表す。
r
従属母音字
U+1C26
ᰦ
LEPCHA VOWEL SIGN AA
母音[a ]を表す。
元々は長母音[aː]を表していた。
á
U+1C27
ᰧ
LEPCHA VOWEL SIGN I
母音[i ]を表す。
文字の左側にレンダーされるため、符号上の文字順序と表示上の順序とが入れ替わる。
i
U+1C28
ᰨ
LEPCHA VOWEL SIGN O
母音[o ]を表す。
文字の左側にレンダーされるため、符号上の文字順序と表示上の順序とが入れ替わる。
o
U+1C29
ᰩ
LEPCHA VOWEL SIGN OO
母音[ɔ ]を表す。
元々は長母音[oː]を表していた。
文字の左側にレンダーされるため、符号上の文字順序と表示上の順序とが入れ替わる。
ó
U+1C2A
ᰪ
LEPCHA VOWEL SIGN U
母音[ɯ ]を表す。
元々は短母音[u ]を表していた。
u
U+1C2B
ᰫ
LEPCHA VOWEL SIGN UU
母音[u ]を表す。
元々は長母音[uː]を表していた。
ú
U+1C2C
ᰬ
LEPCHA VOWEL SIGN E
母音[e ]を表す。
e
子音記号
U+1C2D
ᰭ
LEPCHA CONSONANT SIGN K
末子音の[k ]を表す。
k
U+1C2E
ᰮ
LEPCHA CONSONANT SIGN M
末子音の[m ]を表す。
m
U+1C2F
ᰯ
LEPCHA CONSONANT SIGN L
末子音の[l ]を表す。
l
U+1C30
ᰰ
LEPCHA CONSONANT SIGN N
末子音の[n ]を表す。
n
U+1C31
ᰱ
LEPCHA CONSONANT SIGN P
末子音の[p ]を表す。
p
U+1C32
ᰲ
LEPCHA CONSONANT SIGN R
末子音の[r ]を表す。
r
U+1C33
ᰳ
LEPCHA CONSONANT SIGN T
末子音の[t ]を表す。
t
U+1C34
ᰴ
LEPCHA CONSONANT SIGN NYIN-DO
末子音の[ŋ ]を表す。母音aの後ろに付く場合の形状。
文字の左側にレンダーされるため、符号上の文字順序と表示上の順序とが入れ替わる。
ng
U+1C35
ᰵ
LEPCHA CONSONANT SIGN KANG
末子音の[ŋ ]を表す。a以外の母音に付く場合の形状。
文字の左側にレンダーされるため、符号上の文字順序と表示上の順序とが入れ替わる。
ng
各種記号
U+1C36
ᰶ
LEPCHA SIGN RAN
母音[ə ]を表す。
また、U+1C27 ᰧ LEPCHA VOWEL SIGN I と共に用いて元々長母音[iː]だった母音[i ](í)を表す。
â
U+1C37
᰷
LEPCHA SIGN NUKTA
ヌクター。子音字を拡張して新たな発音を表す際に用いられる。
レプチャ文字においては子音列kr, hr, grに付いてそれぞれ反舌音 の[ʈ ], [ʈʰ], [ɖ ]を表すのに用いられる。例えばᰀᰥは[kra]という音節を表すが、ᰀᰥ᰷は[ʈa]という音節になる[ 1] 。
約物
U+1C3B
᰻
LEPCHA PUNCTUATION TA-ROL
レプチャ文字における句点 。欧文におけるピリオド(.)に相当する。
.
U+1C3C
᰼
LEPCHA PUNCTUATION NYET THYOOM TA-ROL
長い節の終わりを表す。
U+1C3D
᰽
LEPCHA PUNCTUATION CER-WA
U+1C3E
᰾
LEPCHA PUNCTUATION TSHOOK CER-WA
U+1C3F
᰿
LEPCHA PUNCTUATION TSHOOK
チベット文字 のtsheg(U+0F0B ་)と呼ばれる記号に由来する[ 1] 。
数字
U+1C40
᱀
LEPCHA DIGIT ZERO
レプチャ文字における数字の0 。
0
U+1C41
᱁
LEPCHA DIGIT ONE
レプチャ文字における数字の1 。
1
U+1C42
᱂
LEPCHA DIGIT TWO
レプチャ文字における数字の2 。
2
U+1C43
᱃
LEPCHA DIGIT THREE
レプチャ文字における数字の3 。
3
U+1C44
᱄
LEPCHA DIGIT FOUR
レプチャ文字における数字の4 。
4
U+1C45
᱅
LEPCHA DIGIT FIVE
レプチャ文字における数字の5 。
5
U+1C46
᱆
LEPCHA DIGIT SIX
レプチャ文字における数字の6 。
6
U+1C47
᱇
LEPCHA DIGIT SEVEN
レプチャ文字における数字の7 。
7
U+1C48
᱈
LEPCHA DIGIT EIGHT
レプチャ文字における数字の8 。
8
U+1C49
᱉
LEPCHA DIGIT NINE
レプチャ文字における数字の9 。
9
追加の字母
U+1C4D
ᱍ
LEPCHA LETTER TTA
近年になり新たに見られるようになった文字で[ 1] 、[ʈ ]を表す。
ṭ
U+1C4E
ᱎ
LEPCHA LETTER TTHA
近年になり新たに見られるようになった文字で[ 1] 、[ʈʰ]を表す。
ṭh
U+1C4F
ᱏ
LEPCHA LETTER DDA
近年になり新たに見られるようになった文字で[ 1] 、[ɖ ]を表す。
ḍ
小分類
このブロックの小分類は「子音字」(Consonants )、「下接子音字」(Subjoined consonants )、「従属母音字」(Dependent vowels )、「子音記号」(Consonant signs )、「各種記号」(Various signs )、「約物」(Punctuation )、「数字」(Digits )、「追加の字母」(Additional letters )の8つとなっている[ 2] 。
子音字(Consonants )
この小分類にはレプチャ文字のうち、基本的な子音字が収録されている。
下接子音字(Subjoined consonants )
この小分類にはレプチャ文字のうち、子音クラスタを形成する際に介音として用いられる子音を表す、別の子音字に付く記号が収録されている。
従属母音字(Dependent vowels )
この小分類にはレプチャ文字のうち、子音字に結合する母音記号が収録されている。
子音記号(Consonant signs )
この小分類にはレプチャ文字のうち、末子音を表すために別の子音字に結合する子音記号が収録されている。
各種記号(Various signs )
この小分類にはレプチャ文字のうち、母音字や子音字に結合する発音記号などの様々な記号が収録されている。
約物(Punctuation )
この小分類にはレプチャ文字のうち、句読点 などの約物 類が収録されている。
数字(Digits )
この小分類にはレプチャ文字で用いられる固有の数字 が収録されている。
追加の字母(Additional letters )
この小分類にはレプチャ文字のうち、近年になり用いられるようになった、反舌音 を単独の文字で表すための追加の字母が収録されている。
文字コード
履歴
以下の表に挙げられているUnicode関連のドキュメントには、このブロックの特定の文字を定義する目的とプロセスが記録されている。
バージョン
コードポイント[ a]
文字数
L2 ID
ドキュメント
5.1
U+1C00..1C37,1C3B..1C49,1C4D..1C4F
74
L2/05-061
Michael Everson (5 February 2005), Analysis of Indian proposal to encode Lepcha script in the UCS (英語)
L2/05-158
Michael Everson (15 June 2005), Proposal for encoding the Lepcha Script (WG2 N2947) (英語)
L2/06-017
WG2 (25 January 2006), ISO/IEC 10646 - Amd 3: Lepcha, Ol Chiki, Saurashtra, Vai, and other characters (see also Am3Names file) (英語)
L2/06-220
India N.B. (1 June 2006), Letter from Government of Sikkim regarding Lepcha Encoding (英語)
L2/06-315
SC2 Secty (26 September 2006), Summary of Voting on ISO/IEC JTC 1/SC 2 N 3875 : ISO/IEC 10646:2003/PDAM 3.2, Information technology -- Universal Multiple-Octet Coded Character Set (UCS) -- AMENDMENT 3: Lepcha, Ol Chiki, Saurashtra, Vai, and other characters (WG2 N3145) (英語)
L2/08-009
SC2 (7 January 2008), Table of Replies for ISO/IEC 10646: 2003/FDAM 3, Information technology -- Universal Multiple-Octet Coded Character Set (UCS) -- Amendment 3: Lepcha, Ol Chiki, Saurashtra, Vai and other characters (英語)
^ 提案されたコードポイントと文字の名前は、最終決定と異なる場合がある。
出典
^ a b c d e Michael Everson (2005年6月15日). “Proposal for encoding the Lepcha Script (WG2 N2947) ” (英語). Unicode. 2024年11月2日閲覧。
^ "The Unicode Standard, Version 15.1 - U1C00.pdf" (PDF) . The Unicode Standard (英語). 2024年11月2日閲覧 。
関連項目